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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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「我々は人間狩り部隊である。私はその長官だ。ただいまより獲物を携え、部下と共に帰還した。すぐさま、『マザー』の門を開いていただこう」
長官の顔を模したAIを通してコブラ男は見張りのコンピュータに対して開門の指示を促す。
だが、肝心の返答は返ってこない。この時の修也は麗俐が男友達やら同じクラスの友達やらに送ったメールが返ってこないということを心配していた時のことを思い出していた。あの時の麗俐も今の修也と同様にずっと返事を待ち侘びていたのだろう。
だが、当時の修也にはなかなか返信が返ってこないことに対して不安を覚える麗俐の心境が理解できなかった。
メールの返信など相手の都合第一。すぐに返事が返ってこなくても仕方がない。
あまりメールに関してうるさいことを言わない修也だからこそ無責任に言えた発言だ。
だが、今であれば麗俐の気持ちが痛いほど分かる。遅くはない。麗俐に謝罪の言葉を発するべきだろうか。
修也が不安と緊張とで胸を押し潰されそうになっていた時のことだ。
ようやくモニターを通して相手からの返事が返ってきたのだ。当然ながらアンドロイドである彼らのモニター越しの連絡は淡々としたもの。
しかし返信の内容は簡単にまとめると宇宙船を『マザー』の内部へ戻しても良いという趣旨のものだった。
何の感情もなく淡々とした命令口調の返信ではあったものの、その一言は修也たちを奮い立たせるのには十分であった。
だが、油断してはいられない。まだ計画の第一段階が終了したに過ぎない。
むしろ本番はここからだといってもいい。トロイアの要塞へと乗り込む兵士たちのように振る舞わなくてはならないのだ。この計画が相手に探知されることがあれば自分たちはたちまち袋の鼠。敢えて罠の中へと忍び込み、相手の寝首を掻くつもりが、反対に相手が張った罠の中で捻り潰されてしまうことになりかねない。
そのような無惨な事態に陥ることだけは防がなくてはならない。自分たちはこの作戦の要。自分たちの全滅は他の仲間たちの死をも意味する。特に気の毒なファティマやアリサ、カサスといった星の人々を死なせてはならない。
そうは言い聞かせたものの、修也は宇宙船が巨大な惑星を模した船の中へと吸い込まれていく間も緊張による震えが止まらなかった。
麗俐や悠介も宇宙船が侵入している間は修也を慰める余裕もなかったらしい。黙って宇宙船のモニターを見つめていた。
既に両者はパワードスーツに身を包み、フェイスヘルメットを被っているので表情は確認できない。
モニターを凝視したまま動かずにいる2人の後ろ姿は敵地へと赴く戦士の背中そのもの。これが受験や試合前といった日常の出来事であれば親としてその後ろ姿を応援してやりたいところだ。
だが、今回は修也も当事者。今も緊張で震えているような有り様。そんな情けない姿を見せる父親が無責任な応援の言葉を投げ掛けられるはずがなかった。
仮に投げ掛けたとしても2人は意に返さないだろう。
人間たちが全員緊張の糸を張り巡らせていた時、唯一アンドロイドであるコブラ男だけが眉一つ動かすことなく黙々と動作を進めていた。
アンドロイドであるからこそ人間のように一時の感情に流されることもなく、すでに修復不可能となった長官のAIを利用し、易々と『マザー』の中へ侵入せしめることができたというべきだろう。
コブラ男にとって感情を見せないというのは至極当然のこと。むしろいっときの感情で全てを不意にする人間を不便な存在だと思ったかもしれない。
いずれにしろ、便利な腕を左右から生やした宇宙船は何倍もの大きさである小惑星型の宇宙船の中へと吸い込まれていったのである。
星型の宇宙船の中は外見を惑星を模しているということもあって非常に大規模なものだった。広大な敷地の中に幾つもの円盤が収められている姿が見受けられた。
いや、単なる小型の円盤のみならず『マザー』内部の移動用と思われる小型のエアーバイクやジェット機や数人で小規模の星と星を移動する際に用いる小型の飛行艇も見えた。ジェット機で移動するなどそんな宇宙船は聞いたこともない。
もはや宇宙船というよりかは一種のスペースコロニーというべきだろう。
もし、地球の技術を使って今ある宇宙船を真似しようとするのならば必ず事故が起きるに違いない。いや、そもそもこの大きさのものを作成すること自体可能だろうか。
修也はホーテンス星人になりすましたアンドロイドたちが持つ技術がいかに優れているのかを実感させられた。
冷徹で頑強なアンドロイドたちが優れた技術と悪魔のような兵器を持ち合わせ、あらゆる星の人々を屈服させてきたのかを自覚させられたような気がした。
彼らが修也たちの宇宙に来ないようにさせるためには彼らの自慢ともいえる『マザー』を破壊するしかないのだが、その自信も少し薄れつつある。
そんなことを感じているとコブラ男が慌てて人差し指を使って何やら忙しそうにカチカチと指を鳴らしていることに気が付く。
「どうしたんですか?」
「奴らに勘付かれたかもしれません」
コブラ男の言葉を聞き修也たちに戦慄が走る。どう足掻いても拭い取ることができない恐怖が全身を襲う。悪寒までもが生じていき、修也は無意識のうちに両足を震わせていた。
またしても激しい絶望が修也を襲ってくきそうになったが、麗俐がそれを阻んだ。
修也の肩を優しく摩り、優しい言葉を投げ掛けていく。
古の書に登場する慈母のような献身的な麗俐のお陰で今度は弱音の言葉を吐かずに済んだ。
しかし修也が落ち着いていられるのと計画の進行が上手くいくかどうかは別問題。修也がどこか落ち着かない様子で天井の壁の隅を見上げていると、大きな音が生じていく。同時に一瞬の浮遊感を感じた後で修也たちの体が地面に強く打ち付けられていく。
幸いなことにパワードスーツを身に纏っていたので直接的な怪我は生じていない。それでも地面に体をぶつけた衝撃によって一瞬の間とはいえ動けなくなっていたのは事実。
修也が痛む体に鞭を打ちながら上半身を起こすと、コブラ男が神妙な顔を浮かべながら修也たちに向かって言った。
「悪い知らせだ。どうやら敵が私たちの罠に勘付いたみたいですね」
コブラ男の説明によれば先ほどの地震を連想させる大きな揺れは人間の体が侵入してきたウィルスを弾くように宇宙船を体外へと放出しようとしたのだそうだ。
だが、人間の体と同様にいくら大きく揺すったからといって、喉や鼻といった人間の穴を通して出ていくはずがない。
むしろ追い出そうとすればするほど意固地になってへばりつくことは想像に容易い。そのため人間の体には免疫の存在がある。免疫。それは体の中に入ってきた細菌やウィルスを撃退もしくは殲滅するための防衛機関。
薬や医療設備はこの防衛機関を増強させるための促進装置としての一面もあるのだ。
つまるところ人間の病気は薬の他に免疫の働きによって撃破されているといってもいい。
『マザー』の中でいうところの免疫は侵入の最中に見たエアーバイクやジョット機、飛行艇の類だろう。
下手をすれば同様の宇宙船が大規模な編隊を組んで攻めてくるに違いない。
コブラ男もそのことを自覚したのだろう。慌てて自分たちが乗る宇宙船を立て直し、必死になって宇宙船を前へと進めていく。
その上で左右から生えている腕を逆さに向け、指の隙間からレーザーや熱線を飛ばして迎撃の姿勢を取っていった。
当然侵入時のようにスムーズに事は運ばない。断固として異物を排除せんとばかりに背後から大規模な追撃隊が組まれ、雨あられのようにレーザーや熱線が『マザー』の中を飛び交う。
宇宙船の守りは頑丈にできてはいる。それこそ地球の金属では再現できないような技術や鉱石を用いているのは明白である。
実際、『マザー』来襲前に修也はレーザーガンの引き金を引いて宇宙船の装甲にレーザーを当ててみたが、ものの見事に弾かれた姿を検証してみせていた。
だが、修也が当てたのはあくまでも地球の技術で作られたレーザー。エネルギーパックを使ってレーザーを放つというスタイルでホーテンス星人が用いる兵器に比べればひどく原始的なものであることは間違いない。
それ故にどうしても『折り紙付き』だとか『太鼓判を押す』とか安全を保証したような言葉をはっきりと第三者に向かって言えるかどうかと問われれば確実に首を横に振るだろう。
そんな気持ちを抱えた修也を他所に宇宙船はひたすらに前へと進んでいる。
「宇宙船はどこに向かってるんですか?」
気になった修也が声を掛けると、忙しそうに指を動かしているコブラ男は必死な様子で叫ぶように言葉を返していく。
「心臓部……つまりエンジンの動力部分ですよ」
「まさか、破壊してしまうつもりですか!?」
この大きな宇宙船もといコロニーを木っ端微塵に破壊してしまえば自分たちも巻き込まれてしまう。
爆発は一瞬。すぐに死んでしまうことが救いだといえるかもしれないが、最愛の妻に会えなくなることだけが心残りとなる。
いや、自分だけであればまだいいが、気の毒なのは子どもたち。子供たちはまだ若い。あんな年齢であの世へ旅立つことになるのは気の毒だ。
修也が反対意見を述べようとした時のことだ。
「大丈夫です。あなたの想像のようにはなりません。私の考えでは動力部に引き篭り、そこを人質にした後で奴らに高性能の宇宙船を届けさせます。その後で時限爆弾を設置すればいいんです」
「時限爆弾? そんなものがどこに?」
気になった修也が声を掛けると、コブラ男は黙って自身の赤色のピアスを指差す。どうやら例のピアスはパワードスーツを瞬時に身に纏うことができるだけではなく、時限爆弾として扱うことも可能なようだ。
ただ、爆圧するということを加味するとピアスはあくまでも使い捨て。
時限爆弾として使用した場合は2度とパワードスーツを身に纏うことはできなくなるだろう。
そのことを修也が口にすると、コブラ男は「この忙しい時に何を言っているんだ?」と言わんばかりの呆れた目で修也を見つめながら言った。
「確かにパワードスーツは使えなくなるでしょう。しかしそれがどうしたと言うんですか?」
修也は何も言えなかった。コブラ男からはアンドロイドとしての冷徹さや頑強さ以上に無言の圧のようなものを感じてならなかった。
コブラ男は修也に対して何も述べることはなく、後は忙しそうに宇宙船を操っていた。
モニター越しに背後から磁石で吸い寄せられた砂鉄のようにしっかりと付いてくる敵の迎撃部隊の姿が見える。
迎撃部隊の面々は相変わらずレーザーや熱線を放ってきている。レーザーや熱線が円盤や外の壁を掠め、凄惨な焼け跡や焦げた跡を醸し出していた。
激戦の跡こそ残っているものの、関ヶ原や大阪の陣みたいに後世の人々が見学に訪れるようなことはないだろう。
なにせ、後で戦場となった場所ごと木っ端微塵に爆発させ、この辺境の星の塵にしてしまうのだから。
修也が感傷に浸っていた時のことだ。宇宙船が大きな音を上げていった。もう一度大きな浮遊感が宇宙船を襲っていく。
耐え切れなくなって修也たちはまたしても天井の上へと放り出されてしまった。
またしても地面の上に勢いよく体を打ち付けられることになったが、その結果は望ましいものだった。
宇宙船の後ろ部分が剥き出しになるほど破壊されてしまったものの、レーザー光線がぶつかった衝撃によって宇宙船の動力部に転がり込む。
結果オーライという古い言葉があったが、まさしく今の状況に相応しい言葉であるに違いない。
修也は乾いた笑みを浮かべていた。
長官の顔を模したAIを通してコブラ男は見張りのコンピュータに対して開門の指示を促す。
だが、肝心の返答は返ってこない。この時の修也は麗俐が男友達やら同じクラスの友達やらに送ったメールが返ってこないということを心配していた時のことを思い出していた。あの時の麗俐も今の修也と同様にずっと返事を待ち侘びていたのだろう。
だが、当時の修也にはなかなか返信が返ってこないことに対して不安を覚える麗俐の心境が理解できなかった。
メールの返信など相手の都合第一。すぐに返事が返ってこなくても仕方がない。
あまりメールに関してうるさいことを言わない修也だからこそ無責任に言えた発言だ。
だが、今であれば麗俐の気持ちが痛いほど分かる。遅くはない。麗俐に謝罪の言葉を発するべきだろうか。
修也が不安と緊張とで胸を押し潰されそうになっていた時のことだ。
ようやくモニターを通して相手からの返事が返ってきたのだ。当然ながらアンドロイドである彼らのモニター越しの連絡は淡々としたもの。
しかし返信の内容は簡単にまとめると宇宙船を『マザー』の内部へ戻しても良いという趣旨のものだった。
何の感情もなく淡々とした命令口調の返信ではあったものの、その一言は修也たちを奮い立たせるのには十分であった。
だが、油断してはいられない。まだ計画の第一段階が終了したに過ぎない。
むしろ本番はここからだといってもいい。トロイアの要塞へと乗り込む兵士たちのように振る舞わなくてはならないのだ。この計画が相手に探知されることがあれば自分たちはたちまち袋の鼠。敢えて罠の中へと忍び込み、相手の寝首を掻くつもりが、反対に相手が張った罠の中で捻り潰されてしまうことになりかねない。
そのような無惨な事態に陥ることだけは防がなくてはならない。自分たちはこの作戦の要。自分たちの全滅は他の仲間たちの死をも意味する。特に気の毒なファティマやアリサ、カサスといった星の人々を死なせてはならない。
そうは言い聞かせたものの、修也は宇宙船が巨大な惑星を模した船の中へと吸い込まれていく間も緊張による震えが止まらなかった。
麗俐や悠介も宇宙船が侵入している間は修也を慰める余裕もなかったらしい。黙って宇宙船のモニターを見つめていた。
既に両者はパワードスーツに身を包み、フェイスヘルメットを被っているので表情は確認できない。
モニターを凝視したまま動かずにいる2人の後ろ姿は敵地へと赴く戦士の背中そのもの。これが受験や試合前といった日常の出来事であれば親としてその後ろ姿を応援してやりたいところだ。
だが、今回は修也も当事者。今も緊張で震えているような有り様。そんな情けない姿を見せる父親が無責任な応援の言葉を投げ掛けられるはずがなかった。
仮に投げ掛けたとしても2人は意に返さないだろう。
人間たちが全員緊張の糸を張り巡らせていた時、唯一アンドロイドであるコブラ男だけが眉一つ動かすことなく黙々と動作を進めていた。
アンドロイドであるからこそ人間のように一時の感情に流されることもなく、すでに修復不可能となった長官のAIを利用し、易々と『マザー』の中へ侵入せしめることができたというべきだろう。
コブラ男にとって感情を見せないというのは至極当然のこと。むしろいっときの感情で全てを不意にする人間を不便な存在だと思ったかもしれない。
いずれにしろ、便利な腕を左右から生やした宇宙船は何倍もの大きさである小惑星型の宇宙船の中へと吸い込まれていったのである。
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もし、地球の技術を使って今ある宇宙船を真似しようとするのならば必ず事故が起きるに違いない。いや、そもそもこの大きさのものを作成すること自体可能だろうか。
修也はホーテンス星人になりすましたアンドロイドたちが持つ技術がいかに優れているのかを実感させられた。
冷徹で頑強なアンドロイドたちが優れた技術と悪魔のような兵器を持ち合わせ、あらゆる星の人々を屈服させてきたのかを自覚させられたような気がした。
彼らが修也たちの宇宙に来ないようにさせるためには彼らの自慢ともいえる『マザー』を破壊するしかないのだが、その自信も少し薄れつつある。
そんなことを感じているとコブラ男が慌てて人差し指を使って何やら忙しそうにカチカチと指を鳴らしていることに気が付く。
「どうしたんですか?」
「奴らに勘付かれたかもしれません」
コブラ男の言葉を聞き修也たちに戦慄が走る。どう足掻いても拭い取ることができない恐怖が全身を襲う。悪寒までもが生じていき、修也は無意識のうちに両足を震わせていた。
またしても激しい絶望が修也を襲ってくきそうになったが、麗俐がそれを阻んだ。
修也の肩を優しく摩り、優しい言葉を投げ掛けていく。
古の書に登場する慈母のような献身的な麗俐のお陰で今度は弱音の言葉を吐かずに済んだ。
しかし修也が落ち着いていられるのと計画の進行が上手くいくかどうかは別問題。修也がどこか落ち着かない様子で天井の壁の隅を見上げていると、大きな音が生じていく。同時に一瞬の浮遊感を感じた後で修也たちの体が地面に強く打ち付けられていく。
幸いなことにパワードスーツを身に纏っていたので直接的な怪我は生じていない。それでも地面に体をぶつけた衝撃によって一瞬の間とはいえ動けなくなっていたのは事実。
修也が痛む体に鞭を打ちながら上半身を起こすと、コブラ男が神妙な顔を浮かべながら修也たちに向かって言った。
「悪い知らせだ。どうやら敵が私たちの罠に勘付いたみたいですね」
コブラ男の説明によれば先ほどの地震を連想させる大きな揺れは人間の体が侵入してきたウィルスを弾くように宇宙船を体外へと放出しようとしたのだそうだ。
だが、人間の体と同様にいくら大きく揺すったからといって、喉や鼻といった人間の穴を通して出ていくはずがない。
むしろ追い出そうとすればするほど意固地になってへばりつくことは想像に容易い。そのため人間の体には免疫の存在がある。免疫。それは体の中に入ってきた細菌やウィルスを撃退もしくは殲滅するための防衛機関。
薬や医療設備はこの防衛機関を増強させるための促進装置としての一面もあるのだ。
つまるところ人間の病気は薬の他に免疫の働きによって撃破されているといってもいい。
『マザー』の中でいうところの免疫は侵入の最中に見たエアーバイクやジョット機、飛行艇の類だろう。
下手をすれば同様の宇宙船が大規模な編隊を組んで攻めてくるに違いない。
コブラ男もそのことを自覚したのだろう。慌てて自分たちが乗る宇宙船を立て直し、必死になって宇宙船を前へと進めていく。
その上で左右から生えている腕を逆さに向け、指の隙間からレーザーや熱線を飛ばして迎撃の姿勢を取っていった。
当然侵入時のようにスムーズに事は運ばない。断固として異物を排除せんとばかりに背後から大規模な追撃隊が組まれ、雨あられのようにレーザーや熱線が『マザー』の中を飛び交う。
宇宙船の守りは頑丈にできてはいる。それこそ地球の金属では再現できないような技術や鉱石を用いているのは明白である。
実際、『マザー』来襲前に修也はレーザーガンの引き金を引いて宇宙船の装甲にレーザーを当ててみたが、ものの見事に弾かれた姿を検証してみせていた。
だが、修也が当てたのはあくまでも地球の技術で作られたレーザー。エネルギーパックを使ってレーザーを放つというスタイルでホーテンス星人が用いる兵器に比べればひどく原始的なものであることは間違いない。
それ故にどうしても『折り紙付き』だとか『太鼓判を押す』とか安全を保証したような言葉をはっきりと第三者に向かって言えるかどうかと問われれば確実に首を横に振るだろう。
そんな気持ちを抱えた修也を他所に宇宙船はひたすらに前へと進んでいる。
「宇宙船はどこに向かってるんですか?」
気になった修也が声を掛けると、忙しそうに指を動かしているコブラ男は必死な様子で叫ぶように言葉を返していく。
「心臓部……つまりエンジンの動力部分ですよ」
「まさか、破壊してしまうつもりですか!?」
この大きな宇宙船もといコロニーを木っ端微塵に破壊してしまえば自分たちも巻き込まれてしまう。
爆発は一瞬。すぐに死んでしまうことが救いだといえるかもしれないが、最愛の妻に会えなくなることだけが心残りとなる。
いや、自分だけであればまだいいが、気の毒なのは子どもたち。子供たちはまだ若い。あんな年齢であの世へ旅立つことになるのは気の毒だ。
修也が反対意見を述べようとした時のことだ。
「大丈夫です。あなたの想像のようにはなりません。私の考えでは動力部に引き篭り、そこを人質にした後で奴らに高性能の宇宙船を届けさせます。その後で時限爆弾を設置すればいいんです」
「時限爆弾? そんなものがどこに?」
気になった修也が声を掛けると、コブラ男は黙って自身の赤色のピアスを指差す。どうやら例のピアスはパワードスーツを瞬時に身に纏うことができるだけではなく、時限爆弾として扱うことも可能なようだ。
ただ、爆圧するということを加味するとピアスはあくまでも使い捨て。
時限爆弾として使用した場合は2度とパワードスーツを身に纏うことはできなくなるだろう。
そのことを修也が口にすると、コブラ男は「この忙しい時に何を言っているんだ?」と言わんばかりの呆れた目で修也を見つめながら言った。
「確かにパワードスーツは使えなくなるでしょう。しかしそれがどうしたと言うんですか?」
修也は何も言えなかった。コブラ男からはアンドロイドとしての冷徹さや頑強さ以上に無言の圧のようなものを感じてならなかった。
コブラ男は修也に対して何も述べることはなく、後は忙しそうに宇宙船を操っていた。
モニター越しに背後から磁石で吸い寄せられた砂鉄のようにしっかりと付いてくる敵の迎撃部隊の姿が見える。
迎撃部隊の面々は相変わらずレーザーや熱線を放ってきている。レーザーや熱線が円盤や外の壁を掠め、凄惨な焼け跡や焦げた跡を醸し出していた。
激戦の跡こそ残っているものの、関ヶ原や大阪の陣みたいに後世の人々が見学に訪れるようなことはないだろう。
なにせ、後で戦場となった場所ごと木っ端微塵に爆発させ、この辺境の星の塵にしてしまうのだから。
修也が感傷に浸っていた時のことだ。宇宙船が大きな音を上げていった。もう一度大きな浮遊感が宇宙船を襲っていく。
耐え切れなくなって修也たちはまたしても天井の上へと放り出されてしまった。
またしても地面の上に勢いよく体を打ち付けられることになったが、その結果は望ましいものだった。
宇宙船の後ろ部分が剥き出しになるほど破壊されてしまったものの、レーザー光線がぶつかった衝撃によって宇宙船の動力部に転がり込む。
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