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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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「やめておいた方が良いとは警告したぞ。アンドロイドのオレに勝てるはずがないんだからな」
結論からいえば修也は手も足も出なかった。男もといホーテンス星人が作り上げた戦闘用アンドロイドの激しい攻撃を前にしてなす術もなく追い詰められてしまったのだ。
手も足も出ずに負けてしまう……。このような事態に追い込まれたのは久し振りだといえる。どう足掻いても壊すことができない壁にぶち当たったような心境だった。就活や受験で躓いた人々の心境だと称していいかもしれない。
修也の中では地球に帰ってから旅立つ前には必ず江田山なる男からの鍛錬を受けているし、剣術や剣道に関しては今の仕事に転職してから随分と腕を上げたつもりでいた。
柔術やその他の武道に関しても剣の方と比べればいささか比重は少なくなるものの、それでも己の身を守り、降り掛かる火の粉を落とすくらいの強さはあると密かに考えていた。
しかし目の前の男を相手にしてその考えは幻想に過ぎないと否が応でも気付かされてしまった。修也の考えは一時的な自惚れに過ぎなかったのだ。
修也がそれまで感じていた思い上がりは身勝手な人間が相手に抱く一方的な恋と似ていた。
一方的な恋や思いが告白いう形で表したことによって、相手からの拒絶という現実を前にして簡単に打ち壊されるような感覚と類似していたといっていいかもしれない。
疲労やダメージが溜まり、フラフラになっていた修也に対して男は容赦なく蹴りを浴びせた。巨大な丸太で正面から突かれたような衝撃が修也の腹部を襲っていった。
自分では抑えきれないような痛みが迸り、地面の上を苦しんでいく姿は周りに人間であれば同情する場面であったに違いない。慌てて駆け寄って手を差し伸べたり、救急車や警察を呼ぶなどの慈愛に満ちた行動をとるはずだ。
だが、この場に居合わせたのは血も涙もないアンドロイドや下等生物に見せる慈悲などないと言わんばかりにこちらを蔑むように佇む異星人ばかり。敵も味方もそのような感情を『くだらないもの』だと一蹴するような冷徹な機械人間しかいないのだ。
修也に対して憐れみや慈悲を向ける者はいない。たった一杯の水すら与えられることはないだろう。
そのことを実感させられると修也は改めて自分がとんでもない場所に立っているのだと実感させられた。
痛覚というものが存在しているのが嫌になるほどの苦痛が襲っているにも関わらず誰も手を差し出さないという状況に修也は嫌悪感がこみ上げてきた。
ここでアンドロイドに対して人間がいかに優れた存在でいるのかを指し示さなくてはならない。
今自分が人間として立ち上がらなければ誰がそのことを知らしめられるというのだろうか。不可能な状況から立ち上がったとしても両目を動かす姿すら見せないアンドロイドや宇宙人たちに一矢を報いる。それこそが今の自分に課せられた使命のように思えた。
神からの啓示を受けた司祭の気持ちが今になってようやく分かった気がする。
修也はビームソードを両手で握り締めながら目の前にいる無機質なアンドロイドへと向かって挑むことを決意した。
しかし修也の燃え上がるような思いを天にいる神々は拾い上げてくれなかったようだ。正面から振り下ろした光の刃はあっさりと交わされ、今度は脇腹に回し蹴りを喰らう。腹部のみならず脇にも強い衝撃を受けたことで修也の体は限界が来たに違いない。口から異物がこみ上げてきた。
ウォッと短い悲鳴のような声を上げた後でフェイスヘルメットの中にぶち撒けられたのは涎と痰。そして血反吐。
本来であればすぐにでもティッシュにでも拭い取らなければならない汚物である。
娘の麗俐が見れば嫌悪感を示すように両眉を顰めるに違いない姿。それが今の自分なのだ。
だが、修也に後悔の念は湧き上がってこない。今の自分に課せられたのは人間としての矜持をアンドロイドたちに知らしめるために戦うこと。
それさえ遂行できれば今の自分の姿など関係ないではないか。
修也は起き上がるのを拒否する体に対して無理やり体を起こさせると、口元を一文字に結び、もう一度目の前にいるアンドロイドへと立ち向かっていった。
魂を込めた一撃を振るったものの、相変わらず目の前のアンドロイドは眉一つ動かすことなく背後へと下がって難なく、目の前から突き出されてきた刃を交わしていった。
ダンスの際に差し出された腕をやんわりと払いのける貴族令嬢のように綺麗で無駄のない動きだった。見ているこちらが惚れてしまうような動きだといってもいい。
思わず呆然として立ち止まった修也に対して先ほどのアンドロイドが反撃に転じた。地面を蹴ったかと思うと、正面から突進し、修也の真上から自身の剣を振り下ろす。
単調な一撃であった。だが、瞬間移動でもしたのかと脳に錯覚させるほど早いく動いたことによって修也の動きが遅れてしまった。
修也はビームソードを盾の代わりにして防ぐことに成功したものの、受け止める瞬間が大幅に遅れ、光刃の上に錘でも落としたかのような重みが生じた。
辛さのあまり瞬間的に両方の瞼を閉じてしまうほどの重い一撃である。
まるで、先ほど華麗な舞いを見せてやったのだからその礼にあの世へ旅立てと言わんばかりの猛攻が続いていく。
修也は己の心中に湧き起こっていこうとする『諦めの心』を必死に押さえ付け、人間であれば思わず両耳を塞いでしまうほどの雄叫びを上げて男の剣を弾いていった。
もう一度両方の手でビームソードを握り締め、勢いをつけて前へと駆け出す。この時修也が放ったビームソードの切っ先は男の右肩へと直撃していった。
修也はようやくこれまで傷一つ付けられなかった巨大な防壁に微かな穴を開けることに成功したのである。
悲鳴こそ聞こえないものの、瞬時に身を翻した男の姿は明らかに動揺の色が見てとれた。
「ざまぁみろ! クソッタレめ!」
修也は普段であれば絶対に吐かないような挑発的な台詞で罵っていく。この言葉を吐いた時の修也の気持ちは爽快の一言だった。
爽快にして痛快。全ての問題が今の一言で解決したような心地良さが含まれている。今の修也はさしずめ山崎の戦いで天王山を取った豊臣秀吉の心境であったに違いない。
修也は痛む体を引き摺りながら男に向かって止めを刺そうと目論んだものの、近付こうとした瞬間に突然背後から勢いを付けて前方へと突き飛ばされてしまった。
背後から突き上げられた衝撃によって修也の頭は一瞬ではあるもののフェイスヘルメット越しに地面と口づけを交わしてしまったことになる。
慌てて起き上がると、そこには先ほど修也がようやく傷を付けたあの男をエネルギーブレードで追い詰めるコブラの男の姿が見えた。
同時に修也はこれまで防戦一方であった自分を背後に隠れていたはずのコブラ男が助けなかった理由を悟った。『鳶に油揚げをさらわれる』という言葉は今のような状況に使わずどの状況の時に使うのだろうか。
要するに静観を決め込んでいたはずのコブラ男は最初から修也とアンドロイドを戦わせ、美味しいところを持っていこうとしたのだ。
なんと、下劣な考えだろうか。戦士の風上にも置けない。
いや、と修也は首を横に振る。そもそもそんな考え自体が人間の一方的な考えでしかない。人間と機械でなくとも元寇で鎌倉武士のルールである名乗りを上げなかったという例がある。
元寇のことを思い出し、頭を冷やした修也は冷静な分析によってここに至るまでの経緯を考察していく。
アンドロイドであるコブラ男の考えからすれば自分の戦力を使い、武器を消耗することもなく、弱った相手を叩きのめす最良の計画なのだ。
全てが馬鹿馬鹿しくなった。要するに自分は囮だったのだ。修也は不貞腐れるように地面の上に腰を下ろして戦いを見守っていく。
性能からすればホーテンス星人のアンドロイドと正体不明のアンドロイドは互角だった。エネルギーブレードと機械の体に付属した巨大な剣とで激しい斬り合いを繰り広げている。その過程で互いのボディに傷や汚れ、土埃が付着することは気にならないようだ。
いや、仮に人間であってもそんなことを気にしていては戦いにならない。
修也は頭の中に浮かび上がった愚かな考えを一笑に伏し、戦いを見守った。
その時だ。それまで自分と同様に沈黙を保ち静粛な観客として戦いを保っていたホーテンス星人たちが唐突に道を切り開いた。
修也が道を開いた方向を見つめると、そこには電子手錠と思われる手錠を両手に嵌めさせられた悠介の姿が見えた。
悠介は『ゼノン』の装着は続けられているものの、レーザーガンやビームソードといった武器の類は取り上げられている。真横には大名に仕える小姓のように悠介が持っていたレーザーガンとビームソードを握り締めているホーテンス星人の姿が見られた。
「地球の男よ、貴様の息子がどうなってもいいのならば抵抗を続けろ。よくないのであればすぐに貴様の仲間へ攻撃を止めるように指示を出せ」
ホーテンス星人はフェイスヘルメットに付属している雑音の混じった翻訳機越しに尊大な態度で停戦を言い放つ。
ホーテンス星人の言葉が脅しではないと証明するように悠介の頭部へとプラズマライフルの銃口を突き付けた。
プラズマライフルからプラズマエネルギーが照射されればいかに『ゼノン』のフェイスヘルメットが頭部を守っていたとしても砂場に作った砂山のように呆気なく粉々に吹き飛ばされてしまうに違いない。
修也はホーテンス星人の要求を受け入れることに決めた。
「お願いします! 戦いをやめてください!!」
修也は必死な声でコブラ男に向かって懇願したものの、コブラ男は無視してアンドロイドを襲撃しようとしていた。
「お願いします! このまま戦闘を続けてしまえば息子が殺されてしまうんです!!」
息子の命が掛かっていることもあって修也は必死だった。喉が掠れるのも気にせず地面の上に両膝をつき、頭を擦り付けながらコブラ男に向かって懇願していった。いわゆる土下座の姿勢。日本であれば最上級の謝罪を意味する動作を見せて精一杯哀訴してみせた。
修也にとって今の自分が取れる最大限の誠意の表し方といってもいい。己のプライドを捨て懇願するというのは本来であれば絶対に避けなければならない卑屈で軽蔑の対象となりうる行動なのだ。
だが、コブラ男のコンピュータには土下座の情報などないのだろう。修也には目も暮れずに男と戦闘を繰り広げていた。
悲嘆に暮れる修也とは対照的にコブラ男は絶好調だった。修也がいくら懇願しようとプライドを捨てて頼み込んでもコブラ男は無視して戦闘を続けていた。
背後のホーテンス星人たちは苛立ちのためか、人質にしている悠介に対して執拗にプラズマライフルの銃口を突き付けて脅している。もうなりふり構ってはいられない。
修也はコブラ男の背後へと回り込み、そのまま勢いを付けて地面の上へと押し倒したのである。
「な、なぜです? あと一歩であのアンドロイドを始末できたというのに……? なぜ、あなたが邪魔を?」
コブラ男には理解できなかった。心底から分からないという声で問い掛けた。修也は言葉を返さなかった。答えても無駄だと判断したからだ。
返答の代わりにコブラ男をより一層強い力で地面の上へと押さえ込んだ。
アンドロイドは自身の手先のように成り果てた修也に対して嘲笑を含んだ笑みを向けて言った。
「フッ、見事だ。いいだろう。お前たち離してやれ」
アンドロイドの言葉を聞いたホーテンス星人たちは悠介を離していった。
結論からいえば修也は手も足も出なかった。男もといホーテンス星人が作り上げた戦闘用アンドロイドの激しい攻撃を前にしてなす術もなく追い詰められてしまったのだ。
手も足も出ずに負けてしまう……。このような事態に追い込まれたのは久し振りだといえる。どう足掻いても壊すことができない壁にぶち当たったような心境だった。就活や受験で躓いた人々の心境だと称していいかもしれない。
修也の中では地球に帰ってから旅立つ前には必ず江田山なる男からの鍛錬を受けているし、剣術や剣道に関しては今の仕事に転職してから随分と腕を上げたつもりでいた。
柔術やその他の武道に関しても剣の方と比べればいささか比重は少なくなるものの、それでも己の身を守り、降り掛かる火の粉を落とすくらいの強さはあると密かに考えていた。
しかし目の前の男を相手にしてその考えは幻想に過ぎないと否が応でも気付かされてしまった。修也の考えは一時的な自惚れに過ぎなかったのだ。
修也がそれまで感じていた思い上がりは身勝手な人間が相手に抱く一方的な恋と似ていた。
一方的な恋や思いが告白いう形で表したことによって、相手からの拒絶という現実を前にして簡単に打ち壊されるような感覚と類似していたといっていいかもしれない。
疲労やダメージが溜まり、フラフラになっていた修也に対して男は容赦なく蹴りを浴びせた。巨大な丸太で正面から突かれたような衝撃が修也の腹部を襲っていった。
自分では抑えきれないような痛みが迸り、地面の上を苦しんでいく姿は周りに人間であれば同情する場面であったに違いない。慌てて駆け寄って手を差し伸べたり、救急車や警察を呼ぶなどの慈愛に満ちた行動をとるはずだ。
だが、この場に居合わせたのは血も涙もないアンドロイドや下等生物に見せる慈悲などないと言わんばかりにこちらを蔑むように佇む異星人ばかり。敵も味方もそのような感情を『くだらないもの』だと一蹴するような冷徹な機械人間しかいないのだ。
修也に対して憐れみや慈悲を向ける者はいない。たった一杯の水すら与えられることはないだろう。
そのことを実感させられると修也は改めて自分がとんでもない場所に立っているのだと実感させられた。
痛覚というものが存在しているのが嫌になるほどの苦痛が襲っているにも関わらず誰も手を差し出さないという状況に修也は嫌悪感がこみ上げてきた。
ここでアンドロイドに対して人間がいかに優れた存在でいるのかを指し示さなくてはならない。
今自分が人間として立ち上がらなければ誰がそのことを知らしめられるというのだろうか。不可能な状況から立ち上がったとしても両目を動かす姿すら見せないアンドロイドや宇宙人たちに一矢を報いる。それこそが今の自分に課せられた使命のように思えた。
神からの啓示を受けた司祭の気持ちが今になってようやく分かった気がする。
修也はビームソードを両手で握り締めながら目の前にいる無機質なアンドロイドへと向かって挑むことを決意した。
しかし修也の燃え上がるような思いを天にいる神々は拾い上げてくれなかったようだ。正面から振り下ろした光の刃はあっさりと交わされ、今度は脇腹に回し蹴りを喰らう。腹部のみならず脇にも強い衝撃を受けたことで修也の体は限界が来たに違いない。口から異物がこみ上げてきた。
ウォッと短い悲鳴のような声を上げた後でフェイスヘルメットの中にぶち撒けられたのは涎と痰。そして血反吐。
本来であればすぐにでもティッシュにでも拭い取らなければならない汚物である。
娘の麗俐が見れば嫌悪感を示すように両眉を顰めるに違いない姿。それが今の自分なのだ。
だが、修也に後悔の念は湧き上がってこない。今の自分に課せられたのは人間としての矜持をアンドロイドたちに知らしめるために戦うこと。
それさえ遂行できれば今の自分の姿など関係ないではないか。
修也は起き上がるのを拒否する体に対して無理やり体を起こさせると、口元を一文字に結び、もう一度目の前にいるアンドロイドへと立ち向かっていった。
魂を込めた一撃を振るったものの、相変わらず目の前のアンドロイドは眉一つ動かすことなく背後へと下がって難なく、目の前から突き出されてきた刃を交わしていった。
ダンスの際に差し出された腕をやんわりと払いのける貴族令嬢のように綺麗で無駄のない動きだった。見ているこちらが惚れてしまうような動きだといってもいい。
思わず呆然として立ち止まった修也に対して先ほどのアンドロイドが反撃に転じた。地面を蹴ったかと思うと、正面から突進し、修也の真上から自身の剣を振り下ろす。
単調な一撃であった。だが、瞬間移動でもしたのかと脳に錯覚させるほど早いく動いたことによって修也の動きが遅れてしまった。
修也はビームソードを盾の代わりにして防ぐことに成功したものの、受け止める瞬間が大幅に遅れ、光刃の上に錘でも落としたかのような重みが生じた。
辛さのあまり瞬間的に両方の瞼を閉じてしまうほどの重い一撃である。
まるで、先ほど華麗な舞いを見せてやったのだからその礼にあの世へ旅立てと言わんばかりの猛攻が続いていく。
修也は己の心中に湧き起こっていこうとする『諦めの心』を必死に押さえ付け、人間であれば思わず両耳を塞いでしまうほどの雄叫びを上げて男の剣を弾いていった。
もう一度両方の手でビームソードを握り締め、勢いをつけて前へと駆け出す。この時修也が放ったビームソードの切っ先は男の右肩へと直撃していった。
修也はようやくこれまで傷一つ付けられなかった巨大な防壁に微かな穴を開けることに成功したのである。
悲鳴こそ聞こえないものの、瞬時に身を翻した男の姿は明らかに動揺の色が見てとれた。
「ざまぁみろ! クソッタレめ!」
修也は普段であれば絶対に吐かないような挑発的な台詞で罵っていく。この言葉を吐いた時の修也の気持ちは爽快の一言だった。
爽快にして痛快。全ての問題が今の一言で解決したような心地良さが含まれている。今の修也はさしずめ山崎の戦いで天王山を取った豊臣秀吉の心境であったに違いない。
修也は痛む体を引き摺りながら男に向かって止めを刺そうと目論んだものの、近付こうとした瞬間に突然背後から勢いを付けて前方へと突き飛ばされてしまった。
背後から突き上げられた衝撃によって修也の頭は一瞬ではあるもののフェイスヘルメット越しに地面と口づけを交わしてしまったことになる。
慌てて起き上がると、そこには先ほど修也がようやく傷を付けたあの男をエネルギーブレードで追い詰めるコブラの男の姿が見えた。
同時に修也はこれまで防戦一方であった自分を背後に隠れていたはずのコブラ男が助けなかった理由を悟った。『鳶に油揚げをさらわれる』という言葉は今のような状況に使わずどの状況の時に使うのだろうか。
要するに静観を決め込んでいたはずのコブラ男は最初から修也とアンドロイドを戦わせ、美味しいところを持っていこうとしたのだ。
なんと、下劣な考えだろうか。戦士の風上にも置けない。
いや、と修也は首を横に振る。そもそもそんな考え自体が人間の一方的な考えでしかない。人間と機械でなくとも元寇で鎌倉武士のルールである名乗りを上げなかったという例がある。
元寇のことを思い出し、頭を冷やした修也は冷静な分析によってここに至るまでの経緯を考察していく。
アンドロイドであるコブラ男の考えからすれば自分の戦力を使い、武器を消耗することもなく、弱った相手を叩きのめす最良の計画なのだ。
全てが馬鹿馬鹿しくなった。要するに自分は囮だったのだ。修也は不貞腐れるように地面の上に腰を下ろして戦いを見守っていく。
性能からすればホーテンス星人のアンドロイドと正体不明のアンドロイドは互角だった。エネルギーブレードと機械の体に付属した巨大な剣とで激しい斬り合いを繰り広げている。その過程で互いのボディに傷や汚れ、土埃が付着することは気にならないようだ。
いや、仮に人間であってもそんなことを気にしていては戦いにならない。
修也は頭の中に浮かび上がった愚かな考えを一笑に伏し、戦いを見守った。
その時だ。それまで自分と同様に沈黙を保ち静粛な観客として戦いを保っていたホーテンス星人たちが唐突に道を切り開いた。
修也が道を開いた方向を見つめると、そこには電子手錠と思われる手錠を両手に嵌めさせられた悠介の姿が見えた。
悠介は『ゼノン』の装着は続けられているものの、レーザーガンやビームソードといった武器の類は取り上げられている。真横には大名に仕える小姓のように悠介が持っていたレーザーガンとビームソードを握り締めているホーテンス星人の姿が見られた。
「地球の男よ、貴様の息子がどうなってもいいのならば抵抗を続けろ。よくないのであればすぐに貴様の仲間へ攻撃を止めるように指示を出せ」
ホーテンス星人はフェイスヘルメットに付属している雑音の混じった翻訳機越しに尊大な態度で停戦を言い放つ。
ホーテンス星人の言葉が脅しではないと証明するように悠介の頭部へとプラズマライフルの銃口を突き付けた。
プラズマライフルからプラズマエネルギーが照射されればいかに『ゼノン』のフェイスヘルメットが頭部を守っていたとしても砂場に作った砂山のように呆気なく粉々に吹き飛ばされてしまうに違いない。
修也はホーテンス星人の要求を受け入れることに決めた。
「お願いします! 戦いをやめてください!!」
修也は必死な声でコブラ男に向かって懇願したものの、コブラ男は無視してアンドロイドを襲撃しようとしていた。
「お願いします! このまま戦闘を続けてしまえば息子が殺されてしまうんです!!」
息子の命が掛かっていることもあって修也は必死だった。喉が掠れるのも気にせず地面の上に両膝をつき、頭を擦り付けながらコブラ男に向かって懇願していった。いわゆる土下座の姿勢。日本であれば最上級の謝罪を意味する動作を見せて精一杯哀訴してみせた。
修也にとって今の自分が取れる最大限の誠意の表し方といってもいい。己のプライドを捨て懇願するというのは本来であれば絶対に避けなければならない卑屈で軽蔑の対象となりうる行動なのだ。
だが、コブラ男のコンピュータには土下座の情報などないのだろう。修也には目も暮れずに男と戦闘を繰り広げていた。
悲嘆に暮れる修也とは対照的にコブラ男は絶好調だった。修也がいくら懇願しようとプライドを捨てて頼み込んでもコブラ男は無視して戦闘を続けていた。
背後のホーテンス星人たちは苛立ちのためか、人質にしている悠介に対して執拗にプラズマライフルの銃口を突き付けて脅している。もうなりふり構ってはいられない。
修也はコブラ男の背後へと回り込み、そのまま勢いを付けて地面の上へと押し倒したのである。
「な、なぜです? あと一歩であのアンドロイドを始末できたというのに……? なぜ、あなたが邪魔を?」
コブラ男には理解できなかった。心底から分からないという声で問い掛けた。修也は言葉を返さなかった。答えても無駄だと判断したからだ。
返答の代わりにコブラ男をより一層強い力で地面の上へと押さえ込んだ。
アンドロイドは自身の手先のように成り果てた修也に対して嘲笑を含んだ笑みを向けて言った。
「フッ、見事だ。いいだろう。お前たち離してやれ」
アンドロイドの言葉を聞いたホーテンス星人たちは悠介を離していった。
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