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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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「何者だ? 出てこい!」
意気込んで、タラップの外へと躍り出た修也であったが、タラップの前には敵の姿はおろか影すら見えない。
先ほどまではあれほど強い音が聞こえてきたほどであったのに、現在では不気味なほど静まり返っている。風の切る音さえ聞こえてこない。
もし、本当に単なる気のせいであればパワードスーツを着てきたことが馬鹿らしく思えてしまう。修也は思わず両肩の力を抜いて思いっきり息を吐き出したくなった。
しかし油断はできない。念のためにレーザーガンを構えながら周辺の捜索を行っていた時のことだ。
「あんた」
と、ハッキリとした日本語が聞こえてきた。人の気配も見えない不気味な星でハッキリとした日本語を聞いた修也が立ち止まると、そこには麗俐たちが洞窟の中で目撃したという3人の男たちの姿が見えた。
確かに全員が映画スターのように美しく整った容姿をしていたが、どこか人間味に欠けている様子が見えた。与えられた原稿を棒読みしているアナウンサーのような調子と抑揚であった。
修也が思わず立ち止まった時のことだ。
「貴君らの言葉はこれで合っているはずだ」
「あ、あんたは一体何者だ?」
修也は声を震わせながら問い掛けた。
「私か? 私はいや、正確に言えば私たちはこの星に残された兵士だ」
残った2人も男と同様の言葉を合唱していく。ピタリとハマったコーラスがまた不気味に感じられた。
音程を揃えて言葉を終えた様子が機械的で人間味を感じなかったのだ。不気味に思えた所以はそこだ。
「その兵士がなんの用だ? 刺客として私たちを始末にしきたのか?」
警戒心から修也は少し強い口調で問い掛けた。
「違う」
3人組の1人である長い髪の男が抑揚のない声で否定した。
「では、なんの用だ? まさか、こんな辺境の星に電子新聞のセールスをしにきたわけでもないだろう?」
「お前たちの星へ帰りたくないか?」
修也のつまらない冗談を無視して中央にいた端正な顔立ちの男が問い掛けた。
その言葉を聞いた修也はフェイスヘルメットの下で両眉を上げた。
「それは本当か?」
修也の声は険しかった。無理もない。
しかし男たちは修也の様子など関心もないようで、淡々とした調子で会話を続けていく。
「本当だ。我々にはキミたちを地球へと帰す明確な方法をたった一つだけ知っている」
男たちは断言した。『修也たちを地球へと帰す』と。もしかすれば本当の事であるかもしれない。
修也は目の前でキャンディーをちらつかされた子どものように男たちが提示した話に飛び付きたい衝動に駆られた。
だが、その衝動を無理やりに抑え付けた。というのも相手側が油断のならない相手であるからだ。
麗俐の話を聞くに目の前にいる男たちは『この星に足を踏み入れる者に対して死の制裁を加える』ということなのだ。もしかすれば騙し討ちにして殺すつもりなのかもしれない。
修也の頭の中で戦国時代に織田信長の手によって謀殺されることになった織田信行や足利尊氏の手によって謀殺された足利直義の姿が頭の中に浮かんでいく。
そればかりではない。和睦のために開いた宴会の席だと騙してその席で殺されたシャクシャインや鴻門と呼ばれる場所で劉邦を騙し討ちにして殺そうとした項羽のことも頭によぎった。
日本史にしろ世界史にしろ裏切り者を騙して始末したケースなど数えきれないほど存在している。
宇宙人やアンドロイドだからという理由で信頼しなければいけない理由などどこにもない。
修也は相変わらず警戒心を強めながら双眸を大きく見開き、相手を睨み付けていた。これらの行動は和平を申し込んだ相手側からすればせっかく和睦の談義を申し込んだというのに、警戒するなど失礼だと抗議の言葉を浴びせてくるかもしれない。
だが、修也から言わせれば先ほどの自分の行動は子どもたちや仲間の命を守るために最適な行動を取っただけに過ぎない。それで責められる謂れなどない。
許されるのであれば検事や警察の厳しい追及から被告人を守る弁護士のように毅然とした態度で正面から堂々と言い放ってやりたかった。
だが、下手にアンドロイドたちを刺激しては藪から蛇を突くことになるのは明白。そのため修也は自身の叫びたい衝動を必死に押さえ付けていたのである。
このまま互いに無言を貫き合うのかと思ったのだが、意外なことに融和の道は3人組の方から示してきた。
「我々の中に残されたコンピュータは当初貴君らを敵だと認識したのだが、どうやら貴君たち以上に厄介な敵が訪れたということもあり、我々は貴君らに一時的な融和を求めたいのだ」
「どういうことだ? お前たちはあの恐ろしいホーテンス星人に作られたんじゃあないのか?」
修也はフェイスヘルメットの下で訝しげな表情を浮かべて3人組を睨んでいった。
ヘルメットの下で3人組を注視する視線は実用のナイフのように鋭く尖っていたように思えるが修也にしか分からないので3人組は知る由もなかった。
修也がいくら胸のうちに不信感を抱こうとも関係がないと言わんばかりに、3人組は平気な調子で会話を続けていく。
「違う。我々を作ったのはこの星の住民たちだ」
「……ホーテンス星人がそう自称しているんじゃあないのか?」
「違う。そのホーテンス星人と我々は無関係だ」
目の前にいる3人組のアンドロイドたちによる言葉が正しければ3人組のアンドロイドは修也たちにあの凄惨な石碑を残したこの星の原住民たちが残したアンドロイドだということになる。
しかしその考えだと矛盾が生じてしまう。石碑に絵を描き残すことが精一杯だった人々に高性能なアンドロイドを作成できるはずがない。
このアンドロイドは一見したところ性能は22世紀の地球で作成されたアンドロイドたちと変わりはない。この星にもともと住んでいた先住民たちが目の前にいるアンドロイドを作れるような文明力を有しているとは思えないのだ。
見下ろしているわけではない。単純な科学力の問題なのだ。
修也は頭を捻ったが、目の前にいるアンドロイドは助け舟を出してはくれなかった。自分が困れば相手がなんでも答えてくれるような世の中ではないはずだ。
その正体が気になるのであれば自分で解き明かすしかない。そのことを実感させられた修也はフェイスヘルメットの下でもう一度苦笑した。
ミステリー小説を読んでも犯人を当てたことなどなかった修也からすればそれは難問だった。ましてや相手は殺人事件の犯人ではなく、目の前にいるアンドロイドを作った者の正体なのだ。
その正体やルーツを解き明かすには相当の時間が必要だと思われる。
修也が目の前にいるアンドロイドの解釈で頭を悩ませていると、アンドロイドの一体が修也の目と鼻の先にまで近付いてきた。
「さて、どうする? 貴君は我々と同盟を組むのか? それとも組まないのか?」
詰め寄った言い方に修也は不快感を覚えたものの、大人としてその感情を押し殺し、努めて冷静な声で言葉を返した。
「私の一言では決められん。仲間と共に話をしてゆっくりと決めてから、また改めて回答を述べさせてもらいたい」
「時間はいくら欲しい?」
向こうからの時間指定に修也は思わず両肩をすかしてしまった。刑事ドラマなどで見る交渉であれば時間は向こう側が指定してくるので修也としては珍しく感じられたのだ。
だが、修也は気取られることなく人差し指を突き出し堂々とした口調で言った。
「大事なことだからな。1日は話し合いたい」
「分かった。1日だな」
老人が修也の言葉を反復する。
「交渉の場はお前たちの洞窟の前にある森の中だ。洞窟の中で襲われたら私たちは身動きが取れなくなるからな」
修也は毅然とした態度で答えた。
「分かった」
修也の提示する条件を次々と突き付け、その条件が呑まれるのでこんなに楽な交渉はなかった。
前の会社に勤めていた時は駆け引きや社交術が物を言ったものだが、この場ではそうした会社員としてのスキルは不要なようだ。
修也に見送られ、3人組のアンドロイドたちは飛行船の前を去っていった。
修也は彼らを見送った後で宇宙船の中へと戻り、先ほどの出来事を一字一句鮮明にとはいかないものの正確に伝えていった。
修也からの報告を聞いた全員が眉を顰めた。その中でも実際に3人組のアンドロイドたちと交戦になり掛けた麗俐と悠介の両名は修也が示した和解案に対して頑なまでに反対の姿勢を貫いたのである。
その姿は『三国志』において降伏か戦闘かと悩む孫権に向かって強硬論を主張する『呉』の国の軍人たちのようであった。
『呉』の国において降伏を主張した文官たちをこの場の人物で例えるのであればそれはジョウジとカエデの両名である。
合理的に考えて和解策を受け入れることが前進に進むと判断したのだろう。
もしこの場に諸葛亮孔明がいれば上手く議論を纏めることができたのだろうが、生憎とこの場に孔明はいない。
このまま21世紀の日本企業が陥った無意味な会議が続いていくのかと修也が懸念していた時のことだ。
「あの、少しよろしいですか?」
と、アリサが手を挙げた。
「はい、どうされましたか? アリサさん」
ジョウジが予想外だとばかりに両眉を上げながら問い掛けた。
「双方の意見を聞いて私なりの考えを纏めてみたのですが、よろしければお聞き願えないでしょうか?」
どうやら、孔明はようやく姿を現したらしい。全員の視線が議論に終止符を打つであろうアリサに向かって注がれていく。
一方でアリサは全員からの視線が集まっているにも関わらず、重圧を受けることもなく淡々と自分の考えを述べていった。
「まず、私としてはこの交渉の席に着くべきだと思います。皆様は地球に帰りたいとのことなのでその見込みがあるのならば少しでもその可能性に縋るべきなのではないでしょうか?」
修也は『藁にもすがる思い』という地球の諺を思い出した。アリサの言葉通りで僅かにでも地球へ帰れる可能性があるというのであればその言葉に従うべきだ。
修也の中で腹は決まった。
だが、麗俐は納得がいかなかったようだ。それでも彼女の中でアリサの主張に動かされてもいたに違いない。
予想より主張する声が上擦っていたのがその証明だと言えた。
「け、けど、あいつらが信用できるかーー」
「なら、麗俐さんはここに残ってファティマの面倒を見てください。それならば交渉の席に付かずに済むし、万が一のことが起こったとしてもこの宇宙船も残るでしょう?」
完璧なロジックだ。どうやら諸葛亮孔明はこの場にいたらしい。修也は心の中で拍手を送った。
鮮やかにディスカッションを進めていき、結論へと導く姿は大岡越前や遠山金四郎のお白洲での裁きを見ているかのような心境であった。
もしかすれば彼女がいれば得体の知れない化け物との戦いも全て上手くいくかもしれない。修也はそんな淡い期待さえ寄せた。
意気込んで、タラップの外へと躍り出た修也であったが、タラップの前には敵の姿はおろか影すら見えない。
先ほどまではあれほど強い音が聞こえてきたほどであったのに、現在では不気味なほど静まり返っている。風の切る音さえ聞こえてこない。
もし、本当に単なる気のせいであればパワードスーツを着てきたことが馬鹿らしく思えてしまう。修也は思わず両肩の力を抜いて思いっきり息を吐き出したくなった。
しかし油断はできない。念のためにレーザーガンを構えながら周辺の捜索を行っていた時のことだ。
「あんた」
と、ハッキリとした日本語が聞こえてきた。人の気配も見えない不気味な星でハッキリとした日本語を聞いた修也が立ち止まると、そこには麗俐たちが洞窟の中で目撃したという3人の男たちの姿が見えた。
確かに全員が映画スターのように美しく整った容姿をしていたが、どこか人間味に欠けている様子が見えた。与えられた原稿を棒読みしているアナウンサーのような調子と抑揚であった。
修也が思わず立ち止まった時のことだ。
「貴君らの言葉はこれで合っているはずだ」
「あ、あんたは一体何者だ?」
修也は声を震わせながら問い掛けた。
「私か? 私はいや、正確に言えば私たちはこの星に残された兵士だ」
残った2人も男と同様の言葉を合唱していく。ピタリとハマったコーラスがまた不気味に感じられた。
音程を揃えて言葉を終えた様子が機械的で人間味を感じなかったのだ。不気味に思えた所以はそこだ。
「その兵士がなんの用だ? 刺客として私たちを始末にしきたのか?」
警戒心から修也は少し強い口調で問い掛けた。
「違う」
3人組の1人である長い髪の男が抑揚のない声で否定した。
「では、なんの用だ? まさか、こんな辺境の星に電子新聞のセールスをしにきたわけでもないだろう?」
「お前たちの星へ帰りたくないか?」
修也のつまらない冗談を無視して中央にいた端正な顔立ちの男が問い掛けた。
その言葉を聞いた修也はフェイスヘルメットの下で両眉を上げた。
「それは本当か?」
修也の声は険しかった。無理もない。
しかし男たちは修也の様子など関心もないようで、淡々とした調子で会話を続けていく。
「本当だ。我々にはキミたちを地球へと帰す明確な方法をたった一つだけ知っている」
男たちは断言した。『修也たちを地球へと帰す』と。もしかすれば本当の事であるかもしれない。
修也は目の前でキャンディーをちらつかされた子どものように男たちが提示した話に飛び付きたい衝動に駆られた。
だが、その衝動を無理やりに抑え付けた。というのも相手側が油断のならない相手であるからだ。
麗俐の話を聞くに目の前にいる男たちは『この星に足を踏み入れる者に対して死の制裁を加える』ということなのだ。もしかすれば騙し討ちにして殺すつもりなのかもしれない。
修也の頭の中で戦国時代に織田信長の手によって謀殺されることになった織田信行や足利尊氏の手によって謀殺された足利直義の姿が頭の中に浮かんでいく。
そればかりではない。和睦のために開いた宴会の席だと騙してその席で殺されたシャクシャインや鴻門と呼ばれる場所で劉邦を騙し討ちにして殺そうとした項羽のことも頭によぎった。
日本史にしろ世界史にしろ裏切り者を騙して始末したケースなど数えきれないほど存在している。
宇宙人やアンドロイドだからという理由で信頼しなければいけない理由などどこにもない。
修也は相変わらず警戒心を強めながら双眸を大きく見開き、相手を睨み付けていた。これらの行動は和平を申し込んだ相手側からすればせっかく和睦の談義を申し込んだというのに、警戒するなど失礼だと抗議の言葉を浴びせてくるかもしれない。
だが、修也から言わせれば先ほどの自分の行動は子どもたちや仲間の命を守るために最適な行動を取っただけに過ぎない。それで責められる謂れなどない。
許されるのであれば検事や警察の厳しい追及から被告人を守る弁護士のように毅然とした態度で正面から堂々と言い放ってやりたかった。
だが、下手にアンドロイドたちを刺激しては藪から蛇を突くことになるのは明白。そのため修也は自身の叫びたい衝動を必死に押さえ付けていたのである。
このまま互いに無言を貫き合うのかと思ったのだが、意外なことに融和の道は3人組の方から示してきた。
「我々の中に残されたコンピュータは当初貴君らを敵だと認識したのだが、どうやら貴君たち以上に厄介な敵が訪れたということもあり、我々は貴君らに一時的な融和を求めたいのだ」
「どういうことだ? お前たちはあの恐ろしいホーテンス星人に作られたんじゃあないのか?」
修也はフェイスヘルメットの下で訝しげな表情を浮かべて3人組を睨んでいった。
ヘルメットの下で3人組を注視する視線は実用のナイフのように鋭く尖っていたように思えるが修也にしか分からないので3人組は知る由もなかった。
修也がいくら胸のうちに不信感を抱こうとも関係がないと言わんばかりに、3人組は平気な調子で会話を続けていく。
「違う。我々を作ったのはこの星の住民たちだ」
「……ホーテンス星人がそう自称しているんじゃあないのか?」
「違う。そのホーテンス星人と我々は無関係だ」
目の前にいる3人組のアンドロイドたちによる言葉が正しければ3人組のアンドロイドは修也たちにあの凄惨な石碑を残したこの星の原住民たちが残したアンドロイドだということになる。
しかしその考えだと矛盾が生じてしまう。石碑に絵を描き残すことが精一杯だった人々に高性能なアンドロイドを作成できるはずがない。
このアンドロイドは一見したところ性能は22世紀の地球で作成されたアンドロイドたちと変わりはない。この星にもともと住んでいた先住民たちが目の前にいるアンドロイドを作れるような文明力を有しているとは思えないのだ。
見下ろしているわけではない。単純な科学力の問題なのだ。
修也は頭を捻ったが、目の前にいるアンドロイドは助け舟を出してはくれなかった。自分が困れば相手がなんでも答えてくれるような世の中ではないはずだ。
その正体が気になるのであれば自分で解き明かすしかない。そのことを実感させられた修也はフェイスヘルメットの下でもう一度苦笑した。
ミステリー小説を読んでも犯人を当てたことなどなかった修也からすればそれは難問だった。ましてや相手は殺人事件の犯人ではなく、目の前にいるアンドロイドを作った者の正体なのだ。
その正体やルーツを解き明かすには相当の時間が必要だと思われる。
修也が目の前にいるアンドロイドの解釈で頭を悩ませていると、アンドロイドの一体が修也の目と鼻の先にまで近付いてきた。
「さて、どうする? 貴君は我々と同盟を組むのか? それとも組まないのか?」
詰め寄った言い方に修也は不快感を覚えたものの、大人としてその感情を押し殺し、努めて冷静な声で言葉を返した。
「私の一言では決められん。仲間と共に話をしてゆっくりと決めてから、また改めて回答を述べさせてもらいたい」
「時間はいくら欲しい?」
向こうからの時間指定に修也は思わず両肩をすかしてしまった。刑事ドラマなどで見る交渉であれば時間は向こう側が指定してくるので修也としては珍しく感じられたのだ。
だが、修也は気取られることなく人差し指を突き出し堂々とした口調で言った。
「大事なことだからな。1日は話し合いたい」
「分かった。1日だな」
老人が修也の言葉を反復する。
「交渉の場はお前たちの洞窟の前にある森の中だ。洞窟の中で襲われたら私たちは身動きが取れなくなるからな」
修也は毅然とした態度で答えた。
「分かった」
修也の提示する条件を次々と突き付け、その条件が呑まれるのでこんなに楽な交渉はなかった。
前の会社に勤めていた時は駆け引きや社交術が物を言ったものだが、この場ではそうした会社員としてのスキルは不要なようだ。
修也に見送られ、3人組のアンドロイドたちは飛行船の前を去っていった。
修也は彼らを見送った後で宇宙船の中へと戻り、先ほどの出来事を一字一句鮮明にとはいかないものの正確に伝えていった。
修也からの報告を聞いた全員が眉を顰めた。その中でも実際に3人組のアンドロイドたちと交戦になり掛けた麗俐と悠介の両名は修也が示した和解案に対して頑なまでに反対の姿勢を貫いたのである。
その姿は『三国志』において降伏か戦闘かと悩む孫権に向かって強硬論を主張する『呉』の国の軍人たちのようであった。
『呉』の国において降伏を主張した文官たちをこの場の人物で例えるのであればそれはジョウジとカエデの両名である。
合理的に考えて和解策を受け入れることが前進に進むと判断したのだろう。
もしこの場に諸葛亮孔明がいれば上手く議論を纏めることができたのだろうが、生憎とこの場に孔明はいない。
このまま21世紀の日本企業が陥った無意味な会議が続いていくのかと修也が懸念していた時のことだ。
「あの、少しよろしいですか?」
と、アリサが手を挙げた。
「はい、どうされましたか? アリサさん」
ジョウジが予想外だとばかりに両眉を上げながら問い掛けた。
「双方の意見を聞いて私なりの考えを纏めてみたのですが、よろしければお聞き願えないでしょうか?」
どうやら、孔明はようやく姿を現したらしい。全員の視線が議論に終止符を打つであろうアリサに向かって注がれていく。
一方でアリサは全員からの視線が集まっているにも関わらず、重圧を受けることもなく淡々と自分の考えを述べていった。
「まず、私としてはこの交渉の席に着くべきだと思います。皆様は地球に帰りたいとのことなのでその見込みがあるのならば少しでもその可能性に縋るべきなのではないでしょうか?」
修也は『藁にもすがる思い』という地球の諺を思い出した。アリサの言葉通りで僅かにでも地球へ帰れる可能性があるというのであればその言葉に従うべきだ。
修也の中で腹は決まった。
だが、麗俐は納得がいかなかったようだ。それでも彼女の中でアリサの主張に動かされてもいたに違いない。
予想より主張する声が上擦っていたのがその証明だと言えた。
「け、けど、あいつらが信用できるかーー」
「なら、麗俐さんはここに残ってファティマの面倒を見てください。それならば交渉の席に付かずに済むし、万が一のことが起こったとしてもこの宇宙船も残るでしょう?」
完璧なロジックだ。どうやら諸葛亮孔明はこの場にいたらしい。修也は心の中で拍手を送った。
鮮やかにディスカッションを進めていき、結論へと導く姿は大岡越前や遠山金四郎のお白洲での裁きを見ているかのような心境であった。
もしかすれば彼女がいれば得体の知れない化け物との戦いも全て上手くいくかもしれない。修也はそんな淡い期待さえ寄せた。
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