175 / 195
漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
12
しおりを挟む
結論から先に述べると、銃による勝負はあっさりと決着がついた。互いに引き金を引くのは一瞬のことだったのだ。
銃による戦いの場合であれば、3人組の男たちよりも後になってレーザーガンを抜いた悠介と麗俐の方が不利になるのは間違いなかった。
この場に居合わせたカサスとアリサはおろか、外からこの戦いを見るようなことがあればどこの星の人間であろうが同様の感想を抱いたはずだ。
だが、現実というのは時に人間が空想で描いたものより、奇怪な出来事を引き起こし、人々の予想を狂わせるものである。
なんと3人組のプラズマライフルを持っていた全身宇宙服の宇宙人たちが引き金を引くよりも、後からレーザーガン抜いた麗俐と悠介が正体不明の男たちを先に撃ち抜いたのである。
足を滑らせたとか空から救いの雨が降ってきたなどという番狂せは一切なかった。単純に悠介と麗俐の方が男たちよりも銃を撃つ瞬間が早かったのだ。
自分たちが銃を抜いたのが遅いという最悪のハンデを抱えつつも素早く引き金を引いて地面の上に2人組の男を打ち倒したのである。
一瞬の出来事ではあったが、これが結果だ。戦いに至るまでの過程はどうであれ悠介と麗俐が勝利を収めた。それに関しては疑いようのない事実だ。
ただ悠介と麗俐は一瞬のうちに勝負をつけるため、相応の精神力を有したに違いなかった。
まだもう1人敵が残っているにも関わらず、両肩を激しく上下させているのが見えた。
これは無理やり胸を膨らませて呼吸をしている確かな証拠であり、2人がいかに気を張り詰めていたというのかが分かるだろう。体力も消耗して弱っているというのがみて取れる。
2人の勝利の由縁はどうやら2人が有した精神力が源であったらしい。
必死に精神力を張り詰め、限界まで気合いを高めたことが2人の手に勝利を導かせたのだろう。それは見事である。
だが、いかに見事な功績を立てようとも敵が2人の事情など考慮するはずがない。それに加えて敵が弱っていれば叩くというのが古今東西を通しての人間の心理である。数少ない例外が『敵に塩を送る』というものだ。
そうした優れたスポーツマンシップともいうべき高潔な精神を持ち、堂々と戦おうという素晴らしい試みは宇宙人にとっては無用な存在であるといってもいい。
プラズマライフルの銃口を躊躇うことなく2人へ向けたのがその証拠だ。
『万事休す』という言葉が2人の脳裏に浮かぶ。今の2人にプラズマライフルを避ける余力はない。プラズマライフルから放たれるプラズマ球を避けることなど不可能に近かった。
2人が自分たちに訪れる最悪の結末。すなわち完全な敗北を頭の中で悟っていた時のことだ。
「おーい! こっちだぞ!!」
と、2人の背中に隠れていたはずのカサスが声を張り上げた。大きく両手を振るって、頭の狂った宇宙人に自らを見つめるように呼び掛けている。
2人は悟った。カサスが自分たちを助けるために自ら囮を名乗り出たのだ、と。
それまで2人に関心を向けていた宇宙人はカサスにプラズマライフルの銃口を向けた。このままでは知り合ったばかりのカサスという青年はプラズマライフルの餌食になってしまうだろう。
それだけは絶対に避けなくてはならない。特にバスケットボールをやっていて責任感の強い悠介は自分たちの元へと逃げ込んできたにも関わらず、自分たちの弱さのためにカサスが殺されてしまうという最悪の事態を避けたかった。
悠介の中ではカサスが殺されるということは自身が指揮するバスケットボール部の部員が自身の采配ミスによって敗れてしまうこと同じようなことであった。
バスケットボール部の試合と人の命が掛かった今の状況を均等に例えるべきではないということは分かってはいたが、自身を奮い立たせるためにはバスケットボールが必要だったのだ。
いうなれば起爆剤のようなものだ。
大好きなバスケットボールで気合いを入れた悠介はたちまちテニスコートの上をどの選手にも取られることなく地面の上を飛んでいくボールを追っていく時のように素早く全力で宇宙人の元へと走っていった。
そして左脇からラグビーの選手が相手選手に向かって飛び掛かっていくかのように勢いを付けて襲い掛かってきたのである。
真横から勢いよく覆い被さってきたこともあり、生き残っていた宇宙人は両足のバランスを崩してしまったらしい。
プラズマライフルを抱えたまま地面の上に勢いよく倒れ込んでいった。
「逃げろ!」
悠介は宇宙人を両手で取り押さえながらカサスとアリサに訴え掛けた。
「無茶だ! キミを置いて逃げるなんて……」
カサスは必死な声で反論を試みた。当然だ。もともと弱っていた悠介を助けるため自ら囮を名乗り出たのだから。
しかしカサスにとって悠介から返ってきた返答は期待していたものとは反対の言葉であった。
「いいから! こいつらの野望を叶えさせることなんてないんだ!!」
「け、けど……」
「逃げましょう」
そう言って躊躇っていたカサスの手を引っ張ったのはアリサであった。
「け、けど、この子を置いて逃げるなんて……」
「じゃあ、あんたは何ができるっていうの!?」
アリサの指摘は的を射ていた。カサスがこの場に残ったところで出来ることなど何もない。
それどころか武器もない、戦闘技術も持ち合わせていないカサスが残っていたとしても、2人の足を引っ張るばかりであることは明白である。
カサスは姉の指摘に小さく首を縦に動かし、その場から逃げ去っていった。
「よし、これでいい」
知らない宇宙人の上に馬乗りになっていた悠介はこの場から慌てて逃げ去っていく2人を見つめながら勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
これで仮に自分たちが死んだとしても無機質な宇宙服を着た不気味な異星人の目的が達成されることはないはずだ。
「残念だったな。お前の負けだ」
言葉が通じるはずがない。日本語という相手が分からない言語で悠介は煽っただけのことだった。
だが、事情に反して悠介の予想とは大きく異なる展開が生じてしまった。
突然宇宙人のフェイスヘルメットが規則正しい音を奏でていった。地球でよく聞いた病院やレストランの呼び出し音のような音を発していく。いわゆる電子音である。
かと思うと、全身から大規模な蒸気が噴射されていった。突然上がった高熱に耐え切れず悠介は咄嗟に宇宙人の上から離れていった。
「な、何が起きた!?」
悠介が動揺の声を上げ、レーザーガンを向けた時のことだ。それまで何も言わなかった宇宙人がゆっくりと起き上がり、悠介の元へと向かっていったのである。
性別も正体も分からないその宇宙人は悠介の元へ無言で近付いていったかと思うと、プラズマライフルの銃尻を使って悠介の頭を強く殴打していった。
フェイスヘルメット越しであるとはいえ悠介の頭部に襲い掛かった衝撃は予想以上のものであった。
強い衝撃を受けた悠介は地面の上を転がっていった。起き上がろうと努力はしたものの、まだフェイスヘルメットの中では痛覚が残っている。後遺症ともいうべき痛みが残置し、立ち上がることを脳に拒否させていたのである。
麗俐が止められなかったのも無理はない。麗俐も弟と同様に急速な電子音に腰を抜かし、呆然としていたのが理由であった。
宇宙人は残っていた影を隠していたように身を潜めていた麗俐に標的を定めたのだろう。何も言わず、プラズマライフルの銃口を向けた。
だが、悠介が倒れた以上、自分に矛を向けるということは予測できていたことだ。麗俐は宇宙人がプラズマライフルを突き付けてくるのとほとんど同時にレーザーガンを突き付けた。
両者の間で銃の腕にそこまでの差はないだろう。再び西部劇さながらの光景が未知の惑星の片隅で再現された。
お互いに相手を滅ぼすことができる力を持っているからこそ先は動こうにも動けない。
麗俐は歴史の授業を通して学んだ東西冷戦の話を思い出した。東西冷戦の時代など歴史上の出来事でしかない時代に産まれた麗俐にとって味わうことができなかった感覚を擬似的な状態とはいえ味わうことができるのは新鮮な気持ちであったが、こんな息苦しい思いは二度と味わいたくないというのが本音だった。
先に手が出るのはどちらだろうか。フェイスヘルメットの下で冷や汗が額から鼻の下、そしてスーツの上を伝って足元にまで流れ落ちていく。
一滴の汗がここまで不快感を生じさせるとは思いもしなかった。緊張状態にあることも影響しているのだろう。普段であれば気にしないことも過敏に反応してしまっているような気がした。
(私はどうしたらいいの?)
麗俐の中に迷いが生じたことを男は見逃さなかった。即座にプラズマライフルの引き金を引いた。たった一つの雷球によってよって麗俐の命はプルートーの治める冥界へと送られるはずだった。
もし麗俐が咄嗟に機転を効かし、体を捻らせて地面の上を勢いよく転がることがなければ全て上手く運んだに違いなかった。
麗俐は転がっていく傍らで惑星カメーネにおいてカエデの口から発せられた言葉を思い返した。
「死んで逃げるなんて許しませんよ!」
麗俐の頭の中で鮮明に響いていく。その通りだ。自分は死んではならない。
麗俐は素早く起き上がると握っていたレーザーガンの引き金を引き、宇宙人に向かってレーザー光線を浴びせたのである。
息つく暇もない一瞬の出来事だった。例の宇宙人は反撃の機会すら与えられずにこの世を去ることになった。
だが、麗俐の中では同情など湧いてこない。彼らは人間を狩るという許されない行動をしていたのだ。裁かれるのは当然のことだ。
麗俐は分かっていた。自身の行動が単なる私刑に過ぎないということも。
それを裁判官や既に廃れつつある保安官のように裁く権利などないということも。
だが、分かっていても悪事を知ったからには例の宇宙人自らの手で裁かずにはいられなかった。
いや、そもそも麗俐の一件は正当防衛なのだ。向こうが自分たちや自分たちが親しくなった人を殺そうとしたからやり返したというだけに過ぎないのだ。
何も悔やむことはない。麗俐は私刑を犯してしまったことに対して、己の中でそう言い聞かせて忘れ去ろうとした、
安心感というものを得た麗俐は地面の上に倒れている弟を救いに向かおうとした時のことだ。
先ほどの電子音が再び鳴り出していった。電子音の正体は先ほど麗俐が倒した宇宙人の体からである。気になった麗俐が慌ててて宇宙人の元へと駆け寄っていくと、黒焦げになった宇宙服の下には強靭な機械の体が見えた。
「う、嘘でしょ……まさか、この敵が機械だったなんて……」
居ても立っても居られなくなった麗俐は慌てて地面の上に倒れている悠介を起こし、例の機械の体を見せた。
「そんな馬鹿な……ということはこいつらはアンドロイドだったということか?」
「……かもね。もしかしたらロボットかもしれない」
だが、正体がアンドロイドだろうがロボットだろうが2人にはどうでもいいことであった。正体など分かったところでどうしようもないからだ。
それよりも今後、確実に襲い掛かるであろう脅威に対して2人がどのようにして立ち回るのかが重要であった。
洞窟で見た3体のアンドロイドに恐ろしい宇宙生物。それに加えて人間狩りを行うホーステン星人の存在。
下手をすればその全てが麗俐たちにとっての敵なのだ。予想よりも深刻な事態に2人は思わず生唾を飲み込んだ。
銃による戦いの場合であれば、3人組の男たちよりも後になってレーザーガンを抜いた悠介と麗俐の方が不利になるのは間違いなかった。
この場に居合わせたカサスとアリサはおろか、外からこの戦いを見るようなことがあればどこの星の人間であろうが同様の感想を抱いたはずだ。
だが、現実というのは時に人間が空想で描いたものより、奇怪な出来事を引き起こし、人々の予想を狂わせるものである。
なんと3人組のプラズマライフルを持っていた全身宇宙服の宇宙人たちが引き金を引くよりも、後からレーザーガン抜いた麗俐と悠介が正体不明の男たちを先に撃ち抜いたのである。
足を滑らせたとか空から救いの雨が降ってきたなどという番狂せは一切なかった。単純に悠介と麗俐の方が男たちよりも銃を撃つ瞬間が早かったのだ。
自分たちが銃を抜いたのが遅いという最悪のハンデを抱えつつも素早く引き金を引いて地面の上に2人組の男を打ち倒したのである。
一瞬の出来事ではあったが、これが結果だ。戦いに至るまでの過程はどうであれ悠介と麗俐が勝利を収めた。それに関しては疑いようのない事実だ。
ただ悠介と麗俐は一瞬のうちに勝負をつけるため、相応の精神力を有したに違いなかった。
まだもう1人敵が残っているにも関わらず、両肩を激しく上下させているのが見えた。
これは無理やり胸を膨らませて呼吸をしている確かな証拠であり、2人がいかに気を張り詰めていたというのかが分かるだろう。体力も消耗して弱っているというのがみて取れる。
2人の勝利の由縁はどうやら2人が有した精神力が源であったらしい。
必死に精神力を張り詰め、限界まで気合いを高めたことが2人の手に勝利を導かせたのだろう。それは見事である。
だが、いかに見事な功績を立てようとも敵が2人の事情など考慮するはずがない。それに加えて敵が弱っていれば叩くというのが古今東西を通しての人間の心理である。数少ない例外が『敵に塩を送る』というものだ。
そうした優れたスポーツマンシップともいうべき高潔な精神を持ち、堂々と戦おうという素晴らしい試みは宇宙人にとっては無用な存在であるといってもいい。
プラズマライフルの銃口を躊躇うことなく2人へ向けたのがその証拠だ。
『万事休す』という言葉が2人の脳裏に浮かぶ。今の2人にプラズマライフルを避ける余力はない。プラズマライフルから放たれるプラズマ球を避けることなど不可能に近かった。
2人が自分たちに訪れる最悪の結末。すなわち完全な敗北を頭の中で悟っていた時のことだ。
「おーい! こっちだぞ!!」
と、2人の背中に隠れていたはずのカサスが声を張り上げた。大きく両手を振るって、頭の狂った宇宙人に自らを見つめるように呼び掛けている。
2人は悟った。カサスが自分たちを助けるために自ら囮を名乗り出たのだ、と。
それまで2人に関心を向けていた宇宙人はカサスにプラズマライフルの銃口を向けた。このままでは知り合ったばかりのカサスという青年はプラズマライフルの餌食になってしまうだろう。
それだけは絶対に避けなくてはならない。特にバスケットボールをやっていて責任感の強い悠介は自分たちの元へと逃げ込んできたにも関わらず、自分たちの弱さのためにカサスが殺されてしまうという最悪の事態を避けたかった。
悠介の中ではカサスが殺されるということは自身が指揮するバスケットボール部の部員が自身の采配ミスによって敗れてしまうこと同じようなことであった。
バスケットボール部の試合と人の命が掛かった今の状況を均等に例えるべきではないということは分かってはいたが、自身を奮い立たせるためにはバスケットボールが必要だったのだ。
いうなれば起爆剤のようなものだ。
大好きなバスケットボールで気合いを入れた悠介はたちまちテニスコートの上をどの選手にも取られることなく地面の上を飛んでいくボールを追っていく時のように素早く全力で宇宙人の元へと走っていった。
そして左脇からラグビーの選手が相手選手に向かって飛び掛かっていくかのように勢いを付けて襲い掛かってきたのである。
真横から勢いよく覆い被さってきたこともあり、生き残っていた宇宙人は両足のバランスを崩してしまったらしい。
プラズマライフルを抱えたまま地面の上に勢いよく倒れ込んでいった。
「逃げろ!」
悠介は宇宙人を両手で取り押さえながらカサスとアリサに訴え掛けた。
「無茶だ! キミを置いて逃げるなんて……」
カサスは必死な声で反論を試みた。当然だ。もともと弱っていた悠介を助けるため自ら囮を名乗り出たのだから。
しかしカサスにとって悠介から返ってきた返答は期待していたものとは反対の言葉であった。
「いいから! こいつらの野望を叶えさせることなんてないんだ!!」
「け、けど……」
「逃げましょう」
そう言って躊躇っていたカサスの手を引っ張ったのはアリサであった。
「け、けど、この子を置いて逃げるなんて……」
「じゃあ、あんたは何ができるっていうの!?」
アリサの指摘は的を射ていた。カサスがこの場に残ったところで出来ることなど何もない。
それどころか武器もない、戦闘技術も持ち合わせていないカサスが残っていたとしても、2人の足を引っ張るばかりであることは明白である。
カサスは姉の指摘に小さく首を縦に動かし、その場から逃げ去っていった。
「よし、これでいい」
知らない宇宙人の上に馬乗りになっていた悠介はこの場から慌てて逃げ去っていく2人を見つめながら勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
これで仮に自分たちが死んだとしても無機質な宇宙服を着た不気味な異星人の目的が達成されることはないはずだ。
「残念だったな。お前の負けだ」
言葉が通じるはずがない。日本語という相手が分からない言語で悠介は煽っただけのことだった。
だが、事情に反して悠介の予想とは大きく異なる展開が生じてしまった。
突然宇宙人のフェイスヘルメットが規則正しい音を奏でていった。地球でよく聞いた病院やレストランの呼び出し音のような音を発していく。いわゆる電子音である。
かと思うと、全身から大規模な蒸気が噴射されていった。突然上がった高熱に耐え切れず悠介は咄嗟に宇宙人の上から離れていった。
「な、何が起きた!?」
悠介が動揺の声を上げ、レーザーガンを向けた時のことだ。それまで何も言わなかった宇宙人がゆっくりと起き上がり、悠介の元へと向かっていったのである。
性別も正体も分からないその宇宙人は悠介の元へ無言で近付いていったかと思うと、プラズマライフルの銃尻を使って悠介の頭を強く殴打していった。
フェイスヘルメット越しであるとはいえ悠介の頭部に襲い掛かった衝撃は予想以上のものであった。
強い衝撃を受けた悠介は地面の上を転がっていった。起き上がろうと努力はしたものの、まだフェイスヘルメットの中では痛覚が残っている。後遺症ともいうべき痛みが残置し、立ち上がることを脳に拒否させていたのである。
麗俐が止められなかったのも無理はない。麗俐も弟と同様に急速な電子音に腰を抜かし、呆然としていたのが理由であった。
宇宙人は残っていた影を隠していたように身を潜めていた麗俐に標的を定めたのだろう。何も言わず、プラズマライフルの銃口を向けた。
だが、悠介が倒れた以上、自分に矛を向けるということは予測できていたことだ。麗俐は宇宙人がプラズマライフルを突き付けてくるのとほとんど同時にレーザーガンを突き付けた。
両者の間で銃の腕にそこまでの差はないだろう。再び西部劇さながらの光景が未知の惑星の片隅で再現された。
お互いに相手を滅ぼすことができる力を持っているからこそ先は動こうにも動けない。
麗俐は歴史の授業を通して学んだ東西冷戦の話を思い出した。東西冷戦の時代など歴史上の出来事でしかない時代に産まれた麗俐にとって味わうことができなかった感覚を擬似的な状態とはいえ味わうことができるのは新鮮な気持ちであったが、こんな息苦しい思いは二度と味わいたくないというのが本音だった。
先に手が出るのはどちらだろうか。フェイスヘルメットの下で冷や汗が額から鼻の下、そしてスーツの上を伝って足元にまで流れ落ちていく。
一滴の汗がここまで不快感を生じさせるとは思いもしなかった。緊張状態にあることも影響しているのだろう。普段であれば気にしないことも過敏に反応してしまっているような気がした。
(私はどうしたらいいの?)
麗俐の中に迷いが生じたことを男は見逃さなかった。即座にプラズマライフルの引き金を引いた。たった一つの雷球によってよって麗俐の命はプルートーの治める冥界へと送られるはずだった。
もし麗俐が咄嗟に機転を効かし、体を捻らせて地面の上を勢いよく転がることがなければ全て上手く運んだに違いなかった。
麗俐は転がっていく傍らで惑星カメーネにおいてカエデの口から発せられた言葉を思い返した。
「死んで逃げるなんて許しませんよ!」
麗俐の頭の中で鮮明に響いていく。その通りだ。自分は死んではならない。
麗俐は素早く起き上がると握っていたレーザーガンの引き金を引き、宇宙人に向かってレーザー光線を浴びせたのである。
息つく暇もない一瞬の出来事だった。例の宇宙人は反撃の機会すら与えられずにこの世を去ることになった。
だが、麗俐の中では同情など湧いてこない。彼らは人間を狩るという許されない行動をしていたのだ。裁かれるのは当然のことだ。
麗俐は分かっていた。自身の行動が単なる私刑に過ぎないということも。
それを裁判官や既に廃れつつある保安官のように裁く権利などないということも。
だが、分かっていても悪事を知ったからには例の宇宙人自らの手で裁かずにはいられなかった。
いや、そもそも麗俐の一件は正当防衛なのだ。向こうが自分たちや自分たちが親しくなった人を殺そうとしたからやり返したというだけに過ぎないのだ。
何も悔やむことはない。麗俐は私刑を犯してしまったことに対して、己の中でそう言い聞かせて忘れ去ろうとした、
安心感というものを得た麗俐は地面の上に倒れている弟を救いに向かおうとした時のことだ。
先ほどの電子音が再び鳴り出していった。電子音の正体は先ほど麗俐が倒した宇宙人の体からである。気になった麗俐が慌ててて宇宙人の元へと駆け寄っていくと、黒焦げになった宇宙服の下には強靭な機械の体が見えた。
「う、嘘でしょ……まさか、この敵が機械だったなんて……」
居ても立っても居られなくなった麗俐は慌てて地面の上に倒れている悠介を起こし、例の機械の体を見せた。
「そんな馬鹿な……ということはこいつらはアンドロイドだったということか?」
「……かもね。もしかしたらロボットかもしれない」
だが、正体がアンドロイドだろうがロボットだろうが2人にはどうでもいいことであった。正体など分かったところでどうしようもないからだ。
それよりも今後、確実に襲い掛かるであろう脅威に対して2人がどのようにして立ち回るのかが重要であった。
洞窟で見た3体のアンドロイドに恐ろしい宇宙生物。それに加えて人間狩りを行うホーステン星人の存在。
下手をすればその全てが麗俐たちにとっての敵なのだ。予想よりも深刻な事態に2人は思わず生唾を飲み込んだ。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
Night Sky
九十九光
SF
20XX年、世界人口の96%が超能力ユニゾンを持っている世界。この物語は、一人の少年が、笑顔、幸せを追求する物語。すべてのボカロPに感謝。モバスペBOOKとの二重投稿。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる