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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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凶悪な宇宙生物を倒したということもあってか、麗俐は体荒い息を吐き出しながら近くの壁にもたれかかっていた。洞窟の壁に背を預けているという安心感もあるのか、ヘルメットを外した麗俐の顔には安らかな色さえ浮かんでいた。
「よく眠ってられるな」
悠介は半ば皮肉混じりに吐き捨てた。休息のためとはいえヘルメットを脱ぎ捨てたことに対して納得がいっていないようだった。それもそのはずでここは未知の場所。何が待ち受けているのか分からないような不穏なところなのだ。そんな場所で休息のためとはいえ武装を解除するとは信じられなかった。
だが、麗俐には聞こえていなかったのだろう。洞窟の壁に全幅の信頼を寄せるように背を預けて気持ち良さそうにゆらゆらと肩を動かしている。
「いけない。早くあの卵を始末しちまわないと」
悠介は慌てて思い出した危険な卵を破壊するため、レーザーガンを三方向へと繋がる入り口の前に置いてある卵へと向けた時のことだ。
突如三方向に分かれた入り口から三人の男が現れた。男たちは全員が無地で塗られた服を着ていた。飾りも何もない無地の服だ。単に布を緑色で染めたものを纏っているようであった。
まるで古の時代に描かれた奴隷たちが纏う服のようである。
だが、共通しているのは服装だけであり、顔は地球人や他の交易星でみられた住民たちのようにホモ・サピエンスを基本とした顔であった。
どんな様子であるのか気になった悠介はレーザーガンを構えつつ緑色の服を着た男たちを観察していく。
左方面に向かう穴の前に立っていたのは小柄な顔をした老人であった。後頭部に生えた白髪やすっかりと後退したであろう大きな額が彼の加齢を象徴しているかのようであった。
中央の方向に立っていたのは左方向に立っていた男とは対照的に髪を短く整えた若い男であった。スラっとした顔立ちや切れ長の両目、高い鼻や整った唇といった美男子の象徴が特徴的な男だ。
体型も鍛えているのか、粗末な服の上から筋肉を感じさせられた。バスケットボールの選手である悠介から見れば羨ましささえ感じるような立派な筋肉であった。悠介からすれば完璧な肉体を持つその男に嫉妬心すら覚えた。
心の中で膨れ上がっていく嫉妬心を押さえつけながら悠介は最後の方向を向いていく。
右方面の入り口の前に立っているのは長髪の男性だった。長髪の男性は中央方面の男性並みとは言わずとも、涼やかな顔をした美男子であった。同じく中央方面の前に立っている男性には及ばないものの、体も引き締まって見えた。
中央の男には劣るかもしれないが、それでも男性にとっては理想的な体格をしていたし、やはり美男子であるといえるだろう。よほど器量や筋肉に文句を言うような人間でなければ彼らのギリシャ彫刻のような顔や体型は認めざるを得ないだろう。
整った顔を持つ2人は元より、老人ですら何も言わずにこちらをじっと見つめていた。監視カメラのように何も言わずにこちらを見つめる姿はあまりにも不気味だった。人間というよりかは停止したアンドロイドが常にこちらを見つめているかのような不気味さに通じるものがある。
異様な格好をした男たちに見られたことで麗俐も休憩ムードから解き放たれたのだろう。脱いでいたはずのヘルメットを被って再度立ち上がって3人の男たちを見つめた。
「な、なんだ。お前たちは……?」
姉が揃ったことで少しだけ勇気が湧いてきたのか、悠介は声を震わせながら問い掛けた。当然のことながら言葉は返ってこない。相手は異星人なのだ。日本語など通じるはずがない。
だが、悠介の考えなど宇宙と比較すれば浅くて小さなものであるということがすぐに分かった。答えられないだろうという固定観念はすぐに破られることになってしまう。
「我々はここに住まうもの」
老人が淡々とした口調で言い放った。
「す、住まうもの……? となると、この星の住民ってことか? いや、ことですか?」
悠介が対等な口調から敬語へと切り替えたのは相手が自分より何倍も格上の相手であるかのように思えたからだ。
実際その予感は当たっていたらしい。老人は悠介からの言葉を聞かずとも勝手に話を進めていった。
「我々はこの星に残された兵士。帰らぬ主人を待っているのだ」
「帰らぬ主人?」
「その通り、我々の主人は遠い時代に我ら三人をここに残して遠い場所に旅立たれた」
ここまでくると暗号のようだ。古い時代のファンタジー映画でも観ているかのような感覚に陥ってきた。現実では起こり得ないようなことばかりが続いたこともあったのか、悠介の頭に痛みが生じてきた。ズキズキと痛む頭をどうにかしようと悩んでいた時のことである。
「ねぇ、もしかして遠い場所って宇宙のことなんじゃない?」
側にいた麗俐が悠介の元で耳打ちを行った。
「宇宙? なんで、また?」
「だって、そうでもないとあのお爺さんの言葉に説明がつかないよ。だってこの洞窟に来る前はあんなに立派な森林があったのに誰も居ないなんて変じゃん。きっとこの星に住んでいた人たちはみんな宇宙へ旅立っちゃったんだよ」
麗俐の主張は完璧とまではいかないが、説得力というものは十分に秘めていたといってもいいだろう。いくら考えても反撃の糸口が見当たらないような主張であるため反論の言葉に詰まることになった。
だが、あくまでも詰まってしまっただけである。それは頭を冷やせばすぐに答えられる試験問題のように一瞬であった。
悠介の中にふとある疑問が湧いたことで麗俐の考えた主張に対する反論が出来上がったのである。
「確かにお姉ちゃんの論理にも一理はあるよ。けど、こうも考えられるんじゃあないのか? この星に住んでいた人たちはみんな失意のうちに死んでしまった。それをあの人たち? は気がつかずにずっと警備してるんだよ」
悠介によればこの星に住んでいた人々はなんらかの原因でこの星に住むことができなくなり、大量絶滅を迎えてしまった。
種族としての絶滅を迎える前にあの3体をプログラミングして洞窟の中に置いたのだ、と主張した。
麗俐はそれを聞いて難しい顔を浮かべた。悠介の理論にも一定の説得力はあった。しかし麗俐はそれに対して簡単に反論することができたのである。
「でも、アンドロイドを作ることができる技術があるっていうのなら宇宙に出ることもできたはずでしょ? それなのに、どうして全滅してしまったの?」
「そ、それは……」
悠介は言葉に詰まった。住み慣れた星を離れたくないとか見知らぬ宇宙を旅するのが怖いとか色々な理由は考えられるが、命以上に大事であるとは考えられない。
それに宇宙船で一時的に宇宙へ避難したとしても自分たちの星に未練があるのならばそろそろ戻ってきてもいいはずだ。
森も生え、地下水も発掘できるような状況であるというのであれば他の惑星で暮らしていたとしても納得はいく。
やはり、麗俐の言葉通り宇宙船でどこかの星へと旅立ったというのが適切な表現なのかもしれない。
どうしたものかと悠介が頭を悩ませていた時のことだ。
「あのお方たちはこうも命じられた。我々の土地へと立ち入る者には死の制裁を与えよ、と」
男たちは小さなカプセルを取り出したかと思うと、自分たちの姿を恐ろしい化け物へと変えていった。
姿を変える前に彼らは『土地』と明言したので悠介と麗俐が提示したどちらの説が正しいのかは分からない。
だが、どちらの考えが正しいにしろ、彼らが自分たちにとっての敵であることには変わらない。
麗俐と悠介は互いにビームソードを構えて襲撃に備えていった。
左方面の男は自身の姿を二本足で歩く大きな口を持つワニへと姿を変えた。凶悪な顔を模したヘルメットからは鋭い牙が光っているように思えた。
ヘルメットに備え付けられているのか、なかなか本格的である。
中央の男は真っ白な蛇へと姿を変えた。いや、正確に言えば蛇の形をしたアーマーを身に纏っていった方が正確であるかもしれない。凶悪なコブラを思わせるようなヘルメットに蛇の硬い殻を思わせるようなボディが見えた。
通常の蛇であれば胴体に紺色を帯びてなどいないし、腰にレーザーブレードを下げているようなこともあり得ない。
レーザーブレードといっても修也たちが使うビームソードとは異なり、100年以上前までは現役であったとされる刃物状の剣のように鋭く尖っていた。
最後の男はキラキラ怪しげな光を放ちながら発光する全身タイツのような姿をしていた。顔にはモダンアートの絵画で見られる肖像画のように崩れたような顔に2本の白い腕がくっ付いた不気味なヘルメットを被っている。腰にはレーザーガンが下がっているので武器に関しても問題はないだろう。
一見すると頑丈であるのはヘルメットだけであるというような印象を受けそうだが、男のアーマーは単に薄く作られているだけであるようだ。立派にアーマーとして機能することは男が自らの体に向かって手にしていたレーザーガンを放つことで証明されたのである。
強力なパワードスーツに強力なアンドロイドという最強にして最悪の組み合わせに加え、狭い洞窟の中という最悪の地形。麗俐にとっても悠介にとっても不利な環境であるのは間違いない。
それらの要因に加えて麗俐は先ほどの怪物との戦闘による疲労も残っている。
2人がヘルメットの下でギリギリと歯を噛んでいた時のことだ。突然ミシッと小さく、それでも狭い場所の中で響いていくのには十分な音が聞こえた。
麗俐と悠介は元より、例のアンドロイドたちも音がした方向に目を向けた。
全員の視線が注がれていく中で卵からは例の不気味な怪物たちが飛び出してきた。
とはいってもあの怪物たちとは異なり、ワーム状の小さな姿で殻を食い破って現れたのである。
卵から姿を現した怪物たちは産まれてきた勢いのまま麗俐と悠介のみならず敵であるはずのアンロドロイドたちにも襲い掛かっていったのである。
予想外の出来事にヘルメットの下で思わず面食らったような顔を浮かべる2人であったが、逃げるのならば今しかないように思える。
結局麗俐たちは来た道を引き返し、命からがら逃げ去る羽目になったのだ。
小さな宇宙生物の対応に思ったよりも手間を取ったのか、森の外に置いていたホバークラフトに乗るまでの間彼らが追ってくるようなことはなかった。
麗俐たちはホバークラフトを飛ばし、敗残の兵として逃げ帰る羽目になったのである。しかしただ単に負けたわけではない。自然があることや凶悪な生物がいる洞窟、そして制作者不明のアンドロイドのことを知れたのである。
スコーピオン号に這々の体で戻り、シャワーと栄養カプセルで体を整えた後に、インスタントのコーヒーを片手に一連の出来事を伝えた。
「なるほど、そんなことが……」
修也は感心したように言った。
「うん、明日また行ってみない? お父さんが一緒に来れば三対三になるから今日みたいな結果にはならないと思うよ」
「……どうでしょうね」
背後からは難しそうな顔を浮かべたカエデの姿が見えた。カエデは難しそうに唸った後で言った。
「その方々とあなたたちは直接拳を交えたわけではないのでしょう? ならば強さというのは未知数ということになります。勝てない敵に立ち向かうよりも別の道を模索してみてはいかがです?」
カエデの提案は冷静に一連の出来事を見ているからこそ出たものであろう。
だが、命懸けで手に入れた成果を水の泡にするような言論を悠介は聞き流すことができなかったようだ。
納得がいかないと言わんばかりの鋭い目でカエデを睨み続けていた。
「よく眠ってられるな」
悠介は半ば皮肉混じりに吐き捨てた。休息のためとはいえヘルメットを脱ぎ捨てたことに対して納得がいっていないようだった。それもそのはずでここは未知の場所。何が待ち受けているのか分からないような不穏なところなのだ。そんな場所で休息のためとはいえ武装を解除するとは信じられなかった。
だが、麗俐には聞こえていなかったのだろう。洞窟の壁に全幅の信頼を寄せるように背を預けて気持ち良さそうにゆらゆらと肩を動かしている。
「いけない。早くあの卵を始末しちまわないと」
悠介は慌てて思い出した危険な卵を破壊するため、レーザーガンを三方向へと繋がる入り口の前に置いてある卵へと向けた時のことだ。
突如三方向に分かれた入り口から三人の男が現れた。男たちは全員が無地で塗られた服を着ていた。飾りも何もない無地の服だ。単に布を緑色で染めたものを纏っているようであった。
まるで古の時代に描かれた奴隷たちが纏う服のようである。
だが、共通しているのは服装だけであり、顔は地球人や他の交易星でみられた住民たちのようにホモ・サピエンスを基本とした顔であった。
どんな様子であるのか気になった悠介はレーザーガンを構えつつ緑色の服を着た男たちを観察していく。
左方面に向かう穴の前に立っていたのは小柄な顔をした老人であった。後頭部に生えた白髪やすっかりと後退したであろう大きな額が彼の加齢を象徴しているかのようであった。
中央の方向に立っていたのは左方向に立っていた男とは対照的に髪を短く整えた若い男であった。スラっとした顔立ちや切れ長の両目、高い鼻や整った唇といった美男子の象徴が特徴的な男だ。
体型も鍛えているのか、粗末な服の上から筋肉を感じさせられた。バスケットボールの選手である悠介から見れば羨ましささえ感じるような立派な筋肉であった。悠介からすれば完璧な肉体を持つその男に嫉妬心すら覚えた。
心の中で膨れ上がっていく嫉妬心を押さえつけながら悠介は最後の方向を向いていく。
右方面の入り口の前に立っているのは長髪の男性だった。長髪の男性は中央方面の男性並みとは言わずとも、涼やかな顔をした美男子であった。同じく中央方面の前に立っている男性には及ばないものの、体も引き締まって見えた。
中央の男には劣るかもしれないが、それでも男性にとっては理想的な体格をしていたし、やはり美男子であるといえるだろう。よほど器量や筋肉に文句を言うような人間でなければ彼らのギリシャ彫刻のような顔や体型は認めざるを得ないだろう。
整った顔を持つ2人は元より、老人ですら何も言わずにこちらをじっと見つめていた。監視カメラのように何も言わずにこちらを見つめる姿はあまりにも不気味だった。人間というよりかは停止したアンドロイドが常にこちらを見つめているかのような不気味さに通じるものがある。
異様な格好をした男たちに見られたことで麗俐も休憩ムードから解き放たれたのだろう。脱いでいたはずのヘルメットを被って再度立ち上がって3人の男たちを見つめた。
「な、なんだ。お前たちは……?」
姉が揃ったことで少しだけ勇気が湧いてきたのか、悠介は声を震わせながら問い掛けた。当然のことながら言葉は返ってこない。相手は異星人なのだ。日本語など通じるはずがない。
だが、悠介の考えなど宇宙と比較すれば浅くて小さなものであるということがすぐに分かった。答えられないだろうという固定観念はすぐに破られることになってしまう。
「我々はここに住まうもの」
老人が淡々とした口調で言い放った。
「す、住まうもの……? となると、この星の住民ってことか? いや、ことですか?」
悠介が対等な口調から敬語へと切り替えたのは相手が自分より何倍も格上の相手であるかのように思えたからだ。
実際その予感は当たっていたらしい。老人は悠介からの言葉を聞かずとも勝手に話を進めていった。
「我々はこの星に残された兵士。帰らぬ主人を待っているのだ」
「帰らぬ主人?」
「その通り、我々の主人は遠い時代に我ら三人をここに残して遠い場所に旅立たれた」
ここまでくると暗号のようだ。古い時代のファンタジー映画でも観ているかのような感覚に陥ってきた。現実では起こり得ないようなことばかりが続いたこともあったのか、悠介の頭に痛みが生じてきた。ズキズキと痛む頭をどうにかしようと悩んでいた時のことである。
「ねぇ、もしかして遠い場所って宇宙のことなんじゃない?」
側にいた麗俐が悠介の元で耳打ちを行った。
「宇宙? なんで、また?」
「だって、そうでもないとあのお爺さんの言葉に説明がつかないよ。だってこの洞窟に来る前はあんなに立派な森林があったのに誰も居ないなんて変じゃん。きっとこの星に住んでいた人たちはみんな宇宙へ旅立っちゃったんだよ」
麗俐の主張は完璧とまではいかないが、説得力というものは十分に秘めていたといってもいいだろう。いくら考えても反撃の糸口が見当たらないような主張であるため反論の言葉に詰まることになった。
だが、あくまでも詰まってしまっただけである。それは頭を冷やせばすぐに答えられる試験問題のように一瞬であった。
悠介の中にふとある疑問が湧いたことで麗俐の考えた主張に対する反論が出来上がったのである。
「確かにお姉ちゃんの論理にも一理はあるよ。けど、こうも考えられるんじゃあないのか? この星に住んでいた人たちはみんな失意のうちに死んでしまった。それをあの人たち? は気がつかずにずっと警備してるんだよ」
悠介によればこの星に住んでいた人々はなんらかの原因でこの星に住むことができなくなり、大量絶滅を迎えてしまった。
種族としての絶滅を迎える前にあの3体をプログラミングして洞窟の中に置いたのだ、と主張した。
麗俐はそれを聞いて難しい顔を浮かべた。悠介の理論にも一定の説得力はあった。しかし麗俐はそれに対して簡単に反論することができたのである。
「でも、アンドロイドを作ることができる技術があるっていうのなら宇宙に出ることもできたはずでしょ? それなのに、どうして全滅してしまったの?」
「そ、それは……」
悠介は言葉に詰まった。住み慣れた星を離れたくないとか見知らぬ宇宙を旅するのが怖いとか色々な理由は考えられるが、命以上に大事であるとは考えられない。
それに宇宙船で一時的に宇宙へ避難したとしても自分たちの星に未練があるのならばそろそろ戻ってきてもいいはずだ。
森も生え、地下水も発掘できるような状況であるというのであれば他の惑星で暮らしていたとしても納得はいく。
やはり、麗俐の言葉通り宇宙船でどこかの星へと旅立ったというのが適切な表現なのかもしれない。
どうしたものかと悠介が頭を悩ませていた時のことだ。
「あのお方たちはこうも命じられた。我々の土地へと立ち入る者には死の制裁を与えよ、と」
男たちは小さなカプセルを取り出したかと思うと、自分たちの姿を恐ろしい化け物へと変えていった。
姿を変える前に彼らは『土地』と明言したので悠介と麗俐が提示したどちらの説が正しいのかは分からない。
だが、どちらの考えが正しいにしろ、彼らが自分たちにとっての敵であることには変わらない。
麗俐と悠介は互いにビームソードを構えて襲撃に備えていった。
左方面の男は自身の姿を二本足で歩く大きな口を持つワニへと姿を変えた。凶悪な顔を模したヘルメットからは鋭い牙が光っているように思えた。
ヘルメットに備え付けられているのか、なかなか本格的である。
中央の男は真っ白な蛇へと姿を変えた。いや、正確に言えば蛇の形をしたアーマーを身に纏っていった方が正確であるかもしれない。凶悪なコブラを思わせるようなヘルメットに蛇の硬い殻を思わせるようなボディが見えた。
通常の蛇であれば胴体に紺色を帯びてなどいないし、腰にレーザーブレードを下げているようなこともあり得ない。
レーザーブレードといっても修也たちが使うビームソードとは異なり、100年以上前までは現役であったとされる刃物状の剣のように鋭く尖っていた。
最後の男はキラキラ怪しげな光を放ちながら発光する全身タイツのような姿をしていた。顔にはモダンアートの絵画で見られる肖像画のように崩れたような顔に2本の白い腕がくっ付いた不気味なヘルメットを被っている。腰にはレーザーガンが下がっているので武器に関しても問題はないだろう。
一見すると頑丈であるのはヘルメットだけであるというような印象を受けそうだが、男のアーマーは単に薄く作られているだけであるようだ。立派にアーマーとして機能することは男が自らの体に向かって手にしていたレーザーガンを放つことで証明されたのである。
強力なパワードスーツに強力なアンドロイドという最強にして最悪の組み合わせに加え、狭い洞窟の中という最悪の地形。麗俐にとっても悠介にとっても不利な環境であるのは間違いない。
それらの要因に加えて麗俐は先ほどの怪物との戦闘による疲労も残っている。
2人がヘルメットの下でギリギリと歯を噛んでいた時のことだ。突然ミシッと小さく、それでも狭い場所の中で響いていくのには十分な音が聞こえた。
麗俐と悠介は元より、例のアンドロイドたちも音がした方向に目を向けた。
全員の視線が注がれていく中で卵からは例の不気味な怪物たちが飛び出してきた。
とはいってもあの怪物たちとは異なり、ワーム状の小さな姿で殻を食い破って現れたのである。
卵から姿を現した怪物たちは産まれてきた勢いのまま麗俐と悠介のみならず敵であるはずのアンロドロイドたちにも襲い掛かっていったのである。
予想外の出来事にヘルメットの下で思わず面食らったような顔を浮かべる2人であったが、逃げるのならば今しかないように思える。
結局麗俐たちは来た道を引き返し、命からがら逃げ去る羽目になったのだ。
小さな宇宙生物の対応に思ったよりも手間を取ったのか、森の外に置いていたホバークラフトに乗るまでの間彼らが追ってくるようなことはなかった。
麗俐たちはホバークラフトを飛ばし、敗残の兵として逃げ帰る羽目になったのである。しかしただ単に負けたわけではない。自然があることや凶悪な生物がいる洞窟、そして制作者不明のアンドロイドのことを知れたのである。
スコーピオン号に這々の体で戻り、シャワーと栄養カプセルで体を整えた後に、インスタントのコーヒーを片手に一連の出来事を伝えた。
「なるほど、そんなことが……」
修也は感心したように言った。
「うん、明日また行ってみない? お父さんが一緒に来れば三対三になるから今日みたいな結果にはならないと思うよ」
「……どうでしょうね」
背後からは難しそうな顔を浮かべたカエデの姿が見えた。カエデは難しそうに唸った後で言った。
「その方々とあなたたちは直接拳を交えたわけではないのでしょう? ならば強さというのは未知数ということになります。勝てない敵に立ち向かうよりも別の道を模索してみてはいかがです?」
カエデの提案は冷静に一連の出来事を見ているからこそ出たものであろう。
だが、命懸けで手に入れた成果を水の泡にするような言論を悠介は聞き流すことができなかったようだ。
納得がいかないと言わんばかりの鋭い目でカエデを睨み続けていた。
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