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漂流する惑星『サ・ザ・ランド』
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コーヒーを片手に持ちながら今後の見通しを検討するための会議が開かれた。が、進み具合はといえばバブル崩壊後において対策を打ち出せなかった日本企業のように停滞するばかりだった。
誰かが意見を出しは誰かに否定されるという虚しい言葉の投げ合いが続いていった。時間も随分と過ぎたように感じる。手元にあるコーヒーがすっかりと冷め切っている姿は未知の惑星において見習ってはならない日本企業の姿が再現されたといってもいいだろう。
しかし誰もコーヒーに手をつけてはいない。うんうんと唸り声を上げて腕を組むばかりである。
修也はどこか圧迫したような空気に耐え切れなくなったのか、椅子の上から立ち上がっていった。
「大津さん、どこへ行かれるんですか?」
「みなさん少しお菓子でも食べませんか? 実は皇帝陛下からいただいたお菓子が残っているんですよ」
この場合『皇帝から下賜されたお菓子』という表現は正確には当てはまらない。正確にいえば『皇帝から下賜された大金で買ったお菓子』と表現した方が正しいだろう。
これは惑星ボーガーのみならず地球における中国史でも同じなのだが、皇帝は冊封体制と呼ばれる自身の国に貢ぎ物を贈る国の使者たちに下賜金と呼ばれる金を与えるのだ。この下賜金を使って使者たちは帰りに皇帝のお膝元で買い物をして帰るのだ。これらの金は本国の中で使い切らねばならぬという暗黙のルールが存在しており、大抵の使者たちは皇帝のお膝元で下賜金を使い果たすということがそれだった。
修也たちの下賜金は本来であれば宇宙から来たということで与えられないはずであったのだが、逆臣たる董仲達とその一味の野望を打ち砕いた功績から特別に与えられることになったのだ。
それでも船の中に持ち帰られたその金は特別ボーナスと見做されて使用を許可された。ジョウジやカエデは文化保存や研究といった文化的な目的で本を買ったのだが、修也たちは世俗的な目的から菓子や雑貨などのインテリア用品を購入していた。皇帝のお膝元で購入した菓子や雑貨を家で自分たちを待つひろみへの土産にするつもりだったのだ。
土産のために購入したはずの品が今では自分たちにとっての緊張をほぐすための道具になるとは修也にとっては思いもしないことであった。
土産に購入した長方形の形をしたドライケーキを取り出し、机の上に並べていく。もちろん地球で売られている菓子類とは異なり、パックなどには入っていない。竹で作られた仕切りをつけられて箱の中に並べられるだけだったのだが、腐ってはいない。あまり時間が経過していないということも大きかったが、長期間の保存を見越して作られた菓子であったのが大きかった。
地味な菓子であったが、彩りを加えるのには十分過ぎた。
そのお陰か先ほどよりも意見が活発に論じられているように思える。
『会議は踊る。されど進まず』というのはどの時代や状況においても変わらぬものであるらしい。修也が冷め切ったコーヒーでドライケーキを流し込んでいた時のことだ。
「そういえばこの星には誰もいなかったのか?」
と、悠介が不意に何度も否定された言論を口に出した。
「悠介さん、何度も言いましたが、この星には人間はおろか生命反応すら確認できていないんですよ。我々はこの星に囚われた囚人なのです」
「いや、そう早合点するのはアンドロイドの悪い癖じゃないか?」
「なんですって?」
「惑星ボーガーでの出来事を忘れたのか?もしかすれば例のサイなんちゃらの奴らが隠れてオレたちのことを監視しているのかもしれないよ」
「馬鹿馬鹿しい。そんなことがあるわけないでしょう」
ジョウジは悠介の若者というよりかは子どもといえるような考えを一蹴した。
サイコキネシスや超能力を使える星の住民は広大な宇宙といえども限られているはずだ。それにいくら超能力者といえども本人だけであればまだ融通もきくであろうが、星住民全員の姿や気配を消すことはいくらなんでも不可能なはずだ。
すぐに立ち去るのであればともかくスコーピオン号は物資不足のためしばらくの間は名前もわからぬこの未開の惑星に留まらなくてはならないのだ。
そうすればいくら大規模な力を持つ超能力者であったとしても限界がくるはずだ。
悠介が提案した論理はこれで破綻したかのように思えた。
普通であれば、ここで考えを改めて悠介は頑なに超能力者説を唱え続けた。その頑固は加工されたばかりの鉄のようである。
「怖さのせいかな、悠介はあの星で出会った獰猛かつ心強い鷹のことは忘れられないんだよ」
修也はコーヒーを片手に惑星ボーガーで出会った鷹と意思を通わせるお姫様のことを思い返しながら言った。
「懐かしいよね、あの子……確か、紅晶って言ったっけ? 可愛かったなぁ~、それに格好良くもあったよね」
「あぁ、いうのを鷹の女王って言うんだろうな」
修也は冗談めいた笑みを浮かべながら言った。僅かな期間とはいえ行動を共にして悪の野望を打ち砕いたためか、別れ際にはすっかりと修也たちに懐いていたことは覚えている。
「いつか、あの子を地球に招待してあげたいよね」
「そうだな」
「その地球に帰れなくて私たちは困ってるんですよ」
カエデは現在引き起こされている状況をすっかりと忘れ、宇宙船の中で一家団欒の時間を作り出していた2人に釘を刺したのであった。
カエデの一言ですっかりと現実世界へ引き戻された2人は周りのことも忘れ、楽しい時間を過ごしてしまったことに対して罪悪感を感じてしまったのか、意見を出すことも憚られたらしい。椅子の上で両肩を寄せながら気まずそうに視線を泳がせていた。
「ともかく、これ以上は意見が出ないようなのでお開きにしたいと思います」
カエデは少し苛立ちを交えながら言った。カエデの剣幕が恐ろしかったことやこれ以上の進捗が望めないことから会議はこの場でお開きとなってしまった。
悠介はつまらなさそうな顔を浮かべながら部屋へと戻っていった。そして眉間に皺を寄せながらベッドの上へと倒れ込む。腕枕を作りながらなんの変哲もない天井を眺めながら悠介は不満そうに愚痴を吐いた。
「ちくしょう。なんでおれの意見はガキの意見なんだよ。くそッ」
心の底にある理性の部分ではジョウジの意見にも一理があることは確かだと認めていた。
しかし理性から導き出された結論は感情論によって容易に心の奥底へと引き戻されていったのである。
そのため悠介の中ではジョウジに対する不満が昂っていた。ここでもし外に出ることができていれば悠介はその辺を走るなりして憂さを晴らすことができたのだろうが、外は既に暗くなっていた。
水を取りに行った帰りに気が付いたのだが、この星にも太陽の存在が確認できた。地球の太陽とは異なり、地上へと降り注ぐ光の量が少なかったので気が付かなかったのだが、既に小型の太陽は沈み掛けていた。
スコーピオン号と宇宙船との間の距離や地下水を掘り出すのに掛かっていた時間を考慮し、更に帰り際に太陽が沈み掛けていたのを思い出した。会議もコーヒーを飲むのを忘れるほど長い時間をかけて続けていたので今の時間はもう夜中なのだろう。
姉は随分と早い時間に夕食を作ったものだ。悠介は部屋の中で密かに苦笑していた。
それからもう一度目を瞑っていく。ここまでの出来事を忘れるため何か楽しいことでも頭に浮かべていたかったのだが、現在は不安が大きいのか、意識せずとも未知の惑星のことばかりが頭の中に意図しない連想ゲームのように何を絡めても頭に浮かんでいく。
転校する以前に通っていた学校のバスケクラブで開かれた試合へ向かう道のことを思い返すと、空の真上に浮かんでいた真っ赤な太陽を思い浮かんでしまったのがそのいい例だ。自然と太陽から未知の惑星へと話題が逸れていく。未知の惑星に存在する太陽は地球よりも小型であるそうだが、それでも未知の惑星半球を照らすには十分な光だということだったので小さな太陽がまた顔を出すまでは地球でいうところの10時間以上の長い時間が必要となるだろう。その間暗い中を出歩くのは自殺行為だといえた。
完全なる闇が支配する世界では何が待っているのかわからないのだ。
学校の世界史の授業で学んだ西部開拓時代の話ではガンマンと呼ばれる怖いもの知らずの銃使いたちを除く善良な市民たちは外を出歩かなかったということだそうだ。
太陽が照り付けて光を保証してくれる日中とは異なり、手元にあるランタンがなければ一歩先も見えないような暗い世界の外れには、弱者を食いものにする凶悪なならず者や血に飢えたギャングの一党、それに加えて開拓により土地や餌を失い腹を空かせたクリーズリーやコヨーテといった凶悪な肉食動物までがてぐすをひねって待っていたのだ。
たとえ銃を持っていたとしても出歩きたくないのは分かる。今の悠介からすれば開拓民たちにとっての銃はパワードスーツであった。
いくら強力な武器であっても未知の敵が居たとすれば出歩くのを控えたくなるのも当然であった。外に出られないことに対する苛立ちをぶつけられないことに対して足を踏み鳴らしていた時のことだ。
「悠介、いる?」
と、麗俐の声が扉から聞こえてきた。
「あぁ、いるよ」
悠介は不機嫌であったことも手伝い、どこかぶっきらぼうな調子で言葉を返した。
「開けるね」
と、麗俐が扉を開いて入ってきた。
「なんだよ、お姉ちゃん。一応もう夜中だぜ」
「そう言うなって、あたし、すごくいいことを思いついちゃってさ」
「いいこと?」
悠介は怪訝そうな顔を浮かべながら問い掛けた。
「明日の朝、探索に行ってみない?」
悠介は喉から心臓が飛び出るほど驚いた。アンドロイドを虐める残酷な一面は持ち合わせていれどもスポーツに汗を流すよりは涼しいショッピングセンターや学生向けに開かれた喫茶店の中でキラキラとした生活を好む麗俐の口から放たれたとは思えないほどの大胆かつ冒険的な発言であった。
「このまま何もせずに朽ち果てるなんて嫌じゃん。だったらこの星を隅から隅まで探検して脱出の手がかりを見つけたいなと思って」
麗俐のいうことは正論だった。会議の場においても同様の提案をした悠介であったが、予想だにしなかった人物からの提案を受けて面喰らったような顔を浮かべていた。
誰かが意見を出しは誰かに否定されるという虚しい言葉の投げ合いが続いていった。時間も随分と過ぎたように感じる。手元にあるコーヒーがすっかりと冷め切っている姿は未知の惑星において見習ってはならない日本企業の姿が再現されたといってもいいだろう。
しかし誰もコーヒーに手をつけてはいない。うんうんと唸り声を上げて腕を組むばかりである。
修也はどこか圧迫したような空気に耐え切れなくなったのか、椅子の上から立ち上がっていった。
「大津さん、どこへ行かれるんですか?」
「みなさん少しお菓子でも食べませんか? 実は皇帝陛下からいただいたお菓子が残っているんですよ」
この場合『皇帝から下賜されたお菓子』という表現は正確には当てはまらない。正確にいえば『皇帝から下賜された大金で買ったお菓子』と表現した方が正しいだろう。
これは惑星ボーガーのみならず地球における中国史でも同じなのだが、皇帝は冊封体制と呼ばれる自身の国に貢ぎ物を贈る国の使者たちに下賜金と呼ばれる金を与えるのだ。この下賜金を使って使者たちは帰りに皇帝のお膝元で買い物をして帰るのだ。これらの金は本国の中で使い切らねばならぬという暗黙のルールが存在しており、大抵の使者たちは皇帝のお膝元で下賜金を使い果たすということがそれだった。
修也たちの下賜金は本来であれば宇宙から来たということで与えられないはずであったのだが、逆臣たる董仲達とその一味の野望を打ち砕いた功績から特別に与えられることになったのだ。
それでも船の中に持ち帰られたその金は特別ボーナスと見做されて使用を許可された。ジョウジやカエデは文化保存や研究といった文化的な目的で本を買ったのだが、修也たちは世俗的な目的から菓子や雑貨などのインテリア用品を購入していた。皇帝のお膝元で購入した菓子や雑貨を家で自分たちを待つひろみへの土産にするつもりだったのだ。
土産のために購入したはずの品が今では自分たちにとっての緊張をほぐすための道具になるとは修也にとっては思いもしないことであった。
土産に購入した長方形の形をしたドライケーキを取り出し、机の上に並べていく。もちろん地球で売られている菓子類とは異なり、パックなどには入っていない。竹で作られた仕切りをつけられて箱の中に並べられるだけだったのだが、腐ってはいない。あまり時間が経過していないということも大きかったが、長期間の保存を見越して作られた菓子であったのが大きかった。
地味な菓子であったが、彩りを加えるのには十分過ぎた。
そのお陰か先ほどよりも意見が活発に論じられているように思える。
『会議は踊る。されど進まず』というのはどの時代や状況においても変わらぬものであるらしい。修也が冷め切ったコーヒーでドライケーキを流し込んでいた時のことだ。
「そういえばこの星には誰もいなかったのか?」
と、悠介が不意に何度も否定された言論を口に出した。
「悠介さん、何度も言いましたが、この星には人間はおろか生命反応すら確認できていないんですよ。我々はこの星に囚われた囚人なのです」
「いや、そう早合点するのはアンドロイドの悪い癖じゃないか?」
「なんですって?」
「惑星ボーガーでの出来事を忘れたのか?もしかすれば例のサイなんちゃらの奴らが隠れてオレたちのことを監視しているのかもしれないよ」
「馬鹿馬鹿しい。そんなことがあるわけないでしょう」
ジョウジは悠介の若者というよりかは子どもといえるような考えを一蹴した。
サイコキネシスや超能力を使える星の住民は広大な宇宙といえども限られているはずだ。それにいくら超能力者といえども本人だけであればまだ融通もきくであろうが、星住民全員の姿や気配を消すことはいくらなんでも不可能なはずだ。
すぐに立ち去るのであればともかくスコーピオン号は物資不足のためしばらくの間は名前もわからぬこの未開の惑星に留まらなくてはならないのだ。
そうすればいくら大規模な力を持つ超能力者であったとしても限界がくるはずだ。
悠介が提案した論理はこれで破綻したかのように思えた。
普通であれば、ここで考えを改めて悠介は頑なに超能力者説を唱え続けた。その頑固は加工されたばかりの鉄のようである。
「怖さのせいかな、悠介はあの星で出会った獰猛かつ心強い鷹のことは忘れられないんだよ」
修也はコーヒーを片手に惑星ボーガーで出会った鷹と意思を通わせるお姫様のことを思い返しながら言った。
「懐かしいよね、あの子……確か、紅晶って言ったっけ? 可愛かったなぁ~、それに格好良くもあったよね」
「あぁ、いうのを鷹の女王って言うんだろうな」
修也は冗談めいた笑みを浮かべながら言った。僅かな期間とはいえ行動を共にして悪の野望を打ち砕いたためか、別れ際にはすっかりと修也たちに懐いていたことは覚えている。
「いつか、あの子を地球に招待してあげたいよね」
「そうだな」
「その地球に帰れなくて私たちは困ってるんですよ」
カエデは現在引き起こされている状況をすっかりと忘れ、宇宙船の中で一家団欒の時間を作り出していた2人に釘を刺したのであった。
カエデの一言ですっかりと現実世界へ引き戻された2人は周りのことも忘れ、楽しい時間を過ごしてしまったことに対して罪悪感を感じてしまったのか、意見を出すことも憚られたらしい。椅子の上で両肩を寄せながら気まずそうに視線を泳がせていた。
「ともかく、これ以上は意見が出ないようなのでお開きにしたいと思います」
カエデは少し苛立ちを交えながら言った。カエデの剣幕が恐ろしかったことやこれ以上の進捗が望めないことから会議はこの場でお開きとなってしまった。
悠介はつまらなさそうな顔を浮かべながら部屋へと戻っていった。そして眉間に皺を寄せながらベッドの上へと倒れ込む。腕枕を作りながらなんの変哲もない天井を眺めながら悠介は不満そうに愚痴を吐いた。
「ちくしょう。なんでおれの意見はガキの意見なんだよ。くそッ」
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水を取りに行った帰りに気が付いたのだが、この星にも太陽の存在が確認できた。地球の太陽とは異なり、地上へと降り注ぐ光の量が少なかったので気が付かなかったのだが、既に小型の太陽は沈み掛けていた。
スコーピオン号と宇宙船との間の距離や地下水を掘り出すのに掛かっていた時間を考慮し、更に帰り際に太陽が沈み掛けていたのを思い出した。会議もコーヒーを飲むのを忘れるほど長い時間をかけて続けていたので今の時間はもう夜中なのだろう。
姉は随分と早い時間に夕食を作ったものだ。悠介は部屋の中で密かに苦笑していた。
それからもう一度目を瞑っていく。ここまでの出来事を忘れるため何か楽しいことでも頭に浮かべていたかったのだが、現在は不安が大きいのか、意識せずとも未知の惑星のことばかりが頭の中に意図しない連想ゲームのように何を絡めても頭に浮かんでいく。
転校する以前に通っていた学校のバスケクラブで開かれた試合へ向かう道のことを思い返すと、空の真上に浮かんでいた真っ赤な太陽を思い浮かんでしまったのがそのいい例だ。自然と太陽から未知の惑星へと話題が逸れていく。未知の惑星に存在する太陽は地球よりも小型であるそうだが、それでも未知の惑星半球を照らすには十分な光だということだったので小さな太陽がまた顔を出すまでは地球でいうところの10時間以上の長い時間が必要となるだろう。その間暗い中を出歩くのは自殺行為だといえた。
完全なる闇が支配する世界では何が待っているのかわからないのだ。
学校の世界史の授業で学んだ西部開拓時代の話ではガンマンと呼ばれる怖いもの知らずの銃使いたちを除く善良な市民たちは外を出歩かなかったということだそうだ。
太陽が照り付けて光を保証してくれる日中とは異なり、手元にあるランタンがなければ一歩先も見えないような暗い世界の外れには、弱者を食いものにする凶悪なならず者や血に飢えたギャングの一党、それに加えて開拓により土地や餌を失い腹を空かせたクリーズリーやコヨーテといった凶悪な肉食動物までがてぐすをひねって待っていたのだ。
たとえ銃を持っていたとしても出歩きたくないのは分かる。今の悠介からすれば開拓民たちにとっての銃はパワードスーツであった。
いくら強力な武器であっても未知の敵が居たとすれば出歩くのを控えたくなるのも当然であった。外に出られないことに対する苛立ちをぶつけられないことに対して足を踏み鳴らしていた時のことだ。
「悠介、いる?」
と、麗俐の声が扉から聞こえてきた。
「あぁ、いるよ」
悠介は不機嫌であったことも手伝い、どこかぶっきらぼうな調子で言葉を返した。
「開けるね」
と、麗俐が扉を開いて入ってきた。
「なんだよ、お姉ちゃん。一応もう夜中だぜ」
「そう言うなって、あたし、すごくいいことを思いついちゃってさ」
「いいこと?」
悠介は怪訝そうな顔を浮かべながら問い掛けた。
「明日の朝、探索に行ってみない?」
悠介は喉から心臓が飛び出るほど驚いた。アンドロイドを虐める残酷な一面は持ち合わせていれどもスポーツに汗を流すよりは涼しいショッピングセンターや学生向けに開かれた喫茶店の中でキラキラとした生活を好む麗俐の口から放たれたとは思えないほどの大胆かつ冒険的な発言であった。
「このまま何もせずに朽ち果てるなんて嫌じゃん。だったらこの星を隅から隅まで探検して脱出の手がかりを見つけたいなと思って」
麗俐のいうことは正論だった。会議の場においても同様の提案をした悠介であったが、予想だにしなかった人物からの提案を受けて面喰らったような顔を浮かべていた。
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