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人と異形とが争いを繰り広げる惑星『ボーガー』
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朝廷での混乱も収まらぬ中で、修也たちは貿易続行の見返りとして行うことになった紅晶を狙った犯人探しを行うことになっていた。その過程で修也たちが同じ部屋に揃い、持っていくための荷物を纏めていた時のことだ。
突然コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「あの、すいません。少しよろしいでしょうか?」
恐る恐るといった様子で扉に身を隠し、外から声をかけてきたのは紅晶公主だった。彼女は怯えたような目で修也たちを見つめていたものの、決して目を逸らすこともなく上目遣いに見つめていた。
「は、はい。なんでしょうか。公主殿下」
怯えているのは向こうの方であるのに、皇女に話しかけられたという緊張もあってか、ジョウジは声を震わせながら答えた。
「私もあなた方の探索に加わりたいのです」
紅晶はそれまでの上目遣いを改め、きっちりと視線と視線とを合わせながら言った。
「いえいえ、そんなこれは我々の問題ですので、殿下が混じる必要はありませんよ」
ジョウジは優しい口調で紅晶の申し出を突っぱねようとしたのだが、彼女は聞く耳を持たなかった。
その証拠に彼女は勢いよく頭を下げて懇願するように言った。
「どうか……どうかお願い致します! 私の不始末は私自身で片をつけたいのです」
ジョウジはここまでの言葉を仲間たちに翻訳して伝えたのだが、仲間たちは困ったような顔を浮かべるばかりだった。
というのも、彼女はまだ若いし、それに皇女を加えての犯人探しなど例を見ないことだ。
シーレの件はあくまでも例外のようなものである。今後は避けなければならない案件だ。色々なことが錯綜し、容易に収拾がつけられない事態にあったとはいえシーレが一時的に仲間に加わり、修也たちが惑星カメーネの勢力図を変えてしまったことは事実である。
ここで、反論の言葉を付け加えった。カエデによれば惑星カメーネはフランスの大企業が加わっていたとはいえ自分たちが積極的に加わることになったのは確かだが、今回に至っては巻き込まれただけである。
ここで懇願してくる皇女を突っぱね、自分たちだけで向かえば、まだそれだけで完結するはずだ。
少なくとも惑星そのものに危害が加わるようなことはないだろう。
仕事を終え、着実に貿易を終えた後で惑星ボーガーの商品を地球へと持って帰ればいいのだ。
しかし彼女を無碍にするのは申し訳のなさが残る。こちらはいわば感情論だ。感情と客観的視点を秤に掛ければ客観的視点の方へ重点が傾くのは当然であるが、そこはやはり人間。小さな子の意思を突っぱねるのは気の毒だという考えが湧いてきたのだ。
しかも見捨ててしまえば本初が新しく放った刺客の手によって死んでしまうので後味が悪いというような大したものではない。意思を突っぱねたら可哀想だという小規模なものだ。
仲間たちが頭を痛めていた時のことだ。
「ねぇ、あたし思ったんだけど……もしこのままあたしたちがこの子を見捨てたら昨日の超能力者たちに狙われるんじゃないのかな?」
この時の麗俐が発した言葉はその場にいた全員が納得するような説得力を持っていた。全員が首肯し、紅晶を受け入れることにしたのだった。
皇帝のお膝元へと繰り出す修也たちと共に紅晶は市民用の平素な服へと着替えて、犯人探しへと向かっていった。
宇宙から来た人々の饗応役であった孫本初と元丞相である董仲達の両名は刺客として放った文單と顔淵の両名が戻ってこなかったことを悟り、夜のうちへと屋敷に戻ると、そのまま王都を脱出したのであった。
もちろん王都の入り口前には門番がいるが、金を握らせれば通ることは温泉の滝の下を潜るよりも容易なことであった。
大量の財宝と食料を積み、護衛に囲まれた両名はあろうことかこれまで「猿」と見下してきた種族の元へと逃げ込んだのであった。
しかし猿たちにとって両名にとっては迷い込んできた蝶どころか蜘蛛に等しい存在であったに違いない。
両名は本初や仲達、そしてその護衛や使用人たちに向かって槍や矛を構えていった。
「これはこれは随分とご丁寧な挨拶ですな」
仲達は皮肉を込めた言い方で彼らに向かって言った。
「当たり前だろう。お前たちは招かれざる客などという可愛いものではない。帝を害そうとし、公主殿下のお命まで奪おうとするお前らなどは帝の元へと送り返してやる」
友好的な姿勢を見せる仲達とは対照的に猿たちのリーダーは敵意を剥き出しにしながら言った。
「フッ、やはり猿だな。飼い主の言うことには逆らえんと見える」
侮辱を受けたからか、仲達は小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。
「貴様! 長に向かってなんてことをッ!」
『長』というのが彼らのリーダーの正式な名称であるようだ。仲達も本初も初めてその由来を知ったが、別にそんなことは問題ではなかった。
問題はここからである。その後の展開次第では今後の待遇が天とも地とも変わる。
本初も仲達もそんな危険な賭けに自ら臨むほど弁舌に自信などなかった。
代わりに背後から現れたのは獲物を狙う鮫のように鋭い両目の目立つ男だった。男には白髪の目立つ壮年の年齢であったが、歳を感じさせない貫禄というものが備わっていた。
男はゆっくりと頭を下げた後で長を睨みながら言った。
「初めまして、私は沮元結と申します。以後お見知り置きを」
「挨拶は良い。それよりも主人と共にこれから帝都へ送り返されるとはお主も不憫よのぅ。待ち侘びているのは死罪のみであろうというのに」
長の嘲笑めいた態度に対して元結は怒りを見せることもなく、あくまでも落ち着いた口調で話を進めていった。
「お言葉ですが、我々は都になど帰るつもりはありませんよ」
「往生際が悪いな。これも運命だとお主も潔く腹を括ったらどうじゃ?」
「腹を括るのは貴方様の方でしょう?」
元結の口元がひらがなで例えるところの「う」の字に唇が歪められていった。同時にそれは氷のような冷たさを含んでおり、目の前にいる長を嘲笑うかのようであった。
元結の人を食ったような態度を見て長は怒りに押されたらしい。ブルブルと拳を震わせたと思うと、周囲に響き渡るような大きな声で元結を怒鳴り付けた。
「何がおかしいッ!」
長の閻魔大王が地獄にいる亡者を怒鳴り付けんばかりの声を聞いて周りの猿たちは震え上がるような態度を見せていた。
だが、元結は引かなかった。周りの空気が静まり返ろうと、それまで鳴いていた虫たちが声を止めようとも冷笑を携えながら長を見つめていた。
そればかりか、
「話はそれで終わりですかな?」
と、小馬鹿にしたように言った。
その姿を見た長は悟ったのだろう。元結の人を食ったような態度を見てこの男には言葉が通じないのだ、と。
この時の長の心境を表す諺として日本には『糠に釘』だとか『暖簾に腕押し』という言葉があるが、当然ながら長は日本の事など知らないので知りようがなかった。それ故に適切な慣用句が思い浮かばなかったといってもいい。
元結は長が言葉に詰まっていることを悟り、更なる反撃を試みた。
「長、あなたは一族の主人としてまた、種族を束ねる者としては相応しくないように思える」
「どういうことじゃ!?」
「一つはあなたがあまりにも人間に媚を売っていること、二つはあなたの態度があまりにも軟弱すぎるということだ。仲間が殺されているにも関わらず、せっかく王都に来たにも関わらず、皇帝を殺しもせず、頭を下げるなどまるで家畜ではないか」
元結が何気なさそうに発した言葉を聞いて猿たちに動揺が走っていく。もちろん中には純粋に自分の長を侮辱されて怒り、拳を上げる者もいたのだが、中には否定しきれない人物がいたのも事実である。
あの時は全員が長の決定に従ったものの、納得がいかない部分があったのも事実である。今この瞬間に猿たちの勢力は元結の手によって分断へ追い込まれたといってもいい。
親人間派と反人間派の両派へ、と。
ただし、この時点ではまだ無意識のうちである。猿たちが葛藤を行なっていた時のことだ。
「諸君らに問う!! 我々は皇帝に逆らった身である! それ故に追われる立場にあることは同じだ! だが、私には考えがある! それは諸君らと同盟を結び、皇帝の首を奪うことで諸君らの帝国を築き上げることだッ!」
元結の発した『帝国』という言葉に猿たちの胸が躍っていく。『東の中でも最大の力を持つ帝国を打ち倒し、その上で自分たちの国を持てる』という劇薬は理性を吹き飛ばすには十分だった。
「そのためには今ここで皇帝に媚びへつらう長を打ち倒さねばならない! そうしなくては我々はいつまで経っても背後の敵に短剣を突き付けられ、世界最大の帝国を築くことなど不可能となるのだッ!」
元結はここでハッキリと敵の存在を明示した。これによって無意識のうちにあった分断が意識の外へと現れたといってもいい。
元結によって扇動され、凶悪な怪物と化した猿たちは矛や槍を握り締めて、それを自分たちの長や自分たちに同意を示さなかった仲間たちへと憎悪を向けていった。
たった一度の演説が猿たちの世界を大きく変えてしまったといっても過言ではなかった。
元結が演説を起こすまでは心の底からとは言わずともリーダーとして敬意を示し、慕っていた長やその仲間たちに向かって簡単に武器を突き付けていったのだ。
それを見た元初は愚かな猿たちを見て小馬鹿にしたような笑みを浮かべつつも、心配になったことがあって密かに元結へと小声で耳打ちを行う。
「よいのか、今後のためとはいえ猿どもに皇帝の地位を約束するなど」
「なぁに心配はいりませぬよ、閣下。たとえこの謀反が上手くいったとしてもです。猿どもに人間の政が務まるはずもありませぬ。我々が裏からそれを操ればいいだけの話です」
「なるほど、流石は我が参謀よ。頭の切れというのはワシよりも鋭いようじゃ」
「恐れ入りまする。閣下」
元結はしてやったりとばかりの笑みを浮かべながら頭を下げた。
突然コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「あの、すいません。少しよろしいでしょうか?」
恐る恐るといった様子で扉に身を隠し、外から声をかけてきたのは紅晶公主だった。彼女は怯えたような目で修也たちを見つめていたものの、決して目を逸らすこともなく上目遣いに見つめていた。
「は、はい。なんでしょうか。公主殿下」
怯えているのは向こうの方であるのに、皇女に話しかけられたという緊張もあってか、ジョウジは声を震わせながら答えた。
「私もあなた方の探索に加わりたいのです」
紅晶はそれまでの上目遣いを改め、きっちりと視線と視線とを合わせながら言った。
「いえいえ、そんなこれは我々の問題ですので、殿下が混じる必要はありませんよ」
ジョウジは優しい口調で紅晶の申し出を突っぱねようとしたのだが、彼女は聞く耳を持たなかった。
その証拠に彼女は勢いよく頭を下げて懇願するように言った。
「どうか……どうかお願い致します! 私の不始末は私自身で片をつけたいのです」
ジョウジはここまでの言葉を仲間たちに翻訳して伝えたのだが、仲間たちは困ったような顔を浮かべるばかりだった。
というのも、彼女はまだ若いし、それに皇女を加えての犯人探しなど例を見ないことだ。
シーレの件はあくまでも例外のようなものである。今後は避けなければならない案件だ。色々なことが錯綜し、容易に収拾がつけられない事態にあったとはいえシーレが一時的に仲間に加わり、修也たちが惑星カメーネの勢力図を変えてしまったことは事実である。
ここで、反論の言葉を付け加えった。カエデによれば惑星カメーネはフランスの大企業が加わっていたとはいえ自分たちが積極的に加わることになったのは確かだが、今回に至っては巻き込まれただけである。
ここで懇願してくる皇女を突っぱね、自分たちだけで向かえば、まだそれだけで完結するはずだ。
少なくとも惑星そのものに危害が加わるようなことはないだろう。
仕事を終え、着実に貿易を終えた後で惑星ボーガーの商品を地球へと持って帰ればいいのだ。
しかし彼女を無碍にするのは申し訳のなさが残る。こちらはいわば感情論だ。感情と客観的視点を秤に掛ければ客観的視点の方へ重点が傾くのは当然であるが、そこはやはり人間。小さな子の意思を突っぱねるのは気の毒だという考えが湧いてきたのだ。
しかも見捨ててしまえば本初が新しく放った刺客の手によって死んでしまうので後味が悪いというような大したものではない。意思を突っぱねたら可哀想だという小規模なものだ。
仲間たちが頭を痛めていた時のことだ。
「ねぇ、あたし思ったんだけど……もしこのままあたしたちがこの子を見捨てたら昨日の超能力者たちに狙われるんじゃないのかな?」
この時の麗俐が発した言葉はその場にいた全員が納得するような説得力を持っていた。全員が首肯し、紅晶を受け入れることにしたのだった。
皇帝のお膝元へと繰り出す修也たちと共に紅晶は市民用の平素な服へと着替えて、犯人探しへと向かっていった。
宇宙から来た人々の饗応役であった孫本初と元丞相である董仲達の両名は刺客として放った文單と顔淵の両名が戻ってこなかったことを悟り、夜のうちへと屋敷に戻ると、そのまま王都を脱出したのであった。
もちろん王都の入り口前には門番がいるが、金を握らせれば通ることは温泉の滝の下を潜るよりも容易なことであった。
大量の財宝と食料を積み、護衛に囲まれた両名はあろうことかこれまで「猿」と見下してきた種族の元へと逃げ込んだのであった。
しかし猿たちにとって両名にとっては迷い込んできた蝶どころか蜘蛛に等しい存在であったに違いない。
両名は本初や仲達、そしてその護衛や使用人たちに向かって槍や矛を構えていった。
「これはこれは随分とご丁寧な挨拶ですな」
仲達は皮肉を込めた言い方で彼らに向かって言った。
「当たり前だろう。お前たちは招かれざる客などという可愛いものではない。帝を害そうとし、公主殿下のお命まで奪おうとするお前らなどは帝の元へと送り返してやる」
友好的な姿勢を見せる仲達とは対照的に猿たちのリーダーは敵意を剥き出しにしながら言った。
「フッ、やはり猿だな。飼い主の言うことには逆らえんと見える」
侮辱を受けたからか、仲達は小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。
「貴様! 長に向かってなんてことをッ!」
『長』というのが彼らのリーダーの正式な名称であるようだ。仲達も本初も初めてその由来を知ったが、別にそんなことは問題ではなかった。
問題はここからである。その後の展開次第では今後の待遇が天とも地とも変わる。
本初も仲達もそんな危険な賭けに自ら臨むほど弁舌に自信などなかった。
代わりに背後から現れたのは獲物を狙う鮫のように鋭い両目の目立つ男だった。男には白髪の目立つ壮年の年齢であったが、歳を感じさせない貫禄というものが備わっていた。
男はゆっくりと頭を下げた後で長を睨みながら言った。
「初めまして、私は沮元結と申します。以後お見知り置きを」
「挨拶は良い。それよりも主人と共にこれから帝都へ送り返されるとはお主も不憫よのぅ。待ち侘びているのは死罪のみであろうというのに」
長の嘲笑めいた態度に対して元結は怒りを見せることもなく、あくまでも落ち着いた口調で話を進めていった。
「お言葉ですが、我々は都になど帰るつもりはありませんよ」
「往生際が悪いな。これも運命だとお主も潔く腹を括ったらどうじゃ?」
「腹を括るのは貴方様の方でしょう?」
元結の口元がひらがなで例えるところの「う」の字に唇が歪められていった。同時にそれは氷のような冷たさを含んでおり、目の前にいる長を嘲笑うかのようであった。
元結の人を食ったような態度を見て長は怒りに押されたらしい。ブルブルと拳を震わせたと思うと、周囲に響き渡るような大きな声で元結を怒鳴り付けた。
「何がおかしいッ!」
長の閻魔大王が地獄にいる亡者を怒鳴り付けんばかりの声を聞いて周りの猿たちは震え上がるような態度を見せていた。
だが、元結は引かなかった。周りの空気が静まり返ろうと、それまで鳴いていた虫たちが声を止めようとも冷笑を携えながら長を見つめていた。
そればかりか、
「話はそれで終わりですかな?」
と、小馬鹿にしたように言った。
その姿を見た長は悟ったのだろう。元結の人を食ったような態度を見てこの男には言葉が通じないのだ、と。
この時の長の心境を表す諺として日本には『糠に釘』だとか『暖簾に腕押し』という言葉があるが、当然ながら長は日本の事など知らないので知りようがなかった。それ故に適切な慣用句が思い浮かばなかったといってもいい。
元結は長が言葉に詰まっていることを悟り、更なる反撃を試みた。
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「どういうことじゃ!?」
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元結が何気なさそうに発した言葉を聞いて猿たちに動揺が走っていく。もちろん中には純粋に自分の長を侮辱されて怒り、拳を上げる者もいたのだが、中には否定しきれない人物がいたのも事実である。
あの時は全員が長の決定に従ったものの、納得がいかない部分があったのも事実である。今この瞬間に猿たちの勢力は元結の手によって分断へ追い込まれたといってもいい。
親人間派と反人間派の両派へ、と。
ただし、この時点ではまだ無意識のうちである。猿たちが葛藤を行なっていた時のことだ。
「諸君らに問う!! 我々は皇帝に逆らった身である! それ故に追われる立場にあることは同じだ! だが、私には考えがある! それは諸君らと同盟を結び、皇帝の首を奪うことで諸君らの帝国を築き上げることだッ!」
元結の発した『帝国』という言葉に猿たちの胸が躍っていく。『東の中でも最大の力を持つ帝国を打ち倒し、その上で自分たちの国を持てる』という劇薬は理性を吹き飛ばすには十分だった。
「そのためには今ここで皇帝に媚びへつらう長を打ち倒さねばならない! そうしなくては我々はいつまで経っても背後の敵に短剣を突き付けられ、世界最大の帝国を築くことなど不可能となるのだッ!」
元結はここでハッキリと敵の存在を明示した。これによって無意識のうちにあった分断が意識の外へと現れたといってもいい。
元結によって扇動され、凶悪な怪物と化した猿たちは矛や槍を握り締めて、それを自分たちの長や自分たちに同意を示さなかった仲間たちへと憎悪を向けていった。
たった一度の演説が猿たちの世界を大きく変えてしまったといっても過言ではなかった。
元結が演説を起こすまでは心の底からとは言わずともリーダーとして敬意を示し、慕っていた長やその仲間たちに向かって簡単に武器を突き付けていったのだ。
それを見た元初は愚かな猿たちを見て小馬鹿にしたような笑みを浮かべつつも、心配になったことがあって密かに元結へと小声で耳打ちを行う。
「よいのか、今後のためとはいえ猿どもに皇帝の地位を約束するなど」
「なぁに心配はいりませぬよ、閣下。たとえこの謀反が上手くいったとしてもです。猿どもに人間の政が務まるはずもありませぬ。我々が裏からそれを操ればいいだけの話です」
「なるほど、流石は我が参謀よ。頭の切れというのはワシよりも鋭いようじゃ」
「恐れ入りまする。閣下」
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