149 / 190
人と異形とが争いを繰り広げる惑星『ボーガー』
8
しおりを挟む
すっきりとは言わずとも一応は疑念が解けたからだろうか、皇帝はジョウジと修也から目を離すと、フンと鼻を鳴らしてから紅晶の目を見つめる。
「紅晶、この化け物どもを神聖にして不可侵なる朝廷の内裏へと招き入れたのはお前か?」
「恐れながら、ち……帝に申し上げます。ここで今我々と猿類との仲をこじれさせるようなことがございましたら不利になるのはこちらでございます。近年では大蛇国や羊頭国との諍いも抱えておりまするゆえにここで猿類の方々との揉め事も含むことがございましたら我が国は万が一に軍を動かした時に背後を突かれる形となってしまいます」
紅晶は『父上』と言いかけて『帝』と改まった言い方を行ったのはたとえ門の前であったとしても異国からの使者の前ということもあって改まった言い方となったのだろう。
真剣な表情で父親を見つめる姿からは公主としての威厳というものを感じさせられた。
「だからと言って獣を内裏にあげるなど……貴様はそれでも皇帝の娘かッ!」
皇帝は己の感情の昂りのまま、それを制御することもせずに強い力を込めた平手打ちを紅晶の雪のように白い肌に向かって飛ばしていく。本人たちが居る前で堂々と『獣』などという蔑称を使っていることから理性が働いていないことが容易に察せられた。
紅晶は父親からの感情のままに溢れ出た張り手を喰らった衝撃によって背後へと弾き飛ばされ、地面の上へと倒れそうになった。それを助けたのは他ならぬ修也だった。
修也は慌てて紅晶の元へと向かうと、彼女の体を背後から優しく抱き抱えていった。
修也は心配そうに眉尻を下げて紅晶を覗き込んでいた。紅晶は皇帝の娘である自身の体に触れるという無礼を働いたにも関わらず、修也に対して怒りをぶつけるようなことはしなかった。
それどころか、公主に相応しい慈悲深く、優しい微笑みを浮かべて礼の言葉を口にした。
娘と異星からやってきたという見知らぬ国の中年男性が和かな様子で交流していく姿は皇帝の心のうちに少なからぬ不快感を与えたものの、今はそんな小さなことに関わっている場合ではない。
皇帝は眉を顰めながら本命の相手となる猿の軍団たちへと目を向けた。
「さて、お主が猿どもの親玉だな? 白状せぇ、どんな目的があって我が内裏へと足を踏み入れようとするのじゃ」
「ハッ、恐れながら帝に申し上げまする。昨日に我が領土にて仲間の一人が帝の治められるこの国の人間に殺されました。我が方でも探索致しましたところ、この国に逃げたことが判明致しました。その人間を我が方に引き渡していただきとうございまする」
皇帝の失礼な発言や無礼な態度にもリーダーは眉一つ顰めることもせずに自身の理由を落ち着いた丁寧な口調で話していった。
「バカめッ!」
と、丁寧に頭を下げて臣下の礼さえ尽くそうとする猿の軍団長に対して皇帝はその頭上から怒鳴り声を浴びせたかと思うと、喚くように言った。
「畏れ多くも天帝よりの勅令を受けて地を収める皇帝の領土がどれだけ広いのかを知らぬのか?外見も猿じゃと思うておったが、頭の中身も猿であるようじゃな!」
「恐れながら……我が方で我が身内を弑し奉り、帝のお膝元へと逃げた卑劣な男の正体はすでに我が方にて人相は判明しております。そのため数日の間だけでよろしゅうございます。下宿人を我々に探すための時間をお与えいただけないでしょうか?」
リーダー格はもう一度深く頭を下げたかと思うと、今度は両方の双眸を大きく見開き、青白い光を宿した瞳で皇帝を睨み付けながら言った。
「もし、帝が我らの言上を聞き届けいただけぬ時には我らとしても覚悟がございますことをお忘れないようにお願い致しまする」
リーダー格の男はそう言うと、そのまま腰に下げていた剣の塚に手を掛けた。そして、それに続くように背後に控えていた猿たちも矛や槍といった武器に手を掛けていく。全員が頭を下げながらも殺気と圧力の両方を帯びて要求を起こそうとする姿からは全員の体格が倍になったような錯覚さえ集まった人々に感じさせた。
もしこの場にいたのが単なる兵士であれば猿たちの剣幕に怯えて足を下がらせていたに違いない。
猿たちにとって不運であったのはこの時、皇帝の護衛として列席していたのは武勇に名高い奉天将軍だったことだろう。
奉天将軍は皇帝を背後へ下がらせた後で手に持っていた戟を握り締めた後で猿たちにその先端を突き付けていく。
今の状況は指して言えば火薬の充満した火薬庫だった。小さな火だけで火薬庫はおろか辺り一面を吹き飛ばしかねないような状況となってしまったといってもいい。
早く充満した火薬を外に追い出して倉庫は粉々になってしまうだろう。ジョウジがそんな比喩を頭の片隅で考えながら固唾を飲んで触発状態の両者を見つめていた時のことだ。
それまで貝のように重く口を閉ざしていた紅晶が突然修也を振り切ったかと思うと、奉天将軍の前に両手と両足を伸ばして立ち塞がった。
「殿下、おどきくださいませ」
奉天将軍は戟を握り締め、声を震わせながら紅晶に向かって言った。
その問い掛けに対して紅晶は勇敢にも首を激しく横に振った後に大きく両目を見開きながら叫ぶように言った。
「退きません! 私は公主としてこの国を守る義務があります! 奉天将軍、もしあなたが私の背後にいる方々にその戟を喰らわせるというのであればその戟で私を突き殺してからにしてくださいませ!」
「なっ……」
流石の英雄も紅晶の命をかけた請願の前にはたじろいだようだ。戟を握る両手がプルプルと震えているのが見えた。
相手が皇帝の娘であるのに加えて、自分を慕ってくれる相手だ。
躊躇いが見えるのは当然であるといえるだろう。
皇帝はいつまで経っても行動を起こさない奉天に対して苛立ったに違いなかった。地団駄を踏みながら背後から大きな声で指示を投げ掛けた。
「何をしておる! はよう突き殺せ! そなた、それでも蛮勇に名高い黄奉天かッ!」
「し、しかし目の前におられるのは公主殿下でございます」
奉天の声は意識か、無意識かのうちに声が上ずっていた。
「構わぬ! 朕が許すッ! 公主は我が国を裏切り、猿どもを庇おうとしておるのだッ!」
皇帝からの命令は奉天を絶望の淵へと叩き落とすのに十分であったといえるだろう。戟を引っ込め、戟を地面の上に落としたかと思うと、地面の上に両手と両膝をついて嗚咽を上げた。奉天の口から喉から出てくる慟哭を聞いてジョウジはいっても経ってもいられなくなった。
彼自身は皇帝と公主の板挟みに苦しみ、どうしようもないところにまで追い込まれてしまい、結果として現実から逃げる以外の選択肢を取る以外になくなったのだろう。
丸まった背中に哀愁というものが漂っている。
色々な思いが錯綜した末に修也にこれまでの出来事を翻訳して伝えるという大胆な選択肢へと打って出た。
ジョウジからの言葉を聞いた修也は無意識のうちに紅晶の元へと向かい、彼女の横に立つと、カプセルを握り締めてスイッチを押し、自身の体を『メトロイドスーツ』を纏わせていく。
異形の鎧へと身を包んだその姿にジョウジを除いた周りの人々は動揺を隠せなかったようだ。
特に皇帝はすっかりと怯え切った様子で、地面の上で未だに呻めき声を上げている奉天の肩を必死で揺さぶり、異形の姿へと変わった修也を指差しながら叫んだ。
「早くしろッ! 朕の命が奪われてもよいのか!?」
だが、命令が下されたのにも関わらず、奉天は微動だにしなかった。相変わらず視線を地面へと向けて目も合わせようとしない。
皇帝が拳を握り締め、顔を林檎のように赤く染め上げていた時のことだ。ここでジョウジが皇帝の前に現れて膝をついて頭を下げながら懇願の言葉を口に出していった。
「恐れながら帝……この者たちに害はありませぬ。内裏に滞在する意思もないということでございますので、ここは数日間の滞在を許し、下手人の引き渡しに協力することで帝のご慈悲と御威光を蛮族どもにも指し示すよい機会となるのではございませんか?」
ジョウジの言葉に皇帝はすっかりと自尊心を燻られたらしい。満足そうに首を縦に動かしてジョウジの言葉を受け入れる旨を伝えた。
ようやく皇帝が数日間の探索と下手人探しに同意したことによって火薬庫に充満していた火薬がようやく外へと流れたのだった。
その場で猿たちは膝を突いて皇帝に感謝の言葉を捧げていく。
それと同時に門を離れてお膝元の郊外に天幕を張るために戻っていくのが見えた。
猿たちが去っていくのを見届けた後で皇帝は疲れ切った様子で奉天に向かって言った。
「……あの者どもに協力者として治安維持庁から役人を一人派遣してやれ」
「畏まりました。後ほど、みなさま方へそうお伝えさせていただこうと思います」
奉天は先ほどまで見せていた弱った様子はどこへいったのかと思うほどの冷静な態度で皇帝の指示を受けていた。
なぜ、将軍でしかない彼が皇帝からの命令を聞いているのかという問い掛けに対しては2つの回答が用意できた。一つは彼が将軍であるのと同時に皇帝の側用人役も務めているというもの、二つ目は今は奉天しかないので止むを得ず、彼に命令を下しているというものだ。
ジョウジの考えのうち正しいのかは分からない。そもそもジョウジにとっては誰がどのような役目を担っているのかはどうでもいいことだった。
それはともかく、治安維持庁なる部署から役人が猿たちの元へ派遣されるということなので、おそらくは捜査協力役兼見張り役として派遣されるのだろう。
話が一段落したことを察し、肩の力を抜いていた時のことだ。
修也が地面の上に尻餅をついて溜息を吐いているのが見えた。
緊張の糸が切れて彼も一段落しているに違いなかった。どうも立ち上がれそうにない修也の肩を引き摺ってジョウジは皇帝から与えられた部屋へと戻ることに決めた。
「紅晶、この化け物どもを神聖にして不可侵なる朝廷の内裏へと招き入れたのはお前か?」
「恐れながら、ち……帝に申し上げます。ここで今我々と猿類との仲をこじれさせるようなことがございましたら不利になるのはこちらでございます。近年では大蛇国や羊頭国との諍いも抱えておりまするゆえにここで猿類の方々との揉め事も含むことがございましたら我が国は万が一に軍を動かした時に背後を突かれる形となってしまいます」
紅晶は『父上』と言いかけて『帝』と改まった言い方を行ったのはたとえ門の前であったとしても異国からの使者の前ということもあって改まった言い方となったのだろう。
真剣な表情で父親を見つめる姿からは公主としての威厳というものを感じさせられた。
「だからと言って獣を内裏にあげるなど……貴様はそれでも皇帝の娘かッ!」
皇帝は己の感情の昂りのまま、それを制御することもせずに強い力を込めた平手打ちを紅晶の雪のように白い肌に向かって飛ばしていく。本人たちが居る前で堂々と『獣』などという蔑称を使っていることから理性が働いていないことが容易に察せられた。
紅晶は父親からの感情のままに溢れ出た張り手を喰らった衝撃によって背後へと弾き飛ばされ、地面の上へと倒れそうになった。それを助けたのは他ならぬ修也だった。
修也は慌てて紅晶の元へと向かうと、彼女の体を背後から優しく抱き抱えていった。
修也は心配そうに眉尻を下げて紅晶を覗き込んでいた。紅晶は皇帝の娘である自身の体に触れるという無礼を働いたにも関わらず、修也に対して怒りをぶつけるようなことはしなかった。
それどころか、公主に相応しい慈悲深く、優しい微笑みを浮かべて礼の言葉を口にした。
娘と異星からやってきたという見知らぬ国の中年男性が和かな様子で交流していく姿は皇帝の心のうちに少なからぬ不快感を与えたものの、今はそんな小さなことに関わっている場合ではない。
皇帝は眉を顰めながら本命の相手となる猿の軍団たちへと目を向けた。
「さて、お主が猿どもの親玉だな? 白状せぇ、どんな目的があって我が内裏へと足を踏み入れようとするのじゃ」
「ハッ、恐れながら帝に申し上げまする。昨日に我が領土にて仲間の一人が帝の治められるこの国の人間に殺されました。我が方でも探索致しましたところ、この国に逃げたことが判明致しました。その人間を我が方に引き渡していただきとうございまする」
皇帝の失礼な発言や無礼な態度にもリーダーは眉一つ顰めることもせずに自身の理由を落ち着いた丁寧な口調で話していった。
「バカめッ!」
と、丁寧に頭を下げて臣下の礼さえ尽くそうとする猿の軍団長に対して皇帝はその頭上から怒鳴り声を浴びせたかと思うと、喚くように言った。
「畏れ多くも天帝よりの勅令を受けて地を収める皇帝の領土がどれだけ広いのかを知らぬのか?外見も猿じゃと思うておったが、頭の中身も猿であるようじゃな!」
「恐れながら……我が方で我が身内を弑し奉り、帝のお膝元へと逃げた卑劣な男の正体はすでに我が方にて人相は判明しております。そのため数日の間だけでよろしゅうございます。下宿人を我々に探すための時間をお与えいただけないでしょうか?」
リーダー格はもう一度深く頭を下げたかと思うと、今度は両方の双眸を大きく見開き、青白い光を宿した瞳で皇帝を睨み付けながら言った。
「もし、帝が我らの言上を聞き届けいただけぬ時には我らとしても覚悟がございますことをお忘れないようにお願い致しまする」
リーダー格の男はそう言うと、そのまま腰に下げていた剣の塚に手を掛けた。そして、それに続くように背後に控えていた猿たちも矛や槍といった武器に手を掛けていく。全員が頭を下げながらも殺気と圧力の両方を帯びて要求を起こそうとする姿からは全員の体格が倍になったような錯覚さえ集まった人々に感じさせた。
もしこの場にいたのが単なる兵士であれば猿たちの剣幕に怯えて足を下がらせていたに違いない。
猿たちにとって不運であったのはこの時、皇帝の護衛として列席していたのは武勇に名高い奉天将軍だったことだろう。
奉天将軍は皇帝を背後へ下がらせた後で手に持っていた戟を握り締めた後で猿たちにその先端を突き付けていく。
今の状況は指して言えば火薬の充満した火薬庫だった。小さな火だけで火薬庫はおろか辺り一面を吹き飛ばしかねないような状況となってしまったといってもいい。
早く充満した火薬を外に追い出して倉庫は粉々になってしまうだろう。ジョウジがそんな比喩を頭の片隅で考えながら固唾を飲んで触発状態の両者を見つめていた時のことだ。
それまで貝のように重く口を閉ざしていた紅晶が突然修也を振り切ったかと思うと、奉天将軍の前に両手と両足を伸ばして立ち塞がった。
「殿下、おどきくださいませ」
奉天将軍は戟を握り締め、声を震わせながら紅晶に向かって言った。
その問い掛けに対して紅晶は勇敢にも首を激しく横に振った後に大きく両目を見開きながら叫ぶように言った。
「退きません! 私は公主としてこの国を守る義務があります! 奉天将軍、もしあなたが私の背後にいる方々にその戟を喰らわせるというのであればその戟で私を突き殺してからにしてくださいませ!」
「なっ……」
流石の英雄も紅晶の命をかけた請願の前にはたじろいだようだ。戟を握る両手がプルプルと震えているのが見えた。
相手が皇帝の娘であるのに加えて、自分を慕ってくれる相手だ。
躊躇いが見えるのは当然であるといえるだろう。
皇帝はいつまで経っても行動を起こさない奉天に対して苛立ったに違いなかった。地団駄を踏みながら背後から大きな声で指示を投げ掛けた。
「何をしておる! はよう突き殺せ! そなた、それでも蛮勇に名高い黄奉天かッ!」
「し、しかし目の前におられるのは公主殿下でございます」
奉天の声は意識か、無意識かのうちに声が上ずっていた。
「構わぬ! 朕が許すッ! 公主は我が国を裏切り、猿どもを庇おうとしておるのだッ!」
皇帝からの命令は奉天を絶望の淵へと叩き落とすのに十分であったといえるだろう。戟を引っ込め、戟を地面の上に落としたかと思うと、地面の上に両手と両膝をついて嗚咽を上げた。奉天の口から喉から出てくる慟哭を聞いてジョウジはいっても経ってもいられなくなった。
彼自身は皇帝と公主の板挟みに苦しみ、どうしようもないところにまで追い込まれてしまい、結果として現実から逃げる以外の選択肢を取る以外になくなったのだろう。
丸まった背中に哀愁というものが漂っている。
色々な思いが錯綜した末に修也にこれまでの出来事を翻訳して伝えるという大胆な選択肢へと打って出た。
ジョウジからの言葉を聞いた修也は無意識のうちに紅晶の元へと向かい、彼女の横に立つと、カプセルを握り締めてスイッチを押し、自身の体を『メトロイドスーツ』を纏わせていく。
異形の鎧へと身を包んだその姿にジョウジを除いた周りの人々は動揺を隠せなかったようだ。
特に皇帝はすっかりと怯え切った様子で、地面の上で未だに呻めき声を上げている奉天の肩を必死で揺さぶり、異形の姿へと変わった修也を指差しながら叫んだ。
「早くしろッ! 朕の命が奪われてもよいのか!?」
だが、命令が下されたのにも関わらず、奉天は微動だにしなかった。相変わらず視線を地面へと向けて目も合わせようとしない。
皇帝が拳を握り締め、顔を林檎のように赤く染め上げていた時のことだ。ここでジョウジが皇帝の前に現れて膝をついて頭を下げながら懇願の言葉を口に出していった。
「恐れながら帝……この者たちに害はありませぬ。内裏に滞在する意思もないということでございますので、ここは数日間の滞在を許し、下手人の引き渡しに協力することで帝のご慈悲と御威光を蛮族どもにも指し示すよい機会となるのではございませんか?」
ジョウジの言葉に皇帝はすっかりと自尊心を燻られたらしい。満足そうに首を縦に動かしてジョウジの言葉を受け入れる旨を伝えた。
ようやく皇帝が数日間の探索と下手人探しに同意したことによって火薬庫に充満していた火薬がようやく外へと流れたのだった。
その場で猿たちは膝を突いて皇帝に感謝の言葉を捧げていく。
それと同時に門を離れてお膝元の郊外に天幕を張るために戻っていくのが見えた。
猿たちが去っていくのを見届けた後で皇帝は疲れ切った様子で奉天に向かって言った。
「……あの者どもに協力者として治安維持庁から役人を一人派遣してやれ」
「畏まりました。後ほど、みなさま方へそうお伝えさせていただこうと思います」
奉天は先ほどまで見せていた弱った様子はどこへいったのかと思うほどの冷静な態度で皇帝の指示を受けていた。
なぜ、将軍でしかない彼が皇帝からの命令を聞いているのかという問い掛けに対しては2つの回答が用意できた。一つは彼が将軍であるのと同時に皇帝の側用人役も務めているというもの、二つ目は今は奉天しかないので止むを得ず、彼に命令を下しているというものだ。
ジョウジの考えのうち正しいのかは分からない。そもそもジョウジにとっては誰がどのような役目を担っているのかはどうでもいいことだった。
それはともかく、治安維持庁なる部署から役人が猿たちの元へ派遣されるということなので、おそらくは捜査協力役兼見張り役として派遣されるのだろう。
話が一段落したことを察し、肩の力を抜いていた時のことだ。
修也が地面の上に尻餅をついて溜息を吐いているのが見えた。
緊張の糸が切れて彼も一段落しているに違いなかった。どうも立ち上がれそうにない修也の肩を引き摺ってジョウジは皇帝から与えられた部屋へと戻ることに決めた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~
渡琉兎
ファンタジー
15歳から20年もの間、王都の門番として勤めていたレインズは、国民性もあって自らのスキル魔獣キラーが忌避され続けた結果――不当解雇されてしまう。
最初は途方にくれたものの、すぐに自分を必要としてくれる人を探すべく国を出る決意をする。
そんな折、移住者を探す一人の女性との出会いがレインズの運命を大きく変える事になったのだった。
相棒の獣魔、SSSランクのデンと共に、レインズは海を渡り第二の故郷を探す旅に出る!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、で掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる