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職人の惑星『ヒッポタス』
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修也は最初は何も出来ない自分をただ悔いていた。自身の不甲斐なさというものに対して、メトロイド社に就職するまでの経緯を含め、とことんまでに嫌気が差していた。いっそこのまま死んでしまいたいと思うほどの心境だった。自分のような役立たずなど生きていてはいけないとさえ思った。
だが、踏み付けられ中で修也の頭は急速に冷えて、冷静な思考が頭の中に張り巡らされていった。頭の中でしばらく考えた後に彼は自身にとってもジョウジにとってもそして、惑星ヒッポタスの人々にとっても最適となる考えを導き出したのだった。
「……わかった。条件を呑もう」
ようやく捻り出した声はどこまでも小さく、耳をすませば聞こえないほどのか細い声だった。
「バカに素直じゃあないか?」
確認のためか、男は修也を足蹴にしながら問い掛けた。
「仕方がない。それでこの場が収まるというのならば安いものだ」
修也の言葉を聞いたジョウジの目に失望の色が見えた。『感情』を身に付けたジョウジならではの反応だと言ってもいいだろう。人間が行うような動作を見せたジョウジを見て男はますます興味深そうにジョウジを見つめていた。
今しかあるまい。修也は先ほど考え抜いた末に思い付いた自身の考えをようやく口に出した。
「……ただ、どうしてもジョウジさんを連れて行くというのならば、もう一つだけお願いを聞いてほしいんだ」
敢えて「条件がある」と口にしなかったのは男が既に自分が出した条件を呑んでいたからだ。
「どうしま?」
「……あの恐ろしい青銅の魔人をもう二度と動かさないと約束してくれ」
修也はか細い声で懇願するかのように言った。それまではどこか修也を見下し、勝ち誇っているような顔を浮かべた男であったが、修也の予想だにしない要求を聞いて驚きを隠しきれなかったようだ。
自身の考えたシナリオの通りになった。もちろんこのままジョウジと引き換えに青銅の魔人を動かさないようにするというためのものではない。
修也は男が取り引きに応じる素振りを見せるのと同時に男の手から青銅の魔人を動かすための装置を奪い取る予定だった。少なくとも男の手からは転がしておく算段でいた。
ただ、問題は男が素直に応じるかどうかだ。頭を踏み付けられた修也がこっそりと男の表情を伺うと、男の顔が迷っているのが見て取れた。
もう少し何か言ってやろう。修也が言葉を出そうとした時のことだ。
「も、もしあなたが本当に映像で見た青銅の魔人を動かさないというのであれば私はあなたの星に行きましょう。生態サンプルにでも何にでもなりましょう」
ジョウジは大きな声で言った。その時のジョウジの声は辺り一面の空気を振動させるほどの大きさだった。
台詞だけを聞けばジョウジは仲間を守るため、或いは外敵の脅威に晒される無垢な人々を守るために己がどうなるのかも構わずに悪へと立ち向かう一昔前の少年漫画に登場する熱血主人公のように見えたに違いない。しかしこの時のジョウジは一文字に結んだ唇の端を噛み、両目を大きく見開いていたのだ。
その上拳もプルプルと震えている。これだけでジョウジが恐怖心に心の内から溢れ出る恐怖心を必死に抑え込みながら叫んでいることが目に見えている。
修也は心の中で謝罪した。最初からジョウジを敵の手に渡すつもりなど微塵もなかったが、その姿を見ると冬の間ベッドの上で寝ている時にウールの毛布からはみ出した毛が腕を突くようにチクチクとした罪悪感による痛みが生じていった。
修也は悔しげな表情を浮かべた。すると、それを見た男は勝ち誇ったような顔を浮かべた。
「いいだろう。お前たちの望み通りあいつらは停止してやる」
男は掌の上に大きな赤いボタンがついた単純な機械を押した。
「これであいつらが動くことはない。さてと、ここからはこいつとオレとの話し合いだ。あんたにはそろそろご退場願おうかな」
「そうだな。だが、その前にその足を私の頭から退けてくれないか? そうしなかったら動こうにも動けないだろ?」
男はもっともだと言わんばかりに修也の頭の上に載せていた足を退け、そのまま修也が地面の上から起き上がるために背後へと下がった時だ。
それまでの弱気が嘘のように修也は地面の上から起き上がり、男に向かって走っていき、そのまま体当たりを行った。男は出掛けに一発喰らわされたということになる。
少なくとも男が怯まざるを得なかったことと衝撃により、それまで手にしていたスイッチを落としてしまったことは本当だった。
修也は地面の上に落ちたスイッチを拾うべく手を伸ばそうとしたが、それよりも前に今度は男が修也に向かって体当たりを繰り出した。
修也は最初に体当たりを仕掛けていたので、これで体当たりをされ返されたということになる。土産ならばともかく絶対に返されたくないものだ。
修也は男からの攻撃を喰らいながら一人で微妙な例えを考えて笑っていた。
だが、男の怒りは凄まじいものであったらしい。男は修也が体当たりでよろめいた後にそのまま腹部に向かって勢いのある拳を喰らわせたのだった。
修也は悲鳴を上げながら地面の上を蹲っていく。意識が薄れようとしている中で修也は考えた。
どうして男は自分のようなパワードスーツを身に付けていないにも関わらず、ここまでの攻撃を行うことができたのだろうか、と。
だが、分からない。修也にはどうして自分の攻撃が効かないのかなど、どうでもよいことを考える余裕がもうなかった。そんなことは今の修也にとってはどうでもいいことだからだ。
今の修也に考えられるのは痛みとそして奪い返されようとするスイッチのことだった。あのスイッチだけは取られてしまってはならない。あのスイッチが取られれば今度こそあの青銅の魔人が復活して惑星ヒッポタスを蹂躙するに決まっているからだ。
ヒッポタス全土があの映像のようになることは避けたい。しかしいくらスイッチが落ちた方向に手を伸ばしても手が届かない。男の方が先にスイッチを奪い返すのは見て取れた。
修也がヘルメットの下で両目を瞑った時だ。不意に真横から赤い熱線が男を襲った。男は熱線が炸裂するよりも前にその場から離れたので難を逃れることができたが、あと少し熱線がズレれば男の体に熱線が直撃したというのは近くの地面の上に亀裂が出来ていることが物語っている。
修也は赤い熱線が飛んだ方向を見つめる。そこにはビームポインターを握り締めたジョウジの姿が見えた。
ジョウジは息を切らしながら男を睨んでいた。男はジョウジを見つめると、標的を修也からジョウジへ変えたらしい。
無言でフレシュットピストルを構えた。
その際の銃口が足に向いていたのはまだジョウジを捕らえようとしていたからだろう。裏切られても目的を果たそうとする根性は天晴れというべきだろう。
修也は『平家物語』で扇を射った那須与一を褒め称えた黒革縅を着た年老いた武者の気持ちだった。
だが、『平家物語』で那須与一を祝って踊り続けた武者のような気持ちは先頭の最中であるということもあって、すぐに吹き飛んだ。
今はジョウジに危害が加えられるよりも先に男を倒さなくてはならないのだ。
修也は助走をつけると、男の元へと向かい、男がフレシュットピストルを向けるよりも先に男の頬を思いっきり殴り付けたのだった。
男は悲鳴を上げて地面の上へと倒れ込んだ。修也はそのままビームソードを抜いて男に向かって勢いよく突き刺していった。
だが、修也の持つビームソードの刃は男の体にぶつかるよりも前に男の前に広がっていた電磁波によって防がれることになった。
「な、なんだと!?」
修也は予想外の出来事に驚嘆することになった。
「大津さん気を付けてください! 恐らく、彼は電磁バリアーを張っています!」
『電磁バリアー』とは電磁波によって作られた防御装置の名称である。もっとも地球ではまだSFの世界の話であるとされ、実用化に向けての取り組みが進められている段階でしかないのだ。
だが、地球よりも文明が進んだ他の星であれば実用化していたとしてもおかしくはない。
「恐らく、この男の周りには電磁波による防御幕が張り巡らされています。そのため一定の物理攻撃が防がれているのでしょう」
「待ってください! ジョウジさん!! 一定のということは……それ以上の攻撃は防ぎ切れないということですか?」
修也はジョウジが口にした『一定の』という単語を強調した。
「えぇ、そうなんです。実際に大津さんが先ほど喰らわせた体当たりは効いたじゃないですか」
ジョウジの言葉は正論だった。確かに全ての攻撃を電磁波の防御壁が防いでいるというのならば修也の攻撃は全て弾かれなければならない。
そうならないということは相手も無敵ではないということだ。修也は拳を強く握りしめた。
修也としてはこのまま男を仕留める算段だった。そのため修也は力を振り絞って男の元へと駆け寄ろうとした時だ。
修也の全身に夥しい量の電流が迸っていく。修也は悲鳴を上げながら地面の上へと倒れ込んだ。
「大津さん!」
近くでジョウジが自分を呼ぶ声が聞こえた。だが、電流を喰らったことによって意識が飛ぼうとしていた修也には関係がないことだった。
修也の望みとしてはこのまま意識を飛ばしまいたかった。
だが、意識を飛ばしてしまえばどうなるのかは分からない。見知らぬ異星人の男によって好き放題されてしまうという恐怖心が芽生えたことによって修也は寸前のところで自身の意識を振り上げたのだった。
だが、踏み付けられ中で修也の頭は急速に冷えて、冷静な思考が頭の中に張り巡らされていった。頭の中でしばらく考えた後に彼は自身にとってもジョウジにとってもそして、惑星ヒッポタスの人々にとっても最適となる考えを導き出したのだった。
「……わかった。条件を呑もう」
ようやく捻り出した声はどこまでも小さく、耳をすませば聞こえないほどのか細い声だった。
「バカに素直じゃあないか?」
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「仕方がない。それでこの場が収まるというのならば安いものだ」
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敢えて「条件がある」と口にしなかったのは男が既に自分が出した条件を呑んでいたからだ。
「どうしま?」
「……あの恐ろしい青銅の魔人をもう二度と動かさないと約束してくれ」
修也はか細い声で懇願するかのように言った。それまではどこか修也を見下し、勝ち誇っているような顔を浮かべた男であったが、修也の予想だにしない要求を聞いて驚きを隠しきれなかったようだ。
自身の考えたシナリオの通りになった。もちろんこのままジョウジと引き換えに青銅の魔人を動かさないようにするというためのものではない。
修也は男が取り引きに応じる素振りを見せるのと同時に男の手から青銅の魔人を動かすための装置を奪い取る予定だった。少なくとも男の手からは転がしておく算段でいた。
ただ、問題は男が素直に応じるかどうかだ。頭を踏み付けられた修也がこっそりと男の表情を伺うと、男の顔が迷っているのが見て取れた。
もう少し何か言ってやろう。修也が言葉を出そうとした時のことだ。
「も、もしあなたが本当に映像で見た青銅の魔人を動かさないというのであれば私はあなたの星に行きましょう。生態サンプルにでも何にでもなりましょう」
ジョウジは大きな声で言った。その時のジョウジの声は辺り一面の空気を振動させるほどの大きさだった。
台詞だけを聞けばジョウジは仲間を守るため、或いは外敵の脅威に晒される無垢な人々を守るために己がどうなるのかも構わずに悪へと立ち向かう一昔前の少年漫画に登場する熱血主人公のように見えたに違いない。しかしこの時のジョウジは一文字に結んだ唇の端を噛み、両目を大きく見開いていたのだ。
その上拳もプルプルと震えている。これだけでジョウジが恐怖心に心の内から溢れ出る恐怖心を必死に抑え込みながら叫んでいることが目に見えている。
修也は心の中で謝罪した。最初からジョウジを敵の手に渡すつもりなど微塵もなかったが、その姿を見ると冬の間ベッドの上で寝ている時にウールの毛布からはみ出した毛が腕を突くようにチクチクとした罪悪感による痛みが生じていった。
修也は悔しげな表情を浮かべた。すると、それを見た男は勝ち誇ったような顔を浮かべた。
「いいだろう。お前たちの望み通りあいつらは停止してやる」
男は掌の上に大きな赤いボタンがついた単純な機械を押した。
「これであいつらが動くことはない。さてと、ここからはこいつとオレとの話し合いだ。あんたにはそろそろご退場願おうかな」
「そうだな。だが、その前にその足を私の頭から退けてくれないか? そうしなかったら動こうにも動けないだろ?」
男はもっともだと言わんばかりに修也の頭の上に載せていた足を退け、そのまま修也が地面の上から起き上がるために背後へと下がった時だ。
それまでの弱気が嘘のように修也は地面の上から起き上がり、男に向かって走っていき、そのまま体当たりを行った。男は出掛けに一発喰らわされたということになる。
少なくとも男が怯まざるを得なかったことと衝撃により、それまで手にしていたスイッチを落としてしまったことは本当だった。
修也は地面の上に落ちたスイッチを拾うべく手を伸ばそうとしたが、それよりも前に今度は男が修也に向かって体当たりを繰り出した。
修也は最初に体当たりを仕掛けていたので、これで体当たりをされ返されたということになる。土産ならばともかく絶対に返されたくないものだ。
修也は男からの攻撃を喰らいながら一人で微妙な例えを考えて笑っていた。
だが、男の怒りは凄まじいものであったらしい。男は修也が体当たりでよろめいた後にそのまま腹部に向かって勢いのある拳を喰らわせたのだった。
修也は悲鳴を上げながら地面の上を蹲っていく。意識が薄れようとしている中で修也は考えた。
どうして男は自分のようなパワードスーツを身に付けていないにも関わらず、ここまでの攻撃を行うことができたのだろうか、と。
だが、分からない。修也にはどうして自分の攻撃が効かないのかなど、どうでもよいことを考える余裕がもうなかった。そんなことは今の修也にとってはどうでもいいことだからだ。
今の修也に考えられるのは痛みとそして奪い返されようとするスイッチのことだった。あのスイッチだけは取られてしまってはならない。あのスイッチが取られれば今度こそあの青銅の魔人が復活して惑星ヒッポタスを蹂躙するに決まっているからだ。
ヒッポタス全土があの映像のようになることは避けたい。しかしいくらスイッチが落ちた方向に手を伸ばしても手が届かない。男の方が先にスイッチを奪い返すのは見て取れた。
修也がヘルメットの下で両目を瞑った時だ。不意に真横から赤い熱線が男を襲った。男は熱線が炸裂するよりも前にその場から離れたので難を逃れることができたが、あと少し熱線がズレれば男の体に熱線が直撃したというのは近くの地面の上に亀裂が出来ていることが物語っている。
修也は赤い熱線が飛んだ方向を見つめる。そこにはビームポインターを握り締めたジョウジの姿が見えた。
ジョウジは息を切らしながら男を睨んでいた。男はジョウジを見つめると、標的を修也からジョウジへ変えたらしい。
無言でフレシュットピストルを構えた。
その際の銃口が足に向いていたのはまだジョウジを捕らえようとしていたからだろう。裏切られても目的を果たそうとする根性は天晴れというべきだろう。
修也は『平家物語』で扇を射った那須与一を褒め称えた黒革縅を着た年老いた武者の気持ちだった。
だが、『平家物語』で那須与一を祝って踊り続けた武者のような気持ちは先頭の最中であるということもあって、すぐに吹き飛んだ。
今はジョウジに危害が加えられるよりも先に男を倒さなくてはならないのだ。
修也は助走をつけると、男の元へと向かい、男がフレシュットピストルを向けるよりも先に男の頬を思いっきり殴り付けたのだった。
男は悲鳴を上げて地面の上へと倒れ込んだ。修也はそのままビームソードを抜いて男に向かって勢いよく突き刺していった。
だが、修也の持つビームソードの刃は男の体にぶつかるよりも前に男の前に広がっていた電磁波によって防がれることになった。
「な、なんだと!?」
修也は予想外の出来事に驚嘆することになった。
「大津さん気を付けてください! 恐らく、彼は電磁バリアーを張っています!」
『電磁バリアー』とは電磁波によって作られた防御装置の名称である。もっとも地球ではまだSFの世界の話であるとされ、実用化に向けての取り組みが進められている段階でしかないのだ。
だが、地球よりも文明が進んだ他の星であれば実用化していたとしてもおかしくはない。
「恐らく、この男の周りには電磁波による防御幕が張り巡らされています。そのため一定の物理攻撃が防がれているのでしょう」
「待ってください! ジョウジさん!! 一定のということは……それ以上の攻撃は防ぎ切れないということですか?」
修也はジョウジが口にした『一定の』という単語を強調した。
「えぇ、そうなんです。実際に大津さんが先ほど喰らわせた体当たりは効いたじゃないですか」
ジョウジの言葉は正論だった。確かに全ての攻撃を電磁波の防御壁が防いでいるというのならば修也の攻撃は全て弾かれなければならない。
そうならないということは相手も無敵ではないということだ。修也は拳を強く握りしめた。
修也としてはこのまま男を仕留める算段だった。そのため修也は力を振り絞って男の元へと駆け寄ろうとした時だ。
修也の全身に夥しい量の電流が迸っていく。修也は悲鳴を上げながら地面の上へと倒れ込んだ。
「大津さん!」
近くでジョウジが自分を呼ぶ声が聞こえた。だが、電流を喰らったことによって意識が飛ぼうとしていた修也には関係がないことだった。
修也の望みとしてはこのまま意識を飛ばしまいたかった。
だが、意識を飛ばしてしまえばどうなるのかは分からない。見知らぬ異星人の男によって好き放題されてしまうという恐怖心が芽生えたことによって修也は寸前のところで自身の意識を振り上げたのだった。
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