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職人の惑星『ヒッポタス』

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「それでわざわざここまで来たんだ」

タラップから降りて二人を出迎えた麗俐は呆れたような口調で言った。

「そうなんだ。悪いが、悠介の代わりに来てくれんか?」

修也は懇願するように言った。父親の哀れな態度を見て麗俐も思うところがあったのか、快くその申し出を承諾した。

留守番にはカエデと悠介の両名が残ることになった。異性であるが、カエデはアンドロイドということなので今更気にする必要はないと彼女自身の口から言い放ったのだった。

それに悠介は惑星カメーネで恋仲となったシーレ第一主義者であるためカエデに手を出すこともない。こうした安心感もあり、麗俐と悠介が入れ替わる形で惑星ヒッポタスにある町の一角へ向かうことになったのだった。
自身の怠慢のため留守番を言い付けられることになった悠介はモニター越しから不服そうに二人を見つめていたものの、自分ではどうにもならないと判断したのか、運転席の上で不貞腐れる羽目になった。

腕枕を作り、その上で眠ろうとする悠介を苛立った様子のカエデが現実世界へと引き戻していった。

「な、何をするんだよ!」

突然夢の世界から現実へと引き戻されることになった悠介は抗議の言葉を上げたが、カエデは無視して説教を始めていった。

「そうやって眠っている暇があったら宿題でもしたらどうですか?」

カエデは交渉の場で自らの感情を優先して、追い出される羽目になった悠介に対してドライな感情を持っていた。
そのため少し辛い言葉になってしまったのである。

「やる気が起きないんですよ」

だが、辛い形で当たるカエデに対しても恐れることなくぶっきらぼうな口調で悠介は言い返した。

「だからって眠って時間を無駄にする必要もないじゃあないですか。起きている間に有意義なことをする方が何倍もいいですよ」

「バスケットボールもないのに?」

「だから、その代わりに宿題をしろと言ってるじゃーー」

カエデが聞く耳を持たない悠介に向かって説教を続けようとした時だ。宇宙船の周囲に異変が起きたことを伝えるサイレンの音が鳴り響いていった。

けたたましいサイレンの音で悠介が運転席の上から降り、慌ててカプセルを握り締めていった。

「ど、どうした!? 何があったんですか!?」

「この周辺に敵が現れたみたいです……」

「敵?」

悠介の質問に対し、カエデは無言でモニターを出してそこ
に映る鎧だけの存在を映し出していった。
ガタガタと重い金属を鳴らして宇宙船の入り口を目指す甲冑たちが所持しているのは剣だった。

太陽の光が反射し、怪しげな色を浮かび上がる鋭利な刃に派手な装飾が施された柄。西洋の中世騎士道物語で見るような剣そのものだ。

本来であればこの剣は『本体』とでも表現するべきだが、この場では分かりやすさを優先させるため敢えて『剣』と表現させていただきたい。

二人がモニター越しにその『剣』たちの数を確認すると、その数はおおよそ二十体ほどだ。

「こいつらがこの星の人間にとっての天敵っつーわけか」

「えぇ、解析したデータによればそう記されています。データによればかなり強いとか」

カエデは淡々とした口調で言い放った。そこに焦りというものが見えないのはアンドロイドであるからだ。

「目的としては偵察ってところか?」

「かもしれません」

と、カエデが同意の言葉を口に出した時のことだ。剣によって宇宙船が傷付けられているのが確認できた。モニター越しから自立型の鎧たちが自身の本体である剣を勢いよく宇宙船の表層部にぶつける音が聞こえてきた。


思わず耳を塞ぎたくなるような凄まじい音であった。それでも黒板を引っ掻くような凄まじい音ではなかったことは不幸中の幸いというべきだろう。

悠介は聴くに耐えない音を両耳を塞ぐごことでよろめきながらもカエデの元を抜け出して迎撃のため外へ向かっていった。タラップを開き、階段を下ろしていく。

幸いなことに弱点は分かっている。剣そのものを倒せばいいのだ。悠介はカプセルを用いて『ゼノン』の装甲を纏った後でレーザーガンを握り締めていった。

レーザー光線で剣を撃ち抜くつもりだった。階段が降り、一段一段をゆっくりと降りていく自身の姿はコロッセオで大衆や貴族たちに囲まれて恐ろし相手と試合を行う剣闘士の心境だった。

悠介は階段が地面に近くなると、飛び降りていき、そのまま挨拶代わりだと言わんばかりに引き金を引いた。

悠介のレーザー光線によって剣の一本が地面の上に転がっていった。悠介は得意げな顔を浮かべながら西部劇に登場するガンマンのように人差し指を使ってレーザーガンを回し、白い煙が出ていないにも関わらず、フッと息を吐きかけた。その近くでは一本の剣が自身の黒焦げになったのが見えた。

それを見た鎧たちは仲間の敵討ちだとばかりに悠介の元へと向かっていった。
悠介は最初の10体はレーザーガンを撃ち抜いて剣を壊したものの、徐々に自分の元への距離を詰めてきたので接近戦に変えざるを得なかった。

悠介はビームソードを抜いて接近戦に対応せざるを得なかった。接近戦では剣を抜いて戦っていたものの、今度は悠介が翻弄されてしまった。なにせ相手は剣が本体なのだ。悠介をなすがままにしていくのは朝飯前なのだろう。昔の剣客さながらの素早い動きに悠介は付いていくのに必死だった。

やはり遠距離のみで対応するべきだったかもしれない。そんな考えが頭をよぎった時のことだ。悠介は無意識のうちにビームソードの先端を「突き」の姿勢へと変えた。

狙いを定めたのはビームソードの先端が突き刺したのは弱点そのものである剣だった。
剣はレーザー光線によって撃ち抜かれた時と同様に黒焦げになって地面の上へ落ちていった。

そして先ほどと同様に地面の上から二度と立ち上がることはなかった。悠介は気がついた。『突き』による攻撃を喰らわせれば剣の怪物は地面の上に倒れ込んでしまうのだ、と。

しかし『言うは易し行うは難し』という言葉があるように実行に移すことは難しいものだった。
事実鎧たちによる攻撃は自分たちの対処法が看破されるのと同時に激しくなっていった。

悠介は懸命になってビームソードを振るって鎧からの攻撃を防ごうとしたものの、背後からの攻撃に気が付かなかったのか、悠介の背中に強烈な衝撃が走っていった。


「うっ、うぐっ……クソ」

悠介が背後を振り返ると、そこには剣を握り締めて自身の元に迫り来る鎧の姿があった。もしこの鎧に感情というものが存在していたのならば得意げな顔を浮かべていたに違いなかった。

「クソッ!」

悠介は咄嗟に声を荒げたが、そんなもので怯む鎧たちではなかった。それどころか、これを好機とばかりに剣を構えて悠介の元へと突っ込んでいこうとした。
悠介はビームソードを闇雲に『突き』を繰り返したことによってなんとか包囲網の一角を崩すことに成功し、そのまま脱出を図ったのだった。

だが、もう一度同じ手を喰らえば勝機はない。悠介は慌ててその場から逃げ出して態勢を立て直そうとしていた。
残る数は9体。一気に相手にするにはいささか厳しい相手である。

悠介はビームソードを構え、鎧へと立ち向かっていった。最初に真下から勢いよくビームソードの剣先を突き立てることで剣を破壊していった。

そして同様の手口でもう一度鎧を破壊していった。だが、ここで先ほど受けた傷の痛みが再びぶり返してしまう羽目になった。

悠介は荒い息を吐きながら両膝を突いた。悠介にとって思っていた以上に痛みや疲労が体のうちに残っていたらしい。
やがて耐え切れなくなり、悠介の体は地面の上に倒れてしまった。その周りを囲む形でこちらに迫って来る鎧たち。

得体の知れない剣が今にも悠介を突き刺そうとばかりに迫って来るのが見えた。
万事休すかとヘルメットの下で歯を噛み締めていた悠介であったが、思わぬところで助けが現れた。

閉じていたはずの船のハッチが開いてカエデの姿が見えたのだ。
カエデはハッチを開いてタラップから階段を下ろしていくのと同時にビームポインターを抜き、熱線を放射していった。

人間とは異なる無機物であるためか、感情にとらわれることもなく落ち着いてカエデを処置しようとしたが、それでも先に動くことができた楓が有利であったのはいうまでもない。熱線を放射して三体ほどの鎧を片付けていく。

悠介はこれが機会だとばかりに自身に対して背を向けた鎧たちを背後から襲っていった。鎧たちは最初の三体がやられた上にカエデへ襲い掛かっていく最中に二体が倒されたこともあいまって悠介を注意外へ追い出していたことも大きかった。

悠介はそうした鎧たちの事情を巧みに利用して背後から攻撃を仕掛けていった。
背後からの攻撃など鎧に当たるものでしかなく本体である剣にはなんの意味もないことは明白である。

悠介はそのことを忘れていたが、彼は咄嗟に起点を効かし、不利な状況を有利な状況へ変えていったのだった。
攻撃を喰らった瞬間、鎧は背後を振り返るものの、その際に本体であり武器である剣によって反撃を行うのだ。

悠介は初太刀を寸前のところで交わし、そのまま剣に対して『突き』を喰らわせたのだった。こうして無事にまた一体を葬ることができた。
残る数は三体。カエデと力を合わせれば勝つことが難しい数ではない。悠介はヘルメットの下で希望を持った目を浮かべていた。

だが、同時に背中にズキっと痛みが走った。装甲越しとはいえ切り傷を負ったのだから当然である。上手くことが運べば素早く治療を施すことができるのだが、そんなに早く済むだろうか。

悠介はこれからの戦いに対して深い絶望と高い希望の二つの感情を抱くことになった。
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