メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
129 / 208
職人の惑星『ヒッポタス』

3

しおりを挟む
 修也たちに戦闘の意思がないことを確認した後で男は大きな溜息を吐いて言った。

「手荒な真似をしてすまなかったな。だが、おれは街をみんなから任せられた言うなれば町長なんだ。不手際があってはみんなが困る。それ故にあんな態度を取らせてもらった。悪いことをしたよ」

 町長を名乗った年配の男性は深々と頭を下げながら言った。

 しかし謝罪をしながらも明確な安全が保障されるまでは警戒心を解くつもりはないらしい。
 三人は槍や斧といった武器を手にした男たちに囲まれて彼らが住むという町へ案内されることになった。

 ジョウジを先頭にその背後で荷物持ちを行う修也と悠介の姿は『西遊記』で三蔵法師の後をついていき荷物を持つ妖怪たちの心境だった。

 そんな『西遊記』の三蔵法師さながらの修也たち一行が向かうことになった町は考えていたよりも大きなものであった。というよりも予想より発展していたといってもいいだろう。

 石畳の道路。露天を広げ、果物や肉を売る人々、とんがり帽子のような尖った屋根の目立つ石造りの家といった大昔の日常が再現されたような光景である。一見すれば地球で見る観光用に作られた中世ヨーロッパの街並みそのもののだ。

 ヨーロッパのそれもごく限られた時期にしか見ることができないような光景を前にして目をキョロキョロとする悠介であったが、修也によってみっともない行為を止められた後は好奇心を隠し、武器で男たちに尻を突かれながら前へと進んでいった。

 やがて町長と呼ばれた男の案内によって修也たちはとんがり帽子の屋根の中でも一際大きな家の中へと案内された。
 その際に黒い柵の門が開き、地味な灰色のワンピースを着た女性が頭を下げて出迎えた。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 この星の言葉で確実に彼女はそう言っていたのをジョウジは聞き逃さなかった。
 言葉から察するに家で雇われているメイドであるらしい。メイドなど随分と仰々しいように思えるが、町のまとめ役の家であるのならば家が大きいこともメイドがいることも納得がいく。

 どうやらこの星にはもう使用人文化が根付いているらしい。謎の鎧の存在によって交流は止められているものの、文明レベルはそこそこ発展しているらしい。
 地球に持って帰ればいい研究材料になるのではないだろうか。

 ジョウジが一人でシャーロック・ホームズの真似事をしていた時のことだ。メイドから「ご主人様」と呼ばれた男によって大広間へと案内されることになった。

 広間の中にはクッションが付いた本格的な長椅子が二脚と丁寧な装飾が机の下にも施された立派な机が用意されていた。
 長椅子の上に腰を下ろし、両手に抱えていた荷物を脇に置いた後に先ほどのメイドがお盆と思われる木の板の上に木製のお椀のようなカップの中に入ったお茶を持って部屋の中に現れた。

 メイドは机の上にお茶を置き、一礼を行い、一言も発することなく大広間を後にしていった。

「さてと、あんたらが本当に我々に対していいものを持ってきたのか、まずはそれを証明してもらいたい」

 町長は大きな緑色の双眸を大きく開いて睨み付けるように問い掛けた。

 男にはこの街のリーダーとして取るべき責任がある。見知らぬそれも星を超えてきた未知の存在に対して弱気な様子を見せず、強い態度に出るのは当然であるといえた。

 しかしジョウジはアンドロイドである。感情があるため気圧されなかったといえば嘘になるが、それでもそれを表情に出さなかったのは流石だと言うべきだろう。

 ジョウジは修也たちが持っていた圧縮された商品を取り出し、その場で元のサイズに戻して町のリーダーたちに見せていった。
 元のサイズに戻したのは折り紙や色鉛筆、絵の具といったものだ。

 特に今回用意した絵の具はチューブ状のものではなく珍しい固形のもので、これは水に溶かして少しずつ使うタイプのものだ。

 これで絵を塗れば例え幼稚園児の落書きとも称されるような下手くそな絵でも輝いて見えると絵描き志望の間では喉から手が出るほど渇望されているものだ。

 ジョウジが水を要求し、メイドによって運ばれた水を使い、持ってきた羊皮紙のような茶色の紙を使ってその上に筆を塗って絵を記すと、町長は呆気に取られたような顔を浮かべていた。
 他にも色の塗られたけん玉や独楽こまといった物珍しい品を置いていく。置いた際に町長以外にも付いてきた男たちの目が奪われているのをジョウジは確かに確信した。

「これで納得していただけましたか?」

 交易の品を差し出したジョウジの態度を前にして住民たちは考えを改めたらしい。素晴らしい色とりどりの見たこともないような品物を見せられたり、その使い方を目の前でレクチャーされるようなことがあれば考えも改めざるを得ないようだ。

 仲間たちはジョウジが差し出した際、ついでに折った鶴にすっかりと心を奪われていた。

 とっくの昔に鎧を脱いで珍しいその品物を何度も手にとっているのが見受けられた。まとめ役をしていた男もそんな仲間の姿を見て警戒心を解いたのだろう。
 ジョウジと真剣な表情を浮かべながら見つめ合っていた。

「商品の良さというのはわかった。うちの町とあんたらとの交易を認めてやろうじゃあないか」

「本当ですか!?」

 ジョウジの表情が明るくなった。それまでの闇に閉ざされていたような顔から急に太陽の光が差し込んだかのように頬が明るくなったのである。

「ただし、条件がある」

 男の声のトーンが低くなった。どのような条件を言い渡されるのだろうかと三人が胸をドキドキと鳴らしていた。

「こことは別の村に行くための交易路に厄介な奴らが待ち伏せしておってな……そいつらを倒してくれたらあんたらとの交易を認めてやろう」

 その星の指導者層が提示する交易の条件としては非常に理に適ったものであった。どの星にもその星独特の厄介な宇宙生物が存在しているのだし、それを取り除くことができるに越したことはないのだ。修也もラックスフェルンで巨大なアメーバを退治したことがあるので納得がいった。

 それに話を聞けば現在修也たちが携わっている村は別の町と交易を持っているということなのでそこからの繋がりも期待できる。町と町とが繋がり合っていけばやがてそれぞれの技術を補い、やがては産業革命を誘発するのではないだろうか。そうすればあの恐ろしい鎧の集団をこの星から駆逐することもできる。

 薔薇色のように広がっていく未来をジョウジが考えていると、先ほどの男が真剣な顔を浮かべながらジョウジへと問い掛けた。

「どうだ? 引き受けてくれるかね?」

「もちろんです。喜んでお引き受け致しましょう」

 ジョウジの言葉を聞いた男は嬉しく頬を赤らめていた。どうやら道を塞ぐ鎧を倒してくれることに対して感じたことがないような喜びを感じているらしい。

 無理もない。あんな天敵のような存在がいて不安になるなという方が無茶だ。
 修也が同情の念を寄せていた時のことだ。

「さてと、旅のお方。今日はもう遅いから泊まっていったらどうだ?」

 気をよくしたのか、町長は宿まで勧めてくれた。しかもこの屋敷に泊まれることになったらしい。ありがたい申し出である。ジョウジも修也も迷うことなく町長の申し出を受け入れた。

 唯一不満気な顔を浮かべていたのは悠介である。どこか納得がいかなそうな顔を浮かべていたのである。

 修也はそんな悠介を連れ出し、事情を聞くことにした。場所は街の裏路地。ほとんど誰も足を踏み入れないような暗い場所である。

 そのせいか、他の場所と比較しても汚れているように見えた。街の石畳の端々には煤や汚れが目立っているし、誰かが食べたのか、齧った跡がある林檎のような果物が転がっているのが見えた(『ような』と推測表現で記すことになったのは林檎だとはまだ正確には分かっていないからである)。

 親子で二人きりの話をする際にはこうした場所の方が良いと判断したからだ。
 どこか渋る様子の悠介に対して修也はどこか強気な態度で問い掛けた。

「なぁ、悠介、お前どうしてあんな露骨な態度を取ったんだ?」

「だってさ……」

 悠介の主張は理に適ったものだった。この町は中世のヨーロッパ風の建物で物珍しいが、見知らぬ虫などがいた場合のことを考えると泊まるのを躊躇ってしまうということだった。

「何を今更、お前『カメーネ』では普通に泊まっていたじゃあないか?」

「あれは用意された部屋が清潔だったからだよ。それにシーレがいたし」

「そうなると、お前は可愛い女の子がいないと泊まらないということなるけどな。それでいいのか?」

 修也はどこか軽蔑したような目で悠介を見つめていた。

「シーレはただの女の子じゃねぇよ! おれは好きになったのッ! 地球で出会ったあいつなんかとは比べものにならないくらい可愛いしなッ!」

 悠介は顔を真っ赤にしながら叫んだ。どうやらシーレに相当惚れ込んでいるらしい。どうやらカメーネでは恋のためにわざわざ感染症のリスクとやらがある惑星に泊まることを選んだということになる。

 今からでも悠介の代わりに麗俐たちを呼び戻すべきだろうか。修也は頭を抱える羽目になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...