メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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水の惑星『カメーネ』

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「何!? ペトアが負けただと!?」

 配下からの報告を受けたコルテカの国王、ラオスは部下からの報告を聞いて声を荒げた。

「ハッ、報告によりますと、討伐軍は撤退……ジャック・フネ殿は戦死! ペトア殿下は行方不明とのことッ!」

「おのれッ!」

 配下の男の言葉から敗北を実感させられたラオスは拳を強く握り締めながら玉座の肘掛けを勢いよく叩き付けた。

「陛下、これは由々しき事態にございます。今こそハイドラ隊を向かわせないませ」

 と、声を上げたのは側に控えていたコリンヌであった。
 その言葉を聞いたラオスは難しそうな顔を浮かべながら振り返っていった。

「コリンヌか、だが、ハイドラ隊とはいうもののあれはまだ編成して少ししか経たぬものぞ」

「いえ、そうは仰せられても、既に彼らは立派な陛下を守る楯であり矛であらせられます! 今こそ王位を守る盾として、そして逆賊どもを始末する矛として活用するべきですぞ!」

『ハイドラ隊』とはコリンヌの助言によって編成された国王の親衛隊の名前である。装備としてはヴィシー財閥が開発した『ロベール』のパワードスーツを纏ったコルテカ王国の貴族たちの子弟からなる二世部隊の名であった。

 名誉からいっても実力からいっても申し分のない実力を秘めた勇敢な部隊であった。名前もコルテカ王国の守護神である『ハイドラ』という複数の蛇の頭を持つ怪物の名前から取っているので間違いない。

 ただ、唯一の欠点を挙げるとするのならばパワードスーツを着用した際の見た目のみであろう。大量生産の品として作られたこともあり、全員のパワードスーツの見た目に華美がないのだ。

 そのため白い骨を用いた兜に装甲、貴族の子弟たちによるウケというものは最悪と言っても過言ではなかった。

 現在はそうした不満の声をラオスが無理やり押さえ付けている状態となっている。
 こうした姿勢には貴族たちからの反感も存在したが、それでも名誉な役職にあることは変わりない。ラオスにとってはもっとも頼りになる存在だ。

「では、今よりハイドラ部隊を討伐隊として派遣させよう。ただしその指揮を取るのはコリンヌ、お主が取れ」

「わ、私がですか!?」

 予想外の命令を受けてコリンヌの声は明らかに動揺していた。
 だが、ラオスは容赦なく命令を続けた。

「左様、お主の虎の力とやらで我が王位を狙う不貞の輩を滅するのじゃ!」

「ハ、ハハッー」

 国王の命令とあっては逆らうわけにもいかない。コリンヌは深々と頭を下げた。
 現在ハイドラ隊の指揮官はヴィシー財閥より教官として派遣されたリディ・ステングリッドという女性が務めている。

 彼女は軍隊にも所属していたことがある言うなればプロの軍人だ。それに対してコリンヌは単なる部門の一部長に過ぎない。いくらパワードスーツを所持しているといっても戦闘経験はないに等しいものだ。

 不満そうな顔を浮かべてブツブツと呟いているのは国王に対しての不満であることには違いない。
 いっそこのまま投げ出してしまえば全てが楽になるのではないだろうか。
 肩を落として部屋で準備をしていた時だ。

「あら、ミュルトン部長……どうなさいましたの?」

 と、入り口から声が聞こえてきた。声のした方向を向くと、そこにはリディ・ステングリッド本人の姿が見えた。
 軍人らしく髪こそゴムで縛ってはいるものの、リディは非常に愛らしく可愛い見た目をしていた。

「あのクソジジイに無茶を言われてね。私がどうやらキミの代わりに二世部隊を率いることになったそうだ」

「そんな! ミュルトン部長が責任を負われることなんてありませんのに!」

 話を聞いたリディはプンスカと怒ってみせた。怒る仕草も女児向けのアニメのキャラクターを思わせるようで非常に可愛らしいものであった。
 その仕草にコリンヌも思わず絆されてしまったのか、顔に微笑を浮かべている。

「しかし王様の命令だ。逆らうわけにはいくまい。もし、何かあればキミが私の代わりにこの星で得たものをフランスに運んでくれ」

 そう言ってコリンヌは懐から宇宙船の鍵をリディへと手渡した。

「そ、そんな受け取れませんわ!! 部長には奥様とお子様がいらっしゃるはずでしょう!? もし、あなたの身に何かあればお二方はどうなるんですの!?」

「心配はない。会社が面倒を見てくれるはずだ」

 そうは言ったもののコリンヌの声はどこか弱々しかった。
 遺族に対してヴィシー財閥が手厚い保証をしてくれる保証などどこにもなかったからだ。現在の欧州は完全な競争型の社会ということもあり、競争から外れたものに対しては容赦がない世界となっている。

 いわば人に対する余裕がない社会であるともいえた。かつてベンジャミン・フランクリンが「時は金なり。それが分からぬ者は死ね」とまで言っていたように資本主義社会で泣き言を言うだけの存在は社会から無視されるようになっていた。

 リディもそのことを理解していたのか、両方を落とすコリンヌになんの声も掛けることができなかった。
 気まずそうな顔を浮かべるリディに対してコリンヌは明るい声で言った。

「大丈夫だ! 侵入者さえ倒せばいいんだから!そうすれば無事に商品を持ってヴィシーに帰ることができる。それで帰ってからは温泉にでも子どもたちを連れて行くよ」

「素敵ですわ。叶うといいですね」

 リディは弱々しく微笑みながらコリンヌを送り出した。
 血気盛んな貴族の子弟たちと共に城門を出ていったコリンヌの姿はまるで、どこか遠い国に行くかのような錯覚をリディに与えた。

 心の内でリディは察した。コリンヌはこの後は戻ってこない、ということを。
 根拠はないが、第六感というものが熱心に囁いていた。

 だが、自分が身代わりになる必要もないのでリディは見送ることしかしなかった。

「さて、私は部屋に戻って会長にこのことを報告しないとね」

 リディはそのまま城門に背を向けて自身の部屋へと戻っていった。もう既にリディの頭からはコリンヌの家族についてのことは抜け落ちていた。





 



 コリンヌはそんなリディの心境も知らずに意気揚々と討伐軍を率いていった。もちろん馬に乗ることはできない。そのため兵士たちが担ぐ腰に乗って先端にいた。

 更にその横には副官が馬で進んでいた。左目に黒い眼帯を当てた老将である。
 コリンヌからは老人とはいったものの頑強な肉体は地球にいる若者よりも立派に見えた。話によれば頭も切れるそうだ。
 コリンヌが軍事に関しての素人であることや実績などを踏まえると、彼こそがハイドラ隊の真の隊長であるともいえた。

 有力貴族の子弟たちで構成された親衛隊の実質的なリーダーということだけもあり、彼の優秀さは群を抜いていた。
 彼は目撃地付近の住民のみならず、外れに住んでいる猟師や森番にまで地道な聞き込みを続けていったのだ。
 そして最後の目撃証言から修也たちが王都近隣の森に潜んでいることを割り当てたのである。

 ハイドラ隊は副官の指示に従い、近隣の森を包囲した。いや、そればかりではない。修也たちを炙り出すために火を放とうとした。
 流石にこれはコリンヌが静止したが、それでも炙り出すためだと称し、森の周りに焚き火を行ったのだ。

 煙を森の中に注いでいくと、副官の読み通りに修也たちが姿を現した。
 ゴホゴホと咳き込む修也たちに対してハイドラ隊の兵士たちの全員が槍を構えていく。

「終わりだ。賊どもめ」

 副官は自らが腰に下げていた剣を突き付けながら流暢なクレタリア王国語で言った。
 クレタリア王国語は島内においては教養の高さを示すためのステータスとされており、コルテカ王国でも教養のある人物は喋ることができた。

「賊? 賊はあなた方の方でしょう!?人民を不要な戦に駆り立て、天より与えられた兵器で虐殺を行うなど、恥を知りなさいッ!」

 シーレは剣を突き付けられた状態であるにも関わらず、王女に相応しい毅然とした態度で副官に向かって叫んだ。

「フッ、我々は正当な王位に就いていた人物を弑奉り、正当な王位継承権を持つ王子を追い立てた悪党を玉座から引き摺り下ろそうとしているだけのことよ!」

「違う! 父は自身の兄が人民を苦しめ、不要な戦を引き起こそうとしていたから『王殺し』の汚名を負ってでも自身がその道を正すために王位に就いたのよ!」

「フン、簒奪者の娘の詭弁だ。ここで片付けさせてもらうぞ」

 副官の男が剣を構えてシーレの元へと突っ込んでいった。シーレも弓矢を使って迎え撃とうとしたが、副官の男がシーレの元へと突っ込んでくる方が早かった。
 目の前に剣が迫ってきた。シーレが己のを死を覚悟して両目を瞑った時のことだ。

 ボゴンと何かが吹っ飛ぶような音が聞こえた。恐る恐る両目を開くと、そこには『ゼノン』の装甲を纏い、剣を構えて突っ込んできた副官の男を吹き飛ばした悠介の姿が見えた。

「大丈夫か!? シーラ!?」

 悠介はシーレの安否を心配し、その両肩を強く揺さぶっていった。
 シーレは悠介の言葉が分からなかったが、動揺して肩を揺さぶっている姿から察するに彼が心配してくれていることだけは分かったので小さく首を縦に動かした。

 悠介はシーレが無事であることを確認した後に副官の男に向かって人差し指を震わせながら叫んでいった。

「テメェ! シーレに何をするつもりだったんだ!?」

 無論、悠介が使ったのは日本語である。異星の人間である副官の男が理解できるはずがなかった。
 だが、至近の空気が振動したことから彼が怒っていることだけは伝わった。

 それならば彼の怒りに応えなくてはなるまい。こちらも全力で叩き潰してやるのみだ。
 副官の男は編成時にリディから与えられたカプセルを取り出し、『ロベール』の一種である『ハーピー』という装甲を纏っていた。
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