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水の惑星『カメーネ』

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 股間に強烈な一撃を喰らった上に自身が纏っていたパワードスーツを大幅に破損してしまう羽目になったジャックは悶絶しつつも両目を大きく見開きながら悠介を睨んでいた。

 一方で悠介はレーザーガンを握り締めてジャックの心臓か、もしくは頭を撃ち抜こうとしていた。レーザー光線を発射してジャックを完全に倒すつもりだった。

 だが、それは同時に悠介自身が人殺しにつながることになる。自身の手で人を殺すことに悠介は躊躇いがあった。

 だが、その弱さがジャックに反撃のチャンスを与えてしまうことになった。

 ジャックは弱ってはいたものの、武闘派の意地というのか、地面の上から勢いよく蹴りを突き上げ、悠介の手からレーザーガンを蹴り落としたのだった。

 咄嗟の蹴りであったので悠介は見抜くことができなかった。肉体的にも精神的にも多くの傷を負っていたはずのジャックは体をよろめかせながらも悠介の元へと近付き、その顎の下へと拳を食らわせていった。

 顎の下から勢いのある一撃を受けた悠介は思わず体全体をよろめかせてしまった。隙を見せた後はジャックが反撃する番だった。ジャックは鋭い拳を幾度も悠介へとぶつけて悠介本人に何度も何度も大きな攻撃を喰らわせてしまう羽目になった。

 パワードスーツ越しとはいえ幾度も攻撃を受ける羽目になった悠介は堪らなくなってしまい、地面の上へと倒れてしまった。

 その悠介をジャックは執拗に蹴り続けた。ジャックの蹴りは反撃というよりも先ほど自身に浴びせられた屈辱を打撃にして返していたといった方が正しかった。実際に蹴る時、ジャックは兜の下で狂ったような笑みを浮かべていた。

 だが、執拗に蹴り続けていたことが逆に悠介を有利な状態へと戻したのだった。
 何度も振り下ろされた足のつま先を悠介はしっかりと両手で掴み上げたのだった。そしてそのまま地面の上へと勢いよく放り投げた。メトロポリス社で受けた空手の訓練が実戦に役立てるという例になったことは間違いない。

「こいつめッ!」

 ジャックは激昂し、怒りのまま右ストレートを喰らわせようとした。
 その拳を悠介はしゃがみ込むことで交わし、そのままジャックの腹部へと強烈な殴打を浴びせていった。

 先ほどまで悠介を殴り続けていたジャックが今度は殴られ続ける羽目になったのだ。運命というのは皮肉なものである。
 最後に悠介はジャックの頭部を勢いよく殴打して地面の上に殴り飛ばしたのだった。

 無惨にも地面の上を転がっていくジャックであったが、悠介が情けを見せることはなかった。先ほど地面の上に落とされたレーザーガンを拾い上げてジャックへと突き付けたのだ。

「ち、ちくしょう!! テメェらッ!オレを助けろ!! オレは貴様の王子や王どもの後ろ盾になってる天からの使者の一員なんだぞッ!」

 ジャックの声は拡声器でも使ったのかと思うほど大きいものだった。実際に彼の声は辺り一帯に響き渡っていたし、その振動は悠介にも伝わるほどであった。

 だが、肝心の兵士たちはとえば他の面々を相手にしてジャックの元にまで向かう余裕はなさげだった。

 ジャックは歯軋りをしながら役に立たない兵士たちを睨み付けていた。
 不幸中の幸いであったのは悠介に先ほど同様に躊躇いの色が見られたことであった。

 ここで自分が上手い方法を考え付けばこの場を乗り切れるかもしれない。ジャックは即座に二通りの方法を思案し、目の前にいる少年を見つめていた。
 それでもしばらくの間は方法が上手くいくか分からず、不安になったこともあり、氷のように固まって動けずにいた。

 だが、やらないよりはマシだと自身に言い聞かせ、第一の案である命乞いを実行した。

「なぁ、坊ちゃん……どうかオレを見逃してくれよ。オレを殺したらあんた地獄に堕ちるよ」

「何を言ってるんだ? お前?」

 悠介の反応は至極当然のものであった。ジャックの発した言葉はフランス語であったのだ。英語の成績も芳しくない悠介からすればフランス語などは宇宙の言葉に等しいものであった。理解できないのも当然だ。

 ジャックは今度は言葉が分からないなりの命乞いを行うことに決めた。
 両手に膝を突いて地面の上に両手の掌を付けて泣く真似を始めたのだ。その上、フランス語で「お母さん!」と喚けば言葉が理解できずとも相手は迷う素振りを見せるはずである。それに加えて命乞いの相手はレーザーガンを放つことを躊躇うほどのお人好しなのだ。
 このことを踏まえての第二の案こそが本命の作戦であったといってもいい。
 案の定、命乞いの間に悠介の方を見ると、レーザーガンを握る手が震えているのが見えた。
 あと一押しだ。ジャックはそのまま地面の上に手を付いて大きな声で泣き声を上げた。

 哀れな姿に耐えられなくなったのか、悠介は足をよろめかせながらも後方へと下がっていった。
 今だ。ジャックが悠介へと飛び掛かろうとした時だ。自身の腹部に痛みが走った。熱い鉄の串でも突き刺されたかのような痛みと熱が腹を刺激していった。

 ジャックが理由を分からずに周りを見渡していると、悠介の背後でレーザーポインターを構えたアンドロイドの姿が見えた。

「て、テメェ、このポンコツロボットが……」

 ジャックの口から最後に出た言葉は神への懺悔でも両親の悔恨でもない、自分の命を奪うことになったアンドロイドに対する憎悪からきた悪態だった。

 ジャックはそのまま地面に引っ張られるように倒れ込んだ。そしてそのまま二度と目を覚ますことはなかった。
 こうしてジャック・フネは異星でその生涯を閉じる羽目になったのである。

「ハァハァ、助かった」

 悠介は自身の救助をしてくれたジョウジに向かって頭を下げた。

「いいえ、構いませんよ。それよりも心配なのは大津さん……あなたのお父さんです」

「そ、そっか、父さんか」

 悠介は苦戦する父親の方へと目を向けた。そこには怪物のようなパワードスーツを纏ったペトアと激しい戦いを繰り広げる修也の姿が見えた。

 修也は腰に下げたビームソードを振るいながらペトアが腰に下げていたと思われるビームサーベルをぶつけ合っていた。
 互いに光線の出る刃をぶつけ合わせて互いの隙を狙っていた。両者とも隙は見えなかった。サバンナの動物が獲物を求めて殺し合う時のような姿だ。命懸けの勝負とは今のような状況を指していうのかもしれない。

 戦いはこのままズルズルと続いていくのかと思われたが、やはり年齢の差だろう。次第にペトアが戦いを有利に進めていった。
 ペトアは修也の体を蹴り飛ばし、そのまま馬乗りになって突き刺そうとした。

「父さんッ!」

 この時修也を助けたのは悠介だった。悠介はレーザーガンを放ちながら修也の元へと駆け寄っていき、ペトアの意識を修也から悠介へと逸らすことに成功した。この時、ペトアにとって幸いであったのは気持ちが乱れていたこともあって照準が定まっていなかったことだろう。
 ペトアの放ったレーザー光線は全て空の彼方へと消えるか、地面の下へと落ちていくかの二つだった。

「チッ、ガキがッ! 驚かせやがって!」

 ペトアはクレスタリア王国の言葉で口汚い罵声を吐き捨てた後で翼のエンジンを用いて飛び上がっていった。
 それから上空から一気に悠介の元へと急降下していった。
 悠介はペトアがぶつかる直前で体を逸らして交わしたものの、ペトアは翼を使ってもう一度上空へと飛び上がっていった。

「ククッ、もう一度同じ攻撃を仕掛けてやるぜ。今度は耐えられるかな?」

 空中で地上にいる悠介を見下ろしながら言った。そしてもう一度降下して攻撃を喰らわせようとしていた。
 ペトアはこの時、いかにして乱入者たる悠介を痛めつけるのかのみに専念していた。それこそがペトアにとっての誤算であった。

 ペトアはすっかりと修也のことを忘れてしまっていたのだ。体が傷付けられても修也は戦うことを忘れていなかった。
 修也は手を震わせながらもレーザーガンの引き金を引いたのだった。

 レーザー光線はペトアの左翼を後方から撃ち抜き、空中におけるペトアのバランスを崩させたのだった。
 空中の上で暴れるペトアに向かって修也はもう一度引き金を引き、右翼を破壊したのだった。

 両翼を撃ち抜かれてバランスを失ったペトアは地面の上へと勢いよく叩き付けられる羽目になってしまった。
 幸いなことに頑丈なパワードスーツが衝撃を和らげてくれたこともあってペトアは生きていた。

 だが、傷は思った以上に深かった。地面の上にぶつかったことにより全身にヒビが生じ、土埃を被ることになってしまったのだ。
 そればかりではない。深く開いたヒビの隙間からは火花が生じるのが見えていた。

 本来であればこの状態になれば逃げるのが筋というものだろう。
 だが、ペトアはこの状態にあってもまだ戦うことを止めようとしなかった。

「このオレが……クレタリア王国の正当な王子が貴様なんぞに負けるわけがないんだァァァァァ~!!!」

 ペトアは拳を振り上げながら悠介へと殴り掛かっていった。
 それに対し、悠介は地面を蹴り、ペトアの腹部に向かって勢いのある強烈な蹴りを喰らわせたのだった。
 それを受けたペトアはそのまま地面の上を転がっていった。

「で、殿下ッ!」

 討伐軍の間に動揺が広がっていく。なにせ自分たちを率いていた司令官の二人が侵入者たちの手によって倒されてしまったのだから無理もない。
 彼らは司令官たちの安否を確認することもせずに武器も放り出してその場から敗走していった。

 後に残されたのは気絶や死亡という形で戦闘不能に追い込まれた兵士や彼らが使っていたオーパーツともいうべき兵器ばかりであった。
 こうして第一次討伐隊は完全な「敗北」を持って戦闘は終了したのだった。
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