メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
115 / 203
水の惑星『カメーネ』

しおりを挟む
 股間に強烈な一撃を喰らった上に自身が纏っていたパワードスーツを大幅に破損してしまう羽目になったジャックは悶絶しつつも両目を大きく見開きながら悠介を睨んでいた。

 一方で悠介はレーザーガンを握り締めてジャックの心臓か、もしくは頭を撃ち抜こうとしていた。レーザー光線を発射してジャックを完全に倒すつもりだった。

 だが、それは同時に悠介自身が人殺しにつながることになる。自身の手で人を殺すことに悠介は躊躇いがあった。

 だが、その弱さがジャックに反撃のチャンスを与えてしまうことになった。

 ジャックは弱ってはいたものの、武闘派の意地というのか、地面の上から勢いよく蹴りを突き上げ、悠介の手からレーザーガンを蹴り落としたのだった。

 咄嗟の蹴りであったので悠介は見抜くことができなかった。肉体的にも精神的にも多くの傷を負っていたはずのジャックは体をよろめかせながらも悠介の元へと近付き、その顎の下へと拳を食らわせていった。

 顎の下から勢いのある一撃を受けた悠介は思わず体全体をよろめかせてしまった。隙を見せた後はジャックが反撃する番だった。ジャックは鋭い拳を幾度も悠介へとぶつけて悠介本人に何度も何度も大きな攻撃を喰らわせてしまう羽目になった。

 パワードスーツ越しとはいえ幾度も攻撃を受ける羽目になった悠介は堪らなくなってしまい、地面の上へと倒れてしまった。

 その悠介をジャックは執拗に蹴り続けた。ジャックの蹴りは反撃というよりも先ほど自身に浴びせられた屈辱を打撃にして返していたといった方が正しかった。実際に蹴る時、ジャックは兜の下で狂ったような笑みを浮かべていた。

 だが、執拗に蹴り続けていたことが逆に悠介を有利な状態へと戻したのだった。
 何度も振り下ろされた足のつま先を悠介はしっかりと両手で掴み上げたのだった。そしてそのまま地面の上へと勢いよく放り投げた。メトロポリス社で受けた空手の訓練が実戦に役立てるという例になったことは間違いない。

「こいつめッ!」

 ジャックは激昂し、怒りのまま右ストレートを喰らわせようとした。
 その拳を悠介はしゃがみ込むことで交わし、そのままジャックの腹部へと強烈な殴打を浴びせていった。

 先ほどまで悠介を殴り続けていたジャックが今度は殴られ続ける羽目になったのだ。運命というのは皮肉なものである。
 最後に悠介はジャックの頭部を勢いよく殴打して地面の上に殴り飛ばしたのだった。

 無惨にも地面の上を転がっていくジャックであったが、悠介が情けを見せることはなかった。先ほど地面の上に落とされたレーザーガンを拾い上げてジャックへと突き付けたのだ。

「ち、ちくしょう!! テメェらッ!オレを助けろ!! オレは貴様の王子や王どもの後ろ盾になってる天からの使者の一員なんだぞッ!」

 ジャックの声は拡声器でも使ったのかと思うほど大きいものだった。実際に彼の声は辺り一帯に響き渡っていたし、その振動は悠介にも伝わるほどであった。

 だが、肝心の兵士たちはとえば他の面々を相手にしてジャックの元にまで向かう余裕はなさげだった。

 ジャックは歯軋りをしながら役に立たない兵士たちを睨み付けていた。
 不幸中の幸いであったのは悠介に先ほど同様に躊躇いの色が見られたことであった。

 ここで自分が上手い方法を考え付けばこの場を乗り切れるかもしれない。ジャックは即座に二通りの方法を思案し、目の前にいる少年を見つめていた。
 それでもしばらくの間は方法が上手くいくか分からず、不安になったこともあり、氷のように固まって動けずにいた。

 だが、やらないよりはマシだと自身に言い聞かせ、第一の案である命乞いを実行した。

「なぁ、坊ちゃん……どうかオレを見逃してくれよ。オレを殺したらあんた地獄に堕ちるよ」

「何を言ってるんだ? お前?」

 悠介の反応は至極当然のものであった。ジャックの発した言葉はフランス語であったのだ。英語の成績も芳しくない悠介からすればフランス語などは宇宙の言葉に等しいものであった。理解できないのも当然だ。

 ジャックは今度は言葉が分からないなりの命乞いを行うことに決めた。
 両手に膝を突いて地面の上に両手の掌を付けて泣く真似を始めたのだ。その上、フランス語で「お母さん!」と喚けば言葉が理解できずとも相手は迷う素振りを見せるはずである。それに加えて命乞いの相手はレーザーガンを放つことを躊躇うほどのお人好しなのだ。
 このことを踏まえての第二の案こそが本命の作戦であったといってもいい。
 案の定、命乞いの間に悠介の方を見ると、レーザーガンを握る手が震えているのが見えた。
 あと一押しだ。ジャックはそのまま地面の上に手を付いて大きな声で泣き声を上げた。

 哀れな姿に耐えられなくなったのか、悠介は足をよろめかせながらも後方へと下がっていった。
 今だ。ジャックが悠介へと飛び掛かろうとした時だ。自身の腹部に痛みが走った。熱い鉄の串でも突き刺されたかのような痛みと熱が腹を刺激していった。

 ジャックが理由を分からずに周りを見渡していると、悠介の背後でレーザーポインターを構えたアンドロイドの姿が見えた。

「て、テメェ、このポンコツロボットが……」

 ジャックの口から最後に出た言葉は神への懺悔でも両親の悔恨でもない、自分の命を奪うことになったアンドロイドに対する憎悪からきた悪態だった。

 ジャックはそのまま地面に引っ張られるように倒れ込んだ。そしてそのまま二度と目を覚ますことはなかった。
 こうしてジャック・フネは異星でその生涯を閉じる羽目になったのである。

「ハァハァ、助かった」

 悠介は自身の救助をしてくれたジョウジに向かって頭を下げた。

「いいえ、構いませんよ。それよりも心配なのは大津さん……あなたのお父さんです」

「そ、そっか、父さんか」

 悠介は苦戦する父親の方へと目を向けた。そこには怪物のようなパワードスーツを纏ったペトアと激しい戦いを繰り広げる修也の姿が見えた。

 修也は腰に下げたビームソードを振るいながらペトアが腰に下げていたと思われるビームサーベルをぶつけ合っていた。
 互いに光線の出る刃をぶつけ合わせて互いの隙を狙っていた。両者とも隙は見えなかった。サバンナの動物が獲物を求めて殺し合う時のような姿だ。命懸けの勝負とは今のような状況を指していうのかもしれない。

 戦いはこのままズルズルと続いていくのかと思われたが、やはり年齢の差だろう。次第にペトアが戦いを有利に進めていった。
 ペトアは修也の体を蹴り飛ばし、そのまま馬乗りになって突き刺そうとした。

「父さんッ!」

 この時修也を助けたのは悠介だった。悠介はレーザーガンを放ちながら修也の元へと駆け寄っていき、ペトアの意識を修也から悠介へと逸らすことに成功した。この時、ペトアにとって幸いであったのは気持ちが乱れていたこともあって照準が定まっていなかったことだろう。
 ペトアの放ったレーザー光線は全て空の彼方へと消えるか、地面の下へと落ちていくかの二つだった。

「チッ、ガキがッ! 驚かせやがって!」

 ペトアはクレスタリア王国の言葉で口汚い罵声を吐き捨てた後で翼のエンジンを用いて飛び上がっていった。
 それから上空から一気に悠介の元へと急降下していった。
 悠介はペトアがぶつかる直前で体を逸らして交わしたものの、ペトアは翼を使ってもう一度上空へと飛び上がっていった。

「ククッ、もう一度同じ攻撃を仕掛けてやるぜ。今度は耐えられるかな?」

 空中で地上にいる悠介を見下ろしながら言った。そしてもう一度降下して攻撃を喰らわせようとしていた。
 ペトアはこの時、いかにして乱入者たる悠介を痛めつけるのかのみに専念していた。それこそがペトアにとっての誤算であった。

 ペトアはすっかりと修也のことを忘れてしまっていたのだ。体が傷付けられても修也は戦うことを忘れていなかった。
 修也は手を震わせながらもレーザーガンの引き金を引いたのだった。

 レーザー光線はペトアの左翼を後方から撃ち抜き、空中におけるペトアのバランスを崩させたのだった。
 空中の上で暴れるペトアに向かって修也はもう一度引き金を引き、右翼を破壊したのだった。

 両翼を撃ち抜かれてバランスを失ったペトアは地面の上へと勢いよく叩き付けられる羽目になってしまった。
 幸いなことに頑丈なパワードスーツが衝撃を和らげてくれたこともあってペトアは生きていた。

 だが、傷は思った以上に深かった。地面の上にぶつかったことにより全身にヒビが生じ、土埃を被ることになってしまったのだ。
 そればかりではない。深く開いたヒビの隙間からは火花が生じるのが見えていた。

 本来であればこの状態になれば逃げるのが筋というものだろう。
 だが、ペトアはこの状態にあってもまだ戦うことを止めようとしなかった。

「このオレが……クレタリア王国の正当な王子が貴様なんぞに負けるわけがないんだァァァァァ~!!!」

 ペトアは拳を振り上げながら悠介へと殴り掛かっていった。
 それに対し、悠介は地面を蹴り、ペトアの腹部に向かって勢いのある強烈な蹴りを喰らわせたのだった。
 それを受けたペトアはそのまま地面の上を転がっていった。

「で、殿下ッ!」

 討伐軍の間に動揺が広がっていく。なにせ自分たちを率いていた司令官の二人が侵入者たちの手によって倒されてしまったのだから無理もない。
 彼らは司令官たちの安否を確認することもせずに武器も放り出してその場から敗走していった。

 後に残されたのは気絶や死亡という形で戦闘不能に追い込まれた兵士や彼らが使っていたオーパーツともいうべき兵器ばかりであった。
 こうして第一次討伐隊は完全な「敗北」を持って戦闘は終了したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...