メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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水の惑星『カメーネ』

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 修也たちがクレタリア王国の宮殿を経ってから一日後、奇しくもコルテカ王国の宮殿において修也たちにとっての渦中の人物となったペトアと灰色のスーツを着た中年の男とが机を挟んで会話を行なっていた。

「……それで、アリソスの奴がこの島に他の星の奴らを仕向けたというのか?」

 ペトアは緑柱石の宝石のようだと喩えられる瞳を細く尖らせながら問い掛けた。

「その通りです。殿下」

 スーツを着た男は丁寧に頭を下げて答えた。

「フン、卑劣なあの男の考えそうなことだ。だが、来るというのならば迎え撃つまでよ」

 亡国の王子、ペトアは己の手の内に残されたカプセルを強く握り締めながら海の方を睨み付けた。

 ペトアは先代国王モローネの息子であり、正当な王位継承者である。少なくとも本人はそう言っている。

 しかし彼はまだ本物の王位継承者であるとは認められていない。というのも遺言状の真意が見抜けぬため本人の言以上のものが存在しないからだ。

 王位を追われたペトアが身を寄せているのは敵国、コルテカの地。それも王宮においてクレタリア王国の正当な王子として迎えられていたのだ。

「いかがなさいますか?」

「決まっておろう。あの簒奪者の代理人が来るというのならばお主にもらった“コレ”で奴らを迎え撃つまでのことよ」

 ペトアは拳を強く握り締めていく。実の叔父でありかつての祖国の王を『簒奪者』と強調していた。この時、男の目にはペトアの背後には怒りの青白い光のようなものが浮かび上がって見えていた。

「流石は殿下にございます。では、私はこれにて失礼致します。本社との連絡がございますので」

 協力者の男はこれ以上刺激してはならぬと悟ったのか、頭を深く下げてペトアの部屋を後にした。

 それから自室へと戻り、首元に巻いていた絹製の高級ネクタイを緩めながら締め付けと我儘な王子の呼び出しから解放された喜びを味わうためか、大袈裟に首を横に振っていった。

 だが、このままベッドの上に寝転がり、悠々自適に過ごすわけにもいかない。男には使命があった。

 男は自身のスーツケースから携帯型のノートパソコンを組み立てると、本社に向けてのメッセージを送信していった。


『ペトアの肉体は予想に反して『ロベール』の装甲に適合しました。この星の人間は地球における人間とほぼ同等の性質を持つので地球においても『ロベール』を装着しても問題はないと思われます』

 男は最後にエンターキーを押し、その情報をフランスのヴィシーに存在する本社の会長専用のパソコンへと送信していった。送信ボタンを押し、再びノートパソコンの電源を落とすと、真っ黒な画面の中に白髪の混じった茶色の髪に肌の荒れた中年男の姿が見えた。

 我ながら情けない姿である。お世辞にも美男子とはいえない自身の容姿を見て溜息を吐いた。

 だが、すぐに頭を横に振ってそんなどうでもいいことを打ち消し、自身に課せられた役割を思い出して気合いを鼓舞していった。

「そうだ。オレはフランス一の財閥ヴィシーの宇宙開発部門の部長、コリンヌ・ミュルトン様だ。この未開の惑星に兵器と技術とを提供する現代のコロンブスだ」

 コリンヌのこの独り言は惑星カメーヌの人間が聞いても意味が分からないものであったに違いない。そのため地球で聞かれたらのならば彼の所属するヴィシー財閥そのものが崩壊しかねない言葉でも容易に口に出すことができたのだ。

 コリンヌ・ミュルトンはヴィシー財閥の会長、リュシアン・ペタンから直々の命令を受け、惑星カメーヌに武器やパワードスーツを輸出しに来たのだ。

 地球の法律で明確に禁止されているにも関わらず、ヴィシー財閥は地球上において別名義で死の商人から大量の武器を購入し、カメーヌで一儲けをしようと企んでいたのだ。そればかりではない。

 実験段階にある『ロベール』というパワードスーツを売り付け、その成果を観察していたのだ。

 結果的に『ロベール』はカメーヌの人間が身に付けても異常が見当たらなかったのは先ほど、会長に向かってノートパソコンへ送ったメールの通りである。実験は大成功に終わったのだ。

 無論実験も込みとはいえこうした兵器を無料で配るわけがない。ヴィシー財閥の見返りは大量の黄金と宝石である。

 惑星カメーヌにおいては地下の鉱脈から大量の黄金や宝石が採掘されることは既に他社の調査で明らかになっている。

 それをカメーヌの住民から奪い取ってはならないことも知ってはいたが、リュシアン並びにヴィシー財閥は平気でその規則を破り、宝石と黄金の収奪に明け暮れていたのだ。

 宮殿の地下に隠してある宇宙船の中には圧縮した報酬がある。地球に持って換金すればヴィシー財閥は地球のトップに躍り出ることは間違いなかった。

 アンドロイドと共に下見に訪れた電子AIの機能を用いて必死に一年という時間を掛けて未開の国の言葉を覚えた。連れてきた部下ちたにもそれを徹底させた程だ。手抜かりはない。

 コリンヌがククッと悪意のある笑みを浮かべていた時のことだ。突然コルテカ王国の言葉でコリンヌを呼ぶ声が聞こえた。

 コリンヌが慌てて部屋の外を抜け出すと、そこには立腹した様子のペトアとラオスの顔が見えた。

「これはこれは国王陛下にクレタリア王国王太子殿下、いったいどうなされましたか?」

 コリンヌは先ほどと同様に流暢なコルテカ王国語で問い掛けた。

「知れたことを貴様らの売り付けた武器だが、役に立ってはおらぬではないか!? それとも貴様らはその二枚舌でワシらを騙しておるのか!?」

「と、申しますと?」

 コリンヌは首を傾げた。演技ではない。本当に意味が分からなかったので首を横に振ったのだ。

「えぇい! 分からぬのか!? 我が国の領土に奴らの侵入を許したということじゃ!」

 ラオスの話によれば辺境の地で見張りを行っていた兵士が全滅したそうだ。
 目撃者の話によればコリンヌたちが持ち込んできたようなビームブラスターやレーザーガンを用いていたそうだ。

 コリンヌからすればクレタリア王国に武器を渡し、助けるような真似などするはずがなかった。コルテカ王国という顧客の信頼を失うようなことをするのはヴィシー財閥にとって金の卵を産む鶏の首を絞めるような自殺行為に等しい。

 コリンヌは首を横に振り、必死になってラオスの言葉を否定した。

「では、誰がこのような真似をしたのだッ!」

 ラオスはこれまでに対峙してきた地球からの商人はコリンヌたちの所属するヴィシー財閥しか知らない。

 その事情を考慮し、コリンヌはラオスに向かって詳細を語っていくことになった。

 地球にはヴィシー財閥以外にも宇宙へと目を向けている多くの企業が存在していること、そのうちの別の企業がクリスタリア王国に手を貸している可能性があることなどを語っていった。

 この説明によってラオスとペトアの誤解は解けたようである。
 それでも怒りが収まらないのは敵の侵入を許してしまったからだろう。
 ここで二人の怒りを収めるためには自らの身を張るしかないだろう。

「陛下、それに殿下……ご安心くださいませ。御二方のご安全は我がヴィシー財閥が保証致しまする。必ずや黄金の毛皮を狙う不逞の輩を殲滅してご覧にいれましょう」

「フッ、言ったな? どうするつもりじゃ?」

 ラオスはコリンヌを見下ろすように言った。

「これを使わせていただきます」

 コリンヌはスーツの内ポケットからカプセルを取り出しながら言った。
 コリンヌの手にカプセルが握られた瞬間に二人の目が歓喜の色が帯びていく。

 二人にとってコリンヌもといヴィシー財閥が提供するカプセルは自身の体を何倍にも増強する強力な鎧を瞬時に纏わせていたからだ。
 そのためコリンヌの言葉に信憑製が高まった。

「よろしい。かくなる上は必ず侵入者どもを皆殺しにしろ」

「ハッ! 命に変えましても!」

 コリンヌは勢いよくその場に跪きながら叫んだ。

「陛下、私も向かいます。この鎧を使って私の強さを発揮したいのです」

「よかろう。ペトアよ。クレスタリアの真の王よ。我が軍隊を貸そう。そしてコリンヌと共に向かえ」

「ハッ!」

 ペトアはコリンヌと同様にその場で勢いよく跪いた。

 こうして侵入者討伐のための大軍勢が組織され、侵入地点となった島の端へとその歩を進めていったのだった。

 だが、この時コリンヌ本人は討伐軍に従事していない。彼は自身の部下数名を代わりに派遣していた。

 部下たちのリーダー格はジャック・フネという派遣団の中でもっとも腕利きだといわれた男であった。

 しかも単なる腕ばかりの男ではない。コリントと同様にコルテカ王国の言葉を一年という短期間で覚えた秀才であった。

 ジャックの意見によって侵入経路が割り出され、見事に険しい草の道を歩んでいた6名の侵入者を発見した。

 当然侵入者たちもただでやられるはずがない。自分たちの持つ武器で反撃を試みようとしていた。ジャックはこの時、コリントから渡されたアルマジロを模った『ロベール』のカプセルで対抗した。

 防御や攻撃に優れた硬い装甲を持った『ロベール』をコリンヌから与えられたという点で彼の自尊心は満たされていた。怖いものなしというのが今の彼の素直な心境といってもいい。

 事実ジャックはアルマジロを模った『ロベール』を用いて発見した侵入者の討伐にもっとも貢献していたからだ。
 アルマジロの爪をモチーフにした巨大ナイフを振り回し、相手となった若い男を追い詰めていたのだ。

 この時、ジャックは勝利を確信した。このまま相手の若い男を串刺しにすれば勝負は付いたはずだ。

 だが、物事は上手くいかないものだ。構造上どうしても覆い隠せなかった股間部を蹴られてしまった。
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