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第一植民惑星『火星』
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先ほどの渋滞は二人を捕えるための封鎖であったことが発覚した。封鎖が解かれたことによって修也たちは渋滞から解放されることになった。
少し遅れてしまう事になったが、無事に修也たちはマイクの案内する会社へと辿り着いた。
会社の電工掲示板には『ゴールドマン水産社』と書かれていた。
「ゴールデン水産社か……そういえば聞いたことがあるぞ。アメリカの水産業で飛ぶ鳥を落とす勢いだとか」
「えぇ、アメリカのみならずヨーロッパやアジア、中東地帯、アフリカにおいてもその勢力は高く伸びていますよ」
マイクの解説を聞いた修也は感心したような目を向けていた。
「そういえば前の高校でも帰り道にあったゴールドマン水産系列のお寿司屋さんに友だちとよく行ってたよ」
麗俐のいう『友だち』というのは厳密にいえば『取り巻き』のようなものである。
「オレも、バスケ部の活動の帰りによく言ってた」
日本にも進出してしていたらしい。それも他の外資系の飲食産業とは異なり、どこか遠い存在ではなく、大手ハンバーガーメーカーのように悠介や麗俐にとっても身近な存在であったらしい。
修也が感心しているとそのままマイクによって会社の中に案内されていった。
会社の中にある会議室のような部屋で紅茶と茶菓子を薦められていった。
白いカップの中に入ったシンプルな紅茶だった。ただ、せめてものもてなしであるのか、インスタントではないことは分かる。機械の技術は即座に茶葉からお茶を精々できるまでに進歩していたのだ。
茶菓子の方も一流の会社ということだけはあり、専門家が焼いたというパウンドケーキやマカロン、上等のチョコムースやクリーム、そして果物が載ったタルトなどであった。
修也たちは紅茶を啜りながらジョウジとカエデの交渉が終わるまでの時間を過ごしていた。
しばらくの間、そのまま退屈がてらに四人は車の中のようにお茶を飲み、菓子をつまみながら雑談を行って過ごしていた。
その中でもとりわけ話題に昇ったのは先ほどの『明日なき明日を撃つ者』に関する話題だった。
マイクは神妙な顔を浮かべながら「私もそこまで詳しくないのですか」と前置きをした上で自分たちの知る限りの二名の犯罪者についての情報を語っていった。
「あのカップルたちが現れたの二週間前からです。二週間前にマップルス銀行の支店が襲撃されたことが事件のきっかけでした」
銀行に押し入った二人は銀行員や客を殺し、大量のドル紙幣を奪い取ったそうだ。
金額に関しては支店の金庫に納められていた三分の一がなくなるほどの大打撃を受けたらしい。
余談ではあるが、ドル紙幣は火星において最大の価値を持つ紙幣である。ある意味では命よりも大切な金をみすみすと奪われた銀行側の苦悩というのは計り知れないものであったに違いない。
その次に襲撃の標的にされたのは巨大なショッピングモールだった。
ショッピングモールの客たちを人質に支配人から売上金の入った手さげ金庫を強奪し、その場から立ち去っていったらしい。
それから後も時計店や貴金属店、コンビニエンスストアやスーパーといった金が集まる場所を狙っているのだそうだ。
このカップルの恐ろしいところは抵抗する人間ばかりではなく、見せしめのためになんの罪もない人々を殺害する点にあった。
その証拠にカップルは楽しそうな顔を浮かべて命乞いをする客を撃ち殺していた。逃げようとした客や死んだフリをして誤魔化そうとした客も一人一人確認して殺していくという事実に修也たちは戦慄していた。
そればかりではない。道を歩いている最中に車ですれ違い様に銃で撃ち殺された恋人たちもいたそうだ。
「……な、なんて酷い奴らだ」
目の前に広がる惨状を見て、修也は率直な感想を漏らした。悠介と麗俐も明らかにそのカップルに対して引いた様子を見せていた。
感情が冷めたような顔でマイクからの話を聞いていた。
「ただ、こればかりは警察の仕事ですからね。我々が手を出せることではありません」
マイクの言葉は正論だった。仮に自分たちでそのカップルたちと対峙することになったとしても有効な対策手段といえるものは何もないだろう。
いくら優秀なパワードスーツを有していたとしても怪物のようなカップルを相手に立ち回れるかといわれれば自信がない。
これまでに数多の星々で遭遇した本物の怪物よりも凶悪な相手に上手く立ち回れる気はしなかった。
修也たちが深い溜息を吐いていた時のことだ。扉をノックする音が聞こえてきた。
修也たちがノックのした方向を振り返ると、そこには難しい顔を浮かべたジョウジとカエデの姿が見えた。
「ジョウジさん、カエデさん。取り引きの方はどうでしたか?」
「うまくいきましたよ。これでゴールドマン水産との取り引きは終了です。明日は火星の貴金属を扱う会社の中でも一番大きいミダス社へと向かうつもりでいます」
「そうでしたか、それはよかったです。では、私たちもお供させていただきます」
修也は取り引きが成功したことが嬉しくてニコニコとした顔を浮かべながら言った。
「いいえ、明日ですが大津さんたちは交渉の間に観光でもしていてください。なにせ、ここは火星……セキリュティの高さは地球にも負けていませんから」
「いや、その油断がいけないんです!」
修也はここぞとばかりに席の上から立ち上がり、先ほどこの場にいた全員で話していたカップルのことを話していった。
それを聞いた二人は神妙な顔を浮かべていたが、すぐに楽観的な顔を浮かべて言った。
「しかし我々がそんな迷惑な輩に狙われるとも思えません。大津さんの考え過ごしでしょう。それよりも行きましょう」
「行くってどこにですか?」
修也は目を丸くしながら問い掛けた。
「決まってるじゃあないですか。宇宙船にですよ。貨物室から取り引きに使う商品を運んで来なければなりませんから」
それを聞いた悠介と麗俐の両名に落胆の顔が浮かんでいた。
「せっかく、火星に来たというのに我々はまた宇宙船に戻るんですか?」
麗俐は信じられないと言わんばかりに両目を吊り上げながら問い掛けた。
「当たり前ですよ。ホテルなど高くていけません」
ジョウジは鼻息を荒く鳴らしながら言った。その口調から察するにジョウジからは料金の高いホテルに対する嫌悪さえ感じられた。
経費に置いても合理性を求めるところもアンドロイドそのものである。修也は苦笑しながら子どもたちを椅子の上から退かせていった。
その後はゴールドマン水産の前で適当なタクシーを拾ってから発射場へと向かっていった。
もうすぐ発射場へと辿り着く。そう思っていた時のことだ。
目の前からいきなり巨大なバギーが現れてタクシーの進路を止めた。
タクシーの運転手は慌てて浮遊車のブレーキを引いてタクシーを止めると、窓を開いて顔を覗かせて抗議の言葉を叫ぼうとした。
だが、その前にギュルルとモーターが鳴る時に生じる音が聞こえた。
が、次の瞬間にはピューンと独特の音が響いていった。間違いない。ビームライフルから熱線が発射される音であったのだ。
音が聞こえるのと同時にタクシーの運転手の体が運転席の中へと崩れ落ちていった。
目の前で殺人が発生したということもあって麗俐は悲鳴を上げ、悠介は咄嗟にカプセルを取り出していった。
「麗俐! 早く自分のカプセルを出しなさい!」
修也は恐怖に震えて対応が遅れていた麗俐を一喝することによって彼女のカプセルを取り出させた。
麗俐はいつになく険しい父親の声を聞いて思わず両肩を竦ませながらもカプセルを取り出して、万が一の事態に備えることにした。
その時だ。目の前にビームライフルを構えたカップルの姿が見えた。
噂に聞いていた『明日なき明日を撃つ者』たちで間違いないだろう。
修也が両目を広げ、憎悪の炎を瞳に宿しながら身勝手な理由で犯行を続けるカップルを見つめていた。
だが、そんな修也の様子を不快に思ったのか、修也の顎を勢いを付けて蹴り上げていった。
強烈な攻撃を喰らった修也は地面の上へと倒れ込んでいった。
「お父さん!」
その姿を見た麗俐は慌てて修也の元へと向かおうとしていたが、その前にカップルにおける女性の方からビームライフルを突き付けられてしまい進路を防がれてしまった。
「おっと、動くんじゃあないよ。こいつであんたのドタマをぶち抜かれたくなければその手を下ろしな」
意味は分からなかったものの「動くな」というカップルの意図は理解した。
麗俐は両手を上げて降伏の意思を見せた。
少し遅れてしまう事になったが、無事に修也たちはマイクの案内する会社へと辿り着いた。
会社の電工掲示板には『ゴールドマン水産社』と書かれていた。
「ゴールデン水産社か……そういえば聞いたことがあるぞ。アメリカの水産業で飛ぶ鳥を落とす勢いだとか」
「えぇ、アメリカのみならずヨーロッパやアジア、中東地帯、アフリカにおいてもその勢力は高く伸びていますよ」
マイクの解説を聞いた修也は感心したような目を向けていた。
「そういえば前の高校でも帰り道にあったゴールドマン水産系列のお寿司屋さんに友だちとよく行ってたよ」
麗俐のいう『友だち』というのは厳密にいえば『取り巻き』のようなものである。
「オレも、バスケ部の活動の帰りによく言ってた」
日本にも進出してしていたらしい。それも他の外資系の飲食産業とは異なり、どこか遠い存在ではなく、大手ハンバーガーメーカーのように悠介や麗俐にとっても身近な存在であったらしい。
修也が感心しているとそのままマイクによって会社の中に案内されていった。
会社の中にある会議室のような部屋で紅茶と茶菓子を薦められていった。
白いカップの中に入ったシンプルな紅茶だった。ただ、せめてものもてなしであるのか、インスタントではないことは分かる。機械の技術は即座に茶葉からお茶を精々できるまでに進歩していたのだ。
茶菓子の方も一流の会社ということだけはあり、専門家が焼いたというパウンドケーキやマカロン、上等のチョコムースやクリーム、そして果物が載ったタルトなどであった。
修也たちは紅茶を啜りながらジョウジとカエデの交渉が終わるまでの時間を過ごしていた。
しばらくの間、そのまま退屈がてらに四人は車の中のようにお茶を飲み、菓子をつまみながら雑談を行って過ごしていた。
その中でもとりわけ話題に昇ったのは先ほどの『明日なき明日を撃つ者』に関する話題だった。
マイクは神妙な顔を浮かべながら「私もそこまで詳しくないのですか」と前置きをした上で自分たちの知る限りの二名の犯罪者についての情報を語っていった。
「あのカップルたちが現れたの二週間前からです。二週間前にマップルス銀行の支店が襲撃されたことが事件のきっかけでした」
銀行に押し入った二人は銀行員や客を殺し、大量のドル紙幣を奪い取ったそうだ。
金額に関しては支店の金庫に納められていた三分の一がなくなるほどの大打撃を受けたらしい。
余談ではあるが、ドル紙幣は火星において最大の価値を持つ紙幣である。ある意味では命よりも大切な金をみすみすと奪われた銀行側の苦悩というのは計り知れないものであったに違いない。
その次に襲撃の標的にされたのは巨大なショッピングモールだった。
ショッピングモールの客たちを人質に支配人から売上金の入った手さげ金庫を強奪し、その場から立ち去っていったらしい。
それから後も時計店や貴金属店、コンビニエンスストアやスーパーといった金が集まる場所を狙っているのだそうだ。
このカップルの恐ろしいところは抵抗する人間ばかりではなく、見せしめのためになんの罪もない人々を殺害する点にあった。
その証拠にカップルは楽しそうな顔を浮かべて命乞いをする客を撃ち殺していた。逃げようとした客や死んだフリをして誤魔化そうとした客も一人一人確認して殺していくという事実に修也たちは戦慄していた。
そればかりではない。道を歩いている最中に車ですれ違い様に銃で撃ち殺された恋人たちもいたそうだ。
「……な、なんて酷い奴らだ」
目の前に広がる惨状を見て、修也は率直な感想を漏らした。悠介と麗俐も明らかにそのカップルに対して引いた様子を見せていた。
感情が冷めたような顔でマイクからの話を聞いていた。
「ただ、こればかりは警察の仕事ですからね。我々が手を出せることではありません」
マイクの言葉は正論だった。仮に自分たちでそのカップルたちと対峙することになったとしても有効な対策手段といえるものは何もないだろう。
いくら優秀なパワードスーツを有していたとしても怪物のようなカップルを相手に立ち回れるかといわれれば自信がない。
これまでに数多の星々で遭遇した本物の怪物よりも凶悪な相手に上手く立ち回れる気はしなかった。
修也たちが深い溜息を吐いていた時のことだ。扉をノックする音が聞こえてきた。
修也たちがノックのした方向を振り返ると、そこには難しい顔を浮かべたジョウジとカエデの姿が見えた。
「ジョウジさん、カエデさん。取り引きの方はどうでしたか?」
「うまくいきましたよ。これでゴールドマン水産との取り引きは終了です。明日は火星の貴金属を扱う会社の中でも一番大きいミダス社へと向かうつもりでいます」
「そうでしたか、それはよかったです。では、私たちもお供させていただきます」
修也は取り引きが成功したことが嬉しくてニコニコとした顔を浮かべながら言った。
「いいえ、明日ですが大津さんたちは交渉の間に観光でもしていてください。なにせ、ここは火星……セキリュティの高さは地球にも負けていませんから」
「いや、その油断がいけないんです!」
修也はここぞとばかりに席の上から立ち上がり、先ほどこの場にいた全員で話していたカップルのことを話していった。
それを聞いた二人は神妙な顔を浮かべていたが、すぐに楽観的な顔を浮かべて言った。
「しかし我々がそんな迷惑な輩に狙われるとも思えません。大津さんの考え過ごしでしょう。それよりも行きましょう」
「行くってどこにですか?」
修也は目を丸くしながら問い掛けた。
「決まってるじゃあないですか。宇宙船にですよ。貨物室から取り引きに使う商品を運んで来なければなりませんから」
それを聞いた悠介と麗俐の両名に落胆の顔が浮かんでいた。
「せっかく、火星に来たというのに我々はまた宇宙船に戻るんですか?」
麗俐は信じられないと言わんばかりに両目を吊り上げながら問い掛けた。
「当たり前ですよ。ホテルなど高くていけません」
ジョウジは鼻息を荒く鳴らしながら言った。その口調から察するにジョウジからは料金の高いホテルに対する嫌悪さえ感じられた。
経費に置いても合理性を求めるところもアンドロイドそのものである。修也は苦笑しながら子どもたちを椅子の上から退かせていった。
その後はゴールドマン水産の前で適当なタクシーを拾ってから発射場へと向かっていった。
もうすぐ発射場へと辿り着く。そう思っていた時のことだ。
目の前からいきなり巨大なバギーが現れてタクシーの進路を止めた。
タクシーの運転手は慌てて浮遊車のブレーキを引いてタクシーを止めると、窓を開いて顔を覗かせて抗議の言葉を叫ぼうとした。
だが、その前にギュルルとモーターが鳴る時に生じる音が聞こえた。
が、次の瞬間にはピューンと独特の音が響いていった。間違いない。ビームライフルから熱線が発射される音であったのだ。
音が聞こえるのと同時にタクシーの運転手の体が運転席の中へと崩れ落ちていった。
目の前で殺人が発生したということもあって麗俐は悲鳴を上げ、悠介は咄嗟にカプセルを取り出していった。
「麗俐! 早く自分のカプセルを出しなさい!」
修也は恐怖に震えて対応が遅れていた麗俐を一喝することによって彼女のカプセルを取り出させた。
麗俐はいつになく険しい父親の声を聞いて思わず両肩を竦ませながらもカプセルを取り出して、万が一の事態に備えることにした。
その時だ。目の前にビームライフルを構えたカップルの姿が見えた。
噂に聞いていた『明日なき明日を撃つ者』たちで間違いないだろう。
修也が両目を広げ、憎悪の炎を瞳に宿しながら身勝手な理由で犯行を続けるカップルを見つめていた。
だが、そんな修也の様子を不快に思ったのか、修也の顎を勢いを付けて蹴り上げていった。
強烈な攻撃を喰らった修也は地面の上へと倒れ込んでいった。
「お父さん!」
その姿を見た麗俐は慌てて修也の元へと向かおうとしていたが、その前にカップルにおける女性の方からビームライフルを突き付けられてしまい進路を防がれてしまった。
「おっと、動くんじゃあないよ。こいつであんたのドタマをぶち抜かれたくなければその手を下ろしな」
意味は分からなかったものの「動くな」というカップルの意図は理解した。
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