メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
46 / 210
開発惑星『ベル』

しおりを挟む
 しばらくの間、修也は気まずさから一言も発さなかった。カエデも修也からの言葉がなかったので一言も言葉を発さないままだった。互いに一言も口をきくことなく互いに周囲の景色を観測していた。

 だが、どこをどう見ても霧ばかりか、そうでなければ水たまりばかりの湿地帯や移動するための地面が続いてくるのでそのうちに飽きてしまったのだろう。

 修也は何度も回した首を元に戻すと、ハァと鉛のような大きな溜息を吐いた。
 修也がそろそろ戻ろうと腰を上げた時だ。

「……大津さん、どうしてあなたは……いいや、人間は『感情』とやらに動かされるんですか? 人間の歴史を資料で読んでいると、感情を優先して身を滅ぼす為政者の話をよく見ます。それなのに人間は感情で動くことを止めようとしない。どうしてなんですか?」

 カエデの質問は修也に対する問い掛けというよりかは人間全員に対する問い掛けであるかのように思えた。

 修也は黙っていた。しばらく黙って熟考していたが、その後落ち着いた口調で答えた。

「……それが人間だからというべきでしょう。確かに人間には強靭な体も優れたコンピュータも脳には組み込まれていません。ですが、その代わりにあるのが『感情』だと思います」

「そんなの非効率ですよ」

 カエデは修也の曖昧な答えに反発したのか、少し厳しい口調で反発の言葉を口にした。

「かもしれません。ですが、人間は『感情』があるからこそ人間なんです。愚かな争いを引き起こし、人を傷つけ合うのが『感情』であるのならば、お互いに助け合って人を思いやる。そんな気持ちも『感情』から出たものなんですよ」

 そう言って修也は優しげに微笑んでみせた。その後は照れ臭そうに頭をかいた。

 それから後は体を冬眠中の熊のように体を埋まらせながら地面の下に目を落としていた。今答えた言葉こそが彼の中にある四十四年の生涯が導き出した結論であったといえるかもしれない。

 カエデは反論を試みたが、具体的な論点などは思い付かなかった。「そんなの非生産的です」などと答えればそれこそ議論に勝てなくなり、感情を喚き散らす人間たちと何も変わらない。

 カエデが難しい顔を浮かべていた時のことだ。リーンリーンとベルを鳴らす音が聞こえてきた。
 それも一つではない。前にジョウジと共に探索に向かった時と同様に周囲を取り囲むようにベルの音が聞こえてきたのだ。

「カエデさん、逃げましょう」

 修也はカエデにこの場から逃げ出すように指示を出し、自身もその場から足を一歩踏み出した時のことだ。深い霧の中から巨大な鋏をカチカチと鳴らしたベルドクガニの姿が見えた。その数はざっと推測したところ千は軽く超えていた。

 修也は咄嗟の判断でカエデを背後に隠したものの、周りをすっかりと取り囲まれていることに気が付いた。やむを得ずに互いに背中を預けて周囲を取り囲む敵に挑むことにした。

「ねぇ、カエデさん……」

「なんでしょうか? 大津さん?」

「蠍ってこんなにしつこく相手を狙うものでしたっけ? それも一体ではなく、複数の数で……」

「地球に生息する蠍は肉食です。ですが、ベルドクガニと異なるのは昆虫や小動物しか食べないことです。人間を食べたという話は聞いたことがありませんし、それに蠍が群れるというのも地球では聞いたことがありません」

 カエデは己のコンピュータに収録されている『蠍』の情報を修也に向かって告げていった。

「では、どうしてベルドクガニは編隊を組んでまで我々を狙ったりするのでしょうか?」

「……現状としては惑星ベルの生き物だから地球上のものとは生態が異なるからとしか言えません」

 ベルドクガニに関するデータはコンピュータにも詳しく載っていないのかもしれない。修也が苦笑していると、修也の手にカプセルが渡された。

「カエデさん、これは?」

「出発前にジョウジさんから預かったカプセルです。これでパワードスーツを装着もしくは蒸着してください」

 修也はカエデから受け取ったカプセルトイを使って『メトロイドスーツ』を使用して強力なパワードスーツに身を包んでいった。

 修也は最初にレーザーガンを握り締めて発射していった。レーザーガンから発射される熱線は弧を描いて集まっていたベルドクガニたちを次々と地獄の釜の底へと落としていっていた。

 だが、一部のベニドクガニたちは死神の手から逃れ、修也たちに飛び掛かってきたのである。
 修也はビームソードを取り出し、襲い掛かってきたベニドクガニたちを叩き切っていった。

 ベニドクガニたちはビームソードの熱に消えていった。

 だが、一部のベニドクガニたちはカエデの肩へと飛び掛かった。そんなベニドクガニをカエデは自身の所有するビームポインターを用いて地面の上やもしくは水たまりの上へと粉々にした状態で叩き落としていった。

 しかしそれを運良く避けた個体がカエデの肩に飛び掛かってきた。

「ぐっ、この」

 カエデはアンドロイドとしての力を振り絞って固体を叩き落としたのだが、この時にタイミングがズレてしまったのか、次々とベニドクガニの個体がカエデを襲い掛かっていった。

 ビームポインターや拳で対応できるのも限界が来たのかもしれない。とうとうカエデの顔に巨大なベニドクガニの個体がいっぱいに貼り付いた。
 修也は咄嗟に向きを変え、顔にへばりついたベニドクガニを自らの拳で弾き飛ばした。

 カエデの顔に付着していたベニドクガニの体が地面の下へと落ちていった。

「カエデさん、無事ですか!?」

「えぇ、しかし大津さん、それであなたの周りに大量のベニドクガニが集まってきています!」

「しまったッ! ちくしょう!」

 修也はビームソードを振り回しながら背中を向けた一瞬の隙に集まってきたベニドクガニたちを追い払おうとしていた。だが、ベニドクガニは修也のビームソードを突き付けられて威嚇されたとしても怯む様子を見せようとしなかった。

 それどころか、絶好の得物だとばかりに次々と飛び掛かっていったのだ。カエデは修也に襲い掛かっていったことで余裕か生まれたこともあって真後ろからベニドクガニたちをビームポインターで撃ち殺していった。

 このことで修也を補助できると思われたのだが、それでも数の上ではベニドクガニの方が上だった。
 すぐにカエデの前にも新たな別のベニドクガニたちが姿を見せていく。正直にいえばキリがなかった。

 このまま戦い続けていればいずれは疲弊し、数の暴力に押されて倒されてしまうだろう。

 修也は一か八かの手段に打って出ることにした。背後にいたカエデを背中に乗せ、自身の背中を強く握り締めるように指示を出すと、ビームソードを振り回しながら宇宙船へと戻っていった。

「大津さん!結構です! ここで私を下ろしてください!」

 修也が戦っている間もカエデはそう叫び続けていたが、修也はカエデの訴えを無視してビームソードを振り回し、飛び掛かってくるベニドクガニたちを叩き切りながら前へ前へと駆けていった。

 走る最中に修也は自身の背中を強く抱き締めているカエデに向かって叫んだ。

「これが人間の『感情』なんです! あなたを置いていきたくない……あなたを無事に我々のホームにまで連れていきたい! そんな思いを抱えているからこそ人間は人間としてやっていけるんですよ!」

 カエデからすれば理解できない思考回路だった。カエデはベルドクガニが好むような肉など持ち合わせていない。
 それ故に置いていったとしてもなんの問題もないのだ。

 だが、修也はわざわざ危険を冒してまで自分を助けようとしていた。修也はそれを『感情』と言った。
 先ほどの自分の問い掛けに対する修也なりの答え合わせにしても唐突だ。
『感情』を持たないカエデは非合理的な行動に首を傾げながら修也におぶってもらっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

ダンジョン配信スタッフやります!〜ぼっちだった俺だけど、二次覚醒したのでカリスマ配信者を陰ながら支える黒子的な存在になろうと思います〜

KeyBow
ファンタジー
舞台は20xx年の日本。 突如として発生したダンジョンにより世界は混乱に陥る。ダンジョンに涌く魔物を倒して得られる素材や魔石、貴重な鉱物資源を回収する探索者が活躍するようになる。 主人公であるドボルは探索者になった。将来有望とされていたが、初めての探索で仲間のミスから勝てない相手と遭遇し囮にされる。なんとか他の者に助けられるも大怪我を負い、その後は強いられてぼっちでの探索を続けることになる。そんな彼がひょんなことからダンジョン配信のスタッフに採用される。 ドボルはカリスマ配信者を陰ながら支えようと決意するが、早々に陰謀に巻き込まれ危険な状況に陥る。絶体絶命のピンチの中で、ドボルは自分に眠る力を覚醒させる。この新たな力を得て、彼の生活は一変し、カリスマ配信者を陰から支え、奮闘する決意をする。果たして、ドボルはこの困難を乗り越え、配信を成功させることができるのか?

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

処理中です...