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皇帝の星『オクタヴィル』
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「帰ってきたぜ。地獄の淵からな」
レ・ラクスがそう吐き捨てるのと同時に婦人たちから悲鳴が上がっていく。
パニックに陥った彼女たちは我先にと会場から逃げ出そうとしたが、その前に槍が放り投げられ、彼女たちの逃げ場を奪っていった。
「逃げるな。逃げようとした奴から殺してやるぞ」
レ・ラクスは低い声で吐き捨てた後で窓から会場の中へと侵入していった。
「オレの目的はたった一つ貴様だけだ」
レ・ラクスはデ・レマを守るように立ち塞がっていた修也に向かって人差し指を突きつけながら叫んだ。
修也はやっとの思いで自身の元に近付いてきたジョウジからその意味を聞いて理解することができた。その後にはレ・ラクスを鋭く尖らせた両目で睨み付けながら答えた。
「分かった。お前の目的は私だな。いいだろう。お前の要求には応えてやる。だが、条件がある。ここにいる人たちには手を出すな!」
「何を英雄気取っていやがる」
レ・ラクスはフンと鼻を鳴らすと、兜の下で不愉快そうに両眉を顰めた。その後に分かりやすく舌さえ打っていた。
だが、それでも何か思うところはあったのかもしれない。レ・ラクスは修也に向かって槍の穂先を突き付けながら言った。
「まぁいい。誰も連れて来ずに一人で庭に出てこい。そこで貴様を葬り去ってやる」
レ・ラクスは親指を後ろに下げ、中庭を指しながら言った。
「分かった。中庭だな」
「あぁ、逃げるなよ。お前らもだぞ! 万が一誰か一人でもここから逃げてみな、この城下町で大虐殺を行うくらいのことはやってやるからな!」
レ・ラクスは勢いよく槍を舞踏会に集まった人々に向かって突き付けながら叫んだ。突然現れたレ・ラクスの剣幕と槍を突きつけられたという恐怖から婦人たちの我慢は限界に達したらしい。腰を抜かし、地面の上に膝を突くとメソメソと泣き始めていた。
婦人たちが大人だというのに情けない姿を見せるのとは対照的にデ・レマ皇女はキッと両目を見開きながらレ・ラクスを睨んでいた。
修也はデ・レマがますますすきになっていった。側にいたジョウジからレ・ラクスの脅しの言葉を聞いて自身も思わず両肩を震わせて怯えてしまったということもあって尚更そのように思ってしまった。
怯えて慌てふためく他の大人たちよりも立派な勇気を持ち、恐ろしい敵に対してもしっかりと向き合える彼女だからこそ修也は守りたかった。懐からカプセルトイを取り出して『メトロイドスーツ』を装着すると決闘の場所として指名された中庭へと向かっていった。
中庭では多くの木が切断されていたり、彫刻のあちこちが壊されてしまっていた。レ・ラクスが修也を城から待つ間、退屈がてらにそれら破壊したということが容易に想像できた。
「来たぞ」
修也は斬り倒した木にもたれ掛かりながら両腕を背後に組んで眠りこけていたが、足音が聞こえるとパッチリと両目を開いた。
「待ってたぜ。さぁ、ここで決着を付けようや」
レ・ラクスは槍の穂先を突き付けながら言った。
修也は答えなかった。いや、正確にいえば答えられなかったというべきだろう。
なにせ今回の決闘には他ならぬレ・ラクスの希望によって通訳であるジョウジを連れて来ていないのだ。
しかしレ・ラクスが槍を突き付けている様子を見るに、彼の心の中で決闘の準備ができているということは容易に想像できた。
修也は無言でビームソードを構えてレ・ラクスの元へと突っ込んでいった。
レ・ラクスは槍を一回転させた後に背後から勢いよく槍を振り上げて修也の体を貫こうとした。
だが、修也はビームソードを盾にして槍が自身の体を貫くようになるのを避けた。
そしてそのままビームソードの剣身を槍の上に滑らせ、レ・ラクスの真正面へと向かっていった。順調に進めば修也のビームソードがレ・ラクスの兜を貫くに違いなかった。
惑星オクタヴィルにはビームソードに耐えられるほどの素材で作られた武器や防具は存在しない。それ故にレ・ラクスはどのような鎧や兜で守られていようともその命を無惨に終えるはずだった。
だが、レ・ラクスは筋力や武力だけではなく知恵も兼ね備えた強敵である。
彼は咄嗟に背後へと下がり、ビームソードを両手に構えたまま突っ込もうとしてくる修也に対して逆に槍を貫こうと試みた。修也は咄嗟に突き立てられた槍の穂先を地面に転がることで回避したのだった。
が、正直にいえば修也の判断が得策であったかは疑問が残る。というのも地面の上に転がるということは一度地面の上に倒れて無防備な姿を曝け出すという隙を見せる上に修也はパワードスーツという重みを背負っている。
これで起き上がるのは一苦労がいった。もちろん戦闘の最中であるのは修也も理解していたので、一度近くの地面の上にビームソードを置くという武器を一度放棄するという行動に出さえして、地面の上から懸命に起き上がろうと努力はしていた。
だが、その前にレ・ラクスが槍を捨て腰に下げていた剣を抜いて飛び掛かってきた。
この機会を逃がしてしまえば修也を倒す機会は二度と訪れない。我を忘れて飛び掛かろうとする姿からはそんな執念を感じさせられた。
逃した獲物をもう一度見つけ、再び食おうと狙いを付けた肉食動物の心境だったのかもしれない。
その気迫といえばよし。気迫を褒めた後で焦るというのが本来のセオリーなのだろうが、今回の修也は違った。
焦るどころか、修也はこの機会を形成逆転の機会へと繋げることにした。両手にビームソードを持ち、地面の上に横たわったまま鎧ごとレ・ラクスを貫こうと試みたのだ。
もっともレ・ラクスはそれを見抜けない馬鹿者ではなかったし、それを避けるだけの運動神経は当然ながら有していた。
彼は敢えて修也の近くの地面の上に落ちてビームソードの餌食になることを避けたのだ。
その後はどちらが早く地面の上から起き上がるかという対決となってしまった。
両者とも懸命に体を動かしたが、修也の方が先に起き上がった。
レ・ラクスとの対決において精神面、体力面などにおいては当然ながら中年の修也よりも少し若いレ・ラクスの方が優れていた。勝負を決めたのは技術力だ。
単なる鎧と比較してパワードスーツには重さだけではなく、バランスのようなものが兼ね備えられている。
そうした点がこの決闘の勝敗を分けることになったのだ。修也はようやく膝をつき、起き上がろうとする一歩手前にまで迫っていたレ・ラクスの腹部を目掛けて勢いよくビームソードを突き刺した。
熱線で生成された他の剣には見られないような茜色の煌めきを帯びた刃は鎧のように硬い筋肉質を容易に貫いていき、レ・ラクスの腹の奥深くへと突き刺さっていったのだ。
レ・ラクスは歯を軋ませながら本能的に両手を用いてビームソードを自身の腹から引き抜こうとしたが、その際に大きく手を火傷してしまった。
そんなレ・ラクスに対して修也は容赦することなくビームソードを引き抜いていった。
彼の口からは血が滲み出ていき、腹部から多量の血がボタボタと溢れていく姿が見えた。
「ぐっ、グゥゥゥゥ」
レ・ラクスは文字通り野獣のような唸り声を上げつつ全身をふらつかせていた。それから焼け爛れて表面が焼け焦げ、血も滲み出ているような悲惨な両手を伸ばして修也に迫っていった。
修也にとってレ・ラクスというのは幼いデ・レマを狙う悪党だった。
そんな悪党であったとしても哀れな状態のレ・ラクスに蹴りや拳を喰らわせてトドメを刺すほど非道な人間ではなかった。
しかし慰めの言葉を書けるような偽善者でもなかった。
ただその姿を見て決闘が終わったということを察して城へと戻っていくだけだった。
と、城に戻る最中にゆっくりと散歩を行うように歩いたことで脳が活性化したのか、修也がレ・ラクスとの記憶を辿っていく中で妙なことになったのを覚えていたのだ。
それはどうしてレ・ラクスが自ら会場に乗り込み、人質を取ったのかということだった。
ガーゴイルを使役することができたのならばガーゴイルを襲わせればよかったし、最初にあんな回りくどい脅し文句を吐かなくてもガーゴイルに見張りをさせれば全て済んだのである。
もしかすればガーゴイルの一件とレ・ラクスとは無関係であるのかもしれない。
修也は会場に戻るまでの道中でそのような結論を導き出した。
今更そんなことを考えても仕方はないが、修也の考えた結論は矛盾という糸が解け修也の頭をスッキリとさせた。
レ・ラクスがそう吐き捨てるのと同時に婦人たちから悲鳴が上がっていく。
パニックに陥った彼女たちは我先にと会場から逃げ出そうとしたが、その前に槍が放り投げられ、彼女たちの逃げ場を奪っていった。
「逃げるな。逃げようとした奴から殺してやるぞ」
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レ・ラクスはデ・レマを守るように立ち塞がっていた修也に向かって人差し指を突きつけながら叫んだ。
修也はやっとの思いで自身の元に近付いてきたジョウジからその意味を聞いて理解することができた。その後にはレ・ラクスを鋭く尖らせた両目で睨み付けながら答えた。
「分かった。お前の目的は私だな。いいだろう。お前の要求には応えてやる。だが、条件がある。ここにいる人たちには手を出すな!」
「何を英雄気取っていやがる」
レ・ラクスはフンと鼻を鳴らすと、兜の下で不愉快そうに両眉を顰めた。その後に分かりやすく舌さえ打っていた。
だが、それでも何か思うところはあったのかもしれない。レ・ラクスは修也に向かって槍の穂先を突き付けながら言った。
「まぁいい。誰も連れて来ずに一人で庭に出てこい。そこで貴様を葬り去ってやる」
レ・ラクスは親指を後ろに下げ、中庭を指しながら言った。
「分かった。中庭だな」
「あぁ、逃げるなよ。お前らもだぞ! 万が一誰か一人でもここから逃げてみな、この城下町で大虐殺を行うくらいのことはやってやるからな!」
レ・ラクスは勢いよく槍を舞踏会に集まった人々に向かって突き付けながら叫んだ。突然現れたレ・ラクスの剣幕と槍を突きつけられたという恐怖から婦人たちの我慢は限界に達したらしい。腰を抜かし、地面の上に膝を突くとメソメソと泣き始めていた。
婦人たちが大人だというのに情けない姿を見せるのとは対照的にデ・レマ皇女はキッと両目を見開きながらレ・ラクスを睨んでいた。
修也はデ・レマがますますすきになっていった。側にいたジョウジからレ・ラクスの脅しの言葉を聞いて自身も思わず両肩を震わせて怯えてしまったということもあって尚更そのように思ってしまった。
怯えて慌てふためく他の大人たちよりも立派な勇気を持ち、恐ろしい敵に対してもしっかりと向き合える彼女だからこそ修也は守りたかった。懐からカプセルトイを取り出して『メトロイドスーツ』を装着すると決闘の場所として指名された中庭へと向かっていった。
中庭では多くの木が切断されていたり、彫刻のあちこちが壊されてしまっていた。レ・ラクスが修也を城から待つ間、退屈がてらにそれら破壊したということが容易に想像できた。
「来たぞ」
修也は斬り倒した木にもたれ掛かりながら両腕を背後に組んで眠りこけていたが、足音が聞こえるとパッチリと両目を開いた。
「待ってたぜ。さぁ、ここで決着を付けようや」
レ・ラクスは槍の穂先を突き付けながら言った。
修也は答えなかった。いや、正確にいえば答えられなかったというべきだろう。
なにせ今回の決闘には他ならぬレ・ラクスの希望によって通訳であるジョウジを連れて来ていないのだ。
しかしレ・ラクスが槍を突き付けている様子を見るに、彼の心の中で決闘の準備ができているということは容易に想像できた。
修也は無言でビームソードを構えてレ・ラクスの元へと突っ込んでいった。
レ・ラクスは槍を一回転させた後に背後から勢いよく槍を振り上げて修也の体を貫こうとした。
だが、修也はビームソードを盾にして槍が自身の体を貫くようになるのを避けた。
そしてそのままビームソードの剣身を槍の上に滑らせ、レ・ラクスの真正面へと向かっていった。順調に進めば修也のビームソードがレ・ラクスの兜を貫くに違いなかった。
惑星オクタヴィルにはビームソードに耐えられるほどの素材で作られた武器や防具は存在しない。それ故にレ・ラクスはどのような鎧や兜で守られていようともその命を無惨に終えるはずだった。
だが、レ・ラクスは筋力や武力だけではなく知恵も兼ね備えた強敵である。
彼は咄嗟に背後へと下がり、ビームソードを両手に構えたまま突っ込もうとしてくる修也に対して逆に槍を貫こうと試みた。修也は咄嗟に突き立てられた槍の穂先を地面に転がることで回避したのだった。
が、正直にいえば修也の判断が得策であったかは疑問が残る。というのも地面の上に転がるということは一度地面の上に倒れて無防備な姿を曝け出すという隙を見せる上に修也はパワードスーツという重みを背負っている。
これで起き上がるのは一苦労がいった。もちろん戦闘の最中であるのは修也も理解していたので、一度近くの地面の上にビームソードを置くという武器を一度放棄するという行動に出さえして、地面の上から懸命に起き上がろうと努力はしていた。
だが、その前にレ・ラクスが槍を捨て腰に下げていた剣を抜いて飛び掛かってきた。
この機会を逃がしてしまえば修也を倒す機会は二度と訪れない。我を忘れて飛び掛かろうとする姿からはそんな執念を感じさせられた。
逃した獲物をもう一度見つけ、再び食おうと狙いを付けた肉食動物の心境だったのかもしれない。
その気迫といえばよし。気迫を褒めた後で焦るというのが本来のセオリーなのだろうが、今回の修也は違った。
焦るどころか、修也はこの機会を形成逆転の機会へと繋げることにした。両手にビームソードを持ち、地面の上に横たわったまま鎧ごとレ・ラクスを貫こうと試みたのだ。
もっともレ・ラクスはそれを見抜けない馬鹿者ではなかったし、それを避けるだけの運動神経は当然ながら有していた。
彼は敢えて修也の近くの地面の上に落ちてビームソードの餌食になることを避けたのだ。
その後はどちらが早く地面の上から起き上がるかという対決となってしまった。
両者とも懸命に体を動かしたが、修也の方が先に起き上がった。
レ・ラクスとの対決において精神面、体力面などにおいては当然ながら中年の修也よりも少し若いレ・ラクスの方が優れていた。勝負を決めたのは技術力だ。
単なる鎧と比較してパワードスーツには重さだけではなく、バランスのようなものが兼ね備えられている。
そうした点がこの決闘の勝敗を分けることになったのだ。修也はようやく膝をつき、起き上がろうとする一歩手前にまで迫っていたレ・ラクスの腹部を目掛けて勢いよくビームソードを突き刺した。
熱線で生成された他の剣には見られないような茜色の煌めきを帯びた刃は鎧のように硬い筋肉質を容易に貫いていき、レ・ラクスの腹の奥深くへと突き刺さっていったのだ。
レ・ラクスは歯を軋ませながら本能的に両手を用いてビームソードを自身の腹から引き抜こうとしたが、その際に大きく手を火傷してしまった。
そんなレ・ラクスに対して修也は容赦することなくビームソードを引き抜いていった。
彼の口からは血が滲み出ていき、腹部から多量の血がボタボタと溢れていく姿が見えた。
「ぐっ、グゥゥゥゥ」
レ・ラクスは文字通り野獣のような唸り声を上げつつ全身をふらつかせていた。それから焼け爛れて表面が焼け焦げ、血も滲み出ているような悲惨な両手を伸ばして修也に迫っていった。
修也にとってレ・ラクスというのは幼いデ・レマを狙う悪党だった。
そんな悪党であったとしても哀れな状態のレ・ラクスに蹴りや拳を喰らわせてトドメを刺すほど非道な人間ではなかった。
しかし慰めの言葉を書けるような偽善者でもなかった。
ただその姿を見て決闘が終わったということを察して城へと戻っていくだけだった。
と、城に戻る最中にゆっくりと散歩を行うように歩いたことで脳が活性化したのか、修也がレ・ラクスとの記憶を辿っていく中で妙なことになったのを覚えていたのだ。
それはどうしてレ・ラクスが自ら会場に乗り込み、人質を取ったのかということだった。
ガーゴイルを使役することができたのならばガーゴイルを襲わせればよかったし、最初にあんな回りくどい脅し文句を吐かなくてもガーゴイルに見張りをさせれば全て済んだのである。
もしかすればガーゴイルの一件とレ・ラクスとは無関係であるのかもしれない。
修也は会場に戻るまでの道中でそのような結論を導き出した。
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