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皇帝の星『オクタヴィル』

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「ちょっと、ジョウジさんッ! あれはまずいでしょ? 早く止めないとあの人が殺されちゃいますよ!」

「別にいいんじゃあないですか」

「じょ、ジョウジさんッ!」

 修也は人間としての感情を有していないアンドロイドといえどもあまりにも冷淡なジョウジの発言を必死になって窘めた。
 だが、ジョウジの言葉は変わらなかった。

「あの人は我々にとって不利な発言ばかりしています。そんな人は我が社にとって百害あって一利なしの存在です。いいじゃないですか?皇帝がわざわざ我らの敵を殺してくれるなんて」

 ジョウジは眉一つ動かすことなく淡々と言ってのけた。

「じょ、ジョウジさんッ!」

 修也は咄嗟に抗議の言葉を投げ掛けた。

 だが、ジョウジはあくまでも冷静な態度で斬られようとしていた太った男を見つめているだけだ。恐らく彼には何を言っても響かないだろう。

「クソッ! 仕方がないッ!」

 修也が駆け寄ろうとしたところを今度はカエデが腕を強く引っ張って静止させた。

「か、カエデさん! 離してくださいよ!」

「今ここであなたが向かったところで皇帝の不興を買うだけですよ。今の私たちにできることはこのまま黙って見つめるだけです」

「で、でも目の前で人が殺されようとしているんですよ!?」

「仕方がありませんよ。それが世のことわりというものです」

「……ッ、分かりませんよ! 世の中のことなんて!!」

 修也はそれでも腕を払っていこうとしたが、アンドロイドの力は予想以上に強力だった。引き離そうとしても機械の力によってその場に留められてしまう。

 このままでは皇帝の手によって太った男が殺されてしまう。その時だ。部屋の窓が割れる音が聞こえてきた。

 修也たちが注意を向けると、そこには蝙蝠のような翼を背中から生やしたグロテスクな顔をした四足歩行の怪物が窓の上から現れた。

 豚のように醜く肥大した鼻にピューマを狙うような鋭く血走った両目、山羊のように曲がった角が特徴的だった。
 怪物はライオンのように尖った牙が生え揃った大きな口からだらしなく涎を垂らしていた。口の端々から無秩序に流れている涎はだらしなく床の上へと落ちていった。

 涎が床の上に直撃するとのと同時に床が溶けていった。床の上に滴り落ちた唾はじゅわじゅわと泡を立てて床が溶けていった。

 あの唾には気を付けたほうがよいだろう。恐らく酸味が含まれている。修也が警戒の目を向けていた時だ。

 怪物が翼を使って部屋の中を滑空したかと思うと、太った男の上に現れそのまま男の頭を目掛けて大きく口を開けて急降下していった。

「や、やめろッ!」

 怪物は修也の叫ぶ声など無視して太った男をそのまま上空から丸呑みにしていった。
 最初は男の悲鳴が聞こえた。が、次は骨を噛み切る音や血が噴き出すといった現実的な音が聞こえてきた。

 やがて怪物は口から骨を吐き出した。太った男のものだっと思われる大きな骨が長机の上に吐かれた。

「お、おのれッ! このガーゴイルめがッ!」

 皇帝は手に入れたばかりの刀を抜くと、ガーゴイルと呼ばれた怪物を目掛けて刀身を勢いよく振り上げていった。

 だが、ガーゴイルはあっさりと刀を交わし、再び部屋の中を飛んでいく。
 そして次に定めた標的は幼い皇女だった。

 ガーゴイルは赤く長い下で口の周りを舐め回し、幼い皇女に向かって急降下していった。

「やめろッ!」

 修也はカエデが鞄の下に隠していたビームポインターを半ば強引に奪い取ると、ガーゴイルの頭を目掛けて熱線を放っていった。ガーゴイルはこれまで受けたこともないような攻撃を喰らったということもあって言葉にもならないような悲鳴を上げていた。

 熱線の苦しみに耐えられず、ガーゴイルは翼をキリキリと回しながら悶え苦しんでいる様子を見せた。

「今だッ!」

 修也は懐からカプセルを取り出し、『メトロイドスーツ』を蒸着した。
 美しく輝く装甲を纏った騎士となった修也を見て周りにいた人々はその格好の良さに思わず感嘆の声を上げた。

 その中でも一番『メトロイドスーツ』を着て怪物と戦う修也の姿に夢中になったのは先ほどその命を助けられた皇女だった。

 自身の危機を救い、家族の誰もが臆するような怪物に颯爽と立ち向かっていくヒーローに彼女は生まれて初めての強い憧れの念を抱いたのだ。

 いや、彼女の目は憧れという感情を凌駕して初恋の心境に至っていたかもしれない。

 修也はそんな熱烈な視線を浴びているということも知らずに『メトロイドスーツ』を身に付けてガーゴイルとの戦闘を始めていた。

 修也はパワードスーツを着用したまま空中で暴れるガーゴイルにしがみ付いていった。ガーゴイルは修也の重さに耐えきれなくなり地面の上へと落下していった。落ちていった時の勢いに任せて修也はガーゴイルと共に長机の上を転がっていったことで燭台と料理を全て地面の上に落としてしまうことなってしまった。

 火事については問題ない。いくら炎が落ちたとしても燃えるものがなければ炎上することはない。それに加えてパニックを起こした重臣たちが生存本能を働かせてタイルの上にこぼれ落ちた燭台から漏れた微かな炎を必死になって消していた。

 長机の上にシーツが敷かれていなかったことは不幸中の幸いだった。修也はホッと一息を吐いた。

 と、同時に机の端に辿り着き、そのまま両名は床の上へと直撃してしまうことになった。

 微かな衝撃が修弥を襲ったが、強力なパワードスーツを着用していたことやガーゴイルの方が先に地面の上に落ちてクッションの代わりになるという偶然が重なったこともあって、修也からすれば落ちた際の衝撃で受けたのはかすり傷のみだった。

 修也はそのままガーゴイルの上に馬乗りとなり、もう一度拳を喰らわせた。

 だが、ガーゴイルの方も負けっぱなしではなかった。殴られ続ける中でなんとか頭を上げて、そのまま鋼鉄の玉のような頭突きを喰らわせた。

 頭突きを喰らいよろめく修也の元から下敷きになっていたはずのガーゴイルは脱出し、今度は頭上から攻撃を繰り出していった。

 頭上から勢いよく降りてきたものの、その勢いに修也が押されることはなかった。

 修也は兜の下できっちり両目を開き、横に下げていたビームソードを抜いてガーゴイルを迎え撃った。

 ガーゴイルは巨大な口を開いて修也に挑み掛かってきた。お互いにお互いの命を狙って宙の上、わずかな一瞬で勝負を付けようとしていた。

 互いにすれ違い様に命を狙うつもりだった。修也はガーゴイルの牙よりも早くビームソードを突き出した。狙うはガーゴイルの腹部だ。

 ガーゴイルもなんとか修也を捕食しようといつもより大きく口を開けていた。
 恐らく今ここにいるガーゴイルにとってこれまでの人生において一番口を大きく開いた瞬間だっただろう。

 だが、天が味方したのはガーゴイルではなく修也の方だった。修也のビームソードはガーゴイルの牙が届くよりも前にその腹を勢いよく突き刺したのだった。
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