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岩の惑星ラックスフェルン

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 夜も深くなってきた。この星は文化レベルが低いためか、夜を照らす星がハッキリと目で確認できた。修也はプラネタリウムにでも来たかのような錯覚に襲われた。

 普段ならば満天の星空が何者にも邪魔されることなく夜の空を煌めいていただろう。だが、今日ばかりは照らしていたのは星の光だけではない。煌々とたかれている巨大な篝火もあったのだ。

 宴会の前に森から集めてきたという枯れ木を使って組み木を作り上げたそうだから驚きだ。

 高々と積まれた薪が付けられた炎をより強くしていたのである。煌々と立ち上る炎はまるで情熱のある踊り子が踊っているかのように左右に振っていた。

 そんな素晴らしい炎の前でこの星の住民たちは普段仕留めていると思われる動物を模した仮面を付けて妙な踊りを始めた。

 恐らく普段は森の中で取れる獲物に対して捧げる儀式なのだろうが、今回は英雄である修也をもてなすため特別に見せてもらえるのだそうだ。

 本来であれば修也にとっては未知のダンスに感じられるはずだった。仮面をかぶってホゥホゥと踊る姿など修也はこれまでの人生でお目に掛かったことはなかった。

 修也が奇妙なダンスに首を傾げるのは当然といえた。

とうとう自分一人で考えるだけでは収まらなかったのだろう。
自身の隣で踊りを鑑賞していたジョウジを手招きで呼び寄せ、踊りを行っている人や踊りを楽しんでいる人の気持ちに水を差さないようにするためか、その耳元に向かって小さな声で問い掛けた。

「ジョウジさん、少しよろしいでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「彼らの踊りですけど、私どこかで見たことがある気がするんです」

「たとえば?」

「テレビか、それともインターネットの動画かな? とにかく、どこかで見たような感じがするんですよ」

「もしかして彼らの踊りはアメリカ先住民たちの踊りに似ている……大津さんはそう仰りたいのですか?」

「そう! それですよ! 昔観た先住民のダンスです!」

 修也は小声ではあるものの両目を輝かせて喜びの感情を吐露した。

「なるほど、確かにアメリカ先住民のダンスと類似している点は多いですね」

 ジョウジは興味深そうに言った。

「でしょう!もしかすればアメリカ先住民のルーツはラックスフェルンから迷い込んできた宇宙人だったりしませーー」

「あり得ません」

 ジョウジは興奮気味に語る修也の言葉をあっさりと切り捨てた。
 自身が咄嗟に考えついた妙案をあっさりと切り捨てられた修也は少し意気消沈した様子で目の前のダンスを眺めていた。

 そんないざこざのようなものはあったものの、宴会はその日の夜中まで続いた。
 翌日修也の前に土で作られた立派なミドルサイズの修也を模った像だった。

 話によればあの宴会の最中に村の職人たちが必死になって焼き上げたのだそうだ。

 二体を製造し、そのうちの一体を自分たちの村の守り神として保管。もう一体を修也に納めるのだそうだ。

 いたせりつくせりの対応であったので、修也はすっかりと気をよくしていた。
 そして別れ際には例の男の子と握手を交わした。

「また来るよ。その時まで元気でな」

 今回は修也の言葉はジョウジによって丁寧に翻訳されたので少年にも伝わったらしい。少年は可愛らしい笑みを浮かべながら小刻みに首を縦に動かしていた。

 修也たちは交易で得た荷物を圧縮し、それを持って来た道を戻っていった。

「しかしよかったですね。今回の交易で我々も相当な利益を得たんじゃあないですか?」

「何を言っているんですか? 大津さん、一度宇宙船に戻るのは荷物を置きに行くだけです。ラックスフェルンの各地を回ってより多くの亀の肉と甲羅を回収するんですよ」

「えぇ!?わざわざこの惑星一つひとつを回っていくんですか!?」

「ご心配なく、村井社長から惑星一つを回るために必要な道具は預かっております」

 ジョウジは宇宙船の奥に置いていた小さな黒いカードのようなものを取り出した。

 ジョウジが握っている小さな黒いカードには赤いボタンのようなものが付いていた。赤いボタンを押すと、黒いカードは民間向けと呼ばれる小型のヘリコプターへと変わっていった。

 目の前に突然現れたそれはターボシャフトエンジンと呼ばれる巨大なエンジンを搭載した巨大なヘリコプターであり、最大で五人まで乗れるという優れものだった。

「す、すごい。しかしどうしてこんなすごいものをポーラでの戦闘に用いなかったんですか?」

「大津さん、思い出してください。ユー将軍が使っていたヘリは軍用ヘリなんですよ。それに対してこれは民間用のヘリなんです。お分かりですか?同じヘリコプターであったとしても用途がまるっきり違うんです」

 相手がアンドロイドであるためか、最後に例えを付け加えることはなく事実のみを冷静に述べていた。
 修也が苦笑していると、カエデが無言でヘリコプターの中へと乗り込んだ。

「か、カエデさん!? ダメじゃあないですか! 免許もないというのに……」

 無断で乗り込んだと思われるカエデに対して突っ込みのような言葉を投げ掛ける修也に対してジョウジはさらりと言った。

「カエデさんは地球上においてヘリの免許を取得しています。こうして広大な惑星を商売で回るためには空を使う必要がありますからね」

 ジョウジの説明は理に適っていた。修也は感心した様子でカエデが運転するというヘリの後部座席に乗り込んだ。

 修也の横にある席の上には圧縮されたメトロポリス社からの商品が置かれていた。先ほど、修也を英雄扱いしてくれた村に提供した商品と全く同じものだろう。これでまた儲けようという算段なのだろう。

 修也はあの村で感じた苛立ちをまた感じることになるのだろう。

 だが、耐えなければならない。これは仕事なのだ。そう言い聞かせて修也は拳を力強く握り締めていた。

 だが、脳裏にあの男の子の笑顔が繰り返し浮かんでいく。その度に罪悪感で胸が締め付けられそうになったのだった。

(オレがやっているのは先人たちが同じ地球の仲間に行った愚かなこととまるで同じじゃあないか……これでいいのか?)

 修也は一人ヘリの中で自問自答していた。考えれば考えるほどに修也の中に湧き立つ罪悪感が強くなっていった。

 結局ヘリが次の村に着くまで修也はずっと内に湧いた感情と戦っていた。
 結果からいえば勝ったのは罪悪感や自身の正義ではなかった。

 自身の感情を押し殺し、二人の護衛に徹するという考えだった。
 そのせいか、ヘリコプターを元に戻し、回収している間も岩石地帯と森林との中間に位置するという村に向かう間も修也は無言だった。

 頑な決意を持って修也は一言も発さなかった。アンドロイドたちとラックスフェルンの住民たちとのやり取りを半ば睨み付けるように眺めていた時だ。

 背後から木が倒れる音が聞こえた。あまりにも大きな音であったので修也が咄嗟に背後を振り返ると、そこには昨日に見た巨大な人喰いアメーバの姿が見えた。

 村の住民たちが悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。

 修也は横にあったビームライフルを構えて人喰いアメーバに挑み掛かろうとした時だ。

 またしても背後から悲鳴が聞こえた。修也が慌てて振り返ると、そこには奥にあった岩場から出てきたと思われる二体の巨大アメーバの姿が見えた。

「なっ、ど、どうなっているんだ!?」

 修也が驚愕の声を上げた時だ。三体のアメーバが一斉に修也へ向かって触手を伸ばしていった。

 まるで、呼応するかのように息ぴったりの攻撃だった。
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