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第三植民惑星ポーラ

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 ルドルフは呻めき声を上げながら両目を開いた。彼の自慢である金色の髪には無数の葉が引っ付いていた。
 計算の通りに無数の樹木が降下した際の衝撃を和らげてくれたらしい。

 ルドルフは両手拳を握り締め自らの命が助かったことを喜んだ。辺りを見渡してヘリの運転手を確認すると、自身のすぐ近くで胸に穴を開け、夥しい量の血を流して倒れている姿が見えた。

 不幸にも衝突際に木の枝が胸に突き刺さったらしい。グロテスクともいえる光景を見てルドルフは咄嗟に目を逸らした。

 哀れな死を遂げた運転手に対して供養の意味を込めて十字を切った。
 それからゆっくりと木の上から降り、森の奥へと向かっていく。

 流石のアンドロイドでも賭けは読めなかったらしい。追ってくる気配はなかった。

 今や自分ははぐれ者だ。ユー将軍の部下でもなければ総督の下に付いている善良な人々でもない。野望さえも消え果てた哀れな元軍人に過ぎない。

 それならば精々悪あがきして太く長くこの世に生きさせてもらおう。

 ルドルフは木の下をくぐり抜けながら自身の荷物が置いてある洞窟を目指していった。一先ずは荷物を返してもらおう。

 後のことはゆっくりと考えればいい。惑星ポーラは広いのだ。総督たちからも将軍たちからも見つかるようなことはないだろう。

 ルドルフはクックッと怪しげな笑みを浮かべながら森の中に姿を消していった。


















 ルドルフが恐ろしい戦場から生還を果たした一方で開拓地の周りではいまだに不毛な争いが続いていた。
 壊れてしまった家の破片の陰に隠れながらビームライフルと実銃を用いての撃ち合いが行われていたのだ。

 その中心にいたのは互いにメトロポリス社製のパワードスーツで身を固めた大津修也とユー将軍の二人だった。

 修也はレーザーガンを、ユー将軍はビームライフルを用いて互いに応戦を行なっていた。

 修也は森の奥で対峙した時に騙されたという怒りもあって躊躇なく引き金を引いていた。
 激しい撃ち合いが続いていたが、ここで両者にとって予想だにしなかったことが起きた。

 そう互いの武器のエネルギー残量が消えたのだ。エネルギーパックを補充しようにも辺りにはエネルギーパックもなければ代わりとなるような武器もなかった。

 修也もユー将軍も武器を放り捨て、互いにビームソードとビームサーベルを手に取って斬り合いを行なっていった。
 ユー将軍はフランス軍士官学校時代にフェンシングを仕込まれていた。その腕はプロにも匹敵するほどのものであったといってもいいかもしれない。

 だが、修也も負けてはいなかった。修也は幼少より剣道を仕込まれていた社長令嬢である方のマリーからお墨付きをもらうほどに剣の腕を高めていたのだ。機械の自動操作だけで攻撃に対応していたのならばユー将軍に敗北を喫していたのだろうが、剣道を仕込まれていたので上手く勝負に持ち込めていたのだ。

 互いの熱線を帯びた剣身が互いの兜に接近するまでに詰め寄っていった。
 あと少し互いの得物が逸れれば兜ごと首を落としかねない。二人の中に生じた緊迫感というのは異様なものであった。
 やっとの思いで二人は後方に足を下げた。それからもう一度得物を構えながら間合いを詰めていく。

 先に仕掛けた方が首を刎ねることができるのだ。気を抜いてはいられない。
 と、気が付けば互いにじわじわと距離を詰め寄っていた。もう相手は目と鼻の先にいる。

 修也はここぞとばかりに大博打に打って出ることにした。ビームソードを振り上げ、ユー将軍の胸元を狙った。

 だが、ユー将軍は自らのビームライフルを盾に修也の『突き』を防いだのである。
 やはりなかなかの強敵だ。修也はビームソードを握る両手に力を込めながらユー将軍を睨んでいた。

 力は込めたものの呆気なくビームソードは飛ばされてしまい、修也の目の前にビームサーベルの剣先が突き付けられた。

「……私の勝ちだ。あの世とやらで私に剣を向けたことを後悔するがいい」

「そうか、じゃあ私も殺すんだな?」

「当然だ」

「じゃあ、最後に一つだけいいか?」

「なんだ?」

 ユー将軍は兜の下で怪訝そうに眉を顰めながら問い掛けた。

「あんたの息子さんが亡くなったことは気の毒だとは思うよ。それに対して総督を責めるのもまだ分かる。けど、どうしてあんたはあんな虐殺をしでかしたんだ?どうして無垢の人々を狙った? あの人たちにも家族がいたはずだ。帰りを待つ家族たちが……」

 激闘による疲労からか、修弥の声は掠れるほど低かった。それでもユー将軍に対して自分が感じた疑問をぶち撒けずにはいられなかったのだ。

「……キミのいう無垢の人々とやらは総督の部下やその家族ばかりだ。つまり奴らは我々が保護する一般人とは大きく異なる。それ故にあのような処置を取らざるを得なかったのだ」

 ビームライフルを握るユー将軍の手が震えた。本当は彼も心の奥底で申し訳ないという気持ちを持ち合わせているのだろう。第一、惑星ポーラを悪逆非道な独裁者から解放するという大義名分で立ち上がったことと矛盾している本来であるのならばここで謝罪の一言でも述べるべきなのだろう。

 だが、ここまでくればもう後には引けない。それ程まで彼の両手は多くの血で染まってしまったのだ。

 修也は同情を禁じ得なかった。これから殺されてしまうというのに敵に感情移入してしまうとは我ながら随分とお人好しなものだ。

 修也は感心するのと同時に苦笑した。このまま両目を閉じてユー将軍のビームサーベルが胸を貫くのを待つつもりだった。
 その時だ。ふと修也の脳裏に家族の顔が浮かんだ。いけない。このまま家族を残して死ぬことはできない。

 修也は首を横に振って自らを奮い立たせると、油断しているユー将軍の兜に向かって勢いよく拳を打ち付けたのである。
 突然のことに動揺して足をよろめかせていた将軍に対して修也は二度、三度と続けざまに拳を繰り出していった。

 その際にユー将軍の手からビームサーベルが落ちたのも見逃さなかった。修也はユー将軍に蹴りを入れて近くの木造の建物の近くへと吹き飛ばした後で将軍が手にしていたビームサーベルを拾い上げた。

「お、おのれッ!」

 と、ユー将軍は怒りに任せて真上の方向から飛び掛かってきた。恐らく、この時将軍は修也が手にしていたビームサーベルの姿が怒りで覆い隠されてしまっていたに違いない。

 そうでなければわざわざ飛び掛かってくるような愚行を犯すような真似はしなかったはずだ。

 修也は両手に構えたビームライフルを勢いよく突き出した。修也が突き出したビームサーベルは飛び掛かってきたユー将軍の腹部をブスリと貫いていった。

「ううっ」と呻き声が聞こえたかと思うと、全身からバチバチと火花が飛んでいく。恐らく腹部に動力源があったのだろう。そこを貫かれて全身の機能にまで麻痺が広がっていったらしい。

 ユー将軍は手を伸ばし、もがき苦しむ
 様子を見せていた。が、すぐに『ロトワング』が爆発し、ユー将軍の体ごと吹き飛ばしたのだった。













あとがき
翌日の投稿に関しましては少し作者側の事情によって難しくなるかもしれません。最悪、翌日、翌々日の投稿は差し控えさせていただくことになるかもしれません。大変申し訳ございませんが、何卒お許し願えれば幸いです。
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