メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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第三植民惑星ポーラ

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「我々は負けたわけではないッ! 必ず奴らに雪辱を晴らしてやるぞッ!」

 ユー将軍の横のヘリに乗り、そこで攻撃を指揮していたルドルフ・ランツベルク大尉は長い金髪をたなびかせながら叫んだ。

「まぁ、待て落ち着きたまえ大尉」

 ユー将軍は黄金のたてがみを持つ若い獅子を落ち着いた口調で宥めた。

「しかし閣下! このまま奴らを放っておいてもよろしいのですか!? あの悪逆非道な総督から惑星ポーラの面々を救うことこそが我々の使命ではなかったのですか!?」

 ルドルフの勇ましい言葉を聞いたユー将軍は難しい顔を浮かべながら腕を組んでいた。

 実際ランツベルク大尉の言う通りだった。ユー将軍は惑星ポーラとそこに住む人々をシャルル・シャロンという総督を名乗る独裁者の魔の手から救うために立ち上がったのだ。ここで引いてしまえばその大義名分も失われてしまうことになる。

 ユー将軍としてもこのまま黙っているわけにはいかなかった。

 だが、先ほどの戦いによってヘリの一台はものの見事に撃ち落とされてしまった。次に打って出ても同じ結果になってしまっては意味がない。

 ユー将軍はヘリによる攻撃を諦めることになった。代わりの作戦として彼が立案したのは奪い取った『ロトワング』を活用したゲリラ作戦であった。

 彼はその名の通りフランス共和国の出身である。そこで将軍の肩書きを得たことからも彼はフランス軍士官学校を卒業している。

 フランス軍士官学校はかつてのサン・シール陸軍士官学校に代わって22世紀の初頭に設立された由緒ある士官学校である。

 サン・シール陸軍士官学校と異なるのは陸海空、そして新たに成立された宇宙軍の士官をまとめて養成するために建てられた学校だということにある。

 当然軍人としての英才教育を叩き込まれていた。それ故に戦史学の学問も頭にあった。
 そのためベトナム戦争の知識は人並みにあった。

「提案があるんだが……」

 と、ユー将軍は手を挙げて自身がベトコンと呼ばれるベトナムゲリラの立案したのは作戦を基にした自身の考えを話していく。

 まず、『ロトワング』を身に付けたユー将軍本人が開拓地に突撃をかける。
 そしてその後に少し戦いその気にさせた敵を自分たちの戦場フィールドである森の中に誘い出すというものだった。

 幸いなことに惑星ポーラは全体を緑色で囲まれた植物の星だ。その中に紛れて相手を討つなど容易いことである。
 ユー将軍は勝利を確信して笑った。

「よし、我々の手であの侵略者を仕留めてやろう。戦闘の素人に我々プロのやり方を見せ付けてやれッ!」

「ハッ!」

 ユー将軍の激励に部下一同が敬礼で答えた。彼らの中に迷いというものは見えなかった。
 彼らの中に存在するのは躊躇いのない軍事行動だけだった。





 


 








「せっかくの条件ですが、流石にこれは飲めません」

 シャルルはジョウジが提出した電子書類を適当にスクロールした後に淡々たした口調で言った。

「なぜです? 惑星ポーラには私どもが提出した書類だけで収まるほどのルビーが取れるとお聞きしましたが」

「確かにルビーは取れます。ですが、我々が使う分も必要だ」

「我々が使う分?」

 ジョウジが首を傾げる。

「左様、我々が通貨として使うための分が必要なんです。この契約内容ではその分まで奪い取ってしまいます」

 シャルルの言葉を理解できずにいた修也を除き、ジョウジとカエデはシャルルが発した奇妙な言葉を聞いて顔を見合わせるより他になかった。

 それもそうだ。惑星ポーラは物々交換によって成り立っている星である。
 原始共産制のような制度で社会が成り立っているような星が通貨を使用しているはずなどなかった。

 だが、シャルルは自身の発言に違和感を感じないどころか、悠然とした表情でジョウジたちを見つめていた。
 かと思うと当惑した様子でシャルルを見つめている二人の姿を見て、してやったりと言わんばかりにふてぶてしく笑ってみせる。

 意地が悪いといえばその通りだ。が、仮にそのことを指摘したとしても彼は言うことを聞かないだろう。

 それどころか平然と開き直るに違いない。随分と器の小さな男だ。
 リョウジとカエデの電子頭脳による分析に狂いはなかった。

 これ以上ここにいても仕方がない。二人がそう判断して椅子の上から立ち上がった時のことだ。
 突然扉が開き、血相を変えた兵士が入ってきた。

「た、大変です! 『ロトワング』に身を包んだユー将軍が現れましたッ!」

「な、なんだと!?」

 部下からの報告を聞いたシャルルはその日腰に下げていたレーザガンを抜いた。

「それで、その数は?」

「一名です」

「何?」

 シャルルは自分の耳が遠かったのかと誤解し、もう一度聞き返したが返事は同じだった。

「舐めやがってッ! あの野郎はどこだ!? オレの手で仕留めてやるッ!」

「お、表ですッ!」

 シャルルの怒りはこれまでに進めていた交渉を中断させるほど大きなものであったらしい。
 彼はレーザガンを携えて宇宙船の外へ繰り出していった。

「あ、あのぅ、何が起こったのでしょうか?」

 事情を飲み込めない修也は恐る恐るといった声でジョウジに向かって問い掛けた。

「敵襲ですよ、大津さん。昨日攻めてきたあの男たちがまた攻め込んできたらしいんです」

「そ、そんなことが……」

「えぇ、ですので我々はここで大人しくしていましょうーー」

「私も行きます!」

 修也の言葉はジョウジにとって理解に苦しむ言葉だった。

「何を言っているんですか、言っておきますけど、我々には関係のないことなんですよ。放っておいてシャルルが死ねば我が社の交渉が有利になるかもしれないんですよ」

 ジョウジは呆れたように言った。

「あの人を見殺しにしろと仰るんですか!?」

「その通りです」

 ジョウジは悪びれる様子も見せずに言った。

「あんたッ! それでも人間か!?」

 修也はすっかりと興奮してしまったらしい。眉間に皺を寄せ、両頬をまだら色に染めている。
 その上でジョウジの胸ぐらを勢いよく掴んだ。

 だが、ジョウジは驚く様子も見せずに冷静な声で窘めるように言った。

「……大津さん。あなたはお忘れのようだからこの際ハッキリと言っておきますが、私は人間ではありません。メトロポリス社によって製造されたアンドロイドなんですよ」

 ジョウジはそう言ってわざわざ自分の顔を開いて見せた。そこにはジョウジを動かすための精密な機械が動いているのが見えた。
 その光景を見て呆然とする修也に対してジョウジは淡々とした口調で言ってのけた。

「我々の中に存在するのは冷徹なコンピュータだけです。言ってはなんですが、血や涙といったくだらないものは存在しておりません」

 そう言われて修也は反論することができなかった。代わりに両目を細めて無言の抗議を行なっていた。

 人間が相手であったのならば修也の行動も多少は意味をなしたかもしれない。

 だが、今目の前にいる相手は人間ではない。強靭な機械の体と冷徹で正確なデータを有し、いかなる時も最高の計算を導き出す冷徹なコンピュータを頭脳として司ったアンドロイドである。

 修也からの無言の非難など意味のないものだ。蚊が刺したほどにも感じていないに違いない。
 修也が悔しげに拳を震わせていた時のことだ。玄関の方で大きな音が鳴り響いた。

 修也が慌てて駆け寄ると、玄関の前には横たわったシャルルとそれに従ったと思われる二、三名の兵士たちの姿が見えた。その前方には彼ら彼女らに危害を加えたと思われる一体のロトワングの姿が見えた。
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