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第二章『第三植民惑星ポーラ』

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「いやぁ、助かりましたよ。なにせこの前の交易船がやって来てから既に一ヶ月も経っていましたからね。我々はてっきり母星に見捨てられてしまったものだとばかり」

 シャルルは冗談たっぷりといった様子だった。太く丸まった体を揺らして笑いながら先導を行い、三人を案内していった。
 星団並びに総督が開拓した土地だというが、切り拓いた森の中に西部開拓時代の小屋を思わせるような木製のログハウスが立ち並んでいるだけだ。

 恐らくシャルルの部下やその家族たちが住む家だろう。
 中央には星団が移住の際に乗ってきたロケットが置かれている。その前にビームライフルを持った男女二人が並んでいる。シャルルがサッと手を振るとそれを合図にビームライフルを引っ込めた。
 シャルルの支配がここまで浸透していることに修也は驚きを感じたほどである。

 ロケットの中を通され、その中にあるミーティングルームに通された。
 パイプ椅子と折り畳みテーブルだけが二列に並べられた簡素な部屋である。
 シャルルは数名の部下と共に奥の机に座り、修也たちは手前の机に座らされることになった。

 そして何名かの部下たちが修也たちの出口を塞ぐかのように余った椅子の上に座っていった。残った兵士たちは扉を出た後にシンプルなブリキのカップの中に入ったコーヒーを持って現れた。

 コーヒーが置かれたことによってようやく会議が始まることになった。
 コーヒーを一口啜った後にシャルルは開口一番に冗談を口にした。

「おたくの社長は意地が悪いですな。御社の商品を求める我々を一ヶ月も放置なさるのですから」

「ハハっ、まさか我が社がせっかく培った交易ルートをみすみす破棄するとでもお思いになられたんですか?社長はいつも気を揉んでおりましたよ」

 これは嘘だ。大企業の社長がいちいち植民惑星など気にするはずがない。
 現在のところフレッドセンが『第三植民惑星ポーラ』について言及したのは出発前の一度だけである。

「新惑星開拓の前に植民惑星ポーラの方に寄ってください。もうそろそろ前に渡した商品がなくなってくる頃でしょうから」

 と、注意を促すくらいものだ。しかしそれをわざわざ馬鹿正直にいう必要はない。出口までの道をシャルルの指揮する兵士に囲まれ、逃げ場がないのならば尚更である。

 人間の心理というものは十分ジョウジの電子頭脳の中に組み込まれている。
 ジョウジはシャルルの部下が淹れたコーヒーを啜りながらそんなことを考えていた。

 ジョウジはアンドロイドというだけのことはあり、今飲んだばかりのコーヒーを電子頭脳でしっかりと解析していた。
 簡単な解析だが、自身に提供されたコーヒーは温度も緩いし、砂糖も妙に多い。

 だが、客人である手前は口に出さないほうが利口というものだろう。なぜか人間は自身の不手際を指摘されると不機嫌になってしまうのだ。
 アンドロイドであっても不味いコーヒーを我慢し、お世辞を言うくらいの気は利かせられた。

「美味いコーヒーですね。この星の豆を使っているのでしょうか?」

「はい! この星で取れたコーヒー豆を使っております! 砂糖もこの星で取れたものを使用しているんですよ!」

 シャルルは興奮した様子で語った。自分が支配する星を褒められたことが嬉しいようだ。

「こんな美味いコーヒーが淹れることが可能な星であっても不足しているものは補えないみたいですね」

「はい、惑星ポーラでは香辛料が不足しております。胡椒やパセリ、セージ、ローズマリーなど……それ以外に地球でしか作れない食品や菓子なども」

「本来であればお支払いは米ドルもしくは日本円でお願いしたいところですが……」

「ハハッ、ご冗談を。我が星にはそのようなものは存在しません。かつての地球上における原始時代のように我々は助け合って生きているのですよ」

 その言葉を聞いてジョウジはこの部屋に案内されるまでに見た西部開拓時代のような光景を思い返していた。
 この星にアメリカドルや日本円が存在していないことは嘘ではないだろう。
 しかし交易が目的で来た以上はタダで帰るわけにはいかない。

 ジョウジは前回の貿易船のデータから算出し、この星から何を回収したのかを思い返していき、それを口に出すことにした。

「……この星ではルビーが豊富に取れるようですね。香辛料や地球製の菓子、携帯ゲーム機やソフトなどをお渡しする代わりにそれをいただきたいのです」

「分かりました。それくらいはお安い御用ですよ」

 シャルルが友好の証として握手を行おうとした時だ。
 どこからか爆発音が聞こえてきた。

「な、なんだ!? 何が起きた!?」

 事態が飲み込めない修也は席の上から立ち上がり、日本語で喚き散らしたが生憎なことにこの場にいる中で日本語を理解していたのはジョウジとカエデだけである。
 ただ切羽詰まった様子から修也が慌ててしまったということだけは会議室に出席していた面々にも伝わったらしい。

 シャルルがフランス語で、

「黙れ!」

 と、一喝した。

 当然ながら修也はフランス語を理解していない。だが、先ほどまで穏やかに会話していた総督が激昂した様子を見て冷静さを取り戻したらしい。

 すぐに椅子の上に戻った。同時にそれまで着席していた兵士たちが立ち上がって会議室の外へと駆け出していく。
 最後にシャルルが向かおうとしたところで、ジョウジが呼び止めた。

「すいません。何かあったんですか?」

「ユーだッ!」

「ユー?あのモーリス・ユー将軍のことですか!?」

 ジョウジの問い掛けにシャルルは太く短い首を小さく縦に動かした。

「総督閣下!モーリス・ユー将軍と何があったのですか!?」

「反乱だ! ユー将軍と奴の手下がわしのやり方にケチをつけて反乱を起こしおったんだ! このロケットに積んでいたヘリ三台を盗んでなッ!」

 シャルルは忌々しげに吐き捨てると、慌てて会議室から去っていった。
 ジョウジはシャルルが立ち去った後を黙って見つめていた。そんなジョウジに向かって背後から修也が恐る恐る声を掛けた。

「あのぅ、すいません。何があったんでしょうか?」

 英語もフランス語も知らない修也には今何が起きているのかが理解できずにいたらしい。
 ジョウジはそんな修也に向かって一つ一つ丁寧に教えてやらなければならなかった。
 説明を聞き終えた修也は両目を丸くして驚いていた。

「えぇ!? そ、そんなことがあったんですか!?」

「えぇ、ともかく我々もここを出ましょう。うかうかしていては我々も紛争に巻き込まれる可能性があります」

 ジョウジに手を引かれ、修也は三人でその場から出て行った。
 外に出ると、先ほどまでは平穏であったはずの景色が一転し、辺りには逃げ惑う人々の阿鼻叫喚が響き渡り、地獄絵図と化していた。
 中央のヘリを左右のヘリが囲むという編成の取れた形で村を襲っていた。
 それに対してシャルル率いる軍隊が地面からビームライフルで迎撃を行うというものだった。

 だが、ヘリの方が有利であるらしく家々が爆弾で焼かれ、何人かの兵士が犠牲になっているのに対してヘリから爆弾を落としている兵士たちはまるで無傷であったというのが総督と将軍との戦力差を物語っているように見えた。
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