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第一章『伝説の始まり』

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 最新パワードスーツ『ロトワング』の最新モデル『メトロイドスーツ』の力は凄まじかった。修也は腕試しとしてメトロポリス内に飼っている適当な惑星からの宇宙生物と対峙する羽目になったのだが、あっという間にそれらの怪物を倒してしまったのだ。

 修也はどちらかといえば運動音痴な部類だ。なのでいくら優れたパワードスーツを身に付けていたとしても体が追いつくはずがない。修也はそう考えていた。

 しかし『メトロイドスーツ』は鈍る修也の体を逆に引っ張り、宇宙生物との戦いをリードするまでとなっていたのだ。

なので状況を説明するというのならば戦いとしては機械に引っ張られるままに動いていき、気が付けばパワードスーツの真横に付けていたレーザーガンやビームソードでメトロポリス社が捕獲した怪物を葬っていたという方が正しいだろう。

 全てを終えた修也は『メトロイドスーツ』の兜部分のみを脱いで、闘技場の柱にもたれかかりながら一休みを行なっていた。パワードスーツに内蔵されたディスプレイ型の時計は修也の前に映し出され、正午の時間を指していた。

 修也はそれを見るのと同時に自身の腹の虫が鳴ったことに気が付いた。
 そろそろお昼が食べたい。修也が頭の中で食事のことを考えていた時のことだ。自動扉が開いて先ほどの女性が姿を現した。

「修也さんお疲れ様です。これ、差し入れですよー」

 女性はポケットから一つのカプセルを取り出したかと思うと、カプセルの先端についている窪みに残されたスイッチを押し、放り投げた。
 スイッチが地面の上に転がっていくのと同時に修也の前に目を見張るようなご馳走が現れた。

 前の会社にいた頃修也の昼食といえば栄養カプセル一錠だった。これは22世紀現在における大抵の日本のサラリーマンが口にする食事であり、特別おかしいことではない。
 22世紀の初頭まで見られた物質による昼食というものは栄養剤に取って代わられ、現在一般人がこうした食事を楽しめるのは夜の時間だけとなっている。

 それ以外の時間は栄養カプセルを口にするだけなのだ。会社にしろ学校にしろそこは変わらない。食事技術が発達した今一時間の休憩を料理などで無駄にしたくはないというのが世の理論である。
 それ故休憩時間を楽しめるのだが、こうした現状に修也はいつも不満を持っていた。

 たまには22世紀の初頭にまで用いられていた『お弁当』を持たせてくれと身内に懇願することもあったが、妻からの返事はいつもノーだった。
 昼休憩を使って有意義なことをしろという有難いお達しがきた。

 そのためやむを得ずにいつも虚しい思いでカプセルを飲み込んでいた修也だったのが、今ではレストランでしか見られないようなご馳走が並んでいる。
 満漢全席と呼ばれる料理で、今でも富裕層しか口にできないような料理ばかりだ。

 フカのヒレやら燕の巣を使ったスープ、熊の手の煮込みなどの珍しい料理が所狭しと並んでいる。その一方で雑誌などを通して掲載される写真で見るよりかは料理が少ないように思われた。
 満漢全席とはいえ昼食である。この後に業務が残っているということもあって品数を少しセーブして提供してくれたようだ。

 大きな黒色の箸を手に取った修也はあまりのご馳走に手を震わせながら料理を摘もうとしたその時だ。
 自身の体がまだパワードスーツの装甲に包まれていることを思い出した。
 どうすればいいのかと頭を悩ませていると、水色のワンピースを着た女性が囁くように言った。

「『メトロイドスーツ』の胸元が空きますよぉ、そこのスイッチを押してください」

 修也が確認してみると、確かに自分の意思で装甲の胸元を開くことができた。胸元の奥には小さなスイッチが内蔵されていた。修也は躊躇うことなくスイッチを押す。すると装甲が外れてバラバラに散っていったかと思うと、後から弾き出された小さなカプセルの中へと先ほど修也が自らの意思で外した兜と共に掃除機の中へと吸い込まれるちり埃のように吸い込まれていった。

 全てが消えた後にはカプセルだけが地面の上に落ちている。
 水色のワンピースを着た女性の説明によれば再度装着を行う際にはカプセルトイの扉部分のみを人差し指で押し、もう一度装甲を用意すればいいのだということだった。

 女性は説明を終えると、一礼を行なってその場を去っていった。修也は女性の姿が消えるのと同時に身軽になった喜びと共に満漢全席へと飛び付いた。
 どれも頬が落ちそうになるほど美味しかった。修也が満足がいくまで食べ終えた後は胃が軽くなるまで昼休みを取ることを許された。

 修也はその間鞄に仕舞っていた携帯端末を取り出し、『ロトワング』と呼ばれるパワードスーツの歴史を見ておくことにした。

 対異星獣対策もしくは対蛮族対策として巨大企業『メトロポリス』によって開発されたパワードスーツ『ロトワング』は惑星移動宇宙船に護衛として同行するアンドロイドが着用するものであるとされ、本来ならば人間が着用するものではなかったとされている。

 そのことは『ロトワング』を開発したメトロポリス社が一番よく理解しているはずだ。それなのに人間である修也にわざわざ従来の『ロトワング』よりも強力なスーツを着用するように勧めてきたのは妙な話だった。

 修也が頭を悩ませていると、訓練室の扉が開かれて再び水色のワンピースを着た女性が姿を見せた。

「大津さん、そろそろ休憩時間終了の時刻です。早くスーツの着用をお願いしまーす」

 修也が慌てて携帯端末に内蔵されていた時計を確認すると、時計の針はとっくの昔に休憩時間終了を告げていた。
 修也は慌ててカプセルトイを取り出し、装甲と兜を取り出すと着用を行なっていく。

 一昔前の特撮ヒーロー番組であったのならばカプセルを押した瞬間自動的にパワードスーツを身に纏うことになったのだろうが、特撮ヒーロー番組と違いそこまでの技術が22世紀の現在は追い付いていないというのが現実の辛いところだ。

 修也はあくせくしながらパワードスーツを身に付けて、次の試験に臨むことになった。
 次の相手として繰り出されたのはなんと自身とは異なる『ロトワング』を身に付けたアンドロイドだった。

 水色の女性によれば目の前にいる金色のパワードスーツにオパール色の鎧を被った量産型の戦闘用アンドロイドが身に付けているのは着用者であるアンドロイドと同じように量産された安物の『ロトワング』であり、傷付けても構わないのだという。

 修也の前にこのアンドロイドを出したのは対人格闘訓練並びに二本足で立つような異星人を想定しての訓練だという。
 修也はそれを聞いてどこか不快感に苛まれることになった。
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