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モスト・オブ・デンジャラス・ゲーム編

中村孝太郎の消失

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「彼女を傷付ける事は許さない……あなたは確かにあたしのゲームを勝ち抜いた。だけれど、予想はしてなかったでしょ?まさか、ゲームの発案者がこんな所にまでやって来るなんて……」
石川葵は笑顔を浮かべながらそう言うと、何のためらいもなく、寿司屋の職人が容赦なく捌くための魚を切る時のようにスルリと孝太郎の脇腹からアーミーナイフを引き抜く。
人間の血液が大量に肉体から放たれるのはどんな時だったのだろう?
刺した時だろうか?いや、違う。答えは刺した刃物を肉体から抜く時。
孝太郎は信じられないという思いで地面に倒れていく。
「ハァハァ……お前はどうしてこの場所に?」
孝太郎は薄れゆく意識の中で必死に言葉を紡ぎながら質問する。
「いやね。最初からずっーとこの工場に隠れて、そうね入り口近くのコンベルトの裏に隠れて見ていたのよ。あなたと大坂凪雪との対決もね。やっぱりあなたは天才ね。でも、たった一つ計算外だったのは……」
葵はそれから悲鳴を上げる凪雪に微笑みを向けて、
「あたしの存在でしょ?彼女の脅威を排除する?そのためにはあたしは監獄から呼び戻された……そうよね?」
葵の問い掛けに凪雪は全身を震わせながら首を縦に動かすばかり。
「まあ、そんな言葉は大義名分……あなたを刺すためのね……だってあなたはこれまでのあたしの人生の中で唯一あたしのキスを拒絶した人間だもの、昌原会長も土方くんも……他の人たちはみんなあたしやあたしの唇に夢中になったのに、あなただけ拒絶の反応を示した」
「そ、そんな理由で刺したのか?イかれてる……」
葵は凪雪の煽りにも反応せずにアーミーナイフをまるで挨拶する時のように笑顔で振り回しながら、
「否定はしないわ、でもね……」
葵は孝太郎の血液によって先端が赤く染まったアーミーナイフの矛先を凪雪に突きつけながら、
「あなただってイかれてるわよ、あんなスケベ親父の宗教を信じているなんてッ!」
葵はそう言うと凪雪の左脚にアーミーナイフを突き立てる。
凪雪は苦痛のあまりに安っぽい特撮ドラマに出てくる怪獣のような叫び声を上げてしまう。
「じゃあ、さようなら……知事にあなたの事は良かったと伝えておいて」
葵はそう言うと学校に遅れそうになって全力で学校に向かう女子高生のような足取りで出口に向かって駆けていく。
孝太郎が薄れいく意識の中で眺めた最後の光景はこの工場の惨劇であった。




「孝ちゃん! お願い! しっかりしてッ!」
折原絵里子は必死な形相で目を覚まそうとしない弟に向かって呼び掛ける。
「姉さん……叫んでしまいたい気持ちは分かりますが、ここは彼を信頼して、どうか落ち着いて……」
「落ち着いて!?ですって!?弟がこんな目に遭っているのに落ち着いてなんかいられないわッ!かなりの時間が経っているから、もうあたしの治癒魔法でも治せないのッ!」
「とにかく、落ち着いて……弟さんの生命はあるんです。ただ目を覚まさないだけなんですよ……」
その言葉を発した救急隊員に絵里子は思わず掴みかかってしまう。
「あなた達医者なんでしょ!?なら、孝ちゃんの意識を戻させなさいよッ!」
「む、無茶を……」
「無茶!?無茶じゃあないわッ!弟はきっと目を覚ますのよ……」
最後の言葉が弱々しく聞こえたのは救急隊員の幻想ではないだろう。
恐らく、彼女も弟の意識が戻る事はないのだろうと推測したのだろう。
彼女は目を泣き腫らしながら、
「もし、もし……弟が目を覚ますとしたらいつなんですか?」
「分かりません。明日か明後日か……それとも一ヶ月後か、半年後か……一年後か……百年後かもしれません」
絵里子は弟1人にこの捜査を押し付けた自分を恨んだ。
そして、あの時に自分の体に鞭を打ってでもリトル・モスクワに向かうべきだった、と頭を掻き毟る。
もう、どうでもいい。今はこの一人ぼっちの弟の側にずっと立っていたかった。





「当法廷は被告三原青子に対して有罪を宣告する。尚、被告はこれまでにも悪質な献金や脱税を繰り返しており、更にはそれを隠すために凶悪犯罪者を出獄させるなど、悪質極まりないものであり、重罰になる事は確定しておいてもらいたい」
三原青子はその裁判長の言葉に思わず被告席から立ち上がり、
「不当判決だわッ!弁護士ィ! 何をしているのよ! あたしは無罪でしょ?さっさと控訴を……」
「いえ、もう証言と証拠が決定的で……逆転無罪は不可能かと……」
その茶色のスーツを着た弁護士の言葉に青子は絶句してしまう。
そして打ちひしがれた様子で女性の刑務官に連れられて退出していく。
絵里子。明美。聡子の3人はその様子を見送ると3人でハイタッチをして、
「やったぜッ!あの女をようやく監獄に送れたなッ!」
「ええ、あたしとっても嬉しいです! 」
「ええ、今回の三原青子の検挙はあなた達のお陰と言っても過言ではないわ、ありがとう……」
絵里子は2人に対して丁寧に頭を下げる。
「え、いいよ……あたし達今回は何もしてないしさぁ~今回は孝太郎さんが頑張ってくれたお陰だよ」
「うん、孝太郎さんには本当に感謝してるよ。間違いないよ。自慢の弟だよ。絵里子さんの! 」
聡子と明美の2人の言葉に絵里子は思わず涙ぐみながら、
「ありがとう、あたしはやっぱり孝ちゃんの姉よ。あの子の事を褒められてこんなに嬉しいんだもの……」
絵里子はそう言って歓喜に渦巻く法廷の中を歩いていく。
そんな打ちひしがれた様子が哀れに思われたのだろう。
聡子は背後から大きな声で、
「そうだッ!今度さ、政府の方で決めたらしいよ! 今朝の新聞に載ってた! 禁煙法が近々廃止になるんだって! 」
絵里子はその明るいニュースに思わず聡子の方に向かって振り返り、
「ありがとう! なら、この後はゆっくりとタバコを吸うとするわ! 」
絵里子はとびきりの明るい笑顔を見せた後に今度は迷う事なく出口へと向かって行く。
その姿を2人は温かく見つめていた。



絵里子は法廷を出た後に雲ひとつない青空を眺めながら、
「ありがとう孝ちゃん……あなたがあたしの弟で良かった」
絵里子は病室のベッド眠っている弟に感謝の念を送る。
絵里子は部屋の鏡に映る自分は今日はどんな姿のだろう、と胸を躍らせて帰っていく。
だけれど、その時の笑顔は最高の笑顔のはずだ。
だって、最悪の悪党を監獄に送り込めたのだから。
弟だってそう言ってくれるはず。絵里子はそう自分に言い聞かせながらも自分の瞳からポロポロと白い真珠のような涙が出てきている事に気がつく。
気がつくと、絵里子は泣いていた。外で人がいるにも関わらずに泣き続けた。
そんな絵里子に孝太郎が、
「泣かないでくれよ。姉貴」
と、言っている声が聞こえた。
絵里子はその弟の声に従って涙を拭い歩き始めた。
その顔には何のためらいもない。絵里子は前に向かって進んでいく。
後悔なんて無い、と言わんばかりに。



あと書き
『魔法刑事たちの事件簿』は今回で最終話となります。
皆さん、お付き合いいただいてありがとうございます。
思えば短期連載のはずなのにこんな長期間の間続いてしまって……。
自分でもビックリしておりますね。
書いている間に年を跨いだり、元号が変わったり、色々ありました。
まあ、これが終わればしばらくは何も書きません。
リアルの方の生活が立て込んでいましてね。
多分、かなり長い間の休載となります。
元々書くのも読むのも好きでして、それでリア友に勧められてこのアプリで書き始めたんです。
今もたまに見直すんですが、処女作『ハプロック神話』本当に酷い(笑)
そして、今回の話は好きな映画とラノベと本の混ぜ合わせのような作品という印象が強いですね。
元々映画も本もアニメもゲームも好きでして、書いている間も色々な作品に触れましたね。
では、また連載しますので、その時をご期待ください! 
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感想 29

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みんなの感想(29件)

みゆ🍎
2019.04.03 みゆ🍎

大坂の陣ーその③まで読ませていただきました。
村西の死と、孝太郎、イワン、赤川との戦いハラハラ続きでした。
村西がイエスにと言って死んだのは、村西自信、教祖が自分にした事はわかってたのでしょうか。
そして、イワンって強いですよね。姉達を狙うとは…。孝太郎も、何度も冷静さを失ってましたし、孝太郎にとって、姉は弱点にもなり強さにもなってますね。
赤川は、なんだかいやらしいタイプだなと思いました。
この先どうなるか展開を楽しみにしつつ、少しづつ物語を読み進めていきますね
*^o^*
解説ありがとうございました。
元号発表まで緊張してたのは、私だけじゃないんだなと安心しました笑
けっこう、世の中もテンション上がってますよね。
各国の反応でロシアが、令和の令が命令のれいだから、日本が他国に命令みたいな事言ってて、ロシアって日本の事よく思ってないのかなぁと思ってしまいました。
そういえば、教祖のとこに女性が、行ってイライラした教祖の気持ち静めるみたいシーンあったけど、教祖って女好きですよね。
そして、女性に対しても、もし教祖にならなかったら何らかの犯罪行為して捕まってる人だろうなと思いました。
でも、この世界には魔法があるから、面白いというか、またこちらの現実世界と違う部分あったりしますよね。
相変わらず、ひとりひとりの人物像や戦う時に見える反応や性格など、読んでてわかりやすく楽しかったです。
また続き、読みに来ます
( ´▽`)ノ

アンジェロ岩井
2019.04.03 アンジェロ岩井

感想ありがとうございます!
すいません。気付かないで・・・朝、来てないだろうと判断して、そのまま行ってしまったんです! 申し訳ありません!

そうですね。3つの勢力のそれぞれの戦士の戦いは書いていて、とっても楽しかったです!
村西は死ぬ寸前に悟ったという設定です。やはり、知り過ぎていたために、教祖に殺されたのだなと。
イワンはロシア人グループの中での最強格として書かせていただきましたからね。
リーダーのミーチェもかなり信頼しているという設定ですから。
姉貴は孝太郎にとって、弱点にも強みにもなれるんですね。設定では、両親に冷たく当たられていた時に、姉だけは優しくしてくれたという設定もありますし、絵里子も絵里子で、孝太郎に対して、一生頭が上がらない理由と弟以上の感情を感じるようになった出来事もありますし(これは後で書かせていただきます)
ともかく、2人は強い信頼関係で結び付いているんです。
赤川は教祖のためなら、何でもやる人間ですから(笑)



ロシアは昔から、あまり日本に対して、いいイメージを持っていませんからね(確か、ソビエト時代からそうだったような気がする)



教祖は本当に「ただのエッチな親父」なんです。僕からしたら、金儲けと自分の欲望のために教団を開いている悪質な奴です。
前作のライター・ヘンプとは180度テロの動機が異なる人物ですね。
多分、性犯罪者となって、刑務所を出たり入ったりしていたと思いますね。
ありがとうございます! 前々作の『ハプロック神話』はあまり登場人物の個性がありませんでしたから、その反省の意味も込めて、この作品を書いておりますね。


確かに、この世界は魔法が存在する1980年代と言っても過言ではないかもしれません(笑)
ありがとうございます! これからも応援していただけたら嬉しいです!

解除
みゆ🍎
2019.04.01 みゆ🍎

長浜の戦いまで読ませていただきました。
今回は、教祖の学生時代の話や、家族の事や色々知れて、興味あったのでとても楽しかったです。
とても優秀だけど、自分中心でしか考えられない本当にサイコパスの見本みたいだなって思いました。
学生時代から片鱗は見せてたのですね。本当に怖い😱
そして刑務所を出て、宗教を…。彼は頭がすごく良くて、なんだか本当にもったいない気がするんだけど、こういう人は一生気付かないのかなぁ自分か悪だという事💧
でも、家族に対しては彼なりの愛情があるのは意外でした。
そして、石川達、険悪な雰囲気でしたが、彼らは、自分中心と教祖に認められたいとが共存してるのかな。
ちょっと子供っぽい言い合い面白かった。でも、こういう所から殺意が…って事もありますよね。時には💧
また、孝太郎がピンチかなっていう場面では、トニーが、隠れて見てて今後、面白い展開ですよね!!
話が行ったり来たりですが、村西も頭良いし、色々入信前に調べたりした上での入信ですよね。それって、こんな頭が良い人も洗脳前に、これだ!って思ってしまうような教団なんですよね。
教祖、スゴすぎ(。•́•̀。)💦
村西にしたって、この、宗教に出会わなければ、輝かしい未来があったと思うと、
やっぱりカルト教団許せないし、孝太郎が早く捕まえてくれたらなとこの先を期待したり。
魔法が、本当に各自色々な物で、楽しいですね。氷の魔法とかも。
元号が令和に決定しましたね!
元号が変わる事や、発表に凄く落ち着かない気持ちだったので、とりあえず発表が終わり、ホッとしました
*^o^*いつも、解説もありがとうございます!
私の回り意外とジョジョファンいたのが最近わかって、けっこう、はまるらしいですね。
また続き読みに来ます!

アンジェロ岩井
2019.04.01 アンジェロ岩井

感想ありがとうございます!
教祖の話は気合いを入れて、書かせていただきましたね!
昌原が昔から危ない人物だというのを証明する良いエピソードになったと思います。
ギムジナウムの話の由来は『飛ぶ教室』ですね。『飛ぶ教室』自体は平穏な話だったんですが、この閉鎖されたギムジナウムには色々と闇があるんだろうなと思って、考案したのが、この話ですね。


本当ですよ。頭良いのに、こんな所で頭脳を無駄遣いするから、彼は失敗したんでしょうね。
昌原に家族愛があるという発想は前に登場した悪役月岡源三郎との対比で書かせていただきましたね。月岡は家族さえも駒としか見ていない男でしたが、昌原は家族にだけは愛はあるという対比を上手く表現できて、良かったと思います。


幹部たちの対立は書いていて、自分でも面白いなと思っていました。ああいう仲間同士の争いが組織を崩壊させるんだなと(笑)
トニーはあくまでも、第三勢力という点なのですが、今回は孝太郎の味方よりになっていますね。


教祖の凄さが伝わっていただけて、ありがたいです。ここは書くのにめちゃくちゃ苦労しましたね。どうやったら、上手く書けるだろうと(笑)
彼はエリートですしね。昌原や学会と出会わなければ、まともな人生を歩めたかとしれませんね・・・


今日はすごく緊張してましたね。いよいよ、来月からですよ。平成も後1ヶ月で終わる事を考えると、何かやり残した事はないかなと思わされちゃいます。
ぼくもですよ。良い言葉が使われていて、良かった🙆‍♂️
ジョジョは傑作ですからね。物凄くオススメの漫画です!
ありがとうございます! これからも応援していただけたら嬉しいです!

解除
みゆ🍎
2019.03.14 みゆ🍎

名古屋城の戦い残照まで読ませていただきました。

トニーの考えは、たまに賛同する所があるんですよね。敵??でも魅力的ですね。
トニーは、日本が好きなのは嬉しい
(๑'ᴗ'๑)そして、昌原の殺害を依頼されましたね💧
なんだか恐ろしいし、面白い展開になってます。
教団のカメラマンの魔法あれ油断しますよね…。とまってしまうってある意味1番怖い。
でも、聡子来た時もやっぱ駄目かなと思ったけど、結果良かった。
聡子は照れ屋なんですね。可愛いなと思いました。
ずっと読みに来たいと思いながらなんだかいろいろやる気のない時期が何週間かあって、やっと読めて良かったです
"(ノ*>∀<)ノ
解説もありがとうございました。
そして、地震の時、心配してくれたとの事、感謝✨
そういう時ちょっと思い出してくれたりしてくれる人いたっていうのありがたいです。
(୨୧•͈ᴗ•͈)◞ᵗʱᵃᵑᵏઽ*♡そして、お誕生日だったのですね。
Happybirthday🍰🍴!!!
素敵な1年になりますよーに✨
お忙しい中小説書くの大変だと思いますが、楽しく読ませてもらってます。
応援してますね
٩(*´︶`*)۶҉

アンジェロ岩井
2019.03.14 アンジェロ岩井

感想ありがとうございます!
トニーはライバル的なキャラなので、他の漫画の例に倣い、たまにいい事をいいますね。トニーの人物像の一部モデルは『ハンニバル』と『羊たちの沈黙』の両方に登場する殺人鬼ハンニバル・レクター博士なので、彼の日本好きもそこからきてますね。

昌原がどうなるのかは、分かりませんね。トニーに殺されるかもしれないし、もしかしたら、信者に裏切られて殺されるかもしれないし。とにかく、今後の展開次第ですね。


カメラマンの魔法は自分で書いていても、恐ろしいなと思いました。彼をどうやって攻略しようかなと、書いている時にすごく悩み、お風呂の中でもすごく悩みましたね。
ええ、聡子が来てくれて、良かったなと思いました。自分でも書いている時に聡子を動かして良かったなと思いました!


そうそう、実は照れ屋さんな所が可愛いなと思いました。『ゼロの使い魔』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒロインたちに見られるツンデレなんかも好きなんですけれど、実は照れ屋な所もいいなと思いました。


やる気のない時期は誰でもありますから! 僕だってそうですよ! 連載を終えて、しばらくしてからは、何のやる気も出ませんし(笑)


僕もやっぱり、気にかけてくれる人がいるのはいいなと思ってます。大阪地震の時も不安な時に皆さんに心配してもらって、すごく嬉しかったですし。
ありがとうございます! また、一年歳を重ねましたね。

ありがとうございます! これからも応援していただけたら、嬉しいです!

解除

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