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モスト・オブ・デンジャラス・ゲーム編

アンタッチャブルの消失

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孝太郎はすっかりと意気消沈してしまったらしく、それからは呆然とした様子で過ごして、日が落ちる頃に帰宅を促されて、自宅へと戻っていく。
無敵と思われたアンタッチャブルはいとも簡単に崩壊してしまい、残されたのは自分1人だけ、そんな思いが孝太郎の頭をよぎる。
次によぎったのは仲間との記憶。様々な事件を解決して、その度に様々な敵や陰謀と対決してきた。
孝太郎は白籠市のアンタッチャブルの名前を付けられたあの日の事を思い出す。



これは刈谷組の経営するレストランで行われていた密造タバコの摘発に踏み込んだ日の夕方に交された会話である。
「いや~よくやったな! 」
孝太郎は自分たちのために用意された白籠市公安部という看板の掲げられた、部屋の机の一室にドシンと腰を下ろして叫ぶ。
「そうね、孝太郎も初めてかと思ったけれど……意外とやるじゃん! あたし見直したよ! 」
絵里子は親指を立ててウィンクしてみせた。
「ありがとよ。姉貴……だけれど、今日はまた昔みたいに『孝ちゃん』って言ってほしいな」
孝太郎の微笑みに絵里子は耳を赤くしながら、
「ば、ば、バカじゃないの!?そんな子供っぽい呼び方……今更恥ずかしいってば! そりゃあ、少し前までは言ったったけど、最近になって恥ずかしいって気付かされたのよ! 」
「姉貴、そんなに照れんなよ」
孝太郎はからかうような笑みを浮かべる。照れる姉が可愛くて仕方がないのだろう。
屈託のない笑顔を見せ続け、
「そうか?昔なら、おれが学生の頃でも『孝ちゃん』呼びだったのにな」
絵里子は今度は頰を真っ赤にして、顔を両手で覆ってしまう。
少しばかり、気まずい空気が流れてしまう。そんな空気を和らげるように声を上げたのは、
「はーい! なら、今からでも『孝ちゃん』呼びでいいと思いまーす」
孝太郎の見出した腐っていない林檎ーー石井聡子が手を挙げて提案する。
「さ、聡子あなたまで!?もう、昔の話じゃん! そんなの蒸し返すのってなんかね……」
絵里子が両手をパタパタと広げて、聡子の提案を否定するが、今度はチームの会計係こと倉本明美が口を挟む。
「わたしも『孝ちゃん』呼びがいいと思います! 理由を上げるんだったら、やっぱりそっちの方が仲の良い姉弟関係が伝わってくるし……それから、このチームの親睦も深まると思います! 」
「あ、明美まで……」
絵里子は何も言えずに頰を膨らませて壁の方を振り向く。
「ハハハ、とにかく考えといてくれよ。あれ普段から言ってくれたら、おれのやる気ももっと上がって、刈谷組の一斉逮捕はもっと早くなるかもしれんしなー」
孝太郎の棒読みに絵里子はコラーと怒りつつも、頭を撫で回していた。
そんな2人の様子を温かく見守る2人。
孝太郎は捜査の合間のこんな何気ない日々が好きだった。望むのなら、永遠に続いてほしいとさえ思っていた。
だが、どうにもそれは難しいらしい。失って孝太郎は初めて『消失』の虚しさを知ってしまったのだから。
孝太郎は重みを引きずりながら、自宅へと繋がる階段を登っていると、自宅の扉の前には石川葵が立っていた。
「お、お前は……ッ!」
孝太郎はすぐさま重く暗い表情を引っ込めて、武器保存ワーペン・セーブからリボルバーを引き抜くが、葵は孝太郎よりも早くレーザーガンの銃口を向けたために、孝太郎は武器を下ろさずにはいられなかった。そして、両手を上げて降伏の意思を示す。
「ウフフフ、それでいいのよ」
葵はそう言うと、自分を睨みつけている孝太郎に再び唇を重ね合わせる。
葵は存分に孝太郎の唇を味わってから、孝太郎の耳元で囁く。「この事件の黒幕を知りたい?」と。
孝太郎は思わずに聞き返す。葵の放った『黒幕』という言葉が気になったから。
「知らなかったの坊や?ボリスの入国を裏で手引きしたのは、東京都知事の三原青子よ……あなた少し前から、都知事の献金問題を追っていなかった?」
三原青子。あの女か……。孝太郎はようやく黒幕の正体を悟った。
いや、心の奥底では気付いていたのかもしれないが、決定的な証拠がないと言う理由で都知事黒幕説を否定していたのではないだろうか。
孝太郎はここにきて確信をもってた事を嬉しく思った。
孝太郎は葵に引き続き質問をする。
「ダメよ……あたしからすれば、これ以上は喋れないわ、最もあたしも都知事に娑婆に出してもらった身だから、大きな事は言えないけれど……」
「そうなんだな、ところで宇宙究明学会の事なんだけれど、あんたはまだ昌原への帰依はあるのか?」
その言葉を聞くなり、葵は歯を食いしばりながら、
「あいつの話はやめて! 口にするだけでも汚らわしいわ! 何が会長よ! あいつは誇大妄想のスケベジジイよ! 責任をあたしに擦りつける所で、あいつは救世主でもイエス・キリストでもない事を確信したの、しかも信じられない事にあんなエッチなおっさんを信奉する馬鹿が日本どころか、海外にまでいるのよ! 信じられないわ! 」
孝太郎はこの時に葵の発した『海外にまで』と言う言葉に眉をひそめる。
孝太郎は葵に海外支部について尋ねてみる。
「知らなかったの?宇宙究明学会はロシアを中心に海外でも活発的に行動を行なっていたのよ。ロシア支部では一年前までロシア支部の支部長を天野さんが務めていたの……でも、そこで川岸さんが天野さんのやり方を批判してね。ものすごい剣幕で天野さんに『天野! お前はおれが折角ロシアで築き上げたコネクションを何壊しとるんや! 責任とれや! 』って怒鳴ってたのよ」
「川岸が天野を叱った?」
「ええ、そこから川岸さんがまたロシアに戻ったのよ。後はあなたも知っての通りよ」
だが、川岸の凄いところはその後にあった。天野がめちゃくちゃにしたロシア支部のコネクションを一年足らずで殆ど戻していた事だ。
そして、ロシアン・マフィアから小型の核爆弾を買い付けるまでの関係に戻した事は評価に値すると言っても良いだろう。
或いはロシアン・マフィアが宇宙究明学会を利用していただけかもしれないが。
孝太郎は今はそんな事はどうで良いと結論付けて、今度は昼間に遭遇した外国人の老人の事について尋ねてみる。
「あたしは分からないわ、でもロシア支部が関わっていると言うのなら、川岸さんが逮捕された後は純粋のロシア人が支部長になっていると言う事くらいかしら」
つまり、今の宇宙究明学会ロシア支部は教祖への帰依心や教団への忠誠こそあれど、昌原道明の直接の手下ではないと言う事だ。
孝太郎は昼間の老人に宇宙究明学会の教義の矛盾をつけば、簡単に自首してくれるかもしれないと考えて、笑っていると、
「そうね、宇宙究明学会の事だったら、明日の晩に天野さんが白籠市のテレビ局に出て、ローカルワイドショーで宇宙究明学会の潔白を訴えるらしいわよ。その時を狙って聞いてみたらどう?」
孝太郎は黙って首を縦に動かす。
葵はそれを見届けてから、レーザーガンの銃口を孝太郎に構えたまま階段を降りていく。
「じゃあね、あなたと話せて楽しかったわ、孝太郎くんだっけ?機会があればあなたを食べてあげたいわ……何だったら、あなたと捜査をしてみるのも悪くないかもしれないわ」
「勝手な事を言うな」
孝太郎の表情が険しくなる。
「あんたの製造した爆弾のせいで、何人の人間が死んだと思っているんだ?1年前の爆破事件を忘れたとは言わせないぞ」
孝太郎の言葉に葵は眉をひそませている。
そこから、大きく溜息を吐き、
「そうね、分かっているわ……でも、あなたも十分に大きな脅威に襲われていると言う事を自覚してほしいわね」
そう言って不気味に笑う葵の顔が孝太郎は不気味に思われた。
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