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モスト・オブ・デンジャラス・ゲーム編

動き出すプラグラム

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「すなわち、この段階では宇宙究明学会は宗教法人として認められており、批判される通りはどこにもないんです! おかしいのは警察や司法の方なんです! 」
天野文一は今日もワイドショーに出演して、右手で持ったクリップ版を左手で叩いて、様々な人間に教祖と教団の身の潔白を訴える。
「そもそも、容疑者は全員黒! そう言う今の警察の視点こそがおかしいんですよ! 警察は我々を敵視して、たった一つの出来事しか見ないようにしているんです! すなわち、私たちが有罪だと言う一点のみに……ッ!これはもう司法国家としての前提が崩れていると言っても過言ではないんです! 」
天野文一は半ば絶叫するように国家を訴えるが、この番組に出演した言論人からは白い目で見られるばかり、そのうちに推理作家を名乗る白髪の中年の男性が天野に核爆弾の件を問いかけると、
「今の段階ではハッキリとした事が言えないのですが、教団はこの新井が持っていた核爆弾は警察が、宇宙究明学会を潰すために仕組んだ物だと認定しております」
天野文一は大きく口を開き、まるで幼児に言い聞かせるような口調で言ってのける。
「つまり、天野さんが仰るには宇宙究明学会の強制捜査は不当捜査だと仰られるんですか?」
このワイドショーの司会者役を務める60過ぎと思われる黒い髪よりも白髪の目立つ七三分けの男性が天野に問うと、
「ええ、間違いありません。今のこの段階においては、竹部政権の閣僚の1人がスキャンダルで追及されていますよね?それを隠し、政権の安定を図るために宇宙究明学会は生贄にされたんですよ! これは信教の自由の剥奪どころの騒ぎではなく、この国の司法が忠誠レベルだと世界に訴えられるレベルなんです! 」
天野は半ば絶叫するように自分の考えを主張していく。
「そもそも、昌原道明会長は来年には都知事選挙に出馬する予定だったんです。勿論、自共党でも、自葵党でもなくね! 」
天野は党名をフルネームで言うことはなく、敢えて略すことによって、視聴者や周りの人間を飽きさせないようにしている。
そして、天野は右腕を振り上げながら、
「この昌原会長の行動を脅威に感じた、両党が抑えにかかったんです! 両党の意見の合意によって、たった一つの宗教団体をマスメディアを使って、悪役に仕立て上げることに成功したんですよ! 」
全員が全員呆れかえるしかないと思われた意見であったが、何人かのパネリストは内心天野の意見に賛同していた。
両党には少しばかり不満を持っていたのも確かであるし、何よりも天野の語る陰謀論には説得力があったから。
「天野さんの意見も少しは分かりました。では、ここでCMに入りましょうか」
司会者役のアナウンサーがCMに入る事を告げ、議論は休息を迎えた。




「この後どうなるんだろうな?」
石井聡子は携帯端末のイヤホンを外して、ソワソワとした目つきで孝太郎に尋ねる。
「どうだろうな……天野の奴はやり手だし、教団のスポークスマンというのも間違いはないだろう。ただ、魔法師としても優れていた、赤川友信とは違い、口だけの上に教祖に反抗的、おまけに魔法師としても大したことはなかったから、昌原から疎ましく思われて、ロシアの方に左遷させられていたらしいぜ」
「資料によると、天野が帰還したのが、今から2日前ですよね。それからですよね。特集が日本全国競馬大会のニュースから、また宇宙究明学会の特集に変わったのは……」
明美は携帯端末から見える、テレビ欄を孝太郎に見せながら問いかける。
孝太郎は明美の質問に首を縦に動かして返答する。
「そうそう、匿名掲示板の日本全国競馬大会に関する版でも、今年の報道は異常だって言ってたわ、例年に比べて、盛り上がる期間が少な過ぎたって……」
「だろうよ。日本全体を揺るがす大事件だったからな。他のニュースを取り上げるのも少なくなるだろうさ」
絵里子はその言葉を聞くなり、遠い目で何処かを見つめている。
「姉貴どうしたんだ?」
孝太郎が問いただすと、
「ええ、折角の孝ちゃんの晴れ舞台だったのに、どこも報じないのは悲しいなって……」
「まあ、前例のない殆どないテロ事件だったからな。日本だと確か1995年の……」
と、孝太郎が話そうとすると、いきなり扉が開けられ、
「おい、孝太郎! 今すぐオレと来てくれ! 」
柿谷淳一が息を切らしながら入室する。そして、いきなり孝太郎の右腕を握り締めて、部屋から連れ出す。
そして、男子トイレの前にまで来て、ようやく息を切らす。
「聞いてくれよ! 宇宙究明学会の石川葵が 拘置所から出所しやがった! 」
「何だと!?」
孝太郎は驚くよりも前に肌を紅潮させて、激怒している自分がいる事に気がつく。
気がつくと、淳一の胸ぐらを掴んで、
「あいつらが!?一体どんな奴があいつを釈放させやがったッ!」
「ま、まだ分からねえ……噂の範囲でしないからな……ただ、これだけはハッキリ言えるぜ、そのうちに残りの連中も殆ど釈放されるって事だな。宇宙究明学会の連中は死亡した教祖の昌原道明いや、松中鈴雄か?そいつと村西秀夫を除いて、全員が現存する宇宙究明学会に復帰する可能性が高いって事だな」
淳一の言葉が本当なら、宇宙究明学会が再び勢力を増すという事なのだろう。
しかも、自分たちが命をかけて捕らえた相手が易々と娑婆に出てしまう事になる。
孝太郎はそう考えると、居ても立っても居られ無くなってしまう。
孝太郎は拳を強く握り締めてから、出口へ向かおうとする。
「おい、どこに行くんだよ!?」
淳一は孝太郎の元に走って行き、ちょうど白籠市公安部の部屋の前で、孝太郎の右腕を掴む。
孝太郎は掴まれた手を必死に振りほどこうとしながら、叫ぶ。
「決まってるだろ! 白籠市の人たちに! 」
「知らせるつもりか!?無駄だよ! それに知らせたところで、お前の言う事を信じると思うか!?笑われるのがオチだぞ! 」
その言葉を聞いて、孝太郎は唇を噛み締めながら、
「分かったよ。だが、オレ達で出来ることはやってみるよ」
「それでこそ、お前だよ。あの刈谷阿里耶に1人で立ち向かったお前なら、絶対に今回もやれるさ」
「ふん、お前に言われるまでもないさ」
孝太郎はこの会話で緩んだであろう、淳一の手を振りほどいて、公安部の部屋に戻る。
孝太郎がドアノブを握って、拘置所に出掛けようとする事を告げると、倉本明美が孝太郎の元にまで追い縋ってきて、真っ青な顔をしながら立っており、孝太郎に向かって一枚の書類を手渡そうとしていた。
「これは?」
孝太郎は眉をひそめながら尋ねる。その孝太郎の問いに明美は答えようとするが、声が出てこない。
一体何があったのだろうと尋ねようとする、聡子が代わりに口を開く。
「田山浩三郎によって殺されたとされる犠牲者の数とこの街の行方不明者の数が合わないって事だよ。全部が全部田山のせいとは言わないけれど、田山の事件を調べてみて分かったんだよ。あいつには!! 」
その言葉に孝太郎は思わず耳を疑ってしまう。
例年の行方不明者数はどの街よりも8倍のはずなのだ。それなのに田山浩三郎が殺人を犯していない時期があった。
どう言う事なのだろう。孝太郎は聡子に次なる説明を求める。
「うん、実はさ、あの後に白籠市の行方不明者数と田山浩三郎が製作したと思われる蝋人形の数を比べてみたんだ……すると、田山浩三郎が犠牲者を元に製作したと思われる蝋人形の数と例年の行方不明者数が合わないんだよ」
孝太郎は思わず生唾を飲み込んでしまう。
「それに田山が殺人を行わなかった時期の事や、さらに突き詰めれば、田山が殺人を犯す前にも行方不明者は今よりも多かったんだ……」
孝太郎はその言葉に思わず肩を震わせてしまう。
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