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ビッグ・ホース・レーシング編
試合二日目ーその③
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周孟風は自分に襲い掛かってくる、2人の選手を軽く倒してしまう。
特別な事をしたつもりはない。ただ、彼らがあまりにも弱過ぎるのだ。
あまりにも、脆くて弱い。それが、周がこのレースの選手に抱いた印象。
どんな事があっても、覆せるものではないだろうと思っていた。
関東中央大学の選手に出会うまでは。
「試合はどうなっているんだ!?残りはもう2人しかいないのか!?」
そう会場のスタッフに詰め寄っているのはハゲ頭で中年の腹の出た、いかにも女性にモテないとアピールしているような男。
男は若いスタッフにレースの結果を教えろと、しつこく詰め寄っているが……。
「だからダメなんですよ! 周選手がどのような魔法を使ったのかは、私どもにも分からないんです。正直に言えば、お客様や私のような弱い魔法師では、ハッキリとした原因すら……」
「原因すら分からないと言いたいのか!?しかも、オレの事をバカにしやがったッ!」
中年の男がスタッフの男性に拳を振り上げようとした時だ、
「彼の魔法ですよ。彼は身体強化魔法を使って、2人の選手をその腕で馬の上から転げ落としたんです」
長い金髪の美男子の解説に中年の男は納得した旨を伝えて、スタッフを放して、自分の席へと戻っていく。
「大丈夫ですか?」
甘いマスクの貴公子はそうスタッフに問い掛ける。
「は、はい……ありがとうございます。でも、バイトでやってるのに、本当にダメだな、ぼくって」
愚痴るように喋る青年の声がエミリオの胸に響いたのだろう。
エミリオは青年に良かったらと……。話を聞く事を伝える。
「本当ですか!?ありがとうございますッ!実は少し前に事務所を移転したんですよ。ぼく……」
青年の話によると、彼は売れないアイドルらしい。
彼の前の事務所はあるテレビ局と結ばれていたのだが、そのテレビ局のプロデューサーの不祥事が発覚して、それをキッカケに彼も事務所の移転を決めたらしい。
こんな、人をモノ扱いするような場所にはいられないと。
「つまり、今の事務所は収入があまり無いから、あなたの収入も少ない……だから、バイトを?」
「ええ、そうなんです」
青年はそう弱々しく微笑む。
「でも、今回のバイトはそれだけじゃあなくて、この日本最大のレースを見たいっていうボクの欲求もあったんです! 」
「フフ、なら楽しんでよ。ぼくもキミを楽しませるから」
エミリオはナンパ男が女性に吐くようなセリフを吐いてから、その場を離れる。
自分に席に戻る途中で、青年の名前を尋ねなかった事を思い出し、せめて名前くらい聞けば良かったなと笑っていると、
「ちくしょう! テメェらぶっ殺してやる! 」
と、穏やかでは無いセリフが聞こえてくる。
「一体何があったんです?」
彼は聴衆の1人に尋ねる。
「さっき、負けたうちの一校が暴れ出してね、今警備の人たちが鎮圧にあたっているんだッ!」
エミリオは上の方の席で騒がしかった理由を理解する。
「それ以上、暴れんじゃあないッ!テメェの脳みそ吹っ飛ばしてもいいんなら、別だけどよぉ~!!! 」
「黙れッ!お前にオレの気持ちが分かるかよ!?折角手塩にかけて育てた選手があんな中国人に一瞬でやられた、オレの気持ちがよぉ~!!! 」
どこかの中央大学の競馬部のキャプテンと思われる男は武器保存から取り出したと思われるショットガンを振り回しながら叫んでいる。
「それにこの大会自体、テロリストから予告受けてんだろ!?なら、その前にオレがこの大会をめちゃくちゃにしてやるよォォォォ~!! オレの銃でよォォォォ~!! 」
「とにかく、その銃を一旦下ろして、考えてみよーぜ、あんたの一生がこんな所でめちゃくちゃになる前にさァ~」
小柄な青髪の婦警と思われる女性は銃口を構えたまま、男を牽制する。
「大学4年生のこの大会は一生に一度しかないんだッ!それなのに……」
「なあ、あんたももう20歳超えた大人だろ?そんな、子供みたいなこと言わないでさぁ~」
少女のように小柄な少女の説得は続く。
しかし、男は一向に銃を下ろそうとはしない。
青髪の小柄な少女が、どうしようもないなと途方にくれる感覚に陥っていた時だ。
「情けないわ、あなたそれでも男なの?」
1人の美しい、恐らく街を歩けば、10人中5人が思わず振り返ってしまような美人が腕を組みながら、どこかの大学のキャプテンと思われる男を睨みつけている。
「いい、あたしの弟はね、馬なんてあんまり操った事もないのに、奮闘しているのよ! それに、他の大学のキャプテンを見て見なさい! レースはこの後にも2回あるし、明日だってあるんでしょ!?なら、次に賭けてみようとは思わないの?」
血色の悪い男が何か躊躇いのような物を見せている時だ。
「う、うわッ!何をするッ!」
会場の他の警備の人間に押さえつけられてしまう。
「やれやれって感じね、全くこんなんじゃあ、弟が安心してレースに臨めないわ」
と、独り言を呟いた後に警備の人間に警察署にまで連れて行くように指示を出す。
男は複数の人間に抱えられながら、警察署へと向かって行く。
それから、女性は警備の人間によって、彼は九州中央大学のキャプテンだという事を知る。
女性が再び持ち場に戻ろうとした時だ。
「あの……」
と、1人の長い緑色髪をした女性がやって来る。
「あたしに何か?」
「ええ、平戸くんの事なんですけれど……」
会場で暴れた男子は平戸というらしい。
女性はへぇーという納得付いたような独り言を呟いてから、自分の元にやって来た女性に何をしてほしいのかを尋ねる。
「平戸くんは元々癇癪持ちなんです。それに仲間思いな一面があって……どうか、あんまり重い罪にしないで! 」
女性は暫く考え込んだ素振りを見せた後に、分かったという旨を告げる。
「分かったわ、彼の処分は大目にみるわ、大会の方にもあたしからかけあって、九州中央大学が明日もこの後の試合に出るように頼んでみるわ」
長い緑色の髪の女性はその言葉を聞くと、何度も何度も頭を下げて感謝の言葉を述べる。
それから、手を振って自分たちの席へと戻って行く。
「フフフ、可愛い所あるわね、それよりも……」
女性は携帯端末を取り出して、署に連絡を入れる。
「……という事よ。彼は九頭龍とは何の関係もないから、早めに釈放してあげられないかしら?」
「分かりました。何とか、してみましょう。折原警部……」
絵里子はありがというという言葉を述べてから、端末の電源を切る。
それから、先程の青い髪の小柄な少女がこちらに近寄って来る。
「あいつら制圧できてよかったー! これもあんたの説得のお陰だよ! 」
「あら、あれは聡子の脅しが効いたからじゃあないの?」
「そうかなぁ~」
少女に間違えられそうな小柄な少女は謙遜のような言葉を言ったものの照れ臭そうに頭をかく。
「それよりも、孝太郎さんだよ! あの人、何やってんだろ?」
「モニターを見てみれば、分かると思うわ! 」
絵里子は廊下に立ちながら、観客用のモニターを眺める。
そこに映し出されていたのは、周孟風と激しい戦いを繰り広げている弟の姿。
「孝ちゃん……」
絵里子は目を瞑りながら、両手をクリスチャンがお祈りをするような時のような形で組み合わせる。
「お願いします。どうか、弟を……」
必死に弟の身を案じる絵里子の姿が、聡子はどことなくいじらしく感じられた。
聡子は「大丈夫だよ。孝太郎さんは世界を救った救世主だし、あんな奴に負けたりしないさ」と呟いてやりたかったが、ここはグッと我慢して、その言葉を何とか飲み込む。
この場は黙って彼女を見守っていた方が得策だと感じられたから。
すいません。今回から2日に分けての投稿となります。
本当に申し訳ありません。
特別な事をしたつもりはない。ただ、彼らがあまりにも弱過ぎるのだ。
あまりにも、脆くて弱い。それが、周がこのレースの選手に抱いた印象。
どんな事があっても、覆せるものではないだろうと思っていた。
関東中央大学の選手に出会うまでは。
「試合はどうなっているんだ!?残りはもう2人しかいないのか!?」
そう会場のスタッフに詰め寄っているのはハゲ頭で中年の腹の出た、いかにも女性にモテないとアピールしているような男。
男は若いスタッフにレースの結果を教えろと、しつこく詰め寄っているが……。
「だからダメなんですよ! 周選手がどのような魔法を使ったのかは、私どもにも分からないんです。正直に言えば、お客様や私のような弱い魔法師では、ハッキリとした原因すら……」
「原因すら分からないと言いたいのか!?しかも、オレの事をバカにしやがったッ!」
中年の男がスタッフの男性に拳を振り上げようとした時だ、
「彼の魔法ですよ。彼は身体強化魔法を使って、2人の選手をその腕で馬の上から転げ落としたんです」
長い金髪の美男子の解説に中年の男は納得した旨を伝えて、スタッフを放して、自分の席へと戻っていく。
「大丈夫ですか?」
甘いマスクの貴公子はそうスタッフに問い掛ける。
「は、はい……ありがとうございます。でも、バイトでやってるのに、本当にダメだな、ぼくって」
愚痴るように喋る青年の声がエミリオの胸に響いたのだろう。
エミリオは青年に良かったらと……。話を聞く事を伝える。
「本当ですか!?ありがとうございますッ!実は少し前に事務所を移転したんですよ。ぼく……」
青年の話によると、彼は売れないアイドルらしい。
彼の前の事務所はあるテレビ局と結ばれていたのだが、そのテレビ局のプロデューサーの不祥事が発覚して、それをキッカケに彼も事務所の移転を決めたらしい。
こんな、人をモノ扱いするような場所にはいられないと。
「つまり、今の事務所は収入があまり無いから、あなたの収入も少ない……だから、バイトを?」
「ええ、そうなんです」
青年はそう弱々しく微笑む。
「でも、今回のバイトはそれだけじゃあなくて、この日本最大のレースを見たいっていうボクの欲求もあったんです! 」
「フフ、なら楽しんでよ。ぼくもキミを楽しませるから」
エミリオはナンパ男が女性に吐くようなセリフを吐いてから、その場を離れる。
自分に席に戻る途中で、青年の名前を尋ねなかった事を思い出し、せめて名前くらい聞けば良かったなと笑っていると、
「ちくしょう! テメェらぶっ殺してやる! 」
と、穏やかでは無いセリフが聞こえてくる。
「一体何があったんです?」
彼は聴衆の1人に尋ねる。
「さっき、負けたうちの一校が暴れ出してね、今警備の人たちが鎮圧にあたっているんだッ!」
エミリオは上の方の席で騒がしかった理由を理解する。
「それ以上、暴れんじゃあないッ!テメェの脳みそ吹っ飛ばしてもいいんなら、別だけどよぉ~!!! 」
「黙れッ!お前にオレの気持ちが分かるかよ!?折角手塩にかけて育てた選手があんな中国人に一瞬でやられた、オレの気持ちがよぉ~!!! 」
どこかの中央大学の競馬部のキャプテンと思われる男は武器保存から取り出したと思われるショットガンを振り回しながら叫んでいる。
「それにこの大会自体、テロリストから予告受けてんだろ!?なら、その前にオレがこの大会をめちゃくちゃにしてやるよォォォォ~!! オレの銃でよォォォォ~!! 」
「とにかく、その銃を一旦下ろして、考えてみよーぜ、あんたの一生がこんな所でめちゃくちゃになる前にさァ~」
小柄な青髪の婦警と思われる女性は銃口を構えたまま、男を牽制する。
「大学4年生のこの大会は一生に一度しかないんだッ!それなのに……」
「なあ、あんたももう20歳超えた大人だろ?そんな、子供みたいなこと言わないでさぁ~」
少女のように小柄な少女の説得は続く。
しかし、男は一向に銃を下ろそうとはしない。
青髪の小柄な少女が、どうしようもないなと途方にくれる感覚に陥っていた時だ。
「情けないわ、あなたそれでも男なの?」
1人の美しい、恐らく街を歩けば、10人中5人が思わず振り返ってしまような美人が腕を組みながら、どこかの大学のキャプテンと思われる男を睨みつけている。
「いい、あたしの弟はね、馬なんてあんまり操った事もないのに、奮闘しているのよ! それに、他の大学のキャプテンを見て見なさい! レースはこの後にも2回あるし、明日だってあるんでしょ!?なら、次に賭けてみようとは思わないの?」
血色の悪い男が何か躊躇いのような物を見せている時だ。
「う、うわッ!何をするッ!」
会場の他の警備の人間に押さえつけられてしまう。
「やれやれって感じね、全くこんなんじゃあ、弟が安心してレースに臨めないわ」
と、独り言を呟いた後に警備の人間に警察署にまで連れて行くように指示を出す。
男は複数の人間に抱えられながら、警察署へと向かって行く。
それから、女性は警備の人間によって、彼は九州中央大学のキャプテンだという事を知る。
女性が再び持ち場に戻ろうとした時だ。
「あの……」
と、1人の長い緑色髪をした女性がやって来る。
「あたしに何か?」
「ええ、平戸くんの事なんですけれど……」
会場で暴れた男子は平戸というらしい。
女性はへぇーという納得付いたような独り言を呟いてから、自分の元にやって来た女性に何をしてほしいのかを尋ねる。
「平戸くんは元々癇癪持ちなんです。それに仲間思いな一面があって……どうか、あんまり重い罪にしないで! 」
女性は暫く考え込んだ素振りを見せた後に、分かったという旨を告げる。
「分かったわ、彼の処分は大目にみるわ、大会の方にもあたしからかけあって、九州中央大学が明日もこの後の試合に出るように頼んでみるわ」
長い緑色の髪の女性はその言葉を聞くと、何度も何度も頭を下げて感謝の言葉を述べる。
それから、手を振って自分たちの席へと戻って行く。
「フフフ、可愛い所あるわね、それよりも……」
女性は携帯端末を取り出して、署に連絡を入れる。
「……という事よ。彼は九頭龍とは何の関係もないから、早めに釈放してあげられないかしら?」
「分かりました。何とか、してみましょう。折原警部……」
絵里子はありがというという言葉を述べてから、端末の電源を切る。
それから、先程の青い髪の小柄な少女がこちらに近寄って来る。
「あいつら制圧できてよかったー! これもあんたの説得のお陰だよ! 」
「あら、あれは聡子の脅しが効いたからじゃあないの?」
「そうかなぁ~」
少女に間違えられそうな小柄な少女は謙遜のような言葉を言ったものの照れ臭そうに頭をかく。
「それよりも、孝太郎さんだよ! あの人、何やってんだろ?」
「モニターを見てみれば、分かると思うわ! 」
絵里子は廊下に立ちながら、観客用のモニターを眺める。
そこに映し出されていたのは、周孟風と激しい戦いを繰り広げている弟の姿。
「孝ちゃん……」
絵里子は目を瞑りながら、両手をクリスチャンがお祈りをするような時のような形で組み合わせる。
「お願いします。どうか、弟を……」
必死に弟の身を案じる絵里子の姿が、聡子はどことなくいじらしく感じられた。
聡子は「大丈夫だよ。孝太郎さんは世界を救った救世主だし、あんな奴に負けたりしないさ」と呟いてやりたかったが、ここはグッと我慢して、その言葉を何とか飲み込む。
この場は黙って彼女を見守っていた方が得策だと感じられたから。
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