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ビッグ・ホース・レーシング編
1日目の栄光を掴んだ者
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日本全国競馬大会のレース内容はまさにパクスロマーナ時代のコロッセオの戦車競技を彷彿とさせるものであった。
何故なら、それぞれの騎手は相手の騎手を魔法で攻撃しても良い事になっていたから……。
レースは円形の競技場で、それぞれの8名の選手が鐘が鳴るたびにスタートし、そして全八回の鐘が鳴って、馬で走り続けた選手に得点が。
一位の選手にはその他の選手の得点の倍の点数が与えられるのだが、レース中に落馬したり、リタイアしたした大学には一点も与えられないというルールがあった。
孝太郎自身も今までの日本における大会の中で、今も昔もこの日本全国競馬大会程厳しい大会はないだろうと確信していた。
競馬の合間に見ていたから、ハッキリとは言えないのだが、エミリオ・デニーロともう1人の中国人ーー周孟風が世界でも指折りの実力者だというのは理解できていた。
エミリオは馬術も魔法の腕も最上級のものであり、他を圧倒しており、周と言えばその腕っ節で次々と選手を落馬に追い込んでいた。
更にエミリオは相手の選手を倒すたびに投げキッスを観客に送るものだから、女性の観客は馬上の貴公子に魅力に夢中になってしまい、反対に男とはと言えば、エミリオを親の仇でも見つめるかのように睨みつけるばかり。
小さな男の子でさえも、母親を責めているような言動や行動が目立ってしまう。やはり、愛の対象が一瞬でも自分からエミリオに移ってしまった事を恨んでいるのだろうか。
「まあ、おれには関係ないか……」
孝太郎は悪態を吐きながら、観客席の警備を続けていた時だ。
何やら、階下の方。つまり、会場を間近で見る事の出来る席の方で悲鳴が聞こえる。
孝太郎がテロリスリトでも現れたのかと身構えていた時だ。
「あ、あんたッ!警察官なんだろ!?なら、下を何とかしてくれよッ!下で馬が暴れて大変なんだッ!」
孝太郎は慌てて階下へと向かう
スタジアム式のこの会場においての欠点は一番上の方で試合を見物している人間が、直ぐには一番下の席へと向かえない事かしらねと、絵里子は自慢の右腕を必死に暴れ馬に向けながら、溜息混じりの愚痴を吐く。
馬は荒い息を吐きながら、今にも階下の席に突っ込もうとしていた。
それを絵里子が周辺に柵を作って、必死に抑え込んでいる状況だ。
(どうしましょう?間に合うかしら?)
絵里子は中々来ない弟を待っていた。過去にタイムスリップし、異世界で竜王の軍勢と矛を構えた際には弟は馬を自由自在に操っていた。
だからこそ、今回の馬も何とかしてくれるだろうと、そんな甘い考えを抱いていた時……。
とうとう、暴れ馬は柵を壊さんとばかりに、蹄を必死に柵に打ち付けている。
まるで、拘置所の柵を必死に壊さんと蹴り付けている確定死刑囚のように。
絵里子がどうしようもない絶望感に襲われていた時だ。
王子様は現れた。孝太郎はコンクリートの地面を蹴り付け、暴れ馬の上に飛び乗り、
「どうどう、どうどう」
と、馬の手綱を引き、馬を宥める。
孝太郎に宥められた馬は付き物が落ちたようにその場にうずくまる。
「ぶ、無事だったのね?」
「ああ、どうも興奮していただけらしいな……しかし、ちゃんとした大学の馬なんだろ?変なものは混ざっていない筈だけれどな……」
孝太郎が馬から降り(柵は孝太郎が降りる前に絵里子が削除した)階上の観客を落ち着かせるために向かおうとした時だ、
「待ってください」
ハンチング帽を被り薄茶色のベストとズボンを着た壮年の男性が駆け寄ってくる。
「あ、あ、あ、ありがとうございます……ジローは昔から大人しい馬なのにどうしてこんな事に?」
「何があったんですか?」
孝太郎は両眉をあげながら壮年の男性に尋ねる。
「ええ、ジローは本来ならこんな事をする奴じゃあないんですよ。誰かが餌に興奮剤を混ぜたに違いないッ!」
「失礼ですが、何故餌に混ぜたと分かるんですか?」
「餌を食べさせた瞬間に手をつけられない程に暴れ始めたからですよ! 全く、このレースは始まってから、1日目だというのに一体どこの馬鹿がこんな事を……もしかして、近畿中央大学の学生がウチを妬んで!?」
「それはないでしょう」
孝太郎は落ち着いた調子で言った。
「この後に調べれば、どこの誰が入れたかなんてのは、直ぐに分かります。彼らはそんな一時期の鬱憤に駆られて、そんな馬鹿な真似はしないでしょう」
「なら、誰が?」
調教師は鼻の穴を膨らませ、胸をつきだし腕を両手を腰に当てながら尋ねる。
「恐らく、誰か別の連中……このレースが例年の結果で終わってほしくないグループの仕業だと思われます」
「グループ?一体誰なんだ、そいつらは?」
「今の段階で詳しい事はお教えできませんが、ある国際犯罪シンジゲートが関わっている事を告げておきましょう」
孝太郎はそう言って、階上へと戻る。
観客の説得には今更ながら苦労をかけられそうだ。
「問題はですね……あの中村孝太郎がこの会場の警備に関わっている事なんです」
エミリオ・デニーロはルームサービスのロマネ・コンティに口を付けた後に、忌々しげに吐き出す。
「あの男のために、かつてボルジア家は二度も煮え湯を飲まされたのです! 我慢できるわけがありませんよ! 」
エミリオはそう言って、日本にて合流した世界的殺し屋ーートニー・クレメンテに向き合う。
トニーは口元を緩めながら、
「そうだな、私としても彼とは二回ほど戦ったが、彼と同じくらいの実力を持つ相手とは2、3回程しか渡り合った事がないな……彼は魔法師としての実力もピカイチだし、銃の腕も申し分ない……」
「だから、宇宙究明学会事件の時にあなたは彼らの情報を引き渡したんですか?」
「ああ、私としても宇宙究明学会の奴らは許せなかったんでな」
トニーはそう言ってから、同じようにホテル備え付けの机に置かれた紫色のブランデーを飲み干す。
「我々としてはあなたが来てくれただけでも心強いのですが、あなたとしては私の手助けで来てくれたのですか?それとも、何か別の理由で……」
「いやあ、ただの野暮用さ……」
トニーは空のワイングラスを揺らしながら呟く。
どうやら、本当に目的は分からないらしい。
エミリオは何も言うことなく、明日の試合に備えて、部屋の面積の3割程を占領するフカフカのベッドに身を埋めたいと感じた。
「問題はあのトニー・クレメンテがこの事件に関わっていると言う事だ」
「トニー・クレメンテが?」
絵里子は名古屋城で顔を合わせたあの冷徹なスキンヘッドの男の顔を思い出し、身震いしてしまう。
蛇に睨まれた蛙というのはあのような反応をしてしまうのだろうか?
絵里子がそんな疑問を抱えていると、孝太郎は突然座っていた部屋に用意された金と白を基調とした椅子から立ち上がり、鏡面を兼ねているのであろう巨大な鏡の付いた長机へ向かう。
そこで、紅茶を入れ、絵里子に手渡す。
「ダージリンね、ありがとう……」
絵里子は弟に入れてもらった紅茶を握り締めながら、今日の事を振り返る。
今日のところは馬が急に暴れ出すというトラブル自体はあったものの、まだ大きな事件は起きていない。
起きるとすれば、明日か、それとも最終日の明後日か。
絵里子は孝太郎にどちらの日になるのかを問う。
孝太郎は迷う事なく、二日とも大きなトラブルが起きる可能性は高いと明言する。
「それだけじゃあない、暗躍する連中は今夜から本格的に動き出すかもしれん」
孝太郎の全ての戦局を把握している孔明のような言葉はどこから出るのだろうと、絵里子が推測していた時だ。
裏庭から悲鳴が聞こえる。
何故なら、それぞれの騎手は相手の騎手を魔法で攻撃しても良い事になっていたから……。
レースは円形の競技場で、それぞれの8名の選手が鐘が鳴るたびにスタートし、そして全八回の鐘が鳴って、馬で走り続けた選手に得点が。
一位の選手にはその他の選手の得点の倍の点数が与えられるのだが、レース中に落馬したり、リタイアしたした大学には一点も与えられないというルールがあった。
孝太郎自身も今までの日本における大会の中で、今も昔もこの日本全国競馬大会程厳しい大会はないだろうと確信していた。
競馬の合間に見ていたから、ハッキリとは言えないのだが、エミリオ・デニーロともう1人の中国人ーー周孟風が世界でも指折りの実力者だというのは理解できていた。
エミリオは馬術も魔法の腕も最上級のものであり、他を圧倒しており、周と言えばその腕っ節で次々と選手を落馬に追い込んでいた。
更にエミリオは相手の選手を倒すたびに投げキッスを観客に送るものだから、女性の観客は馬上の貴公子に魅力に夢中になってしまい、反対に男とはと言えば、エミリオを親の仇でも見つめるかのように睨みつけるばかり。
小さな男の子でさえも、母親を責めているような言動や行動が目立ってしまう。やはり、愛の対象が一瞬でも自分からエミリオに移ってしまった事を恨んでいるのだろうか。
「まあ、おれには関係ないか……」
孝太郎は悪態を吐きながら、観客席の警備を続けていた時だ。
何やら、階下の方。つまり、会場を間近で見る事の出来る席の方で悲鳴が聞こえる。
孝太郎がテロリスリトでも現れたのかと身構えていた時だ。
「あ、あんたッ!警察官なんだろ!?なら、下を何とかしてくれよッ!下で馬が暴れて大変なんだッ!」
孝太郎は慌てて階下へと向かう
スタジアム式のこの会場においての欠点は一番上の方で試合を見物している人間が、直ぐには一番下の席へと向かえない事かしらねと、絵里子は自慢の右腕を必死に暴れ馬に向けながら、溜息混じりの愚痴を吐く。
馬は荒い息を吐きながら、今にも階下の席に突っ込もうとしていた。
それを絵里子が周辺に柵を作って、必死に抑え込んでいる状況だ。
(どうしましょう?間に合うかしら?)
絵里子は中々来ない弟を待っていた。過去にタイムスリップし、異世界で竜王の軍勢と矛を構えた際には弟は馬を自由自在に操っていた。
だからこそ、今回の馬も何とかしてくれるだろうと、そんな甘い考えを抱いていた時……。
とうとう、暴れ馬は柵を壊さんとばかりに、蹄を必死に柵に打ち付けている。
まるで、拘置所の柵を必死に壊さんと蹴り付けている確定死刑囚のように。
絵里子がどうしようもない絶望感に襲われていた時だ。
王子様は現れた。孝太郎はコンクリートの地面を蹴り付け、暴れ馬の上に飛び乗り、
「どうどう、どうどう」
と、馬の手綱を引き、馬を宥める。
孝太郎に宥められた馬は付き物が落ちたようにその場にうずくまる。
「ぶ、無事だったのね?」
「ああ、どうも興奮していただけらしいな……しかし、ちゃんとした大学の馬なんだろ?変なものは混ざっていない筈だけれどな……」
孝太郎が馬から降り(柵は孝太郎が降りる前に絵里子が削除した)階上の観客を落ち着かせるために向かおうとした時だ、
「待ってください」
ハンチング帽を被り薄茶色のベストとズボンを着た壮年の男性が駆け寄ってくる。
「あ、あ、あ、ありがとうございます……ジローは昔から大人しい馬なのにどうしてこんな事に?」
「何があったんですか?」
孝太郎は両眉をあげながら壮年の男性に尋ねる。
「ええ、ジローは本来ならこんな事をする奴じゃあないんですよ。誰かが餌に興奮剤を混ぜたに違いないッ!」
「失礼ですが、何故餌に混ぜたと分かるんですか?」
「餌を食べさせた瞬間に手をつけられない程に暴れ始めたからですよ! 全く、このレースは始まってから、1日目だというのに一体どこの馬鹿がこんな事を……もしかして、近畿中央大学の学生がウチを妬んで!?」
「それはないでしょう」
孝太郎は落ち着いた調子で言った。
「この後に調べれば、どこの誰が入れたかなんてのは、直ぐに分かります。彼らはそんな一時期の鬱憤に駆られて、そんな馬鹿な真似はしないでしょう」
「なら、誰が?」
調教師は鼻の穴を膨らませ、胸をつきだし腕を両手を腰に当てながら尋ねる。
「恐らく、誰か別の連中……このレースが例年の結果で終わってほしくないグループの仕業だと思われます」
「グループ?一体誰なんだ、そいつらは?」
「今の段階で詳しい事はお教えできませんが、ある国際犯罪シンジゲートが関わっている事を告げておきましょう」
孝太郎はそう言って、階上へと戻る。
観客の説得には今更ながら苦労をかけられそうだ。
「問題はですね……あの中村孝太郎がこの会場の警備に関わっている事なんです」
エミリオ・デニーロはルームサービスのロマネ・コンティに口を付けた後に、忌々しげに吐き出す。
「あの男のために、かつてボルジア家は二度も煮え湯を飲まされたのです! 我慢できるわけがありませんよ! 」
エミリオはそう言って、日本にて合流した世界的殺し屋ーートニー・クレメンテに向き合う。
トニーは口元を緩めながら、
「そうだな、私としても彼とは二回ほど戦ったが、彼と同じくらいの実力を持つ相手とは2、3回程しか渡り合った事がないな……彼は魔法師としての実力もピカイチだし、銃の腕も申し分ない……」
「だから、宇宙究明学会事件の時にあなたは彼らの情報を引き渡したんですか?」
「ああ、私としても宇宙究明学会の奴らは許せなかったんでな」
トニーはそう言ってから、同じようにホテル備え付けの机に置かれた紫色のブランデーを飲み干す。
「我々としてはあなたが来てくれただけでも心強いのですが、あなたとしては私の手助けで来てくれたのですか?それとも、何か別の理由で……」
「いやあ、ただの野暮用さ……」
トニーは空のワイングラスを揺らしながら呟く。
どうやら、本当に目的は分からないらしい。
エミリオは何も言うことなく、明日の試合に備えて、部屋の面積の3割程を占領するフカフカのベッドに身を埋めたいと感じた。
「問題はあのトニー・クレメンテがこの事件に関わっていると言う事だ」
「トニー・クレメンテが?」
絵里子は名古屋城で顔を合わせたあの冷徹なスキンヘッドの男の顔を思い出し、身震いしてしまう。
蛇に睨まれた蛙というのはあのような反応をしてしまうのだろうか?
絵里子がそんな疑問を抱えていると、孝太郎は突然座っていた部屋に用意された金と白を基調とした椅子から立ち上がり、鏡面を兼ねているのであろう巨大な鏡の付いた長机へ向かう。
そこで、紅茶を入れ、絵里子に手渡す。
「ダージリンね、ありがとう……」
絵里子は弟に入れてもらった紅茶を握り締めながら、今日の事を振り返る。
今日のところは馬が急に暴れ出すというトラブル自体はあったものの、まだ大きな事件は起きていない。
起きるとすれば、明日か、それとも最終日の明後日か。
絵里子は孝太郎にどちらの日になるのかを問う。
孝太郎は迷う事なく、二日とも大きなトラブルが起きる可能性は高いと明言する。
「それだけじゃあない、暗躍する連中は今夜から本格的に動き出すかもしれん」
孝太郎の全ての戦局を把握している孔明のような言葉はどこから出るのだろうと、絵里子が推測していた時だ。
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