上 下
175 / 233
第4部 皇帝の帰還

大聖堂の戦い

しおりを挟む
クリフの剣劇はヴィトの剣の刃が、重なる事により、回避される。
だが、クリフが吹き飛ばされる事はない。クリフは机の上に乗り、再びヴィトに向かって斬りかかる。
ヴィトは今度も剣の刃を横にする事で、自分に剣劇が当たる事を防いだが、クリフはそのままヴィトを斬り殺そうとはしなかったようだ。
一旦、ヴィトから離れ、もう一度斬りかかる。
今度は、ヴィトのベストが少しばかり破かれた。
「危ない奴だ……もう少しで、俺を真っ二つにする予定だったらしい……」
ヴィトはクリフの余裕そうな顔を見ながら、毒付く。
「キミの予想は当たらずとも遠からずというべきだろうかね、私は真っ二つにするつもりなんて、さらさらなかったよ、キミの心臓を斬る予定だったからね、それにしても、普段は宰相閣下などと言いながらも、私一人倒せないようではな、ヴィト・プロテッツオーネと言ったかね?到底、陛下を倒した人間とは思えんな、陛下の強さは私自身も認めていたんだ。例え、立場が違えどもな」
クリフはヴィトの目の前で、右腕で剣先を突きつけながら言った。
「エドワードを倒してから、二年もの月日が流れているんだ……少しばかりは腕が鈍ってしまってもしょうがないだろ?」
だが、ヴィトの言葉はクリフからすれば、言い訳にしか聞こえない。
クリフはもう一度、ヴィトに剣で斬りかかる。ヴィトは今度は自分自身も斬りかかる事によって、不利な状況ではない場所で、剣と剣を重ね合わせる事に成功するのだが……。
クリフはどこか余裕ありげな様子だ。何故なのだろう。この斬り合いにおいては、自分がこの場を制覇しているというのに。
クリフはそんなヴィトの疑問が分かっていたかのような口ぶりで言った。
「何故、私に余裕が出たかって?簡単だよ、このまま、もう少しばかり私が力を込めれば、この場を制することができると、判断したんだからなァァァ~!!! 」
クリフの言う通りだ。クリフの剣を持つ手が強くなったような気がした。
と、その瞬間に、ヴィトは自分の剣を持つ両手が震えている事に気がつく。
どうしたのだろうか。いや、これはクリフの言っていた『この場を制する』と言う言葉をこの場に体現したものなのだろう。
ヴィトは何とか、それこそ歯を食いしばってまで、その場を耐え抜き、互角の体制を維持する。
「危なかったな、ヴィトさんとやら」
「確かに、おれの力は弱体化したかも知れんな、だがな、お前なんぞに負けるわけにはいかないッ!」
ヴィトはそれから、演説を行う前の政治家のように大きな息を吐いてから、マリアに向き直り、
「マリア聞いてくれよ! おれは負けない! 会談を妨害し、おれの人格まで否定して、更には人の来歴まで侮辱するッ!そんな事はおれ達フランソワ王国は絶対にしないッ!おれ達は真面目にやっているッ!相手を誹謗中傷するのだけが、得意な奴に……過去の恨みにばかり囚われているような奴らにッ!おれは負けないッ!こんな人達に負けるわけにはいかないんだッ!」
『こんな人』というヴィトの言葉が胸に刺さったのだろう。
クリフの剣に込める力が、先ほどよりも更に増してくる。
「ふざけるなよ、お前のような椅子に踏ん反り返っている奴に、おれやニコラスのような成り上がりの気持ちが分かるものかよ……何が『こんな人』だ……このクソ野郎めッ!」
クリフはあまりの怒りに冷静さを欠いたのだろう。何度も、何度もヴィトに向かって剣を振り下ろす。
その度に、ヴィトは自分の剣の刃先に相手の刃を重ねて、自分の身に当たるのを回避する。
「国民?お前やお前らのような帝国正教会の連中に向かって、言ったセリフだぜ、誰に向かっての発言だと、勘違いしたんだい?クリフさんとやら?」
その瞬間にクリフは完全に冷静さを失ってしまった。雄叫びを上げて、闇雲に剣を振り回す。
孝太郎は未だに何をしでかすのか分からない、サンドーラに銃を構えながら、ヴィトのやり手ぶりに関心せざるを得ない。
(ワザと、批判されるような事を言って、更に相手を批判する事によって、完全に冷静さを失わせたわけか……)
孝太郎は銃をサンドーラに突きつけながらも、ヴィトに心の中で拍手を送る。
と、その時だった。孝太郎は真横に気配を感じた。
「おっと、危ない……危ない」
孝太郎に向かって来ようとしたのは、司教のアイザック・ロアン。
アイザックは中世ヨーロッパの騎士が使う短剣を構えていたので、孝太郎の脇腹を刺すつもりだったのは間違いないだろう。
「惜しかったですね」
「おれを刺すつもりだったのか?」
孝太郎は銃口をアイザックの顔の近くに突きつけながら言った。
「勿論そのつもりでした。ですが、あなたの行動は予定外の行動だったんです」
アイザックは肩を大げさにすくめながら言った。
「あなたの意識は完全に大司教に集中しておりました……ですから、私がその隙を突いて、あなたの脇腹をね」
ここで、アイザックは短剣を突き刺す真似をしてみせる。空気を切る音が孝太郎の耳に響く。
「本当に惜しかったですよ、これは歴代の司教が自分の身を化け物や盗賊やらから守るために作られた武器なんでね……そりゃあもう、鋭く刺さりますよ」
そんなに鋭く刺さるのなら、是非とも、武器保存ワーペン・セーブに保存したいなと思った孝太郎だったが、神に仕える聖職者であり、神が答えを教えてしまうからだからだろうか、それともそんな簡単な思惑なら簡単に見抜けるのだろうか。
アイザックは意味深な微笑を浮かべながら言った。
「一応、ご説明させていただきますと、このナイフは代々正教会の司教に受け継がれてきたもので、ナイフの状態維持のために代々魔法をかけて、この状態を維持してきたんです。ですから、あなたが仮にこのナイフを手に入れたとしても、保存を保つための魔法が無ければ、扱うのは難しそうですね」
相変わらずの大きな店の主人が命令すれば、靴でも舐めそうな太鼓持ちのような笑顔だ。
孝太郎は癪に触ってしょうがない。
「おやおや、不快な思いをさせてしまいましたか?そう気を落とさないでくださいよ、もしかしたら、何か別の武器を持ち帰られるかもしれませんよ、まあ……仮定の話ですが」
「そんな話はどうでもいいだろう?問題はいつになったら、おれ達から手を引くんだと聞きたいんだよ」
「あなた達から手を引く事は永久にあり得ません……これは、大司教様のご命令という訳ではなく、我々の悲願を果たすための目標でもあるんです」
「竜王スメウルグとやらか?」
「ええ、あなたは何故、先代の皇帝エドワード・デューダレア二世があれ程、オリバニアの統一ともう一つの世界の侵略に情熱を注いでいたのかをご存知ですか?」
「あいにくと、おれは未来から来た人間で、ヴィトの仲間になったのも最近だ……そんな事は知らん」
「なら、教えて差し上げましょう」
アイザックはナイフをお手玉のように放り投げ、それを上手く受け取り、また放り投げるという遊びを繰り広げながら言った。
「彼、個人に野望があったのも事実ですが、もう一つの目的としては、世界を統一し、竜王スメウルグに対抗する事だったんですよ」
「だが、目論見は外れてしまった?」
「ええ、フランソワ王国の造反にエルフが見捨てた事……それに、ヴィト・プロテッツオーネの活躍により、彼の目論見は封じ込められました」
「それは分かった。だが、何故お前たちはスメウルグを復活させようとする?」
「簡単ですよ」
アイザックのその言葉には心の底から楽しいと言うような心情が含まれている。
「彼が自然に復活するよりも前に、我々が復活させて、恩を売ろうという訳なんですよ、そのために、開祖アランゴルンがスメウルグを封印した場所の上に築いた大聖堂の上に住みながらも、スメウルグを復活させようとしているのですから」
孝太郎はアイザックにゴミでも見るかのような視線を送ってやる。
だが、アイザックには効果はないようで、相変わらず笑い続けている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Gender Transform Cream

廣瀬純一
SF
性転換するクリームを塗って性転換する話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

ホワイトコード戦記1 シンカナウスより

星白 明
SF
「つまるところ、僕は、僕の存在を、ソウルコードを形作った張本人であろう、この知性体をこう呼ぶことにした。遥か昔に忘れ去られた概念――即ち〝神〟、と」 この宇宙が生まれてから『六十七億年』――ある朝、世界が滅ぶ夢を見た。 軍用に開発された戦闘型アンドロイド、μ(ミュウ)。彼女はその日いつも通り訓練をして過ごすはずが、統率個体のMOTHERから、自分たちを設計した天才科学者エメレオの護衛を突如として命じられる。渋々エメレオを襲いくる刺客ドローンや傭兵から守るμだが、すべては自身の世界が滅ぶ、そのほんの始まりにしか過ぎなかった――! ――まずはひとつ、宇宙が滅ぶ。 すべては最後の宇宙、六度目の果て、『地球』を目指して。 なぜ、ここまで世界は繰り返し滅び続けるのか? 超発展した科学文明の落とし子がゆく、神と悪魔、光と闇、五つの世界の滅亡と輪廻転生をめぐる旅路を描く、大長編SFファンタジーの〝プロローグ〟。 2024.06.24. 完。 8月の次回作公開に向けて執筆進めてます。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

声楽学園日記~女体化魔法少女の僕が劣等生男子の才能を開花させ、成り上がらせたら素敵な旦那様に!~

卯月らいな
ファンタジー
魔法が歌声によって操られる世界で、男性の声は攻撃や祭事、狩猟に、女性の声は補助や回復、農業に用いられる。男女が合唱することで魔法はより強力となるため、魔法学園では入学時にペアを組む風習がある。 この物語は、エリック、エリーゼ、アキラの三人の主人公の群像劇である。 エリーゼは、新聞記者だった父が、議員のスキャンダルを暴く過程で不当に命を落とす。父の死後、エリーゼは母と共に貧困に苦しみ、社会の底辺での生活を余儀なくされる。この経験から彼女は運命を変え、父の死に関わった者への復讐を誓う。だが、直接復讐を果たす力は彼女にはない。そこで、魔法の力を最大限に引き出し、社会の頂点へと上り詰めるため、魔法学園での地位を確立する計画を立てる。 魔法学園にはエリックという才能あふれる生徒がおり、彼は入学から一週間後、同級生エリーゼの禁じられた魔法によって彼女と体が入れ替わる。この予期せぬ出来事をきっかけに、元々女声魔法の英才教育を受けていたエリックは女性として女声の魔法をマスターし、新たな男声パートナー、アキラと共に高みを目指すことを誓う。 アキラは日本から来た異世界転生者で、彼の世界には存在しなかった歌声の魔法に最初は馴染めなかったが、エリックとの多くの試練を経て、隠された音楽の才能を開花させる。

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

処理中です...