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聖杯争奪戦編
名古屋城の戦いーその②
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木部の出す手を見るなり、絵里子は思わず後ろに飛び跳ねる。
木部という男はどのような魔法を使うのだろうか。もしや、何かしらの写真に関係する魔法なのだろうか。
絵里子がそう考えた時である。タイミングを見計らったかのように、木部がカメラを取り出し、絵里子をシャッターに収めた。
「一体何をしたの……?」
「決まっているだろ?オレの魔法だよ、そのカメラに映されたら、最後……オレの意のままさッ!」
その言葉は嘘ではなかったらしい。絵里子がその場を動こうとした瞬間に。
「なっ、どうして、あたしの体が動かないのッ!」
そう、先ほど木部に写真を撮られた位置から一歩も動く事ができないのだ。
「写真と言っても、甘く見てもらっては困るね、写真というのはその場にあった出来事を永遠に保存しておくものなんでね、例えるのなら、20世紀になってから、歴代日本の首相やら、大統領の写真はハッキリと残っていて、今日の我々は初代内閣総理大臣の顔を容易に思い浮かべる事が出来るんだ……だが、決してその場からは動こうとしはしないんだ……それが、写真さッ!映像と違って、その場から動く事はできないが、そこで何があったのかを永遠に保存できるッ!」
つまり、木部が言いたいのは、自分がカメラに収めた人物は全て、その場に固定したままに出来るという事だろう。
回りくどい言い方ね。絵里子はそう毒づいたものの、決して口に出そうとはしない。
いずれ、来るであろう脱出のチャンスを伺うためである。
「よし、その場から動くなよ」
木部は武器保存にもう一度締まったであろう45口径のオート拳銃を絵里子に向ける。
「悪く思うなよ、昌原会長にあんたを殺した事を告げれば、聖杯を手に入れる確率が格段に上がるとお喜びになるだろうからなッ!」
木部は銃をプルプルと震わせながら、言っていたので、これは教祖の機嫌を取るためにやっているのだと、絵里子は推測した。
「ねぇ、あたしを殺して、何かメリットでもあるのかしら?あたしを殺せば、孝ちゃんは間違い無く、あなたを殺すでしょうし、仮にそれを免れたとしても、あなたは第二級殺人容疑で無期懲役……いえ、下手したら、第一級殺人容疑で錠剤死の刑いや、辺境惑星の流域が確定するかもしれないわ」
絵里子はこの国の人間が恐れといると思われる、罰を次々と並べ立てる。木部も生唾を飲み込んでいる事から、現在は昌原への忠誠心と罰への恐怖の両方に苛まれているようだ。
さて、どう出るのかしら。絵里子は時間稼ぎにはこうやって、話を引き延ばすのが一番だと考えた。
孝太郎は木部は逃走したものの、絵里子がいるだろうから、安心だという考えはあったが、それでも、やはり、木部がどのような魔法を使うのかは知らないというのは孝太郎を途轍もなく不安な気持ちに押しやるのだ。
「なぁ、聡子」
「どうしたんだい?」
聡子は信者の一人に手錠をかけながら、孝太郎の言葉に答えた。
「悪いけれど、姉貴を見てきてくれないか?心配なんだ……」
「あんたも心配性だなぁ~絵里子さんなら、大丈夫だよ! すっごく強い魔法を使うのは、あんたも知ってるだろ?」
確かに、姉は自分の破壊の魔法とは対照的な何かを生み出す能力を使う。だけれど、あの魔法は、いや、この23世紀において使われている魔法の殆どは右腕を潰されると、何もできなくなってしまうのだ。
(姉貴の魔法は、どちらも右腕に頼らなければ、使えない……もし、相手の魔法が人物をその場に固定するような魔法だったら……?)
孝太郎は急いで、聡子に絵里子の元に行くように命令した。
「一体、どうしたんですか?あんな風に声を荒げるなんて、あなたらしも無いですよ」
明美が自分の右腕をギュッと抑えながら、言った。
「いいや、今回は嫌な予感がするんだ。何となく、木部だけじゃあなくて、何かもっと大きな、奴が動いているような……」
その時だ。誰かのパトカーのテレビが付けっ放しだったらしく、何かの討論番組が映っていた。
孝太郎は思わず、そのテレビに見入ってしまう。何故なら、そこには宇宙究明学会の顧問弁護士赤川友信とジャーナリストの実山聖子が映っていたからだ。
「あなた方の話を総合すると、小田原城での井川森繁の謎の行動は、全て彼らの暴走だと主張される訳ですね?」
「ええ、あれは井川森繁が勝手に信者を連れて、小田原で騒動を起こそうと、警察に逮捕されただけです」
赤川は何のためらいもなく言ってみせる。しかも、その言葉のどこにも『聖杯の欠けら』という言葉は入っていない。
上手く、隠し通すつもりなのだろうか。
「井川氏は教団の中でも、過激な主張している方でね、我々としても悔いているんですよ、昌原会長もどれだけ、自分を責めたか……」
赤川は勝ち誇ったような顔をしていた。
が、聖子は引き下がらない。今度は失踪した藤村誠弁護士のことを持ち出し、教団と赤川を追求する。
「教団は無関係です」
赤川はそうは言ったものの、一瞬だけ聖子を睨み付けたような表情をしたのを、孝太郎は見過ごさない。
「そうでしょうか?なら、彼が失踪したと思われる、弁護士事務所にあなたのイエスの紋章が落ちているでしょうか?」
その言葉に会場内が湧き立つ。それは、藤村誠弁護士失踪事件に、教団が関わっていたという決定的な証拠になるからだ。
だが、赤川は懸命に反論する。しかも、腕を組んだまま、余裕めかした表情で。
「イエスの紋章は我が教団に悪意を持つ人物が落としたのかもしれないかもしれないじゃないですか?藤村誠弁護士は他にも、様々な問題を抱えていたとも聞きますよ、暴力団関係者とも立ち退きをめぐる一件で、対立していたと……彼らが我々の犯行に見せかけるために、イエスの紋章を盗んで、投げ込んだのかもしれないじゃないですか?」
そこから、激昂したのか、赤川は強く机を叩いてから、聖子の顔を覗き込まんとばかりに、身を乗り出しながら、言った。
「他にも、彼は三年前のイル・モストロ事件にも関わっていました。犯人が我々と藤村弁護士が対立しているのをチャンスとして、藤村弁護士を誘拐したのかも、しれないじゃないですか!?」
イル・モストロ事件は三年前に発生した連続殺人事件で、犯人と思われるイタリア人がターゲットにしたのは(そのために、犯人の名称がイタリア語なのだ)若いカップルたちだった。犯人の手口は残酷極まるものであったのだが、あまりにも悲惨な手口の為に、ここでは割愛させていただきたい。
「犯行は確かに、三年間止んでいます。ですが、再び彼らが動き出したと見ても、よろしいのでは?」
「じゃあ、イル・モストロが何故、今になって、藤村弁護士を襲わなくては、ならないのかを教えてほしいわね」
「ですから! 好機を見つけたから、襲ったんだとさっきも言ったでしょう! 」
赤川は何度も何度も机を叩きながら、言った。
「あなた、おかしいわよ、どうして、そんなに声を荒げているの?」
「あなた方が我々に対して、宗教弾圧を行っているからです」
赤川は鼻息を膨らせながら言った。
と、ここで宇宙究明学会のもう一人の幹部村西秀夫が現れた。
「どうも、ご心配をお掛け致しました。ここからは、私が答えていきたいと思います」
ここで、コマーシャルが流れた。
(やはり、教団が関わっているんじゃあないのか?藤村弁護士の失踪事件には……?)
そう考えていた時だった。明美が何かを警戒するかのように、辺りを見渡す。
「どうしたんだ?」
孝太郎は疑問に思って、尋ねてみる。
「大変ですよ、あのトニー・クレメンテが、昌原の命を狙うために来日したらしいんです。あくまでも噂ですけれど……」
成る程。明美が周囲を警戒していた理由も分かった。トニーが来ないか見張っていたのだ。
「分かった。オレも警戒するとするよ」
孝太郎はリボルバーを握りながら言った。
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絵里子がそう考えた時である。タイミングを見計らったかのように、木部がカメラを取り出し、絵里子をシャッターに収めた。
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回りくどい言い方ね。絵里子はそう毒づいたものの、決して口に出そうとはしない。
いずれ、来るであろう脱出のチャンスを伺うためである。
「よし、その場から動くなよ」
木部は武器保存にもう一度締まったであろう45口径のオート拳銃を絵里子に向ける。
「悪く思うなよ、昌原会長にあんたを殺した事を告げれば、聖杯を手に入れる確率が格段に上がるとお喜びになるだろうからなッ!」
木部は銃をプルプルと震わせながら、言っていたので、これは教祖の機嫌を取るためにやっているのだと、絵里子は推測した。
「ねぇ、あたしを殺して、何かメリットでもあるのかしら?あたしを殺せば、孝ちゃんは間違い無く、あなたを殺すでしょうし、仮にそれを免れたとしても、あなたは第二級殺人容疑で無期懲役……いえ、下手したら、第一級殺人容疑で錠剤死の刑いや、辺境惑星の流域が確定するかもしれないわ」
絵里子はこの国の人間が恐れといると思われる、罰を次々と並べ立てる。木部も生唾を飲み込んでいる事から、現在は昌原への忠誠心と罰への恐怖の両方に苛まれているようだ。
さて、どう出るのかしら。絵里子は時間稼ぎにはこうやって、話を引き延ばすのが一番だと考えた。
孝太郎は木部は逃走したものの、絵里子がいるだろうから、安心だという考えはあったが、それでも、やはり、木部がどのような魔法を使うのかは知らないというのは孝太郎を途轍もなく不安な気持ちに押しやるのだ。
「なぁ、聡子」
「どうしたんだい?」
聡子は信者の一人に手錠をかけながら、孝太郎の言葉に答えた。
「悪いけれど、姉貴を見てきてくれないか?心配なんだ……」
「あんたも心配性だなぁ~絵里子さんなら、大丈夫だよ! すっごく強い魔法を使うのは、あんたも知ってるだろ?」
確かに、姉は自分の破壊の魔法とは対照的な何かを生み出す能力を使う。だけれど、あの魔法は、いや、この23世紀において使われている魔法の殆どは右腕を潰されると、何もできなくなってしまうのだ。
(姉貴の魔法は、どちらも右腕に頼らなければ、使えない……もし、相手の魔法が人物をその場に固定するような魔法だったら……?)
孝太郎は急いで、聡子に絵里子の元に行くように命令した。
「一体、どうしたんですか?あんな風に声を荒げるなんて、あなたらしも無いですよ」
明美が自分の右腕をギュッと抑えながら、言った。
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その時だ。誰かのパトカーのテレビが付けっ放しだったらしく、何かの討論番組が映っていた。
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「じゃあ、イル・モストロが何故、今になって、藤村弁護士を襲わなくては、ならないのかを教えてほしいわね」
「ですから! 好機を見つけたから、襲ったんだとさっきも言ったでしょう! 」
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