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聖杯争奪戦編

二人の革命戦士ーその③

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ヨシフ・ベレズスキーはニキータがそこで伸びていることに気がつき、ほくそ笑む。
前々から、ニキータという男は気に入らなかった。あと、もう少しこの場で元気に動いていたら、自分がその場で留めを刺していただろうに。ヨシフは警察に倒されたという事にニキータに代わって感謝してやる。恐らく、ニキータにとって体をズタズタにされて殺されるよりは遥かにマシな退場方法だろうと。
と、味方が倒れているのに、意に返していないどころか、それを喜んでいるようなヨシフの様子が不気味に思えたのだろうか。孝太郎は怪訝そうな目でこちらを見ている。
「何を見ているんだ?」
「いや、別に……」
孝太郎は何も気にしていないというような口ぶりで言った。
「まぁ、お前の言いたい事は大体分かるぜ、何で味方である筈のニキータが倒されて、喜んでいるのかだろ?」
ヨシフは心の底から嬉しいというような笑い声を上げてから、口元を大きく緩めながら言った。
「おれにとっては味方でもなんでもないからなッ!この男は偉大なる同士スターリンを侮辱したばかりか、他にも『資本論』を侮辱したんだッ!許せるわけがないだろうがッ!」
彼の声には明らかに怒気が混じっていた。それも、親の仇にでも向けるような激しい憎しみの感情が……。
「お前らの内部闘争なんて知らないけれど、おれの知っている犯罪者の中で、仲間が倒されたのを喜んだ奴は見た事が無かったな……」
孝太郎は目の前の男は他のどの犯罪者よりも冷血な人物だと悟った。白籠市を実施的に牛耳っていた刈谷阿里耶にしろ、殺人鬼の本多太郎にしろ、何らかのリアクションを取ってはいた。だけれど、目の前の男はそれすらもしない。
つまり、目の前で雨を固定し、その上に乗っている男にはそんな『情』すら持っていない『サイコパス』とでも表現するべきだろうか。
と、孝太郎が分析していると、雨の上に乗っていた男は額に手を当てながら大声で叫ぶように言う。
「ハッハッハッ、ニキータとは不仲でね、あいつが倒れたのは精々したよ! 安心しろよ、お前らを殺した後にニキータはおれがあの世に送ってやるから……」
ヨシフは大きな舌を出して、口の周りを舐めながら孝太郎に自慢するように言った。
まるで、新しいおもちゃを買ってもらえない小さな子に誇らしげに見せる大人気ない中学生のようだ。
「さてと、次にお前を始末する……革命のためには多少の犠牲が必要なんでね! 」
ヨシフはトカレフを新たに取り出し、その銃口を孝太郎に向ける。
「死にな」
孝太郎は鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールを使って、弾を弾く。
弾はいつも通りに弾かれるだけだったが、今回はいつもと違うものがあった。いつもなら、孝太郎の魔法に跳ね返された弾は何処かへと消えて、地面に落ちていくだけなのだが、今回は反射したのだ。孝太郎の真後ろの雨粒に。
「孝ちゃん避けてッ!」
そんな姉の叫び声が聞こえなければ、孝太郎はその弾の存在に気が付きもしなかっただろう。孝太郎は急いで、背後へと振り返り、弾丸を回収する。
「さてと、あんたがそんな事をするのは計算済みだよ、まず、魔法で弾丸を跳ね返して、それから私の魔法であんたの後ろにある雨粒を固定させ、反射させて、あんたの後ろを狙う……だが、仲間の援護かあるいは自分自身の意思で気がつくだろう。そして、今度は同じ過ちを踏まないように弾丸を握る……私の予想通りだ」
その言葉を聞くなり、孝太郎は獲物を狩るチーターよりも早く、弾丸を空中へと放り投げる。
ヨシフが舌打ちをした後に孝太郎の放り投げた
孝太郎は噂に聞く、時限爆弾型の弾丸だと考えた。
古来より、いや21世紀の中頃から、弾丸を爆発させるという技術は人類の夢の一つだ。発砲して、対象物の体を貫いた時に弾丸がその場で爆発すれば、その対象は一瞬で死んでしまうだろう。そう、何も感じる間も無く。
魔法が発見される前。化学だけでこれを実現するのは不可能だと言われていたが、現在では爆発系統のいわゆる上級魔法を使う魔法師の協力により、この爆発する銃弾は実現できるものと言われて、既に各国は極秘の軍事開発に成功し、一部の国家では既にその銃弾を活用している部隊もあると聞くが……。
(ロマノフだったとはな……本多太郎の亡命を何故、ロシアがロシアが受け入れようとしたのかも分かった。日本の技術だ。日本で既に作られている爆発機能付きの銃弾のデータを本多太郎は握っていたのだろう。そのデータをロシアに渡そうとしていたのだとすれば……?)
孝太郎がそこまで考えていた所だ。再びヨシフが発砲する。
孝太郎は爆破する弾丸と鉄板のように固い固定化された雨のコンビという最悪のコンビネーション攻撃があるものだと考えざるを得ない。勿論、自分には当たらないのだが、戦闘が長引くに連れて、通りすがりの自動車の運転手にでも当たってはどうにも言い訳のしようがない。
孝太郎はヨシフをギロッと見つめた。相変わらず、ヨシフは笑い続けている。
「フフフ、今回の弾丸をどう避けるんだい、孝太郎くんッ!」
孝太郎は何とかならないかと頭の中にある知識という名の倉庫を急いで引っ掻き回す。孝太郎がこう呼んでいるのは、かの有名な名探偵シャーロック・ホームズが相棒のワトソン博士に向かってこう言っていたからだ。
『ワトソン。頭の中というのは狭い屋根裏部屋のようなものなんだ。だが、人間というのは、その狭い部屋の中にごちゃごちゃと家具を置くから、困るんだよ、必要な知識だけ屋根裏部屋に入れておいてさ、後は倉庫にでもしまっておけばいい』
孝太郎はこの文を読んだ時に成る程なと思った。今の人間は余計な知識を積み込み過ぎているのだ。
自分にとって必要な知識だけをしまっておけばいいのにと読みながら思っていたが、こんな間近に危機が迫っている状況においては、ごちゃごちゃとした家具に囲まれた方がいいかもしれないと考えた。
何故なら、倉庫にしまっている時と違って、すぐその場に危機を助ける知識があるから……。
それはともかく、孝太郎はいずれ訪れるであろう危機を脱する方法を思案した。あちこち倉庫を引っ掻き回した挙句に出た回答は、弾丸を反射させる事だった。
孝太郎は弾丸がいよいよ、自分の目の前に迫ってくると、勢いよく拳を叩きつけて、弾丸を跳ね返す。
弾丸はピンボールの球のように雨の中を反射していく。
ヨシフの肩に直撃したのは孝太郎にとっては想定内の出来事だった。弾丸はハーモニカのように音を奏でながら、緩やかにヨシフに直撃したのだ。
孝太郎はそれから素早く近づくと、ヨシフの肩を弾ごと破壊した。
ヨシフは苦痛を負ったものの、生き延びたようだ。呻き声を上げて、その場に蹲っている。
「ウウウ……」
「安心しろ、お前はロマノフ帝国で然るべき処置を受けるだろうよ」
孝太郎はテロリストに向かって冷ややかな目で言い放つ。
「ちくしょう! 貴様なんかにマルクスは負けんッ! 」
ヨシフはそれだけ言うと、すっかりその場で黙りこくってしまう。
孝太郎は二人のテロリストを見つめる。一人は気絶。もう一人は悪態を吐いたものの、その場で大人しくしている。
孝太郎は疲れが溜まっていたのか、戦いが終わると同時にその場にへたり込んでしまう。そんな弟を姉は駆け寄って、優しく抱きしめてくれた。
「お疲れ様! 孝ちゃん! 」
「ありがとな、姉貴……」
そう言って、孝太郎は空を見上げる。どうやら、気がつかないうちに雨も上がってしまったようだ。ヨシフが諦めた理由はこれだろうか。
だが、そんな事はどうでもいい。今は姉とこの時間を共にしたかった。
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