魔法刑事たちの事件簿

シニョリーナ・エスコート・トラベル編

幻覚兵隊と幽体離脱ーその④

絵里子は即座に創造神クリエティブ・ゴッドから、新たなナイフを作り出す。
「あんたの魔法は強力らしいが、オレの体をそいつで貫けるとでも？」
ポーリーは見下すように言ったが、絵里子はあくまでも睨みつけるだけだった。
「オレを倒せる気らしいな」
ポーリーは一旦は止めていた足を再び動かす。
「そうよ！ あなたには日本共和国の法の裁きを受けてもらうわッ！」
絵里子はナイフを持って、ポーリーに突っ込む。と、見せかけ、ポーリーをすり抜け、近くの林の中へと入っていく。
（ここにあの男の本体がいる筈だわッ！昔、何かの本で読んだ事があるんだけれど、幽体離脱というはどこに体がある筈だわ！ 本によると、幽体離脱はその人が幽体になった時にあまり遠くに行くと、体に帰れずに、あの世に行くらしいから……）
絵里子がポーリーを探していると……。
「あっ、あの人は……」
絵里子はその人影に見覚えがあった。あの薄らがかった赤い髪の持ち主はサム以外にあるまい。
茶色の髪のポーリーを探すつもりだったのだが、この際サムでも良いのではないだろうか。
絵里子は拳銃を作り出し、その銃口をサムに向ける。
「動くなッ！ 警察だッ！お前を逮捕する！ 」
だが、サムは突然の来訪者にも動ずる事なく、まだ切り札があるかのように余裕の笑みを浮かべていた。
「お前がオレを？」
「そうだッ！お前を殺人未遂容疑で逮捕するッ！」
絵里子の銃口にひるむ事なく、何も見えていないかのようにサムは笑い続けていた。
「いいだろうッ！なら、オレのこの魔法を見ても、同じ事が言えるかなッ！」
サムは自分の両手の手のひらを絵里子に向ける。
絵里子は咄嗟に目を防いだのだが、目を開けると、そこには……。
「こっ、これは……」
「その通りだよッ！オレに触れようっていうのなら、コイツらがお前の相手をするぜッ！」
あっという間にサムの周りを小さな兵士達が囲む。
「オレの護衛さッ！その女を殺っちまいなッ！」
サムの命令により、小さな槍やら剣を備えた兵士たちは絵里子に飛び掛かってくる。
「舐めるんじゃあないわよッ！」
絵里子は創造神クリエティブ・ゴッドでＭ１６を作り出し、小さな兵士たちを撃っていく。
だが、小さいためか、あまり当たらない兵士もいる。
（あっ、あたしの銃弾を……もうダメよッ！）
小さな兵士が絵里子の前に飛びかかろうとした時だった。
突然、その兵士は何かにより。
いや、「何か」ではない。「弟の右腕」と表すべきだろう。
そう、絵里子の目の前には最愛の弟中村孝太郎のその人が立っていたのだから。
「無事か？姉貴？」
「孝ちゃん、無事だったのね！？」
絵里子は涙ながらに孝太郎を見つめた。
「どうして、ここに！？」
「物音さ、銃弾の音を聞いてな、姉貴が何かをやっていると思ってな、コイツらを一気に片付けて、ポーリーとサムを逮捕しようぜッ！」
「ちょっと待って？あの二人はポーリーとサムと言うの？」
絵里子の疑問は最もだ。彼らは二人に名前を名乗った事は無かったのだから。
「ああ、サムの奴が相当焦ったみたいでな、ドラゴンの近くに国際免許証を落としていったんだよ」
孝太郎が絵里子に手渡したのは、国際免許証。これを取得すれば、世界中どの国でも車やバイクが運転できる。まさに、魔法と科学が発展した現代ならではのアイテムと言えよう。
「そうなのね、でも、イタリアン・マフィアというのも中々間が抜けているのかもしれないわ」
「違うねッ！」
二人の会話に異議を唱えたのは、他ならぬ免許証の持ち主サム・コロンボその人であった。
「その免許証はな、オレらが外国に行った時に敵対組織と交戦する際にワザと落とすんだぜ、ボルジアの力を表すためにな」
「なら、おたくらの組織はかなりアホだという事になるなッ！どこの世界に自分が証明されるものを落としていくバカがいるんだッ！」
その言葉を聞くなり、サムは孝太郎をバカにするように、人差し指をメトロノームのように横に揺らしていた。
「いいや、違うな、それはオレらの強さの証明だよ！ 教えてやるよ！ オレにそんな指摘をして、最後の審判を受ける羽目になった敵の最後をなッ！」
サムが指をパチンと鳴らすと、孝太郎と絵里子の周囲を巨大な恐竜が囲む。
「フフフ、ドラゴンじゃあないだけ、良心的だろ？それに……」
絵里子の足元を銃弾が掠めた。
「オレとの勝負が済んでないぜ、女のお巡り……」
銃口から白い煙を上げながら、木々をかき分け、やって来たのはポーリー。
「精々楽しんでくれや」
サムは二人にウィンクをしてから、林を進んでいく。
（相性が良すぎるわッ！この二人ッ！方や、物理攻撃が効かない、幽体の体を持つ男。もう片方は様々なものを召喚できる能力を持つ男ッ！いくら、破壊しても、或いは創造して、強力な兵器を作ったとしても、キリがないわッ！）
と、この考えを抱いた時に、絵里子の脳内に浮かんだもう一つの考えは自分の魔法で強力な爆弾を作り出し、林ごと吹き飛ばそうかと考えたのだが……。
（ダメよ、それでは二人が死んでしまう可能性があるわッ！わたしは警察官。二人を法の裁きに委ねるのが義務でしょ！？）
絵里子は孝太郎に背中を任せながら、自分たちを包囲している恐竜の軍団を倒し、そのリーダーのように構えているポーリーを逮捕する事を今は優先する事にした。



桃屋総一郎は組の事務所の中で、ブランデーを楽しんでいた。ブランデーの匂いは相変わらず自分を楽しませてくれる。
そう考えていた時だ。目の前の壁にテレビモニターが映し出される（この時代のテレビは自分が何かを見たいと思えば、携帯端末を弄り、映し出す事ができるのだ）
総一郎は自分の携帯端末を触った覚えがないと思ってはいたのだが、すぐに携帯端末を弄った犯人は分かった。
「キミかね？浩輔」
その問いに目の前の少年は無邪気な笑顔を浮かべて言った。
刈谷浩輔は刈谷阿里耶の末の弟であり、尚且つ阿里耶が一番可愛がっていた弟であった。
「全く、キミは……勝手にテレビを点けてはいかんと、あれ程……」
総一郎が浩輔を叱ろうとした時だった。一つのニュースに彼は釘付けになってしまう。
「只今ですね。宗教法人宇宙探求学会の会長である昌原道明さんが会見に望まれます！ 宇宙探求学会は昌原さんで、三代目となる日本共和国最大規模の宗教団体で……」
やがて、その昌原道明まさはらどうめいという男の記者会見の場面に映り変わる。
「昌原道明です。今回の件に関しては、我々教団は何の関わりも持っていない事を明らかにしたいと思います」
教祖たる昌原の特徴は独特のしゃがれ声とまるで昔の仏教の聖人を思わせるような長い髭と長い髪であった。
「現在、学会はかなり悪どい修行を信者に強要しているそうですが、真偽のほどはッ！」
厳しく追及したのは最近、白籠市の市長本多太郎の犯罪を暴くのに尽力したジャーナリストの実山聖子であった。
「全くのデタラメです。我々のような清楚潔白な学会がそのような事をする筈がありません」
昌原は否定してみせたが、聖子は強く追求した。
「そうでしょうかッ！あなた方の元信者さんを病院に連れて行った時には幻覚剤が発見されたのですが……」
聖子の出した「幻覚剤」という言葉に記者たちが騒然となっている。
「我が学会は無関係です。そもそもが、あなた方の病院。学会では世俗の医療施設と言っていますが、それはいささか公平さを欠くのではないでしょうか？我が学会付属の病院で、検査してこそ、公平というものです」
発言したのは教団幹部の村西秀夫。３０台というに薄っすらとした頭が特徴だったが、顔面はどこか女性の庇護欲をかけたてそうな、可愛らしい顔の人物であった。
「いいえ、あなた方の教団よりも、世間の病院の方を世論は支持しますわッ！」
両者とも一歩も引かない引かない戦いだ。