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シニョリーナ・エスコート・トラベル編

幻覚兵隊と幽体離脱

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ポーリーとサムは自分たちがボルジア・ファミリーの中で、一番の腕利きの魔法師だという自覚があった。
特に二人の能力には自分たちの一家ファミリー首領ボスであるあのジョー・ボルジアも一目置く能力なのだ。
ポーリーとサムが組む事により、殺害された王国外の貴族の数は両手で数えるには不足過ぎるし。共産圏の要人が何人殺したのかは二人が数えるのを諦めるほどであった。
「あんたはいつもの手筈通りに、オレが動いた後に、援護する形でを出す……いいな?」
ポーリーの言葉にサムは首を縦に振る。これまでにもこの方法ばかり取ってきた。
これで、成功しなかったケースは一件だってない。だから、ポーリーがサムの提案を蹴る理由はない。
「分かっているよ、だから、あんたにも任せたぜ、ジャパニーズヤクザは役に立たんからな、前の支部長のサル……あの雑魚が組んだのも、確か刈谷組だっけ?」
ポーリーはサルが組んでいる相手など、分かっている。分かっている上でボケたのだ。刈谷組があまりにも役に立たないので……。
「そうだよ、おい、タバコは吸うなと言ったろうがッ!」
ポーリーはタバコを街中にも関わらず吸っている相棒を注意した。
「今は深夜だぜ?」
サムは静かに反論した。
「だ・か・らッ!日本ではタバコは禁止なんだよ! これで、トミーやオレらがパクられたら、どうすんだよッ!」
ポーリーは声を荒げて、サムに言う。
「分かったよ、タバコは消せばいいんだろ……」
サムは慌ててタバコを地面に捨て、自慢のフィガラモの靴でタバコの火をもみ消す。
「吸い殻も持って帰れよ、テメェの所業で無実の人間がパクられたなんて、寝覚めが悪いし」
「へいへい、うん?」
サムがタバコの吸い殻を拾おうとした時だ。目の前に青い制服を着た警察官が立っていた。
「キミたち、何をしている?まさか、法律で規制されているタバコを吸っていたんじゃ?」
見つかったのだ。ポーリーはタバコを吸っていた相棒を睨む。
ポーリーに睨まれて、思わずサムは視線を逸らしてしまうが、警察官から再度声をかけられ、今度は自分のイライラを警察官に向ける。
「うるせぇ! テメェぶっ殺すぞ! 」
サムは怒りの矛先を哀れな青年警察官に向けた。
「このご時世によぉ~禁煙法なんて馬鹿げた法案作った国の人間のくせによく言うぜ、この野郎ぶっ殺してやるッ!」
サムは鋭い切れ味を誇ると自慢のジャックナイフを懐から取り出す。
「おっ、お前……本官に抵抗するのか?」
「そうだよッ!死にやがれッ!」
警察官が慌ててサムに銃を向け用とした時だ。警察官の周りに小さな像やら馬に乗った兵士たちが現れた。
「こっ、こいつらは!?」
「オレの魔法だよ、小さな軍隊を操るのが、オレの自慢の能力でね、悪いがあんたには死んでもらうよ、オレがタバコを吸っているなんて、知られなくないんでね! 」
警察官は必死に銃の引き金を引こうとしたのだが、一人の小刀を持った中世の鎧に身を包んだ小さな兵士が警察官の右腕を突き刺す。
「グァァァァァァァァァァ~~!!! 」
警察官は痛みのあまりにその場に拳銃を落としてしまう。
「これからが、オレの魔法の出番だぜ! 」
サムの号令と共に大量の小さな兵士が警察官に襲い掛かる。警察官はあちこちを刺され、その場に倒れてしまう。
「みんな、よくやった。後はオレに任せとけ」
サムは警察官の元に近づくと、ジャックナイフで警察官の胸元を突き刺す。
警察官は胸元に強烈な痛みを覚えたが、意識を失ってしまう。そう、永遠に……。
「相変わらず見事な魔法だぜ」
「へっ、罪の無い人間を殺すのは嫌いなんじゃあないのか?ポーリーさんよぉ~」
サムは警察官の胸元からジャックナイフを抜き取りながら言った。
「見られたんなら、しょうがないだろ?」
ポーリーはため息を吐きながら言った。
「それよりも、ずらかろうぜ! 消えたコニーの奴とその護衛をしているって言う日本人どもを追うんだッ!」
サムの言葉に呆れながらも、ポーリーはなんとも言えない状態だった。


「波越警部。鑑識の話によると、被害者は我々白籠署に勤める谷村義男巡査で間違い無いと思われます」
柿谷淳一の言葉に波越警部は「そうか」とだけ呟く。
「しかし、妙と言えば、被害者の事なんです」
「被害者が?」
その言葉に波越警部は思わず頭をグイッと後ろにそらす。
「ええ、彼は拳銃を持っていた筈なのに、使っていないんです。のに、何故か、突然拳銃を落としたらしく……」
「外傷がない?」
「ええ、谷村巡査の死因は胸を鋭利な刃物で貫かれた事による出血死ですが、それ以外の攻撃を受けたような傷が一切見当たらないんです」
その言葉が引っかかる。柿谷の言葉を真に受ければ、谷村巡査は死ぬまでに何の抵抗もしなかった事になるが……。
「とにかく、何かしらの魔法による攻撃を受けた可能性もあるッ!急いで調べさせてくれッ!」
波越警部の命令に淳一は敬礼をして、鑑識の方に向かって行く。

サムは空中浮遊車スカイアップ・カーに乗りながら、相棒にケンタッキーバーボンの瓶を進める。
「辞めろよ、日本共和国では飲酒運転は激減なんだ」
「固い事言うなよ、オラァ、旅先にはケンタッキーバーボンって決めてんだ」
そう言って、サムはまた一口飲む。
「お前、そのためにワザワザユニオン帝国からそれを取り寄せたのか?」
ポーリーは呆れるばかりだ。
「ああ、ユニオン帝国じゃあ、国家薄明期。つまり西部開拓時代にガンマンたちが飲んだ酒は各国に輸入される程人気なのはお前も知ってるだろ?他にも、大航海時代を味わいたいなら、ラム酒だッ!」
サムはケンタッキーバーボンの瓶を空中に掲げながら言った。
「酒もいいけどよ、殺す前には飲むなよ?やりにくくてしょうがねぇ」
ポーリーは先ほどのサムの言葉に目を細める。そして、イライラしていたのか、運転に使っていない左足を震えさせながら言った。
「大丈夫だって、オレの能力は幻覚。正確には相手は小さな軍隊に囲まれたように見えるが、本当は何にも囲まれていない、刺されたように感じても、痛みを体に覚えたように感じるだけで、実際には何の傷も付いていない……だが、オレの魔法を見破った奴は今までに何人いた!?居ないだろ?少なくとも、ドン・ボルジア以外は……」
「お前の魔法は強い、だけどな、相手に幻覚と思われたら、終わりなんだ。気付かせる前に殺るのが一番なんだよ」
やや、自惚れている相棒にポーリーは注意してやる。
「分かってるよ、あんたこそ、本体を見抜かれちゃあ、終わりなんだぜ」
サムはポーリーにお礼代わりにアドバイスをしてやる。
「そうだな、気をつけるよ」
ポーリーはハンドルを握りながら、特に何の意思も込めずに言った。



孝太郎はどうやら、二日目も無事に済みそうだと肩を落としていた。
そして、ワーグナーでも聴こうかと、CD(魔法や科学の発達が進んだ23世紀の世の中でも、CDは庶民の音源として親しまれている)を車のCDケースから取り出そうとした時だ。
突然、横に一台の黒塗りの浮遊車スカイアップ・カーが隣接する。
初めは孝太郎も無視しようかと、考えたのだが、あまりにもうるさいので、どうしようかと考えていると、助手席の男がコニーを見て、笑っているのを確認した。
孝太郎はイタリア系の顔立ちから、コニーを狙う追っ手の可能性を考慮し、車のスピードを上げて行く。
だが、その車も同時にスピードを上げていき……。
孝太郎は思わず生唾を飲み込む。
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