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シニョリーナ・エスコート・トラベル編

富永貫太の『ブラックホール』

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孝太郎がアンタッチャブル一行を乗せ、車に揺られていた時だ。
「むっ、クソ!! 」
孝太郎は目の前に人が飛び出してくるのを瞬時に判断し、ブレーキをかけた。
そして、すぐに車から降りて、相手の生死を確かめに行く。
「すいません! 大丈夫ですか!?」
孝太郎は慌てて目の前の屈強な体格の男を起こそうとしたのだが……。
「うぐッ……」
孝太郎は突然その男に頭を強く握られてしまう。
「クックッ、あんたが中村孝太郎だな?あの刈谷阿里耶を刑務所に放り込んだという……?」
「そういうあんたこそ何者だ?」
孝太郎は事故に遭ったと思われる男が、孝太郎の頭を握る力を強めながら、笑顔で答えた。
「おれの名前は富永貫太。職業はあえて省いておくぜ……」
孝太郎はその言葉から、男は刈谷組のヤクザだと認定した。
(ここのところ、組への締め付けが厳しかったから、その報復か?)
孝太郎は貫太が襲ってきた目的をそう判断したのだが……。
「あんたのところにコニーって女がいるだろ?そいつを渡してほしい……」
孝太郎には相手の男の言葉が『オレら』と聞こえた。
「分かってると思うけどな、ここから退いてもらうぞ、コニーさんはには渡さんからな……」
孝太郎の言葉に貫太は「分かっているな」とばかりの笑みを浮かべた。
「フフフ、だけれど、あんたは必ず後悔するぜ、オレの魔法を見てよぉ~」
貫太は手の平を正面にかざす。すると……。
「何!?オレの目の前に宇宙の図鑑とかでよく見るブラックホールが現れやがった……」
「そうだよ、だがな、孝太郎さん。あんたは一つ知らない事があるぜ、宇宙のブラックホールの仕組みはよく分からないが、オレのブラックホールはッ!」
そう言うなり、貫太は自分が作ったブラックホールの中に入る。
「どっ、どこへ消えやがった!?」
そして、孝太郎の質問に答えるように、先ほどの言葉の続きを叫ぶ。
「好きなところに出てッ!そして、好きな場所に作れるんだよォォォォ~~!!! 」
気がつけば、背後。孝太郎は貫太の攻撃を防ぐ術は思いつかない。
「ちくしょう! 」
孝太郎はやむを得ずに、自分の左腕を犠牲にする事を心に決めた。
貫太のまるで雷のようなストレートを防ぐために払った犠牲は大きかった。孝太郎の左腕はジーンと痺れてしまう。そして、しばらくは動かせないだろうと見通しを立てた。
「よし、本来はあんたの厄介な右腕をぶっ潰そうかと考えていたんだが……」
ここで、貫太は人差し指を立てながら、得意そうな笑みを浮かべて言った。
「左腕でも充分だぜ、なんせあんたの腕が一つ潰れた事には違いないからな」
貫太は満面の笑み笑みだった。


桃屋総一郎の昔からの信念は絶対に前線には立たない事だった。その信念が功を奏し、自らあの厄介な刑事を消そうとしたボスの一族は全員組のビジネスから消えてしまった。ボスの一族を哀れに思い、また、自分を取り立ててくれた刈谷阿里耶やその組にも忠誠心を感じながらも、やはり、どこか嬉しい気持ちはあった。
少なくとも、阿里耶から獄中指示を貰えば、当面は問題ない。あまりにも納得できない部分は"秘書"の久方彩香の元を訪れ、良い対処法を教えて貰えばいいのだ。
そして、最後は日本最大のヤクザ組織とヨーロッパ最大のマフィアを傍観する事で、二人とも疲弊したところを、自分たちが叩きのめす。そうすれば、あのアンタッチャブルが自分たちを締め付ける前の。いや、それ以上の勢力を築けるだろう。
総一郎は上質なミレジメのシャンパンを開けた。まるで、勝利の美酒を味わっているようだ。総一郎は満足な気分だった。


「オレとすれば、あんたの右腕が潰れる事を願っていたんだが、予想外の方向にいっちゃったな」
貫太は孝太郎を見下ろすように呟く。
「だけれど、オレの右腕は残っている」
孝太郎は自分の右腕。つまり、破壊の魔法を使える事をアピールしてみせる。
「やるってぇのか?」
貫太は右の拳を鳴らしながら問いかけた。
「勿論さ、お前のブラックホールなんぞ、オレの魔法でぶっ壊してやるぜ! 」
孝太郎のその言葉に怒ったのか、貫太は眉間にシワを寄せている。
「いいだろう!!! やって見やがれ! 」
だが、そうは言ったものの、動こうとはしない。
(あの野郎、一体どういうつもりなん?オレを誘ってんのか?オレに来いと言っているのかッ!)
貫太の考えは当たらずとも、遠からずという所だった。孝太郎はこの時はまずは自分から動くフリをして、相手を動かそうと企んでいたのだから。
しばらくの時間(貫太が携帯端末で確認した際には5分の時間が既に過ぎていた)が経ったが、孝太郎は一向に動こうとはしない。
(どういう事だ?妙なやつだ。動こうとはしない、どうやら、オレが動くのを待っているらしいな)
貫太はその考えに至ってから、孝太郎を試す目的で、武器保存ワーペン・セーブから、38口径のリボルバーを取り出す。
「これで、この距離からぶっ殺してくれるぜ! 」
貫太は撃鉄を立て、引き金を引く。銃声が夜の街に鳴り響く。
だが、孝太郎は貫太の銃弾を自分の右手で破壊した。
「やれやれ、ようやく仕掛けてきた攻撃が、これとはな、呆れて物も言えないぜ、こんなチンケなもんに頼っているとはな、最近のヤクザも地に堕ちたもんだ。もう一度言っておく。『お前のブラックホールなんぞ、オレの魔法で簡単に破壊してやる』オレはそう言った。だから、お前がかかって来なきゃあ、始まらないんだよ! 」
孝太郎の挑発に貫太は激怒した。歯を剥き出しにしながら、手のひらからブラックホールを作成し、そのまま中に入り、孝太郎の側にまで近寄る。
「これでどうだァァァァ~~!!! 」
貫太は自分の魔法を。そして、自分の腕っ節の強さを過信していた。
そして、出ていったところを……。
「うぐァァァァァァァ~~!!! 」
孝太郎の右ストレートを顎にくらって、その場に倒れこんでしまう。
「ぐっ、クソが……」
貫太は顎を抑えながら、ブラックホールに戻ろうとしたのだが……。
「おっと、そこまでだ」
孝太郎がブラックホールに向かって、右手を振り、ブラックホールを破壊したのだった。
「さてと、あんたの名前は確か……」
顎を抑え、倒れている自分に向かって来る孝太郎はまるで、悪魔のように思えた。
「おっ、オレのブラックホールを破壊するなんて……」
「悪いが、あんたの魔法は島津智久の魔法の劣化版にしか思えなくてな、前にもそんな事があるんだったら、オレがあんな手を使うのも納得だろ?」
貫太はそう得意げな顔をする孝太郎を睨み付け、再びブラックホールを作り出し、今度は車にいるコニーや孝太郎の姉の絵里子を狙おうとしたのだが……。
「甘いッ!」
孝太郎は貫太の居場所を魔法で攻撃した。貫太は左足の一部が破壊され、地面に落ちてしまう。
「ちくしょう! どうして、オレの居場所がバレた!?」
「簡単だよ、お前のブラックホールは動く時に、周りの花粉とか塵なんかを巻き上げながら、移動するんだ。オレはそれを見て、お前がどこに行くのかを確認しただけだよ、納得したんなら、もう逮捕してもいいだろ?」
孝太郎は懐から、手錠を取り出しながら言った。
「チッ、公務執行妨害って事か?いいだろう。刑務所でも、何でも行ってやるぜ」
貫太は大人しく手錠をはめられた。
「よし、もう安心だ!!! オレ達を襲ってきたクソ野郎は逮捕したぜッ!」
孝太郎が車のメンバーに問いかけると、絵里子が笑顔で手を振った。
孝太郎は姉のあの顔を見ると、頑張った甲斐があるなと、肩の力を落とした。
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