魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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シニョリーナ・エスコート・トラベル編

魔女の執念

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トミー・モルテはあのカヴァリエル村の襲撃を経て、彼は新たな日本支部の支部長に任命されたばかりだった。
彼は本の少し前まではドン・ジョー・ボルジアの一等執事であり、こんな任務になど就けるはずがなかったのだが、あのカヴァリエル村の襲撃から、自分の最も憎む女の足取りを聞かされた瞬間から、彼は自分の主人たるドン・ボルジアから、日本支部の支部長に任じられた。彼はドン・ボルジアから、前支部長たるサル・ボロネーオの失敗を踏まえて、ファミリー内の魔法師を五人連れて行くことを許可された。
これで、自分を含む魔法師は全部で五人。トミーとしてはあの憎き女を殺すには充分過ぎるほどの数だった。
トミーはそれだけ考えると、胸ポケットから、一枚の写真を取り出す。
その写真には長い黒髪の似合う美しく若い女性が映っていた。その漆黒の髪はトミーに似て、濃く深かった。
トミーは写真を見つめながら、今は亡き妹の事を思い返す。
妹は昔から、自分の唯一の守るべき存在であったのだ。そして、彼は村の自分の家にあった壁が剥がれかけた家に帰った時も、妹がいたからこそ、あの仕事に耐えられたのだ。
だが、サルは……。あの女は……。妹を死に追いやった挙句に妹を魔女呼ばわりし、村人全員に呼びかけ、殺害したのだ。そして、その村人の中に母親の名前が入っていた際に、トミーは我が目を疑った。
トミーはすぐさま、母親に真偽を問うと、母親はトミーの問いかけを肯定するように、首を縦に振った。
トミーはそれから、まず母親を殺し、次に妹のリンチに加わった村人を凄惨な方法で殺害した。次にサルを殺そうとしたのだが、サルは国の公爵にして、最大のマフィア組織のボスたるジョー・ボルジアの配下に加わったために、トミーには長い間手出しができなかった。そして、彼が日本で死んだと聞いた時は、自分の手で殺せなかった事を悔やみ、地団駄を踏んだ程だ。
そして、つい一日前に我慢できずに、カヴァリエル村を襲撃する事を決めたのであった。
そして、逃げたトミーの憎む女。コニーを追い、トミーは王国の特別機の中だ。
トミーは自分たちしかいない飛行機の中を見渡す。
各席から見える髪の色から誰が、誰かは容易に理解できる。
自分の前の席に座っている赤髪の男はサム。自分の右横に座っている金髪はフランク。その金髪の横の、つまり、右の窓側に座り、緊張のために足を揺らしている茶色の髪の男はポーリー。
そして、そのフランクの隣の席に座っている黒髪のポニテという特徴的な髪型を作っている男はラルフ。そして、そのラルフに隣に座る男の名前はマリオという名前だった。いずも、ロンバルディア王国の庶民には一勝身に付けることはできないだろう上等な絹で作られたスーツを身につけている。
トミーが頼もしい仲間の事を考えていると、横に座っていたフランクが近寄り、耳打ちしてきた。
「いいか、日本ではこの二週間くらい前にテロ事件が起きてな、それ以来空港での警備は厳重なんだ。こっちの入国の際に外していたM・C・Mマジック・コントロール・マシーンは着けなくちゃあならないんだぜ」
「要するに武器保存ワーペン・セーブとか、空中浮遊スカイアップなんかの魔法を使って、空港とか、飛行機でテロを起こされちゃあたまらんって事だろ?」
M・C・Mマジック・コントロール・マシーンとは、22世紀に開発された魔法師によるテロ防止のための道具である。特に一般人以上の魔法を扱える上級魔法師は空港等で着用を義務付けられる。
「その通りさ、分かったんなら、着けてくれよな、支部長様……」
フランクはそう言って、トミーの肩を叩く。
トミーは微笑で返し、そのゴタゴタした機械がは付属している腕輪を見つめ返す。
(ったく、便利なもんができたよな、取り敢えず、オレとしては日本に向かい、あの女を殺し、日本におけるコネクションを手に入れる事だけだぜ)
トミーは雲しかない空を見つめる。


孝太郎は白籠署に着いて、波越警部の顔を見るなり、愚痴を言いたくなってしまう。
折角の休日だったのにと……。
そんな孝太郎の様子を見越してか、波越は申し訳なさそうに項垂れてから、本題に入った。
「サル・ボロネーオを覚えているかね?孝太郎くん……」
その言葉に孝太郎の心から先程までの意思が吹っ飛ぶ。まるで、熱い温度で鍋を茹でていたら、その蓋が飛ぶように……。
「ええ、覚えていますよ」
「そうか、そのサルの奥さんがね、キミを頼ってやって来たんだよ、何でも命を狙われているから、助けてほしいとな……」
それから、殺人課の扉が開き、一人の美しい金髪の女性が入ってくる。
「紹介しよう。コンスタンツァ・"コニー"・ボロネーオさんだ」
コニーはあの自動翻訳機を使っているのだろうか、流暢な日本語で喋りかけてくる。
「初めまして、あなたが、中村孝太郎さんよね?あの刈谷阿里耶を逮捕した……」
「ええ、そうですが……」
「お願いがあるんですの! どうか、どうか……わたしを助けてください! イタリアからの追跡者を倒すために……」
「追跡者?」
その言葉に孝太郎は思わず両眉をひそめる。
「ええ、わたしの命を狙うギャングですの、と言っても、その中の一人がわたしを狙っているだけで……ほんの少し前のお話なんですが、わたくしサルと結婚するために、そのサルの想い人を追い詰めた事がありまして……」
その言葉を聞くなり、あの昔のアメリカを模した街での戦闘の時にトニーが呟いたあの言葉の意味が理解できる。
『若い頃に自分を愛してくれた女を魔女にした。キミには相応しい罰』それは、彼女が知っている事なのだろう。
「つまり、あなたは自分を守ってほしいと、我々にそうしてほしいと仰るんですね?」
「ええ、お願いします! 」
孝太郎としては正直外国人の彼女を護衛する気にはなれない。何故、ロンバルディア王国の警察に依頼しないのだろう。一応、対処はしてくれる筈だ。孝太郎がそう考えていると。
「あの、わたしを追っているトミー・モルテは強力な魔法師なんですわ! それにロンバルディア王国はマフィアの王国……わたしを守ってくれるわけがありませんわ! 」
「それで、あなたはそのトミーとかいう奴を撃退した暁にはどうするのですか?」
「この国への亡命を正々堂々と宣告するわ! 」
コニーは力強く言った。
「分かりました。でも、あなたのその亡命とやらは、国際問題になりかねませんからね、遥か昔にこの国に亡命しようとして、人を殺したユニオン帝国の軍人の処断をどちらの国に任せるかで、かなり揉めたのは警察学校で嫌という程に聞かされましたしね……」
コニーはその孝太郎の言葉を聞くなり、視線を床に落としていたのだが……。
「ですが、日本共和国で亡命審査が通るまでの間は、一応我々が護衛させていただきます! 」
孝太郎のその言葉にコニーは思わず抱きついてしまう。
「ありがとうございます! 孝太郎さん! 」
こんな美人に抱きつかれて、幸せだなと孝太郎が思っていた時だ。
「こっ、孝ちゃん……何やってるのよ……」
「あっ、姉貴……」
孝太郎は絵里子の目が血走っているのを見て、思わず全身を震わせる。
「あっ、あなたって人は……」
「おっ、おい、どうして、姉貴がここに!?」
孝太郎は一緒にいた真由美に事情を問う。
「知らないの?あんたにメールしたじゃん。家にいなくて、だったら、署かレンタルビデオ店にいるわ! って、絵里子が意気込んでさ、袋があるから、レンタルビデオ店じゃあないと、判断し、署にいるわって結論して、今から行くって……」
真由美のその説明を受けてから、孝太郎は逃げようとするが……。
「孝ちゃん、どこに行くのよォォォォォォ~!!! 」
鞭でも持って走って来そうな姉を見ると、孝太郎は逃げるでもなく、引きつった笑いを浮かべるしかなかった。
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