魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
53 / 233
ワイドエリアチェイス編

大脱走

しおりを挟む
「まぁ、いいさ、絵里子が無事ならばそれでいい」
「そうか……」
孝太郎は携帯電話の向こう側からでも、伝わってくる父の冷たい言葉が胸に刺さるように感じた。確かに、自分は大学を出ていない。
だが、それで父からそれ程疎まれる存在となってしまうのだろうか。
「なぁ、親父……」
「何だ?」
「あのさ、刈谷阿里耶の件は知ってるだろ?せめて、あの時は親父に褒めてほしかった」
孝太郎がそれを口に出した瞬間のことだ。父は「甘ったれるな」とだけ言って、電話を切った。
孝太郎はそんな両親に嫌気がした。いや、元から嫌気というのはあったが、彼の中にあった両親との溝が深まったように感じられた。
「おれには姉貴がいればいい……」
孝太郎は現実から逃げるように携帯端末にダウンロードしているゲームアプリを起動させようとした時だ。
メッセージアプリに明美から連絡が入っていた。
「何々、『月岡が脱獄し、坂本弁護士を誘拐したから、それの手助けにおれの力を貸して欲しい』か……勿論と言いたいんだが、今は姉貴が心配だしな……」
孝太郎は今すぐには行けないが、姉の意識が戻れば、そちらへと向かうメッセージを送信した。
「よし、これでいい……あとは姉貴の意識が戻るのを待つだけだな……」
孝太郎は治療室から病室へと移る姉の様子を心配そうな目で見送る。


坂山忠弁護士は何故、自分がこんな場所に閉じ込められているのかが分からぬ。
金目当ての犯行だろうか。それとも、政治思想的に反対する過激派の仕業だろうか。
坂山は一向に犯人の存在が分からぬ。そんな事を考えていても意味はないとばかりに、自分が閉じ込められている場所が何処なのかを確認するべく、辺りを見渡す。
白く薄汚れた壁に、打ちっ放しのコンクリートの床。そして目の前にある出口と思われる頑丈な扉には南京錠が。
これらの事実から、坂山は自分が閉じ込められているのは何処かの倉庫だという事は容易に理解した。問題はどこの倉庫なのかという事だ。
(困ったな、白籠市内には倉庫なんて、貸し倉庫を始めとして、個人宅にあるものを含めれば、それこそ星の数のようにあるぞ、倉庫には窓が無いようにだし、場所を特定するのは困難かもな……)
忠は何とかできないかと案を練っているところに、突然、自分の前に立ち塞がっていた扉が開く。
「よぉ~弁護士センセイ。元気か?」
目の前には一人の中年の男。世間一般に言われる臆病者ならば、ここで男の機嫌を損なわないというように、何か媚びるような事を言うだろう。
だが、忠は違う。彼は昔から、脅されようとも、実際に殺されかけようとも、絶対に依頼人のためには尽くす勇気のある弁護士であった。忠はキッパリとした口調で答えた。
「いいや、こんな所に閉じ込められて、機嫌がいい筈はないだろ?誰だって、そうだよ」
その忠の言葉を聞くなり、目の前の男はカッカッと笑い出す。
「面白い奴やな、弁護士センセイ。わしはあんた以外にも色んな奴誘拐して、身代金貰おうとしたけど、あんたのように毅然とした態度で、わしにものを言うたのは、初めてやな、褒めたるわ」
「それはどうも、それよりあなたは何者なんだ?わたしを攫ったんだ。わたしにはキミが何者なのかを知る権利があるよ」
「おっと、失礼したな、と言っても、詳しい事は言えんけどな、あんたの勇気に免じて言うたるわ、わしの名前は月岡源三郎。あんたも前の事件知っとるやろ?」
月岡源三郎。その名前はほんの一日前に川島製菓への脅迫事件並びに、多くの家族をマインドコントロールや暴力で破滅に追い込んだ男として家族思いの忠を怯えさせていた存在であった。事件を携帯端末のニュースで知った時は忠には対岸の火事のように思われたが。
(まさか、自分を今、誘拐したから存在がそんな奴だったとはな……)
忠は一瞬だけ、全身が震えるのを感じたが、すぐに今までの自分の信念を思い出し、相変わらず強い目で月岡を睨みつける。
「ふふふふ、あんたはやっぱり面白いよ、せや、メシ用意しとるんや、おい、中本! はよ、用意せんか! 」
中本と呼ばれた男が慌ててファーストフードの袋から、ハンバーガーを取り出し、坂山に手渡す。
だが、坂山はそれを拒否した。相手から食事を受け取るという行為は相手に屈したのと同じ態度だと知っていたから。
「強がるなぁ~弁護士センセイ。あんたのその強情さには目を見張るばかりやけどな、強がっとったら、あんたが仮にここから逃げ出したとしても、わしの背後には暴力団が付いとるんや、竜堂寺組系列のものすごい強い組がな……あんたに恨み持ってる組員を何人も知ってんで~~」
月岡はそう言うと、部下に扉の錠を閉めるように言い、閉められるのを確認してから、部下を引き連れ、忠が閉じ込められている倉庫を跡にする。
(よし、言ったな、何か逃げ出す手立てはないだろうか……)
そんな時に忠の目に入ったものは……。
(錠だ……この部屋の扉には南京錠が取り付けられているんだな、そして……)
忠は錠がキチンと閉められているのかを確認する。すると……。
(錠が緩んでいる。とすると、私でも逃げられるかもしれない……)
忠は急いで、緩んでいる錠を外し、倉庫の外へと出る。
倉庫の外は白籠市の郊外らしく、周りの殆どが田んぼであった。
(よし、もう少し街の方に近い、あのゴーストタウン旧オールディズ・アメリカンストリートにでも逃げ込もう……私の携帯端末は取られている筈だからな……)
忠がオールディズ・アメリカンストリートへと逃げ込もうとした時だ。
目の前に一台の車が停まった。孝太郎は一瞬奴らが戻って来たのかと思ったが、車は農家の人が使うような白いトラクターであり、恐らく地元の農家だろうと推測した。
そして、忠の予想通りにトラクターに乗っている麦わら帽子を被った壮年の男性に助けを求める。
「お願いだッ!私を助けてくれ! 私はんだッ!」
その『誘拐』という言葉を強調していう弁護士の言葉と顔があまりにも顔面蒼白なのが真実だと悟ったのか、農家の男性は慌てて忠をトラクターに乗せた。
「助かりました。私の名前は坂山忠と申します! 」
と、忠は急いで背広のポケットから、名刺を取り出し(こればかりは犯人一味からも重要なものだと思われなかったのだろう。没収はされなかった)農家の男性に渡す。
「いや、これはご丁寧に……」
「私はある男たちに誘拐されました! 今から、お手数ではありますが、街の方へと向かって頂けませんか?私は街の方で皆さんに安全だという事を証明しなければ、なりませんので! 」
その切羽詰まったような忠の様子から、農家の男性はただ事ではないと悟り、急いでトラクターを発振させた。
その途中、忠は何かに怯えるように顔を俯せていた。
忠が、ようやく顔を上げたのは一台のパトカーとオルディーズ・アメリカンストリートにて、一台のパトカーと接触してからであった。そこで、ようやく彼は心より安堵した顔を浮かべた。
パトカーからは、二人の女性が降りて来た。婦警ではないのは忠には分かった。二人は青い警察官の制服を着ていなかったから。
「あの、あなた方は?」
忠の問いかけに、片方の青髪のやんちゃそうな女刑事は石井聡子と。もう片方のいかにも聡明そうな丸メガネをかけた女性は倉本明美と名乗った。
忠はこの二人が一ヶ月前に刈谷阿里耶を逮捕した白籠市のアンタッチャブルのメンバーだと知り、ますます顔を明るくした。


すいません。今回からしばらくは一日一本の投稿となります。諸事情とスランプ状態の二つが重なってしまい。本当に申し訳ありません! 
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...