魔法刑事たちの事件簿

ワイドエリアチェイス編

死霊の防壁 前編

だが、孝太郎は一瞬の隙を突き、男に近くの破損したフローリングの板を投げつける。男も一瞬たじろいだが。
「ほぅ、あくまでもオレに逆らうって言うんだな、いいだろう、オレの魔法を感じればいいさッ！」
孝太郎はその言葉とそして、男の異様な雰囲気に思わず後退りをしてしまう。
それもその筈、男は全身からまるで死神のようなオーラを放っていたから。
「どうした？貴様ら、オレが怖くて近寄れんらしいな」
男は挑発するように言う。
「くっ、舐めてんじゃあねェぞ！ 」
聡子は武器保存ワーペン・セーブから、スコーピオンを取り出し、相手の男に向かって放つのだが。
これはどうした事だろう。スコーピオンはまるで見えない壁にまで弾かれているかのように次々と地面へと落ちつていく。
「あっ、あたしの銃が……」
思わず聡子が言葉を失っていると。
「ふふふ、驚いたかね？これがおれの魔法の真の威力だよ、おれは生まれて時から、暗殺者ヒットマンに特化した男とも呼ばれたッ！そのオレが貴様らのような一公僕なんぞに負けるわけがなかろうが」
孝太郎はここで、聞いていられないとばかりにフンと鼻を鳴らす。
「おい、お前……オレが話しているのが、そんなに面白いのか？」
との声に、孝太郎は相変わらず男を小馬鹿にしたような態度で、話に応える。
「いいや、あんたがあまりにも『井の中の蛙大会を知らず』という言葉を地で行っているんだなと思ってな」
「どう言う意味だ？」
孝太郎の言葉に、男は眉をひそめる。
「いいや、あんたは知らないのか？トニー・クレメンテを……」
その言葉に孝太郎は男が生唾を飲み込むのを確認した。どうやら、その名前が余程ショッキングだったらしい。
「くっ、だがな、ソイツは所詮は世界を回って、ザコ魔法師を相手にしているだけさ、だが、オレは違うッ！オレはこの日本で最強なんだッ！」
そして、激昂したのか、レーザーガンの銃口を孝太郎に向ける。
「オレをバカにしやがって……」
孝太郎はレーザーガンの銃口が自分に向けられているのを確認すると、その場から飛び跳ねるように素早く移動し、男の近くにまで寄ろうとするが。
「甘いッ！」
孝太郎の破壊の右腕を男の魔法は弾く。
「ふふふ、お前、オレを正面から移動し、そして右の脇からオレを殺そうとしただろ？だけね、ソイツは大きな間違いってもんだぜ」
「間違いだと？」
「ああ、お前の攻撃はオレには筒抜けさ、そもそも目隠しするもんが何もないのに、真っ直ぐに移動したら、移動する方向なんぞ、すぐに分かるだろ？」
男の言葉は的を射ていた。確かに、自分の魔法は強いと自惚れてはいなかったか。或いは自分なら倒せると思っていたのだろうか。若しくは土井真和さんの敵討ちに燃えていたからだろうか。
とにかく、後ろに待機している仲間からは今日の孝太郎は冷静さを欠いているように思えた。
「なら、一つ忠告しておくとするかね、『あんたは自分が強いと思い込んでいる……それだけの人間なのさ」
男は孝太郎に囁くように言った後に、孝太郎の元に近寄り、その腹を思いっきり叩く。
孝太郎はあまりの衝撃に腹の空気を全て吐き出し倒れてしまう。
「孝ちゃん！ 」
絵里子は最愛の弟のピンチに駆け寄ろうとするが……。
「待つんだッ！あの野郎の魔法は桁違いだッ！あの孝太郎さんだって倒せなかったんだ！ それをあたしらに何とかできると思っているのかい！？」
だが、聡子の制止も聞かずに、男の目の前に現れる。
「あの……あたしで良ければなんですが……」
絵里子は静かに言っていたが、その中に明らかな怒気が混じっているのはこの場にいる全員が理解できた。
「なんだよ？どうしたってんだ？」
絵里子の言葉に、不機嫌になる事もなく、男はレーザーガンを構えながら言った。
「決闘を行いましょう！ もし、あたしが勝ったのならば、あなたは大人しく逮捕されてください！ 」
「じゃあ、オレが勝った場合はどうすればいいんだ？」
男は自分に人差し指を差しながら、口元を緩めて言う。
「あなたに何でもされますわ、もしで良かったら……ですけど」
「いいだろうッ！日本一の実力を見せてやるぞ！ 」
と、男は絵里子の前に右足を勢いよく前に出したが……。
「今よ……」
と、男を囲むように機関銃の銃口が向けられる。
「なっ、武器保存ワーペン・セーブでも、使ったのか！？」
流石にいくらでも、防御できるとは言え、男もこれだけの銃を向けられては冷や汗の一つも垂らさずにはいられない。
そして、絵里子が指を鳴らすと、大量の機関銃が男に向かって発射される。男はまるで、ハチの巣にされたマフィア組織のボスの息子が殺された時のように、雨あられのように銃弾が降り注いでいる中を何とかしなければならなかった。
男は自分の精神力で何とか、魔法を保たせて、銃弾を防いでいた。
「クソッタレがッ！」
男はハチの巣になりながらも（正確には、バリヤーで防がれているので、降り注いでいる銃弾をそのバリヤーで防ぎながらと書くべきだが）絵里子の元へと突進してくる。
「ウォォォォォォォォォ～！！！ 」
「今よ！ 現れなさい！ 」
男の目の前に巨大な針のようなものが飛び出す。
男は串刺しになる前に、その場に留まる。
「ちくしょう……お前どんな魔法を使ってんだ？」
「いいわ、教えてあげる。あなたが自分の魔法の名前を教えてくれたらね……」
絵里子は意地悪そうな笑みを浮かべながら言った。
「チッ、教えられるかい！ 」
男はレーザーガンを握りしめ、安全なバリヤーの中から、放つのだが。
なんと、レーザー光線は絵里子の前に突然現れたレーザー遮断機の前に完璧に防がれてしまう。
「オレのレーザー光線が……」
「残念ね！ 無駄な抵抗は辞めて大人しくお縄に着きなさいッ！あなたが武装態勢を放棄し、凶器となり得るものを全て放棄するのならば、命は助けるわ！ 」
男は自分の厚くて形の悪い唇を噛みしめる。
目の前の女性の魔法が一切理解できない。物を自在に出せる魔法かと思えば、まるで作っているようにも感じる。
男にとっての最大の謎であった。