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ワイドエリアチェイス編

新たなる犠牲者

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月岡源三郎は川島製菓への脅迫とお菓子に毒物を混入した事実は認めたのだが……。
「何ッ!この事件は単独で起こしただと!?」
取り調べに当たった中村孝太郎は月岡のその言葉に、思わず取調室の机を叩いしてしまう。
「本当や、嘘を言うてどないすんねん、ワシは川島製菓からなら、ガッポリと金貰えるんちゃうんかと思ってな、だから、ワシは過去の事件を調べて、勉強して、入念に計画を練った上で、この事件を起こしたんや」
「つまり、背後には何も居なかったと言うんだな……」
「そうや、ワシらが単独で起こしたんや」
孝太郎は月岡の予想外の口の固さに思わず閉口してしまう。
「ならば、お前の口座に企業脅迫事件の前日に、多額の振込があったのはどう説明する気だ?」
と、孝太郎はあの後に家宅捜索に参加した絵里子からもらった情報で、攻めにかかったのだが。
「あれはな、前日に川島製菓と取引してな、金もろたんや、せやけど、ワシはもっと金を引き出せんのちゃうかと、思うてな、毒物を入れたやつをスーパーに置いたんやで」
隙がない。孝太郎が市長との繋がりを指摘し、それらしき証拠も月岡に突き出すのだが、全てのらりくらりと交わされてしまう。
「まぁ、こんな下らん質問ばかりした代償やな、兄ちゃん、カツ丼でもその携帯タブレットで注文しろや」
取調室にカツ丼とは。何と古臭いイメージなのだろう。そんなのがあったのは20世紀のごく一部の期間で、現在拘置者に与えられる食事は警察署内で買える弁当であった。
「メシはおれの担当じゃあない」
と、孝太郎が返すと。
「何やと、ワシにこんな思いをさせておいて、お前、申し訳ないと言う意識もないんかッ!すまんと思うのなら、カツ丼頼めや! 」
と、相手の罪悪感と彼の生まれ持っての凶暴性を少しだけ隠した顔で脅してくるのだが。
「いいか、ここは白籠署だぜ、娑婆じゃあその手でも通じたのかもしれんがね、オレは刑事だし、それに……」
孝太郎は即座に武器保存ワーペン・セーブから、38口径の拳銃を取り出して見せ、それから……。
「お前の側の壁を撃ち抜いたのは誰だと思ってんだ?お前が魔法なんか使って、抵抗したら、射殺する権利もあるんだぜ」
その言葉を聞くなり、月岡はダンマリを決め込んでしまう。しばらくはこれの繰り返しだった。ウンザリした孝太郎は近くの警官に何やら耳打ちする。


月岡はその日の孝太郎の取り調べに、クソでもくらえと言う気分で受けていたのだが……。
やがて、孝太郎が出て行き、その代わりに入ってきたゴリラのような厳つい刑事を見て、思わず言葉を失ってしまう。
「お前が、月岡源三郎だな?」
月岡はあまりの出来事に、呆然としていると……。
「お前が、月岡源三郎だなと聞いているんだッ!」
いきなり、その刑事は取調室の机を思いっきり叩く。孝太郎がやるように最後の脅しとばかりに叩くのではない。
これが序の口と言わんばかりの強い音で叩くのだ。あまりの強さに最初月岡は地震が起きたのかと周囲を見渡したが、やがてこの刑事が起こしたものだと知り、思わず体を震わせる。
「いいかッ!お前はクズだ……お前は社会のゴミだッ!だがな、そんなお前でも一つ役に立つ事がある……」
ゴリラのような厳つい大男は目を見開きながら言った。
「この件をサッサと終わらせる事だ。知っている事を全部喋りやがれ」
これは容疑者を落とす時に彼がよく取る手口だった。
故にあまりにもやり過ぎだと周りの人間が見た時には止めている。それ程の問題児だが、今回ばかりは役に立ちそうだ。


孝太郎は再び携帯端末を使い、市長のことを調べる。
すると……。
(うん、市長の新たなる関与か……)
それは、二日ほど前に起きた失踪事件だった。
(被害者は19歳の青年……彼は浪人していたが、市長に市庁舎で勤めさせてやると言う手紙を受け取り、面接に向かった後に、行方不明に。か……)
孝太郎はこの失踪事件を市長の犯罪だと認識していたが、何せ確固たる証拠が何もない。これが今まで孝太郎を動かせずにいた動機であった。
(どうすればいい……市長の奴はますます図に乗るだろうな、他にもまたどこかの裏組織にオレの抹殺を命じるのかもしれん……とにかく、今は市長を追い詰めるだけの証拠が欲しいんだ)
孝太郎が携帯端末を握り締めていると。
「あら、どうしたの孝ちゃん」
と、扉を開けて絵里子が入ってきた。
「市長の件でな、未だに動けないのが悔しくてさ……」
それを聞くなり、絵里子が目を輝かせて叫ぶように大声で言った。
「そうそうその件でね! いよいよ確固たる証拠が見つかったのよ! その失踪した場所の近くからボタンが見つかったのよ、それも鑑識の調べによると、高級なアルマーニとか、ブリオーニと言ったブランドが作ってそうな、ボタンなんですって! 」
「それを調べるのか?」
孝太郎の問いに、絵里子はいとも簡単に親指を立てた。
「そうよ、それをあたし達でやるのよ」
「言うは容易いが、行うは難しって奴だぜ、まぁいいや、何もないよりはマシだからな、当たってみようぜ」
孝太郎は携帯端末から目を離し、部屋を跡にする。
「そう言えば、聡子と明美は?」
「既に調べに出ているわよ、お昼に街のレストラン『エンパイア・ベイ』で合流する予定だから、そこに行きましょう」


レストラン『エンパイア・ベイ』はファミリー向けのレストランで、よく子供向けの特撮番組やアニメ番組とコラボするため、キッズからの支持が絶対的とも言えるが、メニューはお子様向け以外にも、若者向けのメニューも豊富なため、若者からも支持されるレストランである。
レストランに入ると、お昼時のためか、少しだけ混雑していた。小さな子供がアニメのキャラクターの玩具や特撮のヒーローが使うであろう武器をモチーフにした玩具を触っている。
そして、側には母親と思われる女性や仕事の合間に来たのか、スーツ姿の父親と思われる男性がお昼のメニューを何にしようかと相談しているところだ。
えらい場違いの場所に来ちまったと孝太郎は思わず苦笑する。
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