魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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ワイドエリアチェイス編

川島製菓毒物混入事件

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イタリアンマフィア『ボルジア・ファミリー』の構成員が逮捕された日とその翌日は何事もなく過ぎた。
だが、その翌日の夕方にいよいよ事件は発生した。
その日は孝太郎は仕事を終え、帰る前に一息つこうと、缶コーヒーに口をつけようとした時だった。
たまたま、新しく買った携帯端末を使いながら、ネットニュースを見ていた時だ。
「うん、匿名掲示板に毒物混入予告だと……」
匿名掲示板。それは23世紀では『フリーワールド』と名付けられているものだ。元々は21世紀の匿名掲示板から発展したものだが、今では携帯端末やら家庭用タブレットに内蔵されている翻訳機を通して、全世界の人々話し合える場所であった。
そのため、日本共和国では日本語に。北京人民解放連盟加盟国では中国語に。ユニオン帝国では英語に。その他各国のネットユーザーが呟いた言葉をその国の言語で確認できるのだ。
だから、どこかのバカがいたずらに犯行予告をしても、それが世界中に広まるということにより、昔よりは愉快犯は比較的に少なくなった。
(でも、たまに冬の暖かい時にたまたま目覚めた蚊のように現れるんだよな、こういう愉快犯が……)
孝太郎がそんな調子で、ネットニュースを見ていると。
(うん、記事を更新しました?)
孝太郎の端末の上に更新マークを表すループマークが現れる。
(変だな、夕方のニュースは更新されたばかりのはずだが……)
孝太郎がそう思いながら、ニュースを見てみると。
「なっ、なんだと!?」
そう、それを見た途端に、孝太郎はネットニュースが即座に書かれた理由を理解した。
「川島製菓の製品に毒物混入が発覚だと?」
孝太郎はまず川島製菓の自作自演説を考えてみたが、世界的に評価も高い川島製菓がワザワザ自己の信頼を落とすまでして、被害者を装ったりするのだろうか。
たとえ、保険等で金が入るとしても、世界各国で、信頼を落とし、営業成績不振で潰れる危険を冒してしまう危険性を天秤にかければ、圧倒的に保険で得をするメリットなんぞ毛ほどものでもない。とすると……。
(あの匿名掲示板の予告通りに、毒物を混入された可能性が充分に高いという事か……)
孝太郎はそれが気になり、その予告が書かれたフリーワールドの版を確認する。
(やはり、書き込まれているな……)
そこには匿名でこう書かれていた。
『マヌケな警察へ、お前らアホか。ワシらはちゃんとやるってフリーワールドで予告したやろ?それなのに、ワシらのやる事を嘘やと思っどったやろ?侵害やわ~やから、お前らには罰を与えたる。今度もまた川島製菓に毒入りのチョコを送ったるわ、川島の出しとる『ばななバー』と間違えて食わんようにな。アルセーヌ・ルパン』
孝太郎はこのアルセーヌ・ルパンを名乗る男が、ふざけてやったり、冗談でこんな事を書いているのではないと悟った。そして、食べ物に毒物を混入するなんて。
(正気の沙汰じゃあない)
そう思わずにはいられない案件だ。
「ねえ、孝ちゃん! ネットニュース見た!?」
と、扉を開けて入ってきたのはとっくに帰ったと思っていた姉の折原絵里子。
「見たさ、だから、おれはかきたくもない汗をかいているんだ……」
確かに。孝太郎は冷や汗を何本か垂らしていた。この事件の事で汗を流しているのか。それとも……。
「もしかしたら、今後も川島製菓に毒物が混入される事を恐れているの?」
「いいや」と、孝太郎は首を振って否定してみせる。
「じゃあ、どうしたの?」
「この事件が過去に20世紀も終わると言われた例のあの未解決事件にあまりにも似ているからな、今回も未解決にならないかと怖くなっちまってな」
「例の……ああ」
絵里子はようやく孝太郎が言おうとしている事を悟ったらしい。
「そうだぜ、あの事件だ……」
1984年から1985年にかけて引き起こされた食品会社の連続脅迫事件。そして、凶悪性を象徴する点としては。
「今回のケースとは違い、犯人の奴らがまずは風呂に入ったままの食品会社の社長を誘拐した事だな、この点が今回とは異なる。それに今回は前の事件と違って、いきなり企業の脅迫から入っているからな」
孝太郎は自分の机に置いてあった『ばななバー』を食べながら言った。
ばななバーとは、川島製菓の出した代表的なお菓子の一つで、一見すると、バナナの皮のような袋にバナナの形をしたチョコが入っているというものだ。手軽さと安さで子供を中心に大人気のお菓子である。
絵里子も近くの公園で子供が滑り台やら、ブランコに跨りながら、食べているのをよく目撃した。
「そのお菓子、しばらく保管しておいた方がいいんじゃなくて?もう、食べられなくなりそうよ」
という絵里子の言葉に、孝太郎は微笑を浮かべながら答える。
「お菓子というのは、食べてナンボのもんなんだぜ、だから、保管しておくのは間違いなんだぜ、いずれ腐るだろうし……」
「あら、その考えは今の時代には通じないわよ、今は保存魔法があるのだから、いつでも新鮮な状況で、とっておける筈じゃなくて?」
絵里子の言葉は的を射ていた。
だが、孝太郎としてはここで下がるわけにはいかない。
「いいや、このばななバーは家にまだ5本くらいあるしね、それを取っておけばいいだろ?」
と、反論したが。
「違うわよ、あたしは孝ちゃんの事だから、どうせ、約束を守らずに食べちゃわないかが心配なのよ」
実の姉言葉だけに言い返せない。
「そうだな、でも、これは食べるよ、もう口付けちゃったからな」
孝太郎の口はチョコの素晴らしい味で一杯になった。そんな弟を姉は呆れたような目で見つめていたが。
「そうそう、孝ちゃん、昔からそのお菓子好きだったわよね、よくお爺ちゃんに買ってもらってたの覚えているわ」
「だろ、おれの昔からの好物さ」
孝太郎はそう言いつつ、最後の一口を飲み込む。
「あ~、美味かったな、家にはあと5本あるけどね」
「はいはい、でもあたしには関係ないわ、あまり好きじゃあないもの」
と、頰を膨らませながら絵里子は言った。
「分かったよ、それよりも問題は事件の方だぜ」
と、深刻な顔をする孝太郎。
「ええ、分かっているわ」
と、絵里子はフリーワールドのアルセーヌ・ルパンを名乗る匿名の犯人の書き込みに目を通す。
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