41 / 233
ワイドエリアチェイス編
行き詰まりの窮地
しおりを挟む
「では、そろそろ失礼させてもらうよ」
トニーは薄ら笑いを浮かべながら言う。
「今回だけは見逃してやるよ、オレは唯一残ったイタリアンマフィアの構成員を逮捕しなければならんからな、お前を追っている暇はない……」
その孝太郎の言葉に、トニーはおかしいのか、クスクスと笑う。
「何がおかしい?」
どの孝太郎の指摘に。
「いいや、仮にキミが追ってきたとしても、キミはもうわたしを追えないのではないかなと思ってね、キミもわたしの魔法を見ただろ?」
その言葉に、孝太郎は思わずたじろぐ。あの死を司る言わば死神のような魔法に勝てるのだろうか。そんな思いが孝太郎の脳裏によぎる。
「ふふふ、言い返せないのだろ?分かってもらえて嬉しいよ、それよりも……市長のことについてだ」
孝太郎はトニーが強調した『市長』という単語が引っかかり、尋ねてみる。
「市長が?」
「ふふふ、キミも分かっているんだろ?これまでのバイカー同士の大幅な抗争。そして今回のイタリアンマフィアの進出と刈谷組の大暴れを……」
確かに、そもそもジャック・レッドニオとアース・モンタナの抗争はジャック・レッドニオの総長たる片桐健人が釈放されなければ、なかったであろうし。今回のイタリアンマフィアの進出も、何故このタイミングでとなってしまう。
「市長が裏で糸を引いているというのは確定なんだな?」
「ふふふ、キミも薄々勘付いていたんだろ?何故か、市長がピンチになれば、この国の反社会的組織トラブルを起こすと……」
「つまり、この事件が解決した後は、オレらがまた市長の疑惑に目を向けると……」
「何かしらの反社会的組織が抗争を起こすだろうな」
と、トニーは笑いながら言った。
「どうすればいい、完全にイタチごっこだぜ」
孝太郎は額に手を当てながら、助けを求めるようにトニーに言ったが。
「自分で考えたら、どうだね?わたしなら、その反社会的組織もろとも市長を逮捕するがね」
そう言って、トニーはぶっきらぼうに手を振りながら、その場を跡にする。
孝太郎はそんなトニーの様子を遠目で見つめながら、いずれ、彼とは何度でも会うだろうと考えた。そして、今孝太郎が捕らえている(正確には、近くにうずくまっていると表現するべきだろうが)を引き渡すために、孝太郎は携帯端末を取り出したが……。
「あっ、壊れちまっている」
孝太郎はヒビの入った携帯端末を眺めながら、ため息を吐く。
「これ、買ったばかりだったのにな……」
孝太郎の今にも泣きそうな言葉が、燃え盛る炎に包まれ、かき消されていく。
とりあえず、孝太郎は気をとりなおし、魔法で炎を破壊し、火を完全に消し去った後に、近くの民家にまで電話を借りに向かう。
民家からの通報で、本隊が駆け寄った際には、既に孝太郎が一人のイタリアンマフィアの兵隊と思われる男を逃さないように目を光らせて、待っていたところであった。
「孝太郎くん! キミからの通報があると来てみれば……この状況は何だね?どうして、こんなに死体が散乱し、しかも捕らえられたのは一人だけなのかね?家は焼けているようだし……」
波越署長は青筋を立てている上に、右の拳を強く握っているために、ものすごい怒りに襲われているのだという事は孝太郎以外にも、一緒に来た白籠市のアンタッチャブルたちにも容易に理解できた。
「わたしは上にどう報告すればいいんだね?孝太郎くんッ!」
その言葉に孝太郎はたしなめるように穏やかな口調でこう言った。
「では、上の方にはこう言ってください、この場に居たのはトニー・クレメンテだと……」
波越署長は『トニー・クレメンテ』という言葉に怖くなり、かわいそうに先程までの怒りをすっかりと引っ込めて、真っ青な顔を浮かべ、全身をブルブルと震わせている。
「あの殺し屋の!?」
と、波越署長と孝太郎の間に入ってきたのは、絵里子だった。
「ああ、あの野郎とは少し因縁ができちまってな、二度も戦う羽目になってしまったよ」
孝太郎がなんとも言えなさそうな顔を浮かべていると、そこに割って入ったのは明美で。
「羽目じゃあありませんよ! よく、無事でしたね! 世界一の殺し屋に……」
「本当に孝太郎さんてタフだよなぁ~~人間かよ」
と、茶化すように言ったのは聡子。
「うるさいな、オレでも運が良かったというのは理解しているからね」
孝太郎は呆れるように言った。
「とにかく、こいつに話を聞くとするか……」
波越警部は他の制服警官に銃を突き出され、手を上げているイタリア人の男を見ながら言った。
「ええ、私としても調べたい事が少々ありますので……」
その言葉が波越署長には引っかかったが、気にせずにパトカーに連れて行くように命令した。
本多太郎市長がボルジア・ファミリー全滅の報告を受けたのは、構成員の男の逮捕から、一日という時間が経過してからの事だ。
「何!?サル・ボロネーオが敗北しただとッ!」
その市長の怒鳴りつけるような剣幕に怯える事もなく、秘書たる島津智弘は淡々とした口調で伝える。
「ええ、あの伝説の殺し屋トニー・クレメンテの恨みを買ったとかで、全滅してしまったようで……」
太郎は数日ぶりに自慢の市長椅子に自分の拳を叩きつける。椅子はその場に魔法で固定されるいるために崩れる事は無かったのだが。
「あ~あ、また椅子に少し傷が付いたようですな」
という智弘の言葉に、市長はますます怒り狂った。
「うるさいッ!元々お前が無能だから、マスコミのバカどもが、私の事件にばかり気を取られるんだッ!お前は何かマスコミや警察の目を反らせるような手を考えんかッ!」
その太郎の言葉に、智弘は顎に自分の人差し指と親指を添えて考えている素振りを見せている。
「そうですね、今までよりももっと大きな事件を起こすというのはどうですか?」
「もっと大きな事件?」
「ええ、いわゆる劇場型犯罪のようなものを発生させ、市民やマスコミの目をそちらの方に向けるのです。ご心配はいりませんよ、適当な実行犯をわたしが雇っておきました」
「適当な実行犯?」
「ええ、月岡源次郎という男です。しかも、かなりの数の手下がいましてね……」
その『かなりの数の手下』という言葉に、太郎は思わず満面の笑みを浮かべてしまう。
「ソイツは期待できそうだな」
「ええ、明後日の夕刊を楽しみにしておけばいいと言っておりました」
この言葉通りに、明後日の夕方に白籠市では23世紀史上最悪の劇場型犯罪と呼ばれる『広域大企業連続脅迫事件』が発生されるのだった。
トニーは薄ら笑いを浮かべながら言う。
「今回だけは見逃してやるよ、オレは唯一残ったイタリアンマフィアの構成員を逮捕しなければならんからな、お前を追っている暇はない……」
その孝太郎の言葉に、トニーはおかしいのか、クスクスと笑う。
「何がおかしい?」
どの孝太郎の指摘に。
「いいや、仮にキミが追ってきたとしても、キミはもうわたしを追えないのではないかなと思ってね、キミもわたしの魔法を見ただろ?」
その言葉に、孝太郎は思わずたじろぐ。あの死を司る言わば死神のような魔法に勝てるのだろうか。そんな思いが孝太郎の脳裏によぎる。
「ふふふ、言い返せないのだろ?分かってもらえて嬉しいよ、それよりも……市長のことについてだ」
孝太郎はトニーが強調した『市長』という単語が引っかかり、尋ねてみる。
「市長が?」
「ふふふ、キミも分かっているんだろ?これまでのバイカー同士の大幅な抗争。そして今回のイタリアンマフィアの進出と刈谷組の大暴れを……」
確かに、そもそもジャック・レッドニオとアース・モンタナの抗争はジャック・レッドニオの総長たる片桐健人が釈放されなければ、なかったであろうし。今回のイタリアンマフィアの進出も、何故このタイミングでとなってしまう。
「市長が裏で糸を引いているというのは確定なんだな?」
「ふふふ、キミも薄々勘付いていたんだろ?何故か、市長がピンチになれば、この国の反社会的組織トラブルを起こすと……」
「つまり、この事件が解決した後は、オレらがまた市長の疑惑に目を向けると……」
「何かしらの反社会的組織が抗争を起こすだろうな」
と、トニーは笑いながら言った。
「どうすればいい、完全にイタチごっこだぜ」
孝太郎は額に手を当てながら、助けを求めるようにトニーに言ったが。
「自分で考えたら、どうだね?わたしなら、その反社会的組織もろとも市長を逮捕するがね」
そう言って、トニーはぶっきらぼうに手を振りながら、その場を跡にする。
孝太郎はそんなトニーの様子を遠目で見つめながら、いずれ、彼とは何度でも会うだろうと考えた。そして、今孝太郎が捕らえている(正確には、近くにうずくまっていると表現するべきだろうが)を引き渡すために、孝太郎は携帯端末を取り出したが……。
「あっ、壊れちまっている」
孝太郎はヒビの入った携帯端末を眺めながら、ため息を吐く。
「これ、買ったばかりだったのにな……」
孝太郎の今にも泣きそうな言葉が、燃え盛る炎に包まれ、かき消されていく。
とりあえず、孝太郎は気をとりなおし、魔法で炎を破壊し、火を完全に消し去った後に、近くの民家にまで電話を借りに向かう。
民家からの通報で、本隊が駆け寄った際には、既に孝太郎が一人のイタリアンマフィアの兵隊と思われる男を逃さないように目を光らせて、待っていたところであった。
「孝太郎くん! キミからの通報があると来てみれば……この状況は何だね?どうして、こんなに死体が散乱し、しかも捕らえられたのは一人だけなのかね?家は焼けているようだし……」
波越署長は青筋を立てている上に、右の拳を強く握っているために、ものすごい怒りに襲われているのだという事は孝太郎以外にも、一緒に来た白籠市のアンタッチャブルたちにも容易に理解できた。
「わたしは上にどう報告すればいいんだね?孝太郎くんッ!」
その言葉に孝太郎はたしなめるように穏やかな口調でこう言った。
「では、上の方にはこう言ってください、この場に居たのはトニー・クレメンテだと……」
波越署長は『トニー・クレメンテ』という言葉に怖くなり、かわいそうに先程までの怒りをすっかりと引っ込めて、真っ青な顔を浮かべ、全身をブルブルと震わせている。
「あの殺し屋の!?」
と、波越署長と孝太郎の間に入ってきたのは、絵里子だった。
「ああ、あの野郎とは少し因縁ができちまってな、二度も戦う羽目になってしまったよ」
孝太郎がなんとも言えなさそうな顔を浮かべていると、そこに割って入ったのは明美で。
「羽目じゃあありませんよ! よく、無事でしたね! 世界一の殺し屋に……」
「本当に孝太郎さんてタフだよなぁ~~人間かよ」
と、茶化すように言ったのは聡子。
「うるさいな、オレでも運が良かったというのは理解しているからね」
孝太郎は呆れるように言った。
「とにかく、こいつに話を聞くとするか……」
波越警部は他の制服警官に銃を突き出され、手を上げているイタリア人の男を見ながら言った。
「ええ、私としても調べたい事が少々ありますので……」
その言葉が波越署長には引っかかったが、気にせずにパトカーに連れて行くように命令した。
本多太郎市長がボルジア・ファミリー全滅の報告を受けたのは、構成員の男の逮捕から、一日という時間が経過してからの事だ。
「何!?サル・ボロネーオが敗北しただとッ!」
その市長の怒鳴りつけるような剣幕に怯える事もなく、秘書たる島津智弘は淡々とした口調で伝える。
「ええ、あの伝説の殺し屋トニー・クレメンテの恨みを買ったとかで、全滅してしまったようで……」
太郎は数日ぶりに自慢の市長椅子に自分の拳を叩きつける。椅子はその場に魔法で固定されるいるために崩れる事は無かったのだが。
「あ~あ、また椅子に少し傷が付いたようですな」
という智弘の言葉に、市長はますます怒り狂った。
「うるさいッ!元々お前が無能だから、マスコミのバカどもが、私の事件にばかり気を取られるんだッ!お前は何かマスコミや警察の目を反らせるような手を考えんかッ!」
その太郎の言葉に、智弘は顎に自分の人差し指と親指を添えて考えている素振りを見せている。
「そうですね、今までよりももっと大きな事件を起こすというのはどうですか?」
「もっと大きな事件?」
「ええ、いわゆる劇場型犯罪のようなものを発生させ、市民やマスコミの目をそちらの方に向けるのです。ご心配はいりませんよ、適当な実行犯をわたしが雇っておきました」
「適当な実行犯?」
「ええ、月岡源次郎という男です。しかも、かなりの数の手下がいましてね……」
その『かなりの数の手下』という言葉に、太郎は思わず満面の笑みを浮かべてしまう。
「ソイツは期待できそうだな」
「ええ、明後日の夕刊を楽しみにしておけばいいと言っておりました」
この言葉通りに、明後日の夕方に白籠市では23世紀史上最悪の劇場型犯罪と呼ばれる『広域大企業連続脅迫事件』が発生されるのだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
My HERO
饕餮
恋愛
脱線事故をきっかけに恋が始まる……かも知れない。
ハイパーレスキューとの恋を改稿し、纏めたものです。
★この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。
我ら新興文明保護艦隊
ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら?
もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら?
これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。
※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
11 Girl's Trials~幼馴染の美少女と共に目指すハーレム!~
武無由乃
ファンタジー
スケベで馬鹿な高校生の少年―――人呼んで”土下座司郎”が、神社で出会った女神様。
その女神様に”11人の美少女たちの絶望”に関わることのできる能力を与えられ、幼馴染の美少女と共にそれを救うべく奔走する。
美少女を救えばその娘はハーレム入り! ―――しかし、失敗すれば―――問答無用で”死亡”?!
命がけの”11の試練”が襲い来る! 果たして少年は生き延びられるのか?!
土下座してる場合じゃないぞ司郎!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる