魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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ワイドエリアチェイス編

行き詰まりの窮地

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「では、そろそろ失礼させてもらうよ」
トニーは薄ら笑いを浮かべながら言う。
「今回だけは見逃してやるよ、オレは唯一残ったイタリアンマフィアの構成員を逮捕しなければならんからな、お前を追っている暇はない……」
その孝太郎の言葉に、トニーはおかしいのか、クスクスと笑う。
「何がおかしい?」
どの孝太郎の指摘に。
「いいや、仮にキミが追ってきたとしても、キミはもうわたしを追えないのではないかなと思ってね、キミもわたしの魔法を見ただろ?」
その言葉に、孝太郎は思わずたじろぐ。あの死を司る言わば死神のような魔法に勝てるのだろうか。そんな思いが孝太郎の脳裏によぎる。
「ふふふ、言い返せないのだろ?分かってもらえて嬉しいよ、それよりも……についてだ」
孝太郎はトニーが強調した『市長』という単語が引っかかり、尋ねてみる。
「市長が?」
「ふふふ、キミも分かっているんだろ?これまでのバイカー同士の大幅な抗争。そして今回のイタリアンマフィアの進出と刈谷組の大暴れを……」
確かに、そもそもジャック・レッドニオとアース・モンタナの抗争はジャック・レッドニオの総長たる片桐健人が釈放されなければ、なかったであろうし。今回のイタリアンマフィアの進出も、何故このタイミングでとなってしまう。
「市長が裏で糸を引いているというのは確定なんだな?」
「ふふふ、キミも薄々勘付いていたんだろ?何故か、市長がピンチになれば、この国の反社会的組織トラブルを起こすと……」
「つまり、この事件が解決した後は、オレらがまた市長の疑惑に目を向けると……」
「何かしらの反社会的組織が抗争を起こすだろうな」
と、トニーは笑いながら言った。
「どうすればいい、完全にイタチごっこだぜ」
孝太郎は額に手を当てながら、助けを求めるようにトニーに言ったが。
「自分で考えたら、どうだね?わたしなら、その反社会的組織もろとも市長を逮捕するがね」
そう言って、トニーはぶっきらぼうに手を振りながら、その場を跡にする。
孝太郎はそんなトニーの様子を遠目で見つめながら、いずれ、彼とは何度でも会うだろうと考えた。そして、今孝太郎が捕らえている(正確には、近くにうずくまっていると表現するべきだろうが)を引き渡すために、孝太郎は携帯端末を取り出したが……。
「あっ、壊れちまっている」
孝太郎はヒビの入った携帯端末を眺めながら、ため息を吐く。
「これ、買ったばかりだったのにな……」
孝太郎の今にも泣きそうな言葉が、燃え盛る炎に包まれ、かき消されていく。
とりあえず、孝太郎は気をとりなおし、魔法で炎を破壊し、火を完全に消し去った後に、近くの民家にまで電話を借りに向かう。
民家からの通報で、本隊が駆け寄った際には、既に孝太郎が一人のイタリアンマフィアの兵隊と思われる男を逃さないように目を光らせて、待っていたところであった。
「孝太郎くん! キミからの通報があると来てみれば……この状況は何だね?どうして、こんなに死体が散乱し、しかも捕らえられたのは一人だけなのかね?家は焼けているようだし……」
波越署長は青筋を立てている上に、右の拳を強く握っているために、ものすごい怒りに襲われているのだという事は孝太郎以外にも、一緒に来た白籠市のアンタッチャブルたちにも容易に理解できた。
「わたしは上にどう報告すればいいんだね?孝太郎くんッ!」
その言葉に孝太郎はたしなめるように穏やかな口調でこう言った。
「では、上の方にはこう言ってください、この場に居たのはだと……」
波越署長は『トニー・クレメンテ』という言葉に怖くなり、かわいそうに先程までの怒りをすっかりと引っ込めて、真っ青な顔を浮かべ、全身をブルブルと震わせている。
「あの殺し屋の!?」
と、波越署長と孝太郎の間に入ってきたのは、絵里子だった。
「ああ、あの野郎とは少し因縁ができちまってな、二度も戦う羽目になってしまったよ」
孝太郎がなんとも言えなさそうな顔を浮かべていると、そこに割って入ったのは明美で。
じゃあありませんよ! よく、無事でしたね! 世界一の殺し屋に……」
「本当に孝太郎さんてタフだよなぁ~~人間かよ」
と、茶化すように言ったのは聡子。
「うるさいな、オレでも運が良かったというのは理解しているからね」
孝太郎は呆れるように言った。
「とにかく、こいつに話を聞くとするか……」
波越警部は他の制服警官に銃を突き出され、手を上げているイタリア人の男を見ながら言った。
「ええ、私としても調べたい事が少々ありますので……」
その言葉が波越署長には引っかかったが、気にせずにパトカーに連れて行くように命令した。

本多太郎市長がボルジア・ファミリー全滅の報告を受けたのは、構成員の男の逮捕から、一日という時間が経過してからの事だ。
「何!?サル・ボロネーオが敗北しただとッ!」
その市長の怒鳴りつけるような剣幕に怯える事もなく、秘書たる島津智弘は淡々とした口調で伝える。
「ええ、あの伝説の殺し屋トニー・クレメンテの恨みを買ったとかで、全滅してしまったようで……」
太郎は数日ぶりに自慢の市長椅子に自分の拳を叩きつける。椅子はその場に魔法で固定されるいるために崩れる事は無かったのだが。
「あ~あ、また椅子に少し傷が付いたようですな」
という智弘の言葉に、市長はますます怒り狂った。
「うるさいッ!元々お前が無能だから、マスコミのバカどもが、私の事件にばかり気を取られるんだッ!お前は何かマスコミや警察の目を反らせるような手を考えんかッ!」
その太郎の言葉に、智弘は顎に自分の人差し指と親指を添えて考えている素振りを見せている。
「そうですね、今までよりももっと大きな事件を起こすというのはどうですか?」
「もっと大きな事件?」
「ええ、いわゆる劇場型犯罪のようなものを発生させ、市民やマスコミの目をそちらの方に向けるのです。ご心配はいりませんよ、適当な実行犯をわたしが雇っておきました」
「適当な実行犯?」
「ええ、月岡源次郎という男です。しかも、かなりの数の手下がいましてね……」
その『かなりの数の手下』という言葉に、太郎は思わず満面の笑みを浮かべてしまう。
「ソイツは期待できそうだな」
「ええ、明後日の夕刊を楽しみにしておけばいいと言っておりました」
この言葉通りに、明後日の夕方に白籠市では23世紀史上最悪の劇場型犯罪と呼ばれる『広域大企業連続脅迫事件』が発生されるのだった。
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