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バイカー抗争編
戦争の足音
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片桐健人釈放の知らせはバイカー集団ジャック・レッドニオの残留メンバーにもすぐに伝わった。
「片桐の野郎が釈放されただとッ!」
そう忌々しげに安アパートの中の卓袱台を叩いたのは、ジャック・レッドニオの帳簿係たる後藤翼だった。
翼は片桐の収監中は穏健派のリーダーとして名を馳せていた真田真由美の片腕として名を馳せていた人物である。
翼は黒色の革ジャンにジーンズといかにもバイカーですと言わんばかりの服装と21世紀初頭の不良を思わせるような風貌のために、子供からは恐れられていたが、本来は彼女同様に温厚な性格であり、バイカー同士の抗争も基本は避けて通ろうしてきた男であるが……。
それをことごとくぶち壊したのが、バイカー集団ジャック・レッドニオのリーダーたる片桐健人であった。
「冗談じゃあない! アイツのせいでこれまでの政策は失敗に終わるぜッ!折角刈谷阿里耶が逮捕されて、このジャック・レッドニオも安定するかと思ったんだがよぉ~」
そんな狼狽している姿を見て、何か言いたかったのか、それまでの腕組みを外し、真由美は翼の側による。
「お前の心配は最もだが、心配しなくてもいい、健人の奴とはもう三年もこのジャック・レッドニオのメンバーとして上手くやっているんだ。必ず成功させてみせるよ」
だが、それに納得がいかなそうにため息を吐いたのは彼女の左腕であり、ジャック・レッドニオ一の武闘派大野信介。
「いいや、あの野郎は抗争を繰り広げるね、それどころかジャック・レッドニオを他のバイカーに売り渡しもしそうだぜ」
そんな信介の決めつけに真由美は異論を唱える。
「おい、流石に言い過ぎだ。それにアイツは仮にもこのジャック・レッドニオの総長だ。総長が自分のチームを他のバイカーに売り渡したりするか?」
「するねッ!」
そう叫んだ信介の目には一変のゆるぎも見えない。
「アイツの先祖の片桐且元は平気で大坂城の弱点を徳川家康に教えやがったんだッ!だから、家康は弱点を突くように城の中に砲弾を撃ち込み、淀殿は精神的に疲労し、徳川に講和しちまったのさ」
そんな信介の言葉に、真由美は呆れた様子で、腰に手を当てて信介の顔を見つめる。
「いいか、そんな儒教的な考えに囚われるのは辞めるんだな! お前にとってこのジャック・レッドニオには先祖からの恨みが尾を引くような組織なのか?」
そう、現在のリーダーである真由美の言葉に信介は思わず尻込みをする。
「だけど、どうするんだい?健人の野郎が釈放されたとなりゃあ、あの野郎がオレら三人以外の構成員に演説して、他のバイカー集団に戦争を仕掛ける事は確実だぜ! 」
「問題ない、わたしがじっくりと話してみるから」
真由美の言葉に三人は沈黙せざるを得なかった。少なくとも今のところは……。
翌日、片桐健人が娑婆の空気を存分に楽しんでから、ジャック・レッドニオのアジトへと足を踏み入れる。
「よぉ~! 総長のお帰りだぜ! お前ら出迎えは~」
健人の呼びかけに、全員が「出所おめでとうございます! 」と頭を下げた。
健人は満足そうな笑みを浮かべた後に、周りをキョロキョロと見渡し。「真由美は?」と頭を下げた構成員の一人に尋ねる。
「副総長なら、コンビニだよ」
健人はその言葉を聞いた瞬間に不満そうに、ソッポを向く。
コンビニか……。人類が20世紀の後半にそれを生み出してから、ずっと使われている商業施設。何でも揃っている上に24時間営業なのが、特徴で、そこには食品から化粧品に至るまで……。或いは薬品まで売っているのが売りだ。コンビニという言葉を久しぶりに聞く、健人からすれば、真由美が外出していなければ、嬉しい言葉だったに違いない。だが、外出している今となれば……。
(あの女め、オレが今日出所と知りながら、コンビニだとッ!舐めやがって! オラァ……ムショで女に飢えているんだぜ、顔くらい見せろってんだ)
と、不服な気分に陥るのも無理はない。
そんな時だ。玄関の安っぽいチャイムが鳴り響く。どうやら、真由美が帰還したようだ。
「今、帰った」
真由美の言葉が部屋の中に響く。それを聞いた瞬間に健人は真由美の顔をジッと見つめる。美しい! まさに咲いたばかりの花のような美人だ。
ハーフの自分と並んでも互角。いや、下手すれば自分よりも美しいかもしれない。
今の女に飢えた健人からすれば、そんな感想を抱いても無理はない(刑務所に入る前も、真由美を美しい女だと認識していたが、絶世の美女だとは認識していなかったのだ)
真由美の服は白色の革ジャンにジーンズと言う姿だが、健人以外の他のバイカー仲間からしても、真由美のその服装はどんなドレスよりも似合っていると考えていた。
健人はそう考えると、今までの不快感を隠し、寛大な笑顔を迎える事にした。
「今、帰ったぜェ~久し振りだな、真由美ィィ~~! 」
「ああ、お帰り……」
真由美が一旦顔を引きつらせたのを確認したが、見なかった事にし、健人は真由美に何を買ったのかを尋ねる。
「……別にただの食品だが……」
「オレの出所祝いだな! 」
と、健人は真由美の持っていたコンビニの袋を半ば引ったくるように取った。
「ふんふん、アイスにサラダに、ポテチに、サラミに、スルメ……オレの好物ばかりだな! お前、オレの出所を見越して、買ってきてくれたんだよな?」
「そうさ、わたしは副総長だからな、総長の帰還を喜ばない、構成員が何処にいるんだ?」
「へっ、お前はいい奴だよ、オラァ、良い奴は大好きだ。だがな、嫌な奴は嫌いなんだよ、だからなぁ……」
真由美は次に来るであろう言葉を予測し、唾を飲み込む。
「アイツらとは戦うぜ、今度こそアース・モンタナの奴らを叩き潰してやるんだッ!」
アース・モンタナ。真由美が所属するジャック・レッドニオとは長年敵対関係にあるバイカー集団の名である。特に総長の淀川健一と彼との関係は劣悪そのものであり、過去に戦争が勃発したのも一度や二度ではない。前回は刈谷阿里耶が抗争に介入し、片桐健人の逮捕により、講和が結ばれたが……。
「今回は違うぜッ!オレ達は戦うッ!アース・モンタナの奴らを叩き潰すまでなッ!」
その言葉に唇を噛んだり、喉元を噛み締めたのは、僅か数名で、構成員の大半が健人の演説に耳を傾けていた。
「片桐の野郎が釈放されただとッ!」
そう忌々しげに安アパートの中の卓袱台を叩いたのは、ジャック・レッドニオの帳簿係たる後藤翼だった。
翼は片桐の収監中は穏健派のリーダーとして名を馳せていた真田真由美の片腕として名を馳せていた人物である。
翼は黒色の革ジャンにジーンズといかにもバイカーですと言わんばかりの服装と21世紀初頭の不良を思わせるような風貌のために、子供からは恐れられていたが、本来は彼女同様に温厚な性格であり、バイカー同士の抗争も基本は避けて通ろうしてきた男であるが……。
それをことごとくぶち壊したのが、バイカー集団ジャック・レッドニオのリーダーたる片桐健人であった。
「冗談じゃあない! アイツのせいでこれまでの政策は失敗に終わるぜッ!折角刈谷阿里耶が逮捕されて、このジャック・レッドニオも安定するかと思ったんだがよぉ~」
そんな狼狽している姿を見て、何か言いたかったのか、それまでの腕組みを外し、真由美は翼の側による。
「お前の心配は最もだが、心配しなくてもいい、健人の奴とはもう三年もこのジャック・レッドニオのメンバーとして上手くやっているんだ。必ず成功させてみせるよ」
だが、それに納得がいかなそうにため息を吐いたのは彼女の左腕であり、ジャック・レッドニオ一の武闘派大野信介。
「いいや、あの野郎は抗争を繰り広げるね、それどころかジャック・レッドニオを他のバイカーに売り渡しもしそうだぜ」
そんな信介の決めつけに真由美は異論を唱える。
「おい、流石に言い過ぎだ。それにアイツは仮にもこのジャック・レッドニオの総長だ。総長が自分のチームを他のバイカーに売り渡したりするか?」
「するねッ!」
そう叫んだ信介の目には一変のゆるぎも見えない。
「アイツの先祖の片桐且元は平気で大坂城の弱点を徳川家康に教えやがったんだッ!だから、家康は弱点を突くように城の中に砲弾を撃ち込み、淀殿は精神的に疲労し、徳川に講和しちまったのさ」
そんな信介の言葉に、真由美は呆れた様子で、腰に手を当てて信介の顔を見つめる。
「いいか、そんな儒教的な考えに囚われるのは辞めるんだな! お前にとってこのジャック・レッドニオには先祖からの恨みが尾を引くような組織なのか?」
そう、現在のリーダーである真由美の言葉に信介は思わず尻込みをする。
「だけど、どうするんだい?健人の野郎が釈放されたとなりゃあ、あの野郎がオレら三人以外の構成員に演説して、他のバイカー集団に戦争を仕掛ける事は確実だぜ! 」
「問題ない、わたしがじっくりと話してみるから」
真由美の言葉に三人は沈黙せざるを得なかった。少なくとも今のところは……。
翌日、片桐健人が娑婆の空気を存分に楽しんでから、ジャック・レッドニオのアジトへと足を踏み入れる。
「よぉ~! 総長のお帰りだぜ! お前ら出迎えは~」
健人の呼びかけに、全員が「出所おめでとうございます! 」と頭を下げた。
健人は満足そうな笑みを浮かべた後に、周りをキョロキョロと見渡し。「真由美は?」と頭を下げた構成員の一人に尋ねる。
「副総長なら、コンビニだよ」
健人はその言葉を聞いた瞬間に不満そうに、ソッポを向く。
コンビニか……。人類が20世紀の後半にそれを生み出してから、ずっと使われている商業施設。何でも揃っている上に24時間営業なのが、特徴で、そこには食品から化粧品に至るまで……。或いは薬品まで売っているのが売りだ。コンビニという言葉を久しぶりに聞く、健人からすれば、真由美が外出していなければ、嬉しい言葉だったに違いない。だが、外出している今となれば……。
(あの女め、オレが今日出所と知りながら、コンビニだとッ!舐めやがって! オラァ……ムショで女に飢えているんだぜ、顔くらい見せろってんだ)
と、不服な気分に陥るのも無理はない。
そんな時だ。玄関の安っぽいチャイムが鳴り響く。どうやら、真由美が帰還したようだ。
「今、帰った」
真由美の言葉が部屋の中に響く。それを聞いた瞬間に健人は真由美の顔をジッと見つめる。美しい! まさに咲いたばかりの花のような美人だ。
ハーフの自分と並んでも互角。いや、下手すれば自分よりも美しいかもしれない。
今の女に飢えた健人からすれば、そんな感想を抱いても無理はない(刑務所に入る前も、真由美を美しい女だと認識していたが、絶世の美女だとは認識していなかったのだ)
真由美の服は白色の革ジャンにジーンズと言う姿だが、健人以外の他のバイカー仲間からしても、真由美のその服装はどんなドレスよりも似合っていると考えていた。
健人はそう考えると、今までの不快感を隠し、寛大な笑顔を迎える事にした。
「今、帰ったぜェ~久し振りだな、真由美ィィ~~! 」
「ああ、お帰り……」
真由美が一旦顔を引きつらせたのを確認したが、見なかった事にし、健人は真由美に何を買ったのかを尋ねる。
「……別にただの食品だが……」
「オレの出所祝いだな! 」
と、健人は真由美の持っていたコンビニの袋を半ば引ったくるように取った。
「ふんふん、アイスにサラダに、ポテチに、サラミに、スルメ……オレの好物ばかりだな! お前、オレの出所を見越して、買ってきてくれたんだよな?」
「そうさ、わたしは副総長だからな、総長の帰還を喜ばない、構成員が何処にいるんだ?」
「へっ、お前はいい奴だよ、オラァ、良い奴は大好きだ。だがな、嫌な奴は嫌いなんだよ、だからなぁ……」
真由美は次に来るであろう言葉を予測し、唾を飲み込む。
「アイツらとは戦うぜ、今度こそアース・モンタナの奴らを叩き潰してやるんだッ!」
アース・モンタナ。真由美が所属するジャック・レッドニオとは長年敵対関係にあるバイカー集団の名である。特に総長の淀川健一と彼との関係は劣悪そのものであり、過去に戦争が勃発したのも一度や二度ではない。前回は刈谷阿里耶が抗争に介入し、片桐健人の逮捕により、講和が結ばれたが……。
「今回は違うぜッ!オレ達は戦うッ!アース・モンタナの奴らを叩き潰すまでなッ!」
その言葉に唇を噛んだり、喉元を噛み締めたのは、僅か数名で、構成員の大半が健人の演説に耳を傾けていた。
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