クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか!?〜

アンジェロ岩井

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エピローグ:大衆よ、さらば!高岩一家、山奥への逃亡!

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「で、だ。親父、なんで、あんたらは山の上に住んでるんだ?」

長男、義喜の問い掛けに対し、沈黙を貫く高岩直人。その両手には水の入った木の桶が握られている。
この中に入っているのは風呂用の水である。そう、夜に風呂に入る時に用いる水なのだ。
高岩は所定の位置に水を置いた事を確認すると、義喜を手招きし、新たに作り上げた小屋の中にある自作の椅子に腰を下ろす。

義喜が高岩の向かい側に座ると、ニコニコと朗らかな笑みを浮かべた妹が父と自分との前にカップに入った紅茶を置いていく。
義喜を除く、高岩一家は現在、山の上で人目を避けるように暮らしている。というのも、この一家は街の人たちに白眼視されているからである。
それは魔王を倒した日の一ヶ月後。魔王城での休息を終えた高岩一家が意気揚々と街へと出かけ、魔王討伐の旨を伝えたのだが、その際に街ゆく人々から罵声を浴びせられたのだ。

どうやら、前の街の悪評や更に盾の人たちを苦しめた事や魔王の城までの道中の悪評が伝わっていたらしい。
それでも、魔王退治の報奨金を要求したのだが、悪評が立っており、結局のところ、大金を手にするまでに数週間という長い時間を要さなければならなかった。
この長い時間、高岩たち一行は魔王の死後に野良と化した魔物たちを狩り、そこから得られる報奨金で過ごしていたのだ。

宿代を選出し、必死の思いで大金を国から手に入れるものの、高岩は完全に働く気を失せたらしい。
おまけに大金は前世での借金での返済分を差し引いて渡されるので、目が眩むような大金という額ではなかった事もカネの心を持つ男の心象を悪くしたに違いない。
ブスッとした表情を浮かべたまま、金を受け取った高岩は暫く俯いた後に、顔を上げて、振り返り、背後に控えていた二人の子供に向かって問い掛けた。

「なぁ、お父さん……この余った金を使って、アレがくるまで、山奥に引っ込もうと思うんだけど」

その提案に二人の子供は意表を突かれて、当初は目を飛び出さんばかりに驚いていたが、菜穂子は頬を赤く染め上げながら「お父さんが居るなら、どこでも」と高岩へついて行く決心を表明する。
義喜は納得がいかなかったらしく、週に二度だけ山奥での仕事を手伝う事を条件に、別の街へと移動した。
半ば夜逃げのような形で山へと引っ込んだ高岩一家であったが、『住めば都』という言葉があるように、父と妹は帰る度に義喜を山菜を始めとする山の幸でもてなしてくれた。
義喜はいつも通りに滞在を終え、帰る日になり、高岩に向かって緊張を含んだ小さな声で言った。

「そういえば、親父……そろそろ『波』がくるぞ」

「な、なんだって!?」

高岩が声を上げる。
『波』というのは魔王の討伐後に神が提示した新たな脅威である。
どうも、異次元と異次元とが繋がり、その世界の勇者同士がぶつかり合う事があるらしい。

例年通りならば、槍と盾で対処できるのだが、高岩が盾の人を入院させたために、対処ができないのだという。
それで、チート能力を与えた高岩に白羽の槍が立ったのである。
魔王を倒した後の神からの言葉を要約すれば『『波』が落ち着くまでは戦え!戦えなかったら、地獄行き』という事なのである。

「まったく、そんな事は神がなんとかしろよ。こっちは無関係なんだが」

菜穂子はボヤきながらも、部屋に戻り、かつての剣腰に下げて戻ると、兄の元へと向かっていく。

「菜穂子の準備もできたし、そろそろ、オレも行こうか」

高岩は椅子の上から立ち上がり、義喜と共に家の外。つまり、『波』が起きる筈の場所へと向かっていく。
恐らく、槍の王子の一行も異界からの侵略者を待ち伏せるために勢揃いしているだろう。
それに『波』からはどんな相手が出てくるのかはわからない。

それでも、高岩一家はいくのだ。自身の地獄行きを免れるために。
彼ら一家は果たして、『波』の脅威に上手く対処し、地獄行きを免れるのだろうか。
だが、大丈夫だろう。なにせ、高岩一家には何がなんでも生き残ろうとするカネの心があるのだから。




あとがき
最終話にも関わらず、この前の話の公開予定日が明日にズレていました。申し訳ありません!

2022/5/14追記
最初の矛盾箇所を直しました。大変申し訳ありませんでした!
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