クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

最後の決戦、勝つのは借金野郎か、魔王か

高岩は借り物ハンドを使い、魔王の剣を奪い取ると、それを使って魔王へと切り掛かっていく。
剣と剣とが激しく切り結ぶ音が聞こえる。

「お父さん、大丈夫かな？」

菜穂子は這々の体で義喜の元に寄ってきていた。彼女は兄の肩にもたれかかっている。
そんな妹の頭を撫でて、義喜は幼い頃の彼女に接していた時のような優しい声で言った。

「大丈夫さ。お父さんは自衛隊で殺しの訓練を受けたんだぞ。あんな奴くらいはあっという間さ。おれたちを守ってくれるよ。前世で怖い人たちからオレたちを守ってくれたようにな」

義喜の言う怖い人たちというのは世間一般でいうところの反社会的組織の構成員などではない。
彼が指し示すのは恐らく、家に取り立てにきた一般債務者の事だろう。
前世で、義喜が心の底では父親を尊敬して事がよくわかる一言である。
こんな見方をして育っていれば、二人とも立派なクズに育つ筈である。

だが、他人から見ればクズな発言も今の二人からすればどんな偉人の言葉よりも自分たちを励ます心強い言葉なのだ。
二人が戦闘の片隅で、会話を交わしていると、決着が付いたらしい。
高岩の握っていた剣が魔王の体を真っ直ぐに突き刺していた。

恐らく、高岩は借り物ハンドで魔王の剣のみならず、剣技までも借りパクしたらしい。
それが、勝因に繋がったのだろうと、義喜は推測する。

「や、やったッ！」

「流石はお父さんね！」

高岩が突き刺した魔王の体からは火花が飛び散っており、今にも爆発せんばかりであった。

「お、おのれぇぇぇぇ～！！魔王である余が貴様のような紛い物にぃぃぃぃぃぃ～！！！どうせ、倒されるのなら、盾の月尚弥に倒されたかったわいッ！」

「魔王が何をほざくッ！これで、終わりだッ！」

高岩はそのまま両手で握っていた剣を勢いのままに引っこ抜いていく。
魔王は火花を散らし、悲鳴を上げながら、地面の上へと倒れ、やがて大きな音を上げていく。それが魔王がこの世に残す最後のイタチの屁。この辺りの地形を少しばかり変える大きな爆発である。
それを見て、二人の子供は慌てて、高岩の元へと駆け寄っていく。

爆風と粉塵が巻き上げる中、高岩は余裕のある笑みを浮かべながら、二人に向かって手を振る。
二人は歓喜した。父親の無事がこの上なく嬉しかったのだ。
菜穂子は駆け寄る最中に待ち切れなかったのか、途中で地面を蹴って、宙へと飛び上がり、勢いのままに抱き付いていく。

「お父さん！お父さん！よかった！無事だったのねッ！」

「あぁ、無事さ。菜穂子」

高岩は愛娘の頭を優しく撫でながら、片方の手で彼女を強く抱き締めていく。
義喜は親愛の情を確かめ合う二人を微笑ましく見つめていた。
同時に、今この場面をなんの感情も湧く事なく、見れた事を神へと深く感謝していた。

と、ここで義喜の思いが通じたのか、三人に向かって天からの声が聞こえてきた。

「おめでとう。見事に魔王を倒せたな」

「こちらこそ、ありがとうございます。恐ろしい魔王を倒し、人々の安全を守る事ができたのはあなたの助力があったからです」

高岩は天から語る神にそれらしい事を言ってのけたのだった。