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魔王強すぎ!?主役よりも強くていいんですか!?
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高岩一家は完全に追い詰められていた。将棋で例えるのならば『詰み』の状況に、チェスで例えるのならば『チェックメイト』の状況に陥ってしまっているというところだろうか。
高岩は幾度も魔王に戦いを挑み、成す術もなく敗れ去っていて、今は地面の上に転がっているし、二人の子供は絶望の淵へと叩き落とされ、どうにもこうにもならない状況である。
差し迫る恐怖にとうとう菜穂子の不安の堤防が決壊したのだろう。大きな声で涙を流しながら昂る感情を剥き出しにしていく。
「もうダメだよ!あたしたち、みんな、魔王に殺されちゃうんだッ!それで、借金も返せずに地獄に堕ちるんだッ!」
「ほぅ、地獄か……面白い。お前たち一家が地獄に堕ちる様を想像するだけでも余の楽しみが増すな」
魔王が舌なめずりをしながら、怯える菜穂子の元へと近付いていく。
「お、親父、なんとかしてくれ!」
義喜は妹に迫るを危機を見て、隣で横たわっている高岩に向かって懇願するものの、高岩は両手で懇願しながら、頭を何度も下げていく。
どうやら、お手上げであるらしい。義喜は地獄の血の池へと落ちた亡者たちの事を思い返していく。
針の山の近くに存在するとされる血の池の中に落ちた亡者たちは全ての事を諦めて、地獄の上を眺め上げてしまうらしい。
今の義喜と高岩がその状態にあるだろう。二人とも、何もできずに一歩、一歩、着実に菜穂子に迫る魔王を見つめる事しかできなかったのだから。
魔王がその杖の先端を向け、今度こそ菜穂子をあの世へと送ろうとした時だ。
咄嗟に高岩が魔王に向かって叫ぶ。
「ま、待てッ!殺すのならば私だけにしてくれ……だが、その代わりに約束してくれ……菜穂子と義喜は見逃してくれ……」
「お、親父!」
「お父さん!そんなの嫌だよ!三人でこの世界で生きて、前世の借金を返すんでしょ!?」
高岩はそんな娘の問い掛けにも何も言わずに俯いている。
だが、その拳は強く握り締められていた。高岩の確固たる決意が感じられる。
それを見た魔王は菜穂子に向ける足を止め、高岩の元へと向かっていく。
「よかろう。お前だけを始末し、お前の子供二人は生かしてやろう」
「そ、そんなッ!お父さん!」
「親父ッ!そんな事を言うなよッ!親父が死んだら、オレたちだって地獄行きだぞ!なら、ここで一緒に死のう!」
「義喜ッ!」
珍しく声を荒げながら高岩は息子を静止する。その目は真っ直ぐに義喜を見つめており、彼の確固たる意志を感じられた。
だが、すぐにいつもの笑顔を浮かべて言った。
「安心してくれ、お前たちは地獄に堕ちんよ……魔王が居なくても、魔物や魔族はたくさん湧く……それを地道にこなせば、きっと、借金なんて返せる筈さ」
「遺言はそれだけだな?」
家族に向かって笑い掛ける高岩に対し、容赦なくその杖の先端を振り下ろそうとする魔王。話し掛けている間に高岩の目の前にまで辿り着いたらしい。
万事休すかと思われたその時である。奇跡は起きた。
先程まで泣いていた筈の菜穂子が声を振り上げて、魔王を呼び止めたのである。
「ま、待てッ!あんたはあたしの本当の強さを知らない筈じゃろ?」
「本当の強さだと?」
魔王の手が止まる。果たして、菜穂子が言う本当の強さというのはなんなのだろう。
高岩は幾度も魔王に戦いを挑み、成す術もなく敗れ去っていて、今は地面の上に転がっているし、二人の子供は絶望の淵へと叩き落とされ、どうにもこうにもならない状況である。
差し迫る恐怖にとうとう菜穂子の不安の堤防が決壊したのだろう。大きな声で涙を流しながら昂る感情を剥き出しにしていく。
「もうダメだよ!あたしたち、みんな、魔王に殺されちゃうんだッ!それで、借金も返せずに地獄に堕ちるんだッ!」
「ほぅ、地獄か……面白い。お前たち一家が地獄に堕ちる様を想像するだけでも余の楽しみが増すな」
魔王が舌なめずりをしながら、怯える菜穂子の元へと近付いていく。
「お、親父、なんとかしてくれ!」
義喜は妹に迫るを危機を見て、隣で横たわっている高岩に向かって懇願するものの、高岩は両手で懇願しながら、頭を何度も下げていく。
どうやら、お手上げであるらしい。義喜は地獄の血の池へと落ちた亡者たちの事を思い返していく。
針の山の近くに存在するとされる血の池の中に落ちた亡者たちは全ての事を諦めて、地獄の上を眺め上げてしまうらしい。
今の義喜と高岩がその状態にあるだろう。二人とも、何もできずに一歩、一歩、着実に菜穂子に迫る魔王を見つめる事しかできなかったのだから。
魔王がその杖の先端を向け、今度こそ菜穂子をあの世へと送ろうとした時だ。
咄嗟に高岩が魔王に向かって叫ぶ。
「ま、待てッ!殺すのならば私だけにしてくれ……だが、その代わりに約束してくれ……菜穂子と義喜は見逃してくれ……」
「お、親父!」
「お父さん!そんなの嫌だよ!三人でこの世界で生きて、前世の借金を返すんでしょ!?」
高岩はそんな娘の問い掛けにも何も言わずに俯いている。
だが、その拳は強く握り締められていた。高岩の確固たる決意が感じられる。
それを見た魔王は菜穂子に向ける足を止め、高岩の元へと向かっていく。
「よかろう。お前だけを始末し、お前の子供二人は生かしてやろう」
「そ、そんなッ!お父さん!」
「親父ッ!そんな事を言うなよッ!親父が死んだら、オレたちだって地獄行きだぞ!なら、ここで一緒に死のう!」
「義喜ッ!」
珍しく声を荒げながら高岩は息子を静止する。その目は真っ直ぐに義喜を見つめており、彼の確固たる意志を感じられた。
だが、すぐにいつもの笑顔を浮かべて言った。
「安心してくれ、お前たちは地獄に堕ちんよ……魔王が居なくても、魔物や魔族はたくさん湧く……それを地道にこなせば、きっと、借金なんて返せる筈さ」
「遺言はそれだけだな?」
家族に向かって笑い掛ける高岩に対し、容赦なくその杖の先端を振り下ろそうとする魔王。話し掛けている間に高岩の目の前にまで辿り着いたらしい。
万事休すかと思われたその時である。奇跡は起きた。
先程まで泣いていた筈の菜穂子が声を振り上げて、魔王を呼び止めたのである。
「ま、待てッ!あんたはあたしの本当の強さを知らない筈じゃろ?」
「本当の強さだと?」
魔王の手が止まる。果たして、菜穂子が言う本当の強さというのはなんなのだろう。
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