クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

魔王城の決戦！借金ヒーロー対魔王

「ここが魔王の城か」

高岩は目の前に聳え立つ巨大な岩の城を見上げながら呟く。
その口調の何処かにはこれが、本当にあるんだと、自身を納得させようとするものがあった。
というのも、その城があまりにも巨大であるからだ。自分たちを見下ろすよう立っている石造りの塔。その上にオブジェクトのように渦巻く暗雲。

流石の借金ヒーローといえども、独り言を呟き、これが城だと納得させなければいけないものがあったのだろう。
高岩がぼんやりと立っていると、自身の真横に不安そうに事構える義喜と菜穂子の姿。
子供二人の不安気な顔を見ていると、高岩は慌てて自身の両頬を叩き、決意に満ちた表情を浮かべて、二人の子供と向かい合う。

それから、胸を張り、気さくに二人の肩を叩いて言った。

「安心しろ。お父さんが着いている。三人で魔王を倒して、借金を返済しようじゃあないか」

その言葉を聞き、二人は笑みを溢す。父が付いているのは心強い。
意を決して、四人が扉の把手を取り、勢いを付けて開いていく。
黒塗りの仰々しい扉が開かれ、三人の目には西洋式の入り組んだ階段と廊下が飛び込む。

同時に三人に向かってくるのは下級の魔物。

「義喜ッ！菜穂子ッ！」

高岩の呼び掛けに二人は「応ッ！」と任侠組織の親分のように応じ、それぞれの武器を取り出し、魔物たちを相手に暴れていく。
四方八方から襲い掛かってくる無数の魔物の処理は大変であったのだが、なんとか三人で魔物たちを全て斬り落としていく。

「これで全てかな？」

「えぇ、その筈」

「しかし、これで終わりかよ。あんまりにも呆気ないな。まだ、何か隠している事があるんじゃあねぇのか」

義喜の言葉は当たらずとも遠からずというところであっただろうか。
彼がモアイ像のような顔に不安の色を浮かべたのと同時に何処からか低い声が響いていき、その場に居た全員を不安にさせていく。
だが、高岩だけは例外であり、彼はミサイルとナイフの両方を備えながら、その声に向かって大きな声で正体を問う。

すると、その声は先程までとは打って変わり、大きく笑い始めていくではないか。

「ハッハッ、流石は高岩直人だ。余は魔族や魔物の守護者にしてこの世の全てを治める者、魔王である」

「やはり、魔王かッ！オレたちが乗り込んだ以上はこれでお前も最後だッ！観念しろッ！」

「ハッハッ、面白い。そのような虚勢が張れるとはな。気に入ったぞ。よし、お前たちを余の前にまで案内してやろう」

魔王の声はここで途切れるた。同時に、高岩たちの足元が激しく揺れ動き、彼を天井へと押し上げていく。

「お、親父ッ！これは！？」

「恐らく、この城の玄関のフロア全体がエレベーターのようになっていたんだろうな！！」

「成る程、魔王城の中を描写するのが面倒だから、謁見の間まで一気に連れて行こうという寸法なのねッ！」

菜穂子は混乱のあまりに妙な言葉を口走ってしまうものの、その後は全員で神妙な顔を浮かべていく。
いよいよ、決戦の時が近付いているという思いが全員の顔からは感じられた。