クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

高岩一家三話ぶりの出番！それなのにやっている事はナンパかよ！？

「なんなの……なんなのよ！この嵐は！」

バケツをひっくり返したような大雨が降り注ぐ中、菜穂子は船の上で一人叫ぶ。

「菜穂子！叫んでいる暇があるんだったら、少しでも、水を外へ流すのを手伝え！」

義喜はここにきて、ようやく被っていた布団から出てきた妹に向かって叫ぶ。
菜穂子は涙目になりながら、懸命に船の中に溢れた水を桶で必死に掬い出していく。
高岩の車と五つの手袋はこんな時にはなんの役にも立たない。

高岩は歯を食いしばりながら、必死の顔を浮かべて水を掬い出していく。
そんな時だ。高岩の目の前の海の中に思わず言葉を失うほどの美女が現れたではないか。
高岩は確信を得た。噂で聞く人魚である、と。

高岩の鼻の下が案の定、伸びた。彼は人の良さそうな笑みを浮かべながら、人魚と思われる女性に向かって告げた。

「こんばんは。嵐の中で大変でしょう。よかったら、船の中にお入りなさい。そして、港に着いた暁にはシャワーでも一緒に浴びませんか？」

人魚と思われる女性は高岩のその言葉を聞いて、顔を引き攣らせていたのだが、彼は気にする事なく話を続けていく。

「朝まで一緒に居ようと思っていますから……この機会を機に、二人の間で親密の間で密接な関係を築き上げましょう」

「出たーッ！親父のナンパ行動ッ！無心と共にかつて、匿名掲示板で問題視されてた行動だッ！」

「流石はお父さん！無心は禁止されてるけど、ナンパは禁止されていないもの、それを逆手に取っているのね！すごいや！」

二人の子供が見せた反応は様々である。義喜は半ば呆れているような言動であるのだが、菜穂子に至っては父親のナンパを許容しているのだから、彼女の盲目ぶりには驚くのを通り越し、恐ろしく思えてしまう。
ファンクラブ会長の月紀子ですら、ナンパ行動には憤りを感じており、それがきっかけで高岩とうまくいかなくなったというのに。
呆れた視線を向ける義喜、盲目の愛を向ける菜穂子を背後に、高岩は人魚と思われる女性にナンパを続けていく。

初めこそ戸惑っていた彼女であったが、しつこいナンパに堪忍袋の尾が切れたのだろう。
カメレオンのような緑色の肌をさらけ出し、肉食獣のような鋭い歯を剥き出しにし、高岩の腕を掴み、海の中へと引き摺り込もうと試みる。

「あ、お父さん！あんた、何するんだよ！」

菜穂子は高岩の背中を引っ張り、彼が海の中へと引き摺り込まれるのを阻止していく。
金塊を守る警備員のような心境で、菜穂子は高岩の腰を引っ張っていた。
暫くの間、緑色の頬をした人魚との間で体の引っ張り合いが続いていく。

藁をも掴まんとする思いで、菜穂子は父親を引っ張り上げ、船の看板に上に寝転がせる。
引っ張られた際に上半身の一部が海の中に浸かっていた事もあり、彼の上半身はひどく濡れていた。
彼は懸命に息を取り入れながら、自身を助けてくれた菜穂子に向かって言った。

「ハァハァ、ありがとう……菜穂子……かなり、ヤバかった。あと少しで三途の川を渡るところだった」

「よかったぁぁぁぁ～！！お父さん！」

菜穂子は涙を流しながら、父親の上半身を抱き抱えて、無事を喜ぶ。