クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

菜穂子媚びる！かつての悪役令嬢よ、活躍せよ！

菜穂子は息を呑む思いで、セザルドがどこからか取り出したワイングラスとワインを取り、お酌をしていた。彼女の必死の度合いが見ている高岩と義喜の両名にも伝わってくるかのようである。だが、それだけでは飽き足らないのか、様々なコスプレを着せてそれを楽しむセザルド。
メイドにセーラ服やナース衣装など。
どこで仕入れたのか、中世ヨーロッパの文化レベルを逸脱したレベルのコスプレ衣装である。

転生した後の菜穂子の素体が良いからか、結構、何を着せても似合う気がする。
特に、料理場の食事を王族や客人に食事を配膳する時に用いられるとされる上級の給餌女の紫色のドレスを着せた際には異様なまでに似合っていた。

「いいぞ、このまま盾の人に毒とか混ぜそうだな」

「えぇ、盾の人に毒を混ぜたパイを持って行こうとした時に自分より何倍も賢い年下の妹に看破されて、結果的にお仕置きくらいそうですよね！」

菜穂子がセザルドに合わせて話している内容は完全に『盾の勇者の成り上○り』である。
転生者である菜穂子はともかく、セザルドは現地ボスのはずであるのに、どうして、こうも盾の話に詳しいのだろう。
だが、アチペチ大吾などと比較しても、先程の真剣な悪役ぶりがどうしても、転生者とは思えない。

（これはあれか？メタ発言？メタ発言という奴なのか？それとも、このままネタに振り切る事にシフトし過ぎて、あいつは話の統合性も取れなくなっちまったのか）

義喜は頭を抱えながら、この会話を見守っていた。おかしくなり、吹き出し始める義喜とは対照的に、心中が穏やかではないのは娘大好きな高岩。
露出の高いコスプレをさせられ、その上に顔を赤くする菜穂子の姿を見て、じっとしてはいられなかったのだろう。
高岩は先程までの劣勢も忘れ、両手の拳を震わせている。

「よくも、よくも菜穂子を……このまま、済ませておくと思うなよッ！」

怒りのあまりに両頬を紅潮させる高岩を義喜は懸命に宥め、菜穂子が作り出してくれる隙を待たせるのであった。
その後もセザルドは菜穂子に酌をさせたばかりではなく、芸を披露させたりとやりたい放題。
その度に両眉を寄せる高岩を宥めるのに義喜は苦労していた。

そして、ようやく、セザルドに隙ができた。気を良くしてお酒を飲み過ぎたのである。
周りにはセザルドに呆れるセザルド四天王の姿。
この機会を逃さない義喜。彼は音符爆弾を生成し、密かに四天王の周りを包囲し、周りに爆弾を起こさせていく。

菜穂子は黒焦げのアフロヘアーになりながら、義喜に向かって叫ぶ。

「何すんだッ！バカ兄貴！殺す気か！？」

「す、すまん！だが、セザルドは仕留められたはずだッ！」

義喜は慌てて、セザルドの元から駆け寄る妹に向かって言い訳めいた言葉を叫んだものの、肝心のセザルドはピンピンしているではないか。
万事休すかと思いきや、救世主は意外な方向から現れた。
そう、父の高岩である。彼は衝撃波を放つ車へと乗り込み、セザルドや彼の四天王の元へと突っ込んでくるではないか。

四天王は咄嗟にセザルドを庇い、高岩の運転する車の前に立ち塞がり、次々と跳ねられていく。
高岩が車を動かすたびに爆発の音が鳴り響いていく姿が、セザルドには異常な光景に映った。
あまりにも理不尽な仕打ちに彼は憤慨し、単身、高岩の運転する車へと突っ込んでくるではないか。

セザルドは高岩が運転する車に向かって真正面から拳を放つ。
衝撃波と衝撃波とがぶつかり合い、その反動で車もセザルドも背後へと吹き飛ばされてしまう。