クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

高岩直人復活！戦えよ、高岩！くれぐれも、引きこもるんじゃあないぞ！

「あの、えらく迷惑していると」

「領主様はあの男と知り合いなのですよね！？なんとかしてくださいよ！」

「あの、もう縁を切ったんだからって仰られておりましたよ」

「縁を切った！？絶対に密かに連絡を取り合ってますよね！」

「いいや、あの親戚の葬儀の時も呼ばないし、来ても返すって仰っておられます。土下座して済む問題と済まない問題があると仰られているので」

領主の家の門を守る門番はそうは言いながらも、頭の中ではつい先程も高岩を庇う伯爵の姿を思い起こしていく。
彼が言うには高岩なる冒険者は前世で弟だったらしい。
だから、あんな風に庇い立てができるのだろう。

門番の男はそう考えながら、必死に領主の伯爵から伝えられた言葉を領民たちに伝えていく。
領主にして伯爵家の当主である亮一は必死に兄を庇い立てしていたものの、流石にここまで領民が来れば庇う事もできなくなったのだろう。
なにせ、今この瞬間も領民たちが扉を叩いて自分を呼び出そうしているのだから。

「早よ、開けんかいゴルァ！」

「開けろッ！領民警察だッ！」

先程のようなやり取りが終わると、聞こえのはこんなヤクザを思わせるような恫喝の言葉である。
そんな亮一の元に耳寄りの情報がもたらされたのはセザルドの再襲撃の情報である。
亮一は密かに退院した弟を屋敷に呼び出し、セザルドの討伐を高岩一家だけで討伐してくれと懇願する。
賞金を得たかった高岩はこれを快諾。

加えて、亮一はセザルドが来るまで、面倒を見る事も約束した。
こうして、高岩一家はセザルドが押し寄せるまで、悠々自適の生活を送る事ができたのである。
セザルドが来るまでの間、引きこもり、酒を浴びるように飲んでいた高岩一家であったのだが、いざ、セザルドと四天王と対峙した際には流石に顔から血の気が引いていた。

「お、おい、親父……」

「……今日はやめにしよう」

そのまま踵を返して、家に戻ろうとした高岩を義喜は襟首を掴み、阻止する。

「な、何をするんだッ！」

「親父は確か、こいつら倒すという条件で、亮一おじさんの金を使わせてもらったんだよな？それに、親父がここで逃げたら、オレが噴水で演奏できねぇんだ。悪いが、あいつを倒してもらうぞ」

「お前の都合じゃあねぇか！義喜の音楽は素晴らしいよッ！けど、なんで、オレがそのためにあいつらを倒せねぇんといけないんだッ！」

「親父だろッ！」

「ざけんなッ！お前、オレが公園で土下座した時に何をしていたのか、前に菜穂子に聞いたぞッ！その後に訪れた債権者たちに『関係ない』などと言ったそうじゃあないか！お前、オレが無心した金でイタリアに行ったんだろうがッ！」

義喜はウッと小さな呻めき声を上げてしまう。父の高岩が言った事は本当だからだ。
昔、まだ高岩が失踪する前に家族三人でイタリア旅行に行き、そこで美味しいものを食べ、貴重な体験をさせてもらった事を思い出し、彼は何も言えなくなってしまう。ようやく紡ぎ出したのは反論にもなっていないしみどもろな言葉。

「あっ、あれはだな」

「もういいッ！借金を返したら、お前を含めて、三人でこの世界で旅行をしようと思っていたけど、それはオレの“新しい奥さん”と行く事にするッ！」

高岩がそうして、目を向けたのは娘の菜穂子。
菜穂子はそれを聞いて、両頬をピンク色に染め上げていく。

「おいッ！待て！親父、それは小公女のもじりだよな？いくら、親父が若い女好きだからって、菜穂子にーー」

「バカもんッ！当たり前だッ！」

高岩は不埒な妄想を行う義喜の頭を思いっきり叩く。
余程、頭に響いたのだろう。義喜は痛みを少しでも和らげるために両手で頭を摩っていく。