クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

恐怖のパワハラ上司、鬼川の正体は？

「私も予想外だ。まさか、貴様のその妙な腕如きに自慢の部下を殺されるとは思ってもいなかったぞ」

鬼川は忌々しそうに吐き捨てる。心底から、憎いと言わんばかりの表情が彼の目から読み取れる。

「フフフ、貴様の野望もここまでだ。ここから先は拳法の達人である岸友也が相手をするッ！」

高岩は敢えて自身の本名や芸名ではなく、役名を名乗る事で己を誇示しようとしたのだろう。或いは己を勇気付けようとしたのかもしれない。
岸友也というのは彼の人生において唯一の誇りのようなものであるから、当然といえば当然である。
だが、鬼川はそんな高岩の誇りも彼の中の憤りの心を高めさせるばかりである。

「貴様……この忌々しい無心冒険者め……かくなるうちはこの私、自らの手で葬ってやろうッ！」

鬼川は宙の上に拳を振り上げると同時に、雷が彼の上に落ちていく。

すると同時に、彼の体が巨大な赤ん坊の姿へと変わっていくではないか。
その巨大はといえば、体が標準サイズから大きくなるまでの過程で、折角の城を壊す程の規模なのだ。
城が崩れる前に逃げ出す事ができたのは不幸中の幸いというべきだろうか。
赤ん坊の姿をした怪物は城の瓦礫の中から手を出し、辺りを手当たり次第に攻撃していく。

「お、親父！不味いぞ！」

義喜が声を荒げながら父に向かって問いかける。

「というか、完全に某鬼退治漫画のラスボスの最終形態じゃあないッ！完全にやばい奴じゃあないッ！」

「二人とも、落ち着くんだ。こういった時の対処法を知ってるか？おかしだ」

「それ、火事の時の奴だろッ！今は火事じゃあないだろ！？」

「親の言う事は聞くもんだぞッ！」

「今はそんな事を言っている場合じゃあねだろぉぉぉぉぉ～！！」

義喜は絶叫しながら父、妹と共に崖の麓を目指して走っていく。
街の端の大きな高原の中へとようやく辿り着いたのだが、他の冒険者たちからの不興を買う形となってしまう。

「お前ら！なにを引き連れてきてるんだッ！」

「ヤバそうなもんを連れてきてんじゃねーぞ！」

慌てて走る三人に向かって冒険者たちは次々と罵声を浴びせていく。

「うるせー！お前らこそ、鬼退治の漫画に登場する鬼殺しのモブみたいにおれたちを守るために特攻しろよッ！」

「義喜の言う通りだッ！お前たちこそ、なんかの役に立て！」

無心親子のあまりの暴論に冒険者たちも堪忍袋の尾が切れたのか、彼らは自分たちの元へと向かってくる高岩一家に向けて小石を投げていく。
だが、それでも、なんとか一家は他の冒険者たちと合流し、全員で揃って鬼川が変身した個体と向かい合う。
そして、集まった冒険者たちの元へと、私兵と共に合流する亮一の姿。

「亮二……あの野郎、厄介な奴を呼び込みやがって……ここまでくれば、あいつに払う報酬が欲しくなってきたな」

亮一は腕を組みながら、苦々しげな表情を浮かべながら赤ん坊の姿をした怪物を見上げていく。
兵士たちの槍やら冒険者たちの剣やらに囲まれる中、赤ん坊からは余裕のある笑みが聞こえてくる。

「フッフッ、その程度の人数で私を倒せるとでも思っているのか？こうなった状態の私はもはや、無敵だ。貴様ら如きに負けるわけがなかろうッ！」

「うわっ、完全にアニメとか特撮番組とかに出てくるあと少しでヒーローに負けるのが確定する時の悪役の台詞じゃん」

鬼川の台詞を聞いた菜穂子は思わず素直な感想を迸ってしまう。