クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

パワハラボス現る！？高岩よ、土下座せよ！

「首を垂れて平伏せよ。我こそが魔王軍幹部、鬼川鬼惨おにかわきざんである」

「いやッ！見た目といい、名前といい完璧にアウトじゃあねーかッ！」

義喜は人差し指を突き付けながら、鬼川に向かって叫ぶ。
だが、その事が鬼川の不興を買ったらしい。彼は眉間に皺を寄せながら、忌々しげに言った。

「黙れ、このワシをどなたと心得る。恐れ多くも魔王軍の幹部、鬼川鬼惨であるぞ」

「今度は某有名天下の副将軍のドラマに登場する助の付く人みたいな事を言ったよッ！」

菜穂子の突っ込みが和を基調とした城の中に響き渡っていく。
なぜ、こんな事になったのだろう。義喜は頭を抱えながら、少し前の事を思い返していく。
全てが起こったのは鬼川に関する話をした翌日の事である。

突如、街の近くの丘の上にこの異世界とは似ても似つかない和風の城が聳え立っていたのである。
当然、人々はその異質な城を見て言葉を失う。

「お、おい、あれはなんだ？」

「わからんな。けど、以前、トルスが襲ってきた時に義喜の奴が特注した衣装とか商品とかに似てるな」

冒険者たちのざわめく声を聞きながら、高岩一家もその城の様子を眺めに訪れていた。

「あれが最近できた城か……ありゃあ、完全に風雲たけ○城だな」

「親父！今の人たちはそんなもん知らねぇよ！そこは誰にでもわかるように名古屋城とか、大阪城とかで例えろよ！」

義喜は誰に向かってなのかが不明な突っ込みを高岩に向かって叫ぶ。
そんなふうなやり取りをしていると、私兵を引き連れた伯爵にして領主である前世の高岩の兄である亮一が姿を表す。
高岩は久し振りに見た兄に声を掛けるものの、その肝心の兄は不機嫌そうな顔を浮かべるばかりである。
溜まりかねた高岩が質問を投げ掛けると、亮一は奥歯の間に挟まって取れない苦虫を噛み潰しながら作り出した言葉を忌々しげに吐き捨てていく。

「なぁに、あそこに勝手に城を建てやがったあの野郎に向っ腹が立って仕方ねぇのさ。あの野郎、領主であるオレに断りもいれねぇで」

「それは大変だね。あそこに住んでいる奴をオレたちで注意してやろうかい？」

高岩がそう尋ねると、亮一は小さな声で懇願し、特別報酬を付ける事を条件に弟と甥と姪とで構成されるパーティを得体の知れない城へと送り出したのである。
そして、高岩一家はかつて自分たちが債権者にされたように城の扉を大きく叩いて、城主を呼び出そうとしたのである。
そして、出てきたのが某鬼退治漫画のラスボスそっくりの魔王軍幹部であったのだ。
結局のところ、そのまま城へと引き入れられ、強制的に戦闘を行なわされる事になってしまったのである。
だが、流石は有名漫画のラスボスにそっくりという事もあり、中々に強い。

だが、高岩一家とて捨てたものではない。全員が性格に難があるとはいえ、それなりの実力者揃い。
寒い漫才を繰り広げながら、お互いに攻撃を繰り返すという状況を続けていき、今に至るのである。
義喜はその事を考えながら、バイオリンを鳴らし、目の前の敵を牽制していくのである。